かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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何故かつての神殿はここを禁域としたか 上

 

 ビーカン率いる先行部隊と同行した【焦烏】のクウが黒炎に焼かれて姿を消した。

 

 その話を聞いたときのウルの感想は端的に言ってしまうと「嘘くせえ」の一言だった。

 

「あら、ウル。貴方驚いていないのね。私が生きていたことに」

「嘘くせえと思ってた女がやっぱ生きてたって事に何の驚きがあんだよ」

「酷いわね。ちゃんと遺言まで残したのに」

「あのとってつけたような仇云々の言葉の何処に感情移入する余地があんだ?」

 

 ウルは上空からゆっくりと地上へと降りてくるクウへと言葉を交わしながらも、警戒を強めていた。彼女に言ったとおり、ウルはクウが死んだことそれ自体を疑いにかかってはいた。だが、当然ながら彼女が一体何を狙っているのかまでは見抜けているわけではない。

 

 死んだことにしてラースに残り、不死鳥の目を逃れ、此処に居座る理由。

 碌な事ではないのは間違いない

 

「……ガザ、クウの実力って知ってるか?」

「影を使った魔術がすげえってくらいしか……」

「俺も似たようなもんだわ」

 

 ガザと小声で情報を交換するが、ロクな情報は手に入らなかった。

 元々彼女は看守の立場で、ウル達に対して距離を取っていた。ダヴィネに対してはべったりとしていたが、それでも彼女はきっと、彼に自身の手札を明かすような真似はしていなかっただろう。

 用心深く、慎重な女。実力も未知数。グラージャも厄介だが、コチラも油断できない。

 

「で、アンタはなにがしたいんだ。【残火】を消し去りたいなら協力するが?」

「あら、イヤよ。そんなの。」

「ラースを解放したいだのなんだの抜かしてただろうが」

「ええ、そうね。ラースを解放したいの。()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女のその物言いに訝しがりながら、ウルは右手で【二式】を握る。痛みは走るが、我慢するしかない。まだ封じることは出来ない。【竜牙槍】の方はまだ十分魔力が残っている。左手で強く握った。

 

「最初から、これが狙いだったと?」

「ええ、苦労したわ。昔、うまくやれたとおもったのに、失敗して、逃げだしたら、あんな障壁まで生まれてしまった。スタート地点に戻るのに数百年もかかるだなんて」

「同情してやろうか、クソババア」

「あら、女性に対する言葉遣いがなってないわね?」

 

 女扱いしてるだけましだろ、とウルは吐き捨てる。そのまま彼女を睨み、言った。

 

「その物言い、お前、かつてのラースの崩壊に関わってるだろ?」

 

 300年前、大罪迷宮ラースが氾濫を起こし、精霊の都だったラースを無惨な灰都に変えてしまった一件、当時現場にいたことをボルドーに漏らしていたことをウルも聞いている。だが、彼女の発言はどう考えても、現場にいただけ、ではないだろう。

 

「当たらずも遠からずね?」

 

 ウルの指摘に、クウは笑う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 次の瞬間、黒炎から復活した不死鳥がクウへと飛びかかった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ――ごめんなさい、フィーネ

 

 黒炎不死鳥のかつての記憶。最も古い記憶の一つ。幾度となく生まれ直しても尚鮮明に残った記憶の一つ。忘れようがない。自らを生みだした当時の七天、【天祈】の言葉だ。母の言葉を忘れることはない。

 

 ――貴方を残すことを許して。貴方に託すことを許して。

 

 不死鳥は困った。母が悲しそうな顔をしていたからだ。そして苦しそうな顔をしていたからだ。彼女の身体は多くが黒ずみ、呪われていた。不死鳥の聖なる炎であっても癒やす事が叶わない、悪竜の呪いの炎に彼女は苦しんでいた。

 幾度となく自身の聖なる炎を彼女へとこすりつけて、癒やそうとしても彼女の呪いは消え去らない。フィーネと呼ばれた不死鳥は悲しく鳴いた。それを見た彼女は切なそうに、何度も不死鳥の頭を撫でる。

 

 ――優しいフィーネ。私達の身勝手で生み出されてしまった可愛い子。どうかお願い。

 

 彼女は苦しみながら、それでも決してフィーネの前でそれを顔には出さなかった。フィーネを悲しませないように。そして、これから自分が口にする呪いを押しつける後ろめたさを隠すために。

 

 ――大罪竜の遺骸を封じて。誰にも利用させてはならない。

 

 それでも彼女は、口にせずにはいられなかった。自分たちが愛した大罪都市ラース。美しく、笑顔に溢れた幸いの都市の全てが真っ黒な炎に染まって、何もかもが薪を求める鬼になってしまった全ての元凶を呪わずには居られなかった。

 

 ――あの、悪魔を、殺して。

 

 彼女の背後で、黒い森人の女が笑っていたのをフィーネは見た。

 

 

 

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              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 見つけた。フィーネは思った。

 先日の襲撃の折りも確かに見掛けたとは思った。だが、ハッキリと確認しないまま黒炎に飲まれて消えて、確証が持てなかった。だが、今、確信している。

 

 黒い魔女だ。ラースを滅ぼした女が数百年の時を超えて姿を見せた!

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 不死鳥フィーネは叫んだ。長き時の果て、聖なる炎は呪われ爛れ、真っ黒に染まっても尚その力と意思は褪せはしていなかった。託された願いを一時として忘れていなかった。その願いを果たすべく、フィーネは叫ぶ。

 大罪都市を滅ぼした悪しき魔女、クウを殺すために。

 

「驚いた。貴方、呪いを身にまとっていても、本当に意識がまだしっかりあるのね。フィーネ」

 

 黒い魔女はそんな風に言いながら笑う。フィーネが生み出した黒炎が雪崩のように迫るが、直撃するよりも早く足下の影に沈み、消えた。

 

「貴方がずーっと、ラースを封じて離れない所為で、干渉することも出来なかった。いい加減邪魔なのだけど、消えてくれない?」

『A!?』

 

 不意に、フィーネの足下から無数の“影の手”が伸びてくる。飛翔する不死鳥の身体をひっつかんで、地面に叩きつける。不死鳥は炎でそれを焼き払うが、無尽蔵に影の手は出現を繰り返す。

 やはり、黒の魔女は強い。火力では当然フィーネの方が上だが、巧みさにおいては向こうが上だ。だが負けるわけにはいかなかった。

 

「ねえ?ウル。協力しない?この不死鳥を討つの」

「断るが?」

「あら、残念」

 

 黒の魔女とは別の二人は、不死鳥には襲いかかってこない。それならそれでもいい。フィーネの優先は黒の魔女だ。最優先で殺さなければならない。

 彼女は、最悪だ。ラース全てを滅ぼした罪深さ以上に、彼女はこの世界に在ってはならない。

 

「一応聞いて良いか?お前なにがしたいんだ?この大罪竜の遺骸を使って」

「あら、簡単よ?数百年前の続きをやるの」

 

 クウは笑う。両腕を広げ、自分の影を広げて、巨人の様に形を変える。真っ黒なヒト型となり、起立するその影を従えて、彼女は言い切った。

 

「イスラリアを、焼き尽くす」

 

 ()()()()()は世界の破滅を宣言する。

 

 数百年前と何ら変わらない言葉だった。ああ、やはり、どれだけ時が経とうとも、なんら変わりない。この黒い女は、絶対に、何があろうとも滅ぼさなければならない。フィーネはそう決断した。

 

「……妖しい女と思っていたが、正直ここまでとち狂ってたってのは予想外だったな」

 

 そしてそれは、少年も同じ感想だったらしい。不吉なる黒い大槍と、白の大槍を構え、クウを睨み付ける。そして彼が動くと同時に

 

「構え!!!」

 

 周囲から、多くのヒトが姿を現し、弓矢や魔術を構え、クウを取り囲んだ。

 先程、フィーネを妨害し続けてきた戦士達だ。しかし今はフィーネを狙おうとはしていない。全ての敵意と殺意はクウへと集中していた。だからフィーネも彼らを邪魔したりはしない。

 

「あら、生きていたの?ボルドー」

「こっちのセリフだと言いたいが、正直そんな気はしていたぞ。クウ」

「ウルといい貴方といい、酷いわね」

 

 大げさに傷ついた、とリアクションする彼女だが、この場の誰一人武器を下ろす者はいなかった。目の前の彼女が、油断ならぬ危険人物であることは全員の共通認識だった。

 

「ウルの通信魔具から話は聞いている。イスラリアを滅ぼす?本気か?」

「ええ。勿論」

「……ならば、何が何でも止めなければならないな」

 

 殺意と敵意の濃度が更に高まる。彼女を守るように周囲をうごめく影は、確かに高度な魔力を秘めている。暴れれば脅威になるだろう。しかし、フィーネならあの影ごと、黒い魔女を焼く自信はあるし、周りを囲む戦士達が一斉に攻撃すれば、反撃の隙も与えないだろう。

 

「仕方ないわね」

 

 と、そう思っていると、不意に彼女は両手を上げて、影を消し去った。他に魔術を展開する様子もない。勿論、フィーネを含めたその場の全員武器を下ろすことも油断することもしなかった。だが、突拍子もない武装解除は否応なく意識に隙間を与えた。

 

 それを貪るように、クウは笑う。

 

()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()

「撃て!!!」

 

 即座に戦士の指揮者が攻撃の指示を出したのは、彼が優秀な証拠だろう。それに応じ、全ての戦士達が全攻撃をクウへと集中し、放った。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 フィーネも突撃する。途中、戦士達の攻撃の幾つかが流れ弾でぶつかったが構いはしなかった。黒い魔女を破壊する。それさえ達成できるなら、後はなんだって構わない。

 魔術が幾つも着弾し、砂漠の砂が舞い上がる。不死鳥はその優れたる目でその中で蠢く対象へと、自らが生みだした炎の剣を叩きつけ――――

 

『A――――!?』

 

 る、よりも早く、不死鳥の肉体は真っ二つに両断された

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 黒い、運命が、消えない。

 

 アナスタシアは強い焦りを感じていた。

 運命の精霊の寵愛によって現在のアナスタシアは運命の聖眼だけでなく、全身でもって周囲の運命を知覚する。そして感じ取った運命を色で識別する。“幸い”は運命の精霊の身体と同じ深い緑で、“悪しき”は黒だ。

 その黒が、消えない。不死鳥の土牢の脱出、反撃は凌いだ。事前のアナスタシアの警告と対策が上手くいった。何人かが破壊時の衝撃で怪我を負ったが死ぬほどではない。

 だけど、その反撃を凌いだのに、まだ消えない。あまりにも色濃く、黒い運命が辺りを渦巻いている。

 

「ボル、ドーさん」

「分かっています。しかし……」

 

 その事実は既にボルドーにも伝えている。だが彼も、困惑していた。その死の運命の正体がつかめない。先程までは不死鳥だった。だが今はその不死鳥が何の因果かコチラの味方になっている。少なくとも攻撃を仕掛けてこようとはしてこない。

 

 不死鳥ではない。そもそも不死鳥の色は黒ではない。

 身を纏う呪いがノイズになっていたが、不死鳥は“幸い”の運命を纏っている。

 接触してはっきりした。()()()()()()()()()

 

 ならば、この荒れ狂う黒は、クウが原因だろう。

 

 しかし、彼女が何をしようとしているのかをアナスタシアは掴めなかった。これほどの濃い黒の運命だ。抵抗しようのない、災害級の危機であるのは間違いないが、それを彼女が引き起こすとは思えない。

 【黒炎払い】の面々は熟練の戦士だ。一人一人が経験豊富で、このラースに至るまでに幾つもの危機を乗り越えてきた。手数も多い。脅威に対して抵抗する為の手段は持ち合わせているはずなのだ。

 

 だが、黒い運命は変わらない。つまりこの先の未来に、彼らの手札は通用しない。

 

 何故?どうして?

 アナスタシアは必死にそれを探っていた。運命をただ感じ取るだけでは意味が無いことを彼女はもう悟っている。運命はあくまでも情報の切っ掛けで、そこから答えを導き出さなければ意味は無いのだ。

 

「撃て!!!」

 

 ボルドーの指示でクウは一斉攻撃を受ける。

 その最中もアナスタシアはずっと考えていた。彼女の情報は通信魔具からボルドーを経由し、アナスタシアに届いていた。かつて大罪都市ラースを滅ぼした元凶であると彼女自身が明かしている。世界を滅ぼすことを目的としている邪教徒。

 

 目的の理由は分からない。彼女の人格も掴めない。

 

 情報が少ない。数百年前に何があったかなんて、殆どが伝えられていないのだ。大罪竜が出現し、ラースが滅び、七天を含めた幾人もの戦士達がラースを封じるために決死の戦いを強いられ、そして七天の半数を失って――――

 

 

 

 

 

 

 

        () () () () () () () () () ? 

 

 

 

 

 

 

 

「…………――――――っあ!あああああ゛あ゛!!!ボ、ルドーさんッ!!!!」

 

 頭を過った“最悪”に、アナスタシアは悲鳴のような声で叫んだ。真横にて指揮をとるボルドーへと視線をやる。

 

「…………………がっ」

 

 そして彼が、影から突然現れた黒炎鬼に身体を貫かれたのを目撃した。

 

 

 

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