かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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焦牢の住民達のお引越し③ 天才鍛冶師と珍客

 

 焦牢が崩壊してからしばらくした後、ダヴィネはしばらくの間は崩壊した焦牢で生活を続けていた。自分の愛用の工具類の回収や、それ以外でも崩壊した焦牢の解体作業をしている連中の為に道具をこさえてやる必要があったからだ。

 そして、ある程度落ち着いて、さてこの後どうするか、と考え始めた頃

 

「行くところが無いなら、ウチに来ないか。働く場所なら用意できる」

 

 移動要塞ウーガで近くにやってきていたウルに、ダヴィネは勧誘された。

 

「俺を評価するって事か」

「もう何度も言ってる。アンタはずば抜けた天才だ。それを認めない奴は本物のバカだよ。んで、そのアンタがフリーになるのに誘わないのは、ギルド長として間抜けが過ぎてな」

 

 ウルは頭を掻きながらそういう。

 自分の事を軽んじてはいないウルの言葉にひとまずは満足する。だが、まだ気になるところもある。

 

「熱烈な勧誘じゃねえか。まだ何かする気なのか」

 

 ダヴィネも既に、ウルがとてつもない偉業を成し遂げたというのは知っている。彼が、既に外では英雄扱いだと言うことも。つまり、うまく立ち回れば、いくらでも金を手に入れる事が出来るはずなのだ。

 なのにわざわざ自分を誘う理由は読めなかった。

 

「さあ。このまま行けば、俺の目的は達成しそうなんだが…………備えはしたい」

「備えだあ?」

「ト ラ ブ ル の 備 え」

 

 その言葉の重々しさに、ダヴィネはちょっと引いた。

 

「……まあ、お前はそうした方が良いと思う」

「理解してくれてありがたいよ。辛い」

 

 とりあえず、とりあえず彼が自分を本当に必要としているということは理解できた。ちょうどあらかた、この焦牢の解体作業で必要な道具の手配は完了したところだったので、ちょうど良いタイミングだった。

 

「言っておくが、とりあえず確保だけして放置、なんて雑な扱い認めねえからな!」

「心配するな、アンタの力を必要とする奴はいくらでもいる場所だ」

 

 こうして、前代未聞の移動要塞ウーガに、ダヴィネの工房が生まれる事となった。

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ワシの仕事場だ!!最高の場所を用意しろ!!」

 

 と、言うダヴィネの要望に対して、ウル達は即座に応じた。

 大通りの一等地、一番立派な建物がダヴィネの職場となった。ついでに看板にはでかでかと自分の顔を掲示させた。(ダヴィネが自分で作った)

 引っ越しを手伝ってくれた兄からは「自己顕示欲が酷すぎる」と呆れられたが、気にしなかった。コレまでと違って、まったく新しい場所で、しかも既に多くの者達が働いている場所に、自分のような天才が乗り込むのだ。絶対に齟齬が生まれると彼は警戒していた。

 

 後からやってきてでかい顔を、と文句を言ってくる奴は全員黙らせる!!

 

 と、それくらいの意気込みでいたのだ。

 が、しかし、

 

「おお!あんたが噂の天才鍛冶師か!!凄まじい腕だって聞いたぞ!!」

 

 ウーガで鍛冶仕事を既に任されていたというダッカンという男は、ダヴィネの工房を訪ねると、とても好意的に接してくれた。

 

「……おう、お前がダッカンか。言っておくがなあ」

「俺よりも腕が良いんだろう?!作品見りゃわかる!頼もしい限りだ!!ハッハッハ!!」

 

 バシバシと叩きながら、返事をする。彼の部下、とおぼしき者達もこちらを見る視線は好意的だった。なんというか、こういう職人の仕事場は、自分の領域を荒らしてくる輩に対しては排他的だと思っていたのだが(実際ダヴィネはそういうタイプだった)、全然そういった雰囲気は無かった。

 

「で、何のようだよ……」

「アンタを手伝って欲しいと頼まれとる!邪魔にはならんからここで働かせてくれや!」

「ああ?!言っておくが俺の技は盗ませねえからな!!」

「俺みたいな年寄りにお前さんの技は盗めねえよ!!安心しな!!」

 

 そんなこんなであっけなく、ダヴィネの工房は人手も確保完了し、稼働開始した。

 

 働き始めると、ダヴィネの仕事に対して多くの者達が感心し、好意的にその技を受け入れてくれた。その反応一つ一つが、ダヴィネにとって新鮮でもあった。

 鉱山にいた頃は、理解と関心なんてほど遠かった。物作りに手を出した自分を土人の仲間達は嫌悪した。蛇蝎の如く嫌った。自分たちの生業以外のモノに手を出すなんてとんでもない!と。

 地下牢の時は、クウの手によってあっという間に王様に仕立て上げられて、それ以降自分に向けられる感情の多くが畏怖だった。自分を必要として崇める一方で、いつ頭をかち割られるかという恐怖を向けられていた(度々癇癪を起こしていたのだから自業自得だったが)

 

 鉱山と地下牢、二つの閉鎖的な空間にしか居たことの無かったダヴィネにとって、ダッカン達から向けられる、シンプルな賞賛と敬意は未知の体験で、心地よかった。

 

 兄が、フライタンが外に自分を出そうとした意味が、少し分かった気がした。

 

 そして、同僚達とは別に、ウーガでの仕事もなかなかに楽しかった。

 

 ウルの言うとおり、仕事は次々に舞い込んだ。

 ウーガは過渡期だ。あらゆる仕事、あらゆる作業のトライアンドエラーが絶えず行われている。この前例の無い巨大な移動要塞で、どういった道具を使って、どういう風に働けば効率が良いか。それを皆、探り探りやっている。

 試して、失敗して、新しいやり方を導入する。その度に新しい道具を求める。それも、他の都市国で使われるようなものとは全く別の道具だ。

 

 つまり、ダヴィネの天才性を最も発揮しやすい職場と言うことでもあった。

 

「おらぁ!!新しい荷車と高所作業用の滑車だ!!使え雑魚ども!!」

「何でも作れるなアンタ!?」

「うっはー!!すげえ!!マジで軽い!!助かる!!」

「おっしゃああ!!働くぞてめえら!!」

 

 自分の道具を手にした働き盛り達が、大喜びで駆けだしていくのはなんとも心地がよいものだった。

 

 ここは、悪くない。そう思えた。

 

 ダヴィネの新生活は順調だった。

 なんだかんだと忙しい日々の中で、やりがいをダヴィネは感じ始めていた。

 そんなある日。

 

「ここにとてつもない腕を持った鍛冶師がいるって聞いたのだけど?」

 

 クソヤバ女がやってきた。

 

 

 

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