かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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灰都ラースの大騒乱⑥ 混戦

 

 

「よし!!不死鳥を徹底的に押し込めろ!!そのまま動かすな!!」

 

 ボルドー率いる黒炎払いの不死鳥捕縛作戦は上手くいっていた。

 不死鳥の凶悪な黒炎の攻撃は健在である一方で、初手で不死鳥を地上に引きずり倒すことが出来た時点で、不死鳥の動きは黒炎払い達の準備と経験を越えるようなことはなかった。凶悪な黒炎の攻撃、魔術による物質操作、莫大な力を伴った単純極まる体当たり。それらの攻撃を黒炎払いは知っていたし、備えていたし、何よりもアナスタシアからの予告がある。

 

「B部隊の、運命が、悪いです。攻撃が、来ます!」

「障壁用意!!」

 

 ボルドーと共に建物の屋上から状況を眺めるアナスタシアが的確に運命を読み取り、指示を出す。悪しき運命であればそれを回避し、良き運命であれば其方に動く。練度高まった黒炎払いと運命の聖女の連係は最高に噛み合っていた。

 

 いける。ボルドーは強い手応えを感じた。

 

 少なくとも、不死鳥の動きは全て、手の平の上にある。不死の特性がある以上、この戦いを終わらせることは出来ないからこその現状維持だが、押さえ込む一点に集中するならば、まだこれは続けられる。部下達の戦意の高さ、ありったけを持ち寄って用意した物資の余力、それらからボルドーは確信した。

 だから、問題となるのはコチラの戦いではなく、向こうだ。

 

「ガザ!ウル!そちらの戦況はどうか!!」

《――――――!!!》

「駄目か……!」

 

 【残火】から放たれる魔力で阻害されているのか、あるいはウル達にこちらへ連絡するだけの余力が存在していないのか、先程から【残火】側からの連絡が途絶えている。

 状況は把握している。

 アナスタシアから密かに予告された通り、【魔女釜】のグラージャがコチラを裏切った。しかし魔力障壁そのものは剥がれており、現在【残火】――――もとい【大罪竜ラース】が剥き出しになっている。そしてあれを破壊すれば、黒炎は消滅する。といったところまで状況は動いている。

 

 こっちは比較的順調だが、向こうは混沌の極みだ。

 どのように転ぶのか分かったものでは無いが、それでも【残火】の障壁はグラージャ達熟練の術者でなければどうにもならず、それ以外の魔術師の人材は先のビーカンの無謀な特攻に巻き込まれてしまった。

 不安定は元より承知の上だ。全てが完璧にお膳立てされた戦いなんて、この地下牢に来てから一度も無かったのだ。

 

「隊長、私達もガザ達の応援に向かいますか」

 

 余力が残っているレイがボルドーに提案する。

 ボルドーは一瞬考え、しかし首を横に振った。

 

「不死鳥はまだまだ余力がある。油断するな」

 

 そう言うとレイは頷き、持ち場へと戻った。

 実際、不死鳥の底はまだ見えていない。ボルドー達が本領を発揮させずに嵌め続けているということではあるのだが、裏を返せば、もしもその本領を1度でも発揮されてしまえばこの拮抗は一瞬で崩れるだろう

 不安定で小規模だったとはいえ、太陽の結界ごと、【焦牢】の本塔を破壊し尽くしたのだ。決して、油断の出来るような相手ではない。そもそも、こちらは不死鳥がどのような生態であるかすら、まともに解明もできてはいないのだから。

 

「C隊、後ろに、少し下がって。そこが、安全」

 

 頼みの綱はアナスタシアだ。

 だが、彼女に全てを託すわけにも行かないことをボルドーは知っている。

 

「A隊は、――――!?」

 

 突然、アナスタシアが顔色を青くさせて身体を蹲らせた。ボルドーは目を見開いて彼女の元へと近付く。

 

「どうされたか!」

「何か、が、起き、ます!」

「何かとは!?」

 

 問うが、アナスタシアは首を横に振る。

 懸念していた事態が起こったことをボルドーは悟る。彼女は周りの運命を読み取る。少し先でなにが起こるかを察知する。しかし、一帯でまとめて運命の変動が起こった場合、彼女は情報を処理できない。いかに運命の愛し子といえど、当人はただのヒトなのだ。視界いっぱい、全身いっぱいに情報を浴びせられればオーバーフローを起こす。そうすれば彼女の運命の先読みは麻痺を起こす。

 

「全員構えろ!!“災害”が起こるぞ!!」

 

 しかし、コレもボルドー達は知っている。10年前、彼女頼みにして寄りかかった結果、酷い事故が起こった。とうに経験済みだ。彼女の力は頼りになっても、依存してはいけないのだ。

 

「不死鳥以外、周辺や足下に至るまで注意しろ!何が起こるか!予想も付かん!!」

 

 ボルドーの指示に部下達が即座に対応する。決して不死鳥の封から目を離さぬままに。その時点で土牢による拘束は完璧だった。が、アナスタシアの予告通り変化が起こる。

 

「何か、手応えが……?」

 

 土牢を維持していた術者の一人がまず真っ先にその奇妙な感覚に気がついた。砂漠の砂をさらって、動かし続ける彼らは、常に不死鳥の抵抗を最も強く受ける者達だ。故に、ボルドーの指示には即座に対応出来るように身構えていた。

 

 しかし、不意に土牢からの抵抗が、消えたのだ。

 

 その情報は瞬く間にボルドーへと渡った。彼もまた、その情報に訝しみ、しかし即座に一つ、最悪の可能性に気がついた。

 

「……!!土牢を拡張させろ!!!」

 

 その言葉に術者達が動く。

 そしてその言葉の意味するところを全員把握している。土牢の大きさは術者の負担と強度の関係上、限界は事前に調べていた。限界のギリギリだったそれを更に拡張する場合は、懸念すべき事態が起こった場合だ。

 

 即ち、不死鳥が死んだ場合だ。

 

「なん、だ!?」

 

 そして全員が見守る最中、土牢が変化する。術者がその大きさを広げるよりも早く、内部からまるでしみ出すように、黒い炎が溢れ始めたのだ。砂漠の土の牢獄は炎に焼かれることはない。ただ隙間から溢れ出しているだけだ。

 しかしその量が、尋常ではない。炎はあっという間に土牢全体を包み込んで、巨大な、黒い、炎の塊に変貌を遂げた。そして

 

『――――――AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 その炎の中から、不死鳥が再誕する。

 

「っ!!!土牢の再構築を急げ!!」

 

 土から漏れ出た大量の黒炎を利用し、死と再生による脱出を行おうとしている!?

 想像していない動きにボルドー達の対応は遅れた。その間に不死鳥は一気に飛び立つ。内部の土牢が崩れて不死鳥の身体に襲いかかるよりも早く、不死鳥の身体は外に飛び出した。

 

「あれは…!?」

 

 飛び出した不死鳥の身体は、異様な状態だった。

 

 その首に、剣が突き立っている。

 

 無論、それはボルドー達の仕業ではない。不死鳥が死に、周囲を巻き込み復活する。イレギュラーが起こりかねない爆発を抑えるべく、細心の注意を払っていた。殺さず、拘束するよう心がけていたはずだ。で、あれば、あの剣はどこから出てきたか?それが何故不死鳥の首に突き立っているのか?

 答えは――――

 

「――――自害か!?」

 

 不死鳥が、自ら死に、その再生エネルギーを牢の破壊に利用した。

 そんなことも出来る!?

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 自ら生み出した剣で命を絶った不死鳥は、そのエネルギーを爆発させる。

 同時に、物質操作の魔術が嵐のようになって周囲を巻き込む。ボルドー達は退避を余儀なくされた。そしてその中には、

 

『a aaaaaaa……』

 

 何体かの黒炎鬼らを巻き込んでいた。鬼たちは、瓦礫の山と同じように振り回されて、そして燃え盛る不死鳥の元へと吹き飛ばされる。そうやって自らの手元へと寄せた薪を不死鳥は食らい、再生を完全なものとする。

 

「ま、ずい……!!」

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 再誕した不死鳥は、自らの首に突き立てた剣を咥え、叫ぶ。

 

「来ます!!!」

「防御態勢!!!」

 

 黒炎払いの包囲陣に、不死鳥の大剣がふり下ろされる。

 黒炎と共に大剣が放つ一撃は、まるで爆発したような衝撃を周囲に叩き込み、ボルドー達の包囲を吹き飛ばした。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 【残火・大罪竜ラース】周辺

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 ウルとグラージャが衝突する寸前、まるで割って入るように不死鳥は突撃した。その口に咥えている巨大な大剣にウルは目を見開き、その剣が放つ威圧感に震えた。

 

「ヒャヒャヒャ!!不味いねえこりゃあ!!」

 

 グラージャも同じ事を思ったらしい。彼女は土蛇を操り逃れ、ウルも同じく土蛇を蹴り付けてその場から離れた。

 

『AAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 不死鳥の斬撃がウル達の間際を掠める。距離をとったにも関わらず、その熱で身体が焼けていくのが分かった。ダヴィネの鎧でなかったら、余波だけで真っ黒焦げになっただろう。

 

「っ…!!」

 

 吹っ飛んで、バランスを崩しウルは落下する。黒炎に炙られなかっただけマシだったが、このまま落ちれば体中の骨がへし折れて死ぬ――

 

「ウル!!!」

 

 だが、直後に地面に叩きつけられるよりも早く、ガザがウルの身体を受け止めた。が、ガザもその衝撃を受け止めきる事はできなかったらしく、二人揃ってそのまま地面に叩きつけられ、転がった。

 

「ッゲホ!!ガ………うへえ、死ぬかと、思った」

「俺は、心臓が止まるとこだったよバカヤロウ!!」

「悪かったよガザ……」

 

 体中が痛いが、少なくとも何処かがへし折れてたりはしなかったらしい。痛みを堪えて身体を起こすと、不死鳥は未だ上空を旋回している。周囲に土蛇が蠢いていることから、恐らくだがグラージャと戦闘を続けているらしい。

 

「何がどうしてどうなった……不死鳥の捕縛は失敗か」

「アッチは、無事なのかよ……!?」

「通信魔術は……?」

 

 携帯鞄から回復薬を取り出し口にしながら尋ねるが、ガザは首を横に振った。最悪の可能性が即座に頭に浮かんだが、ウルはそれを口にはしなかった。今言っても仕方ないからだ。

 呼吸を整え、ウルは状況を見る。不死鳥とグラージャは暴れている。撤退も考えたが、最悪の最悪を引いていた場合、黒炎払い全員が敵に回っている可能性がある。何も考えずに其方に逃げたらそこでお終いだ。

 此処で勝負を決めるしかない。

 

「…………不死鳥は邪魔だが、グラージャの敵でもあるのは好都合だ。」

「どうするんだよ!?」

「今の間に、竜を破壊する」

 

 ウルは背中に背負った真っ黒な槍を引き抜いた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ヒャヒャヒャ!!鬱陶しいねえ!!鳥如きが!!!」

 

 不死鳥は困っていた。

 枯れ木のような老婆が、地面をまるで生き物のように動かしながら彼方コチラへと移動して翻弄してくるのだ。見た目はどう考えても年老いているというのに、恐ろしくその動きが俊敏で、不死鳥の反応は遅れていた。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 【灼炎剣】を振るう。そのたびに空気は唸って炎が爆散する。

 【炎の精霊】の聖遺物。不死鳥が生み出されるとき、核として取り込まれたもの。

 だが、あまりにも威力が強すぎて、巻き上がる炎で視界が悪くなるのが玉に瑕だ。それでも大抵の敵は一撃振るうだけで焼き払う事ができたのだが、この老婆はどうやら違う。

 的確にコチラの動きを躱し、余波から身を上手く隠す。自分の炎では焼き切る事の出来ない大地を利用しているのも相性が悪かった。

 

「ああああ全く!!邪魔なんだよじゃーまあ!!」

 

 元気である。とても元気だ。それどころかブチ切れながらこちらに罵声を浴びせている。不死鳥は少々ビックリしていた。ヒトというのはあれくらい枯れ木になったら歩くのも苦労するはずだというのに、この元気の良さはなんだろうか。

 しかし、少なくとも、こちらに近付いては来れないらしい。生き物のように蠢く地面に乗りながら、遠巻きにコチラを眺めるばかりだ。不死鳥が”コレ”の前に立ち塞がることで、あの妖しげな魔術を使わせることは避けられる。

 

 そう、近付かせるわけには行かなかった。それだけは避けなければならない。何者であろうとも、どんな相手だろうとも、”コレ”に近付かせてはいけない。相手の命を奪うことになろうとも、そうしなければならない。

 

 そうしてくれと、託されたのだから。

 

 だが、それならどうするべきか。いっそのこと、全体をまとめて一気に破壊するのも手段の一つか――――

 

『A?』

 

 だが、不意に不死鳥は気付く。

 足下から、禍々しい気配が溢れ出ていることに。死の概念はなく、再生する不死鳥であっても尚、悍ましく感じるその気配。不死鳥は知っている。1度それに無残にも殺されたことがある。それと同じ気配がした。

 

 同じ気配。だが、濃度が違う。

 

 高くを飛ぶ不死鳥が、即座にそれと気付くほどの真っ黒な気配が溢れ出ていた。触れた者を全て呪う黒炎すらも、ここまで邪悪な気配を放つことはしないだろう。あれほど騒がしかった老婆すらも、目を見開いて地面を睨んだ。

 

「……あれが、新型かい」

 

 地面には、あの時吹っ飛ばした小さな子供がいた。彼は右手に真っ黒な槍を、相手をただただ食い殺すために存在する歪な刃がついた槍を構えていた。

 

「【竜殺し・弐式】」

 

 対処しなければならない対象が変わったことを悟り、少年のもとへと極大の剣を構えて、飛んだ。

 

 

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