かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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ウーガの日常 好物と花

 

「ウーガってなにが好きなのかなあ」

 

 ある日のこと

 片付ける仕事を終わらせたエシェルがぽつりとつぶやいた。

 

「どうしたのよ。エシェル」

 

 その隣で、いつも通り白王陣の研究に勤しんでいたリーネは、友人の突然のつぶやきに視線を向けずに訪ねた。

 

「いや、なんていうか、その。いつも何気なく乗せてもらってるけど、ウーガって生き物なんだろう?好みとか、あるかもしれないじゃないか」

 

 竜吞ウーガ。

 カーラーレイ一族によって生み出された前代未聞の巨大使い魔。そのあまりのスケールの大きさに思わず忘れがちになるが、一応、ウーガは使い魔のカテゴリになる。近くで見ると山のようにしか見えないが、離れてみれば、それは巨大な大亀の形に似ている。目も鼻も口も足もある。

 ならば、何か好みでもあるのでは?というエシェルの思考はそこまで突飛でもない。

 だが、

 

「ウーガに意思なんてほとんどないわよ」

 

 その問いに、リーネは素っ気なく答えた。

 

「そうなの?」

「だって、考えてもみなさい。ウーガがもっと生物的な意思があったらどうなる?」

「どうって」

「おなかすいたなーとか、眠いなーとか、そんな風に思った瞬間、勝手に動き出されたら、とてもじゃないけど使い魔として使い物にならないでしょ?」

「それは、そうか……」

 

 使い魔とは、魔術師が扱うための生物の形をした道具だ。

 勝手気ままに動いて、野生を謳歌するような使い魔は道具として欠陥だ。とてもではないが使い物にならない。

 

「だから、作成時は使い魔の自我はかなり押さえ込まれるのが基本。好みなんて発露する事すらほとんど無いわよ」

「ロックは?」

「アレを基準に考えないで。あんなもん例外も例外よ。ウーガすら目じゃないわよ……というか、突然どうしたの」

 

 逆に問われると、エシェルはむぅ、と口をとがらせる。

 

「いつも、頑張ってくれてるから、お礼とかしたいかなあって」

 

 道具に対して何を言ってるんだか。

 とは、さすがにリーネも言わなかった。そういった心働きは理解できる。どうあれ、生き物の形をしているのだ。どれだけ熟練の魔術師だって、道具である自分の使い魔に対して愛着を持ってしまう者はいるものだ。自分の実家もそうだった。名前をつけてしまったりもするものだ。

 そもそも、生物でもない無機物にだって、愛着を覚えたりするのだから、自分たちの生活を文字通り支えてくれるウーガに思い入れが強くなるのは自然だ。

 

「ウーガで暮らしてる皆も、やっぱりウーガのこと、好きになってるみたいで……」

「なるほど…………とはいえ、好きなもの、ねえ」

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 その日、ウーガの進路は定めたルートからわずかに外れた。

 元々、人類の生存圏外の旅路は想定外の連続だ。今まで使用していた航路が崩壊していたり、あるいは新たなるルートが自然と生まれたりもする。そのため、移動ルートの期日は大きく余裕をもっておくのは当然で、期日にさえ間に合うなら、ある程度の自由は許されている。

 

 こうして、ウーガが進んだ先にあるのは、エンヴィー領に存在する火山地帯だ。

 

 エンヴィー領は大罪迷宮エンヴィーの影響で地形が不安定だ。不意に地の底から火が噴き出すような異変が起こる。その変動が頻発する、通常であれば名無しの旅人も商人達も通らないようなルートをウーガは進んでいた。ウーガであれば、その危険地帯も問題なく進めた。そしてその先にあったのは――

 

「あれって」

「【溶王岩】火の魔力が凝縮した石」

 

 火山からこぼれ落ちたと思われる、火を噴き出す石だった。一応魔石の一種であるのだが、当然、これを人類が有効利用するには厄介すぎた。しかし、ウーガであれば、取り込むことはできる。

 

「……あれが好物?」

「ま、味覚はないはずだけどね。ただ、心地よいとは感じるんじゃない?」

 

 ウーガの構造について誰よりも詳しいリーネはそういった。

 ウーガは周囲の環境に合わせて、体温を調整する。自分自身の身を守ると同時に、背中に住まう生物たちを守るためだ。そしてそれには魔力を消費する。エネルギーを使うのだ。

 裏を返すと、ウーガという生物は温度を維持するためのエネルギーを常に求めていると言うことでもある。そのためのエネルギー源は、身体が求めているはずだ。

 

「そのためにこんな暑い場所にきちゃったら本末転倒かもしれないけど――っと」

 

 司令室の中で、ウーガの様子を見ていたリーネは、水晶の中でウーガが目の前の火を噴く石を喰らい始めるのを目撃した。エシェルが制御術式を使い、ウーガに食べさせている。

 そして、そのままむむむ、と目をつむり集中し始める。

 使い魔として、繋がりのあるエシェルにはなんとなく、ウーガの状況は伝達される。疲労や、体調の善し悪しも、ある程度はわかるのだ。そして今のウーガはというと

 

「なんというか、ふ、ふわーっと、気分がよい?」

「探すの苦労した割りに、雑ね」

 

 とはいえ、悪い方向ではないらしい。

 結局その日は、ウーガが目の前の火の海をペロリと平らげるまで待機する事となった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 そして次の日

 

 変化は訪れた。

 

「花だ……」

 

 ウーガの居住エリアに、たくさんの花が咲いていたのだ。美しい白い花が、わずかな隙を見つけて咲き誇っていた。奇妙なもので、ジャイン宅をはじめとする小規模の農園エリアには咲かず、公園や、わずかな路面の隙間に狙いを定めるようにして花は咲いていた。

 

 住民達はその光景に驚き、そして感嘆の声をあげる。

 もとより、ウーガはこの世のものとは思えないような場所だ。名無しにとって楽園に等しいような安全地帯であるのは確かだった。しかし、本当にこの光景は楽園のようだった。

 

「あら、これ、【白蝶花】じゃない」

 

 そして、その花を一つ摘んだリーネは、住民達の感嘆とは別に、感心したような声をあげた。

 

「珍しいのか?」

「そこまでは。ただ、咲く地域が限られていて、回復薬の原料にもなるから、結構需要があるのよ」

 

 要は、薬効のある花なのだ。様々な用途で使われる便利な植物だ。そのまま摘んで、お茶として煎じても喜ばれる(やや高価だが)

 

「咲いている時間はそんなに長くないから、摘むだけ摘むのが吉ね」

「でも何で急に……」

 

 エシェルは首をかしげる。

 これまで、ウーガを運用してきたが、このような現象が起こったことは今まで一度もなかった。もちろんウーガはまだまだ未知の部分が多い。元々そういう性質を有していたというなら、その可能性ももちろんあるのだが――――

 

「お礼なんじゃない?」

 

 だが、そんなエシェルの疑問に、リーネは小さく笑った。

 お礼。昨日の火の石を食べさせてくれたお礼。前後の状況を考えると、しっくりこないでもない…………が、

 

「ちょっと、都合良く考えすぎなんじゃ……?」

「いいんじゃない?それで」

 

 使い魔は、ヒトの都合で生み出されるものだ。自分たちのエゴで作り出されたもの。だったら、エゴの通り、都合良く考えたって、罰は当たるまい。

 

「そっかあ……うん、そうだな」

 

 エシェルもまた、小さく笑って、目の前に広がる美しい花畑の光景を、眺め続けた。

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その後日。

 

「……なあ、リーネ」

「なによ」

「咲いてるな」

「咲いてるわね」

 

 二人は、ウーガの外壁上部からウーガの頭頂部を眺めていた。

 二人の視線の先には、ウーガの頭がある。小高い山のようにすらみえるその頭は、いつもなら体毛も一つもない、ごつごつとした部分が見えるだけなのだが――――その日は少し、否、大分様子が違った。

 

 具体的には、花が咲いていた。

 それも、凄まじく巨大な、紫色の美しい花が。

 

「…………あれ、なに?あれも【白蝶花】?」

「正確には、その亜種ね」

「……珍しいのか?」

「超、激レアね。何せ神薬の原料にもなるような、極めて珍しい花よ。小さな花一つで、金貨に代わるわ」

「……ヘェースッゴーイ……」

「だから、ひとたびアレがたくさん咲いている花畑があると分かったら、その場所は密猟者たちの戦場になったりするわね。何せ金貨がみっしり咲いてるようなものだもの」

「…………」

「…………」

「……マズクナイ?」

「白の蟒蛇にいますぐ連絡しましょうか。ぜっっっったいトラブルが起こるわよ」

 

 ウーガの頭頂部に神薬の貴重な原料となる【紫蝶花】の超巨大版がでかでかと咲き誇った結果、それを狙った密猟者達との激闘を演じる羽目になるのだが、これはまた別のお話。

 

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