かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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【最悪の遺物】戦⑦ 絶望を押し返す者たち

 

「畜生……!」

 

 瓦礫に埋もれた黒炎払いの戦士の一人、ベイトは瓦礫に身体を潰されて、身動きも取れずに悔しさを滲ませる。彼らの視界には既にコチラを捕らえた天魔が姿を覗かせていた。

 

『【aaa】』

 

 天魔は杖を掲げる。あるいは詠唱の真似ごとを。

 生前の猿真似にすぎないそれが、曲がりなりにも歴戦の戦士である自分たちを一方的に蹂躙する理不尽に、彼らは涙を飲んだ。最早逃れようがない――

 

『カカカカカカカカカカカカカカ!!!!』

 

 その時だ。

 奇妙な音がした。固いもの同士がぶつかり合うような音だ。周囲の廃墟が崩落した音と思ったが、どうにもそれは何かの笑い声のように聞こえてならなかった。

 

『カーカッカカカカカ-!!!!』

 

 そして不意にソレは飛び出した。

 

「死、霊兵!?」

 

 人骨の形をした生物が、飛び出してきたのだ。

 死霊兵、生物の死骸を魂が操り動かす事で生まれる不吉な魔物。虚な眼孔を晒すその骨は、自らの身体を鎧のように歪め戦士のようななりをして、何故か天魔へと襲いかかった。

 

『aaaaaaaa』

『カカカカカ!!!!』

 

 滅び、砂と灰に飲まれた国の中心で黒炎の鬼と、死霊の戦士がぶつかる。

 地獄のような光景だった。だがしかし、それは元からそうだっただろうか。そう思うと変な笑いが零れてしまった。

 

『カッカカ!!おう坊主ども!!瓦礫から出られそうカの!?』

「へあ?!」

 

 だから、その地獄絵図を生みだしてる人骨が、こちらに話しかけてきたときは更なる驚愕に目を見開く羽目になった。まず骨が喋っている時点で何かがおかしい。しかもやけに親しげである。

 

『動けるならさっさと逃げんカ!ワシみたいになりたいなら別じゃがの!』

「お、おおお…!?わかった!!」

 

 数瞬経って、それが助けに来てくれた救援者のセリフであるとようやく認識できたベイトは理性を取り戻す。自分の間近で埋もれた仲間の上にのっかかる瓦礫をなんとか押しのけて、彼をその場から引きずり出す。

 

「……ぐ、……いっでえよ……」

「ゲイツ……よかった死んでねえ……いやよかねえか……」

 

 見れば仲間の両足はぐしゃぐしゃになっていた。回復薬ももう手持ちにはない。黒炎鬼にはならないかも知れないが、このままだと普通に死ぬ。

 

「くそ……なんとか止血を」

「大丈夫ですか?」

 

 そこに、澄んだ鈴の音のように美しい声が聞こえてきた。

 驚いて振り返ると、更に別の知らない者がそこに居た。白銀の、美しい女。地下牢の住民では無い。こんな美しい女が地下牢にいたら絶対に気付く。だとすると本塔の住民があの災害をまぬがれて逃げてきたかとも思ったが、なんでこんな所にいるのだろう。

 

「【【【水よ唄え】】】」

 

 彼女は、詠唱を唱える。ぐしゃぐしゃに傷ついたゲイツが光に包まれ、歪に破壊された両足が回復していく。骨の形まで元に戻る所からかなり高度な魔術であることが分かる。光が収まると、顔色が良くなった仲間の姿がそこにあった。

 

「血は失ったまま。全ては回復していません。どうか休ませてあげてください」

「あ、ああ……っていうか、あんたら何なんだ……?」

 

 僅かな安堵が冷静さを取り戻させた。結局目の前の連中が何者なのかわからぬままだった。敵ではないのは間違いないが、なにが目的でこんな場所に居るのか分からなかった。

 すると白銀の女は微笑みを浮かべた。

 

「皆様は、【焦牢】のウル様の仲間の方々ですよね?」

「……は?ウル!?」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 灰都ラース 廃墟の黒炎払い避難所

 

「増援……?どこから?誰が…!?」

 

 突如やってきたその情報に、レイは困惑した。

 天魔の爆発で最早これまでと覚悟していた。それを考えればまさに天の助けとも言うべきタイミングだ。しかし何処の誰が、こんな呪われた悍ましい場所に来て、犯罪者とされている囚人達を助けに来てくれるのか分からなかった。

 彼女は疲弊し、突然の助けに混乱した。故に背後から音も無く迫る影に気付かなかった。

 

「兎に角、今の間に皆を――――」

『aa』

 

 音も無く迫っていた天衣は、気付けばその短剣を彼女の首にふり下ろしていた。

 

 が、その直前に、大柄な男の身体が割って入った。

 

「……に、げろ……!レイ!」

「ガザ!?」

 

 短剣は、ガザの太い腕で防がれた。だが血が噴き出す。しかも短剣は黒炎にまみれていた。ガザは激痛に悶えながらも、背後のレイを守るように一歩もそこから引かなかった。

 

「おらあ!!」

『aaa』

 

 力任せに天衣に殴りかかる。突き立てたナイフを手放して、天衣は軽やかに跳躍しその場を離れた。優雅な動きだった。とても知性無き鬼の動作には見えない。

 しかし間違いなく、既にあの天衣はこちらを射程圏内に捕らえ、薪にすべく動いてる。ガザは腕に突き刺さったナイフを引き抜きながら、叫んだ。

 

「レイ!早く!」 

「逃げてももう、意味なんて無いわよ」

 

 レイは、震える声で弓を手に取った。自然と抜けていく力をなんとか込め直し、身構える。レイの身体ももうボロボロなのだ。今更距離を取っても、あの素早い動きから、重傷人二人が逃げ切れるとも思えなかった。

 だとしたら、自分たちがすべき役割は

 

「アレが、逃げてる仲間達を狙う前に、足止めする」

 

 ガザが何か言おうと振り返り、彼女の青白い顔色と滲む汗を見て、彼女の体調を悟ったのか、強く顔を顰めた。そして視線をすぐに天衣へと戻した。

 

「……わかった。一緒に死んでくれレイ」

「バカと一緒の最後ね」

「不本意かよ」

「いいえ?」

 

 二人は軽口を叩いて、そして腹をくくった。

 天衣は再び両手に短剣を握る。踊るように身体をゆらし、そして消えるような速度で迫る。次の瞬間レイは自分とガザの首が飛ぶことを覚悟した。

 

「ああ、天衣か。運が良いのか悪いのか」

 

 だがその覚悟を吹っ飛ばすように、金紅の剣がその間を閃いた。

 

「え!?」

「なん、だ!?」

『aaaaa』

 

 なにが起こったのか二人には分からなかった。

 だが、迫っていた天衣はその紅色の一撃で大きく後退した。黒いフードが切り刻まれている。それが先の一撃でついた傷だと気付いた。そしてその傷をつけた乱入者がレイとガザの間に立つ。

 

「間に合った、というには被害が甚大だね。生き残りがいるだけ御の字か」

 

 それは、透き通るような金色の鎧を身に纏い、緋色の帯で目を覆った少女だった。二本の剣を装備した彼女は、レイとガザを守るように天衣に向き合う。そしてこちらに視線を向けないまま、不意に話しかけてきた。

 

「ねえ、そちら二人とも、それに他の怪我人達も、暫く保つかな?」

「え?あ、ああ……まだ、大丈夫さ。そう簡単に、くたばりやしねえ」

 

 ガザが強がるように声を言い放つ。嘘つけ死にかけてるだろと言いたかったが、今、目の前に居る恐らく自分たちを助けに来てくれた相手を、邪魔することだけはしたくないというのなら、それはレイも同じだった。彼女に向かって強く頷く。

 

「私達は、大丈夫」

「無茶はしないでね」

 

 コチラの意図を酌んでくれたのか、彼女は優しくそう言うと、回復薬を数本こちらに放る。そしてそのまま一人で天衣に向かって歩いて行く。レイは慌てて注意を叫んだ。

 

「気をつけて!尋常でなく強い!マトモにやり合える相手じゃない!!」

「ん、よーく知ってる。同僚だからね。いや、先輩かな?」

 

 なんだって?と聞こうとしたが、その前に黒炎七天は動き出した。先程よりも更に俊敏に、つかみ所の無い速度で揺らぎ、蠢いて、目の前の少女を刈り取ろうとする。

 

「行くよ。アカネ。黒炎に焼かれないようにね」

《んにーさっそくむちゃぶりー》

「王に大分無茶を言って来ちゃったからね。失敗はできない」

 

 対して少女はその場を動かず、二本の剣を深く構え、言った。

 

「七天の勇者ディズ。黒炎に飲まれた同胞の無念、此処で晴らさせてもらう」

 

 自らをそう名乗った彼女は、金色の光となって駆けていった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「さて」

 

 戦場を見わたせる廃墟となった塔の頂上で、シズクは戦況を把握する。【黒睡帯】で目を覆うが、視界を使ってはいない。彼女が取得している情報は音だ。

 

《カカカ!!派手に征くぞ-!!!》

《遠距離主体でいこうか。アカネ》

《うにー!!》

 

 この灰都ラースの彼方此方で起こった戦闘をシズクは掌握している。右手に繋がる【銀糸】が、灰都に張り巡らされている。全ての音を拾っていた。負傷者がいれば助け、戦況が不利になっていれば手を貸すために。

 

 そして何よりも、脅威となる七天以外の黒炎鬼達を処理するために。

 

『aaaaaaaaaaaaaa……』

「黒剣騎士の皆様でしょうか」

 

 シズクの立つ建築物の周囲には、黒炎鬼達が集結していた。鬼達が身につけている装備は、黒い鎧。それ以外の姿の鬼達もいる。ヒトがあつまったことで、外に散っていた者達が集まりつつあった。

 灰都ラースと、焦牢で起こった出来事の詳細までは、彼女は把握していない、が、悲惨な事があったのだけは分かった。

 

『aaaaaaaaaaa……』

「憤怒の呪い。苦しいのでしょう。出来るなら、救って差し上げたいのですが……」

 

 そう言いながら、シズクは彼らを十分に引き寄せて、不意に地面を蹴る。ふわりと彼女は宙に浮いた。自在に空を駆ける高度な浮遊の魔術を既に彼女は修めている。そして、

 

「貴方たちを終わらせることしか出来ないのです」

 

 指先まで纏わり付いた銀糸を指で弾く。その指先まで

 

「【風よ謳え、響き、砕け】」

『a――――――』

 

 次の瞬間、音が反響し、彼女の足下にあった建物が一気にボロボロと砕けていく。数百年支え続け、老朽化した柱が、シズクの起こした音によって崩壊を開始した。シズクへと迫っていた黒炎鬼達を巻き込んで、落下していく。

 

 そして、そのまま、指を空へと向ける。

 

 ラース一帯を彼女は把握し、そしてすぐに“ソレ”には気がついた。灰都ラースに最初に足を踏み入れた黒剣騎士団達の大敗走の副産物。不死鳥を殺すとき、クウが使用した大量の竜殺し。

 

 それがシズクの手によって回収され、宙へと浮き上がり、振り注ぐ。

 

「【物質流転】」

 

 落下し、それでも尚蠢き、薪を求めんとしていた鬼達は、竜殺しによって次々と貫かれる。黒い炎は消し去られ、鬼達は苦しむような動作をするが、次第に、動きを止めていく。

 

「――――どうか、私は許さなくともよいですから、彼らをお許しください」

 

 シズクは、悲しげな表情で小さく祈りを捧げる。

 そしてそのまま、視線を灰都ラースの中心地へと向ける。距離があるここからでも見える大罪竜ラース、その遺骸。

 そして、随分と顔を合わせていない自分達のリーダーが、あそこに居ることを、シズクは悟っていた。だが、しかし、此処を離れるわけにはいかない。

 

『aaaaaaaa……』

「……現存する全ての呪いが集まりつつあるのですね」

 

 あちこちから呪いの声が響く。油断できる状況では全くない。

 現状の地獄、ウルが牢獄のなかで築き上げた仲間たちの全滅という最悪だけは回避しなければならない。ウルはきっとそれを願う。

 だからシズクは、ウルがどれほど心配であっても、彼の願いを実行する。

 

「どうか、ご無事に、乗り越えてください。ウル様」

 

 シズクは囁くように祈った。

 

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