かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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焦牢の住民達のお引越し⑤ ウーガの戦闘訓練【地獄篇】

 

 

 ベイトは元黒炎払いの一人で、あの決戦の時、灰都に直接赴いた歴戦の戦士だった。長いこと、最前線で黒炎鬼達と戦い続けて、いくらかの呪いを食らっても尚、引かずに最前線に立っていた男だった。勿論、散々な目にも遭ったし、泣き言だって吐いたが、それでも結局最後まで逃げるような事はしなかった。

 

 だからまあ、【白の蟒蛇】の戦士として加入したとき、自信はあった。

 勿論、銀級冒険者達を侮っていた訳では無い。自分の実力を驕った訳でもない。

 それでも、雇ってくる連中から「足らない」と思われるつもりは無かった。

 

 たぶん、それは自分と同じようにウーガにやってきた元黒炎払いの面々も同じだ。望まぬ地獄の底で戦い続けて、徹底的に揉まれたのだ。「見せてやる!!」という意気込みを抱かずにはいられなかった。

 

「私達もあまり頻繁には此処にこられないから、今日はガッツリやるよ。気合い入れてね」

《やったんでー!》

「本当にありがたいです。ディズ様。アカネ様。総力戦で参りましょう」

『カカカカ!!無茶苦茶な事になりそうじゃの?』

 

 その結果

 

「うーわ勇者と組むってマジすか。帰っていいっすか?」

「ダメだ。お前ら、死ぬ気でいくぞ。そうじゃないと死ぬからな」

 

 割と地獄見る羽目になった。

 

「それでは対竜想定の訓練を開始しましょうか」

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 訓練というのは実戦を想定しなければ意味が無い。

 

 この世界においては特にそうだ。何せ敵対する存在の多くは魔物なのだ。ヒトとはまったく違う、得体の知れない、想像すらできないような機能をもった生物との戦いになる。

 

 だというのに、ヒト同士で剣を振り回して、その経験を実戦でどこまで信頼して良いのかは怪しいところだ。

 

 だから、特に魔物との戦いがメインとなる戦闘集団の訓練というのは、創意工夫というのが必要になる。当たり前だが魔物を連れてきて殴る訳にはいかない。(ソレを本当にやってるギルドもいるが、事故を起こしたりしてる)迷宮で実践訓練という手もあるが、迷宮はどんな達人であっても油断はできない。都度動きや戦い方を補正していく、というのが出来ないのが少し痛い。

 

 だから、よくやるやり方としては、魔力を吸収し、高い能力を身につけた者が魔物側として行う戦闘訓練だ。

 

 魔力を吸収し続ければ、超人になる。ヒトの枠を大幅に超える。本来の機能を超えた異能を手に入れる。その力でももって、魔物として戦うのだ。多数対少数の、ポピュラーな訓練の一つである。

 

 黒炎払い達の中でも、新人相手によくやった。そして逃げられたりもした。

 

 自分たちがこれから戦わなければならない相手を想像して、怖じけてしまうのだ。それを「まったく情けない」というのは、自分がまだ新人だった頃の感性を忘れてしまったが故の感想だとは分かっていても、悪態をつかずにはいられなかった。

 

「元黒炎払いの皆、動きが良いね。伊達に禁忌領域で戦い続けてない」

「ええ、そのような方々が仲間になってくれるなんて頼もしい事この上ないです。負けぬよう、もっと強くならなければなりませんね」

 

 ベイトは久しぶりに、新人だった頃の気持ちを思いだしていた。普通に逃げたい。

 

 ベイトの前にいるのは金色と銀色だ。

 美しい二人の少女達は並び立ち、自分たち【白の蟒蛇】と対峙している。

 

 金色の方は現役の七天の一人、【勇者】だ。何故にそんな大物がここに来ているのだとか疑問は山ほどあるが、今はそんな疑問はどうでも良い。そんなことを疑問にしている余裕などこちらには欠片もない。

 

「【魔よ来たれり】」

「どわあああああああああ!?!」

 

 先ほどから彼女は恐ろしく短い詠唱で、発展魔術(セカンド)を発動させまくっている。竜の咆哮を想定しているというが、素直に地獄だ。何が恐ろしいって異様に狙いが正確なのだ。

 逃げても逃げても、まるで先回りするようにして、魔術が飛んでくる。そしてその原因もハッキリとしている。

 

「【【【【水よ、唄い奏でよ】】】】」」

 

 彼女の前で、重ねるように魔術を発動させているシズクという白銀の少女だ。

 いくつかの障害物が設置された空間内で、彼女が扱う銀色の糸が無数に張り巡らされている。そこから常時、音を拾い、こちらの位置情報を把握し、それを勇者に反映させ続けている。

 

 つまり、安全地域が一切存在しない。地獄だ。

 

「バカバカ!!!バカヤロウ!!!死ぬわ!!!」

 

 ベイトは思わず叫んだ。すると、耳元でささやくような声が聞こえてくる。

 

《死なないように頑張ります。ご安心ください》

「だあああ!!?もう場所ばれてるぅ!!!」

「安心っつった?!安心っつったかあの女!?どうなってんだ此処の倫理観は!」

 

 近くにいたゲイツが悲鳴を上げながら声のした方角に剣を振るうが、当然そこにシズクの姿は無い。あるのはひらひらと舞う、切断された銀の糸だ。

 切り払い、焼き払えば銀の糸はあっという間に消失する。ただし、即座に張り直されるのでキリがない。本当の本当にタチが悪かった。

 

「【魔よ】」

「ぎゃああああああああああ!!!?」

 

 そして、糸に気をとられていると、また頭上から魔術が振り落ちる。

 

「くっそ!!?マジで勘弁しろ畜生!!何が安心だ!!?」

「あの女の「安心」は「命だけは取らない」の意だ」

 

 悲鳴と泣き言を上げながらベイトが膝をついてると、横から新たなる自分たちのトップとなったジャインが声をかけてきた。流石、というべきか、自分たちよりは余裕がある。手斧を担ぎながら、姿勢を低く、いつでも飛び出せる姿勢でいた。

 

「……命以外は?」

「後遺症が残る怪我はさせられないっすよー……マージで狙い定めたみたいに加減するんすよね。怖」

 

 その彼の背後から、彼の腹心であるラビィンが苦笑いを見せる。自分たちよりも此処が長い二人がこの表情だ。新人の自分たち相手に加減してくれるという可能性は無くなった。

 つまり、この地獄をなんとかするには、やるしかない。

 

「分かってると思うが、シズクはまだ隙がある。勇者はどうしようもないが背後に控えて魔術連発してくるだけだ。シズクを落とす」

「やれんのかよ」

「真正面からガチればお前らだけでも勝機はあるさ。それができないように立ち回ってる上、今回は格上想定のため下駄も履いてる」

 

 今回の訓練所の環境を用意する上で、全てがシズクに有利になるように形作られている。だからこそ勇者に並び立って無茶苦茶が出来ているが、まだ勇者と比較すれば隙が見え――――なくも無い。

 

「勇者の攻撃はこっちが引きつける。やれるか新人」

 

 問われ、一瞬回答を躊躇った。が、しかし、此処で怖じ気づくのは男が廃った。隣のゲイツに視線をやり、頷いた。

 

「ったりめえだ!こちとら地獄帰りだ!!」

「良いね」

 

 ジャインはニヤリと笑うと、ラビィンと共に先に飛び出す。勇者の魔術の乱舞がジャインめがけて飛んでいく。ソレを確認してベイト達も飛び出した。勇者は攻撃を一カ所にしか向けない。実際はもっと幅広く攻撃も出来るのだろうが、今回の訓練ではそう決まっている。

 

「【【【炎よ】】】」

 

 だから残るはシズクの攻撃だが、なるほど確かにこちらはまだ凌ぎきれない訳では無い。重なるようにして全方角から発動する魔術は紛れもなく脅威ではあるが、ダヴィネ製の鎧を身に纏い、守りの魔術を重ねて一気に駆け抜ければ、くぐり抜けられない訳では無い。

 足を止めればそれまでだが、足を止めなければ良いだけのこと。

 

「食らったら終わりの【黒炎】と比べりゃなんてことぉ!!!」

 

 叫び、障害物を蹴り、跳ぶ。剣を振りかぶり、高所をとり、こちらを見下ろすシズクへと一気に振り抜いた。

 

「――――素晴らしい。では第二段階です」

 

 が、しかし、その刃は、彼女の足下から出現した死霊兵に防がれた。

 

「なん……!?」

『カカカカカカカカカ!!良いのう!流石は歴戦の猛者じゃのう』

 

 死霊兵がこちらを賞賛しながらも、剣をはじく。剣そのものを遠くに弾かれそうになったことにベイトは驚愕した。ただの死霊兵の力でも、技でも無い。達人と相対したときの戦技の類いだ。

 

『さてさて、こっちにとっても訓練じゃから、加減はせぬぞ?』

 

 しかも、それが、無数に出現している。訓練所の至る所から、シズクを守ったものと同じ死霊兵が出現する――――そして、挙げ句の果てに。

 

『妹御!!』

《いくでーじーちゃん!!》

 

 出現したその死霊兵の頭上から、緋色の粘魔のようなものが降り注ぐ。ウルの妹だとか、禁忌の存在だとかなんとか話は断片的に聞いているが、今はそんなことはどうでも良い。

 

『《骨芯変化・緋緋剛兵》』

 

 問題なのは、達人のような技を持つ死霊兵が、緋色の鎧を纏いパワーアップしたという、割と本当にどうしようもない事実だ。

 

『《カカカカカカカッッカカッカカカカカカカカカ!!!!》』

「地獄だぁ畜生があああああああ!!!!」

 

 ベイトは悲鳴をあげながら、地獄の訓練を再開した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「…………ガザ、レイ、参加するか?」

 

 それを傍からみていたガザとレイは、ウルの問いに首を横に振った。

 

 初日に首を突っ込む地獄では無い。

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