かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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焦牢の住民達のお引越し② 女王様の謁見

 

 竜吞ウーガ、司令塔。

 

 この超巨大な使い魔の頭脳部分にして玉座。

 都市国の中心である神殿とは似て非なる塔の頂上に、女王の姿はあった。

 

「ウルから話を聞いている。ガザとレイだな」

 

 玉座に座る彼女は、昏い赤毛の獣人だった。美しいドレスを身に纏っているが、小柄で年齢も若く、威厳という点ではやや物足りない。

 

「優秀な戦士達だと聞いている。ここはトラブルも多い。期待している」

 

 しかし、見た目と若さに対して、その言葉遣いは堂々としていた。それはおそらく経験によるものだと分かった。繰り返し問題に直面し、その度に真剣に向き合ってきた者が持つ精神の余裕だった。

 それだけで、彼女はお飾りのトップではないのだと分かる。レイとしては安心できた。ただ、問題は――――

 

「【白の蟒蛇】には、すでに何人かの黒炎払いの戦士も加入している。彼らと合流して、仕事の流れを覚えてくれ」

「承知しました……ところで一つ良いでしょうか?」

「なんだろう」

 

 その女王が、がっしりと、ウルに抱きついて離れないところである。尻尾もなんだかぶんぶん動いてる。あまりにも異様な姿だが、何故か周囲で司令室の管理作業を行っている魔術師達は一切そこの光景に反応を示さない。

 

「…………」

 

 抱きつかれてるウルも何も言わない。全てを諦めている顔をしている。

 

「……その、ウルとの関係は?」

 

 踏み込んだ。

 すると女王エシェルは真面目な顔で頷いた。

 

「所有物だ」

「所有物……ああ、ウルは貴方のものと」

「私がウルの所有物だ」

 

 レイはウルに視線を向けた。ウルは目を背けつつ、手を上げた。

 

「……」

「誤解…………いや誤解じゃねえな。なあんも誤解じゃないわ。うん。一応そういう契約になってる」

 

 なにか釈明しようとしたが、途中でウルは全部諦めた。つまり今の彼女の発言は全部真実ということである。焦牢でもかなり大概な所業をしていたが、どうやら焦牢に来る前から大分やらかしてきたらしい。

 否応なくレイは大分冷たい視線をウルに向けることになる。が、すると、それを察したのか女王エシェルが手を上げた。

 

「安心してくれ」

「何がでしょう」

「私以外にも所有物になってる女がいる」

 

 レイはウルを見た。ウルは目をそらした。

 

「色々あったんだよ……」

「どう考えても「色々」で済ませられるもんじゃねえと思うんだが?」

 

 ガザの発言は、珍しく、そしてこの上なく的を射ていた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 こうして、女王との謁見はひとまず完了した。

 

 正直言って、真っ当な謁見だったかは相当怪しかったが、女王のウルに対する態度以外は万事つつがなく話は進んだ。経歴に傷の多いガザやレイ、それに他の元黒炎払いの面々に対しても、偏見や差別なく接してくれることを公言してくれた。

 それは自分たちを信頼して、というよりも、ウルを信頼して、ということなのだろうというのは分かった。だからこそ、彼に感謝すべきなのは確かなのだが――

 

「……それにしたって、もうすこしなんとかならなかったの」

「ならなかった」

「ならなかったかあ……」

 

 ウルは即答した。ならなかったらしい。

 彼が、あの若さで【焦牢】にたたき込まれた時点で、あまり真っ当では無い紆余曲折があったのはレイも察してはいた。自分たちだってそうなのだ。あそこにわざわざ押し込まれるような連中は、よっぽどのへまをしたか、厄介ごとに巻き込まれたかなのだから。

 とはいえ、ここまで特殊な経歴の持ち主はそうはいまい。

 

「……なあウル、もう一人の所有物ってのは」

「シズクだよ」

「あーあの超絶美人の……すげえな」

「やめろ、畏怖の視線を向けてくるな。っつーかあの女に迂闊に近づくなよ」

「んでだよ?」

「喰われる」

「喰われるの?!」

 

 それだけの経験をして、ガザとあんな風に馬鹿な話しが出来るのは、大物と言うことなのだろうか。これを英雄の器と言って良いのかは相当怪しいが。

 

「もう面倒くさいから今度、酒の席で話聞かせろよ」

 

 道すがらに色々と聞き出そうとしたガザもとうとう諦めたらしい。

 

「そうね。無限に話題が出てきそう」

 

 確かにこれはもう、軽い雑談で聴取出来るような過去ではないだろう。焦牢に居たときもこういった話はしないでもなかったが、余裕は無かった。

 

 ウルに、ではなく、自分たちに。

 

「飲み会ね。だったらペリィのところだな。今日にでも顔を出すか」

 

 するとウルは笑ってそういった。その名前はレイも覚えがある。

 

「ああ、あのケチな詐欺師?彼もこっち来てるの?」

 

 焦牢でウルや“彼女”と一緒につるんでいた仲間だ。あまり真っ当な接触ではなかったが、結果としてウルに取り込まれて、仲間になってしまったというのは聞いている。

 レイやガザと直接接する事はほぼなかったのであまり面識は無かったのだが――――

 

「ここで酒場開いてんだよ。元々の懲役年数と恩赦で罪は清算されたらしいけど、ちゃんと働いて、だまし取った金を全部返すんだとよ」

「へえ?」

「ラースの決戦前に、アナにアドバイスもらってたらしい。そうするってさ」

「そう……」

 

 彼女の名前を聞いた瞬間、心臓が強く鳴り、痛んだ。彼女が、自らの意思で生き抜いたということは、ウルから聞いている。ボルドー隊長と同じように。だから、罪悪感を抱くのは失礼だし、ただただ悲嘆にくれるのも違うというのは分かっている。それでも痛みはどうしたって起こった。

 振り返ると、痛みの伴う過去はレイには多い。レイだけでなく、ガザにもある。他の仲間達にも。

 この傷は、焦牢で活動していた時は、癒えることはなかった。現在進行形でその渦中にいたのだ。癒えるはずもない。だから、焦牢で、ウルの話を深く掘り下げるようなことは、誰もしてこなかった。

 

 相手から過去を聞き出すと言うことは、自分の過去を話すと言うことでもあるからだ。

 

 灰都ラースを攻略する前は、とてもではないが、耐えられなかった。口にするだけで傷口から血が噴き出すのは分かり切っていた。

 だけど、全てが終わった今は、傷は少しずつ癒えてきている。勿論、新しい傷も増えてしまったが、それでも、過去と正面から向き合える程度には、回復しつつあった。

 

 酒の席で、傷を持つ者同士が、酔いと共に、彼女の思い出を話すのは良いかもしれない。そう思えること自体がその証拠だった。

 

「なあなあ、それよりも気になる奴がいんだけど」

 

 既にここに来ているらしい黒炎払いの面々も呼ぼうか、と思っていると、ガザがのんきな声を上げた。彼も薄情では無い。むしろレイ以上に失った者達の事を悼んでいた。それでもこうして元気でいるのは、タフなのかバカなのか。どちらにせよ、その態度に救われる部分はあった。

 

「どした」

「ほら、“王様”はどうなったんだ?」

「ああ、ダヴィネなら――――」

 

 と、ウルが説明しようとした時だった。通りに建設された真新しい建物。巨大な工房とおぼしき場所から、なんだか聞き覚えのある怒鳴り声が響いた。

 

「だぁかぁらぁ!!無茶苦茶言うんじゃねえぞ小娘!!」

 

 そしてその怒鳴り声に対して、まったく物怖じしない少女の声が返ってきた。

 

「やかましいわね。天才名乗るならこの程度の依頼たやすくこなしてみせなさいよ」

 

 二人の言い争いを聞きながら、ウルは頷いた。

 

「無茶ぶりされてる」

「ヘンな奴しかいねえの?ここ」

「もう否定しない」

 

 えらいところに入ってしまったのかもしれないとレイは思った。

 

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