かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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新たなるウーガの日常③ 勇者と聖者と凡人と

 

 

 竜吞ウーガ、【ダヴィネの工房】

 ウーガでは比較的新しい建築物でありながら、既にウーガの中心のように賑わっていた。

 

 元々、ウーガに住まう名無し達の中には物作りの仕事に覚えのある者達は結構な数存在していた。元々、都市作りのために働いていた者達なのだから当然と言えば当然だった。(それが竜吞ウーガ建造のカモフラージュだったとしても)

 しかし、彼らの職場はしっかりと決まってはいなかった。建物そのものが、ウーガの環境整備に合わせて新しく作り替えられたり、撤去されたりしているのだ。カルカラ率いる神官達の力によって、その建造自体は非常にスムーズに行えるのだが、結果として、なかなか腰を据える場所が決まらなかった。

 しかしダヴィネの工房を建造することに決まり、ならばいっそ、彼の職場に今バラバラになっている職人達の仕事場をまとめてしまおうと決まった。

 

 結果、ウーガの建造物の中でもかなりの大きさを誇る工房となった。ダヴィネも自分の仕事場が大きくなることには文句もなくご満悦だった。(あまり大きくしすぎて影響力が大きくなりすぎるとエンヴィーの二の舞になりかねないからと、ある程度は押さえられたが)

 そんなわけで、広く大きく働きやすい仕事場で、彼と彼の仲間達は今日も鎚を握り、武具や道具類達を生み出し、整備をしている。

 

「…………」

 

 そんな中、トップであるダヴィネは一人、奥の自分の仕事場に引き籠もり、真剣な面持ちで、自らが仕上げた剣を握りしめ、にらみつけていた。

 その表情は、とても真剣だ。元々彼は自分の仕事に対して手を抜くことを知らない男ではあるものの、今日の彼の集中力は普段の比では無かった。邪魔をすれば殺される。そんな殺意にも似た気迫が満ち満ちていた。ソレを理解して、彼の同僚達は一人たりとも彼のそばには近づかない。

 

 彼の側にいるのは一人だけ。依頼人である七天が一人【勇者】だけだ。

 

「――――よし」

 

 そして不意に、彼は緊張を解いた。そしてそれをそのまま、ずっと彼の仕事を眺めていた勇者に柄を差し出す。

 

「ほらよ、完璧だ。見てみろ」

「うん」

 

 勇者ディズは受け取ると、そのままゆっくりまっすぐ前へと身構えた。流石に室内で振り回す真似はしなかったが、ただ、構えるだけでその場の空気が変わった。遠目にその様子を見学していた者達も、自然と背筋が伸びるような、静謐な空気が場を支配した。

 

「素晴らしい」

 

 ディズはその剣の状態に満足したのか、そのままダヴィネへと向き直り、頷いた。

 

「流石だね。これを整備できるヒトは本当に少ないんだ。この場所で貴方に頼めるのは本当にありがたいよ、ダヴィネ」

「あったりめえだ!!俺に出来ねえと思ったか!!!すげえだろ!!」

「まさに天才の仕事だよ。助かった」

 

 手放しの賛辞にダヴィネは満足げに鼻を鳴らした。そのまま彼に報酬の金貨の包んだ袋を手渡すとそのまましばらく、剣を構えて、動作を確認していた。その様子を、今度はダヴィネの方が見物する番だった。

 

 絶え間ない鍛錬で無駄をそぎ落とし、鍛え抜くことで輝く美しさが動作に宿っていた。

 

 彼は【観の眼】を持っている。ものやヒトの善し悪しを見極める魔眼だ。そんな彼の視点から見る彼女のまぶしさは異常だった。思わずくらみそうになる程だった。

 そして、彼女と同等に目映く見えるのが、彼女の握る【星剣】だ。

 

「――――その【星剣】ってのはなんなんだ?」

 

 一通りのチェックを彼女が終えた後、ダヴィネは尋ねた。

 

「気になる?ってそれはそうか」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 先ほどまで星剣を整備していたのは誰であろうダヴィネだ。結果として剣の構造は深く理解していた。刃に柄、剣の構造は通常のものとなんら変わりは無い。刃はかなり希少で珍しい【宙金】という代物で出来ているが、知識としてはダヴィネは把握している。整備するのに問題は無かった。

 特殊だったのは、刃の中心に刻まれていた魔術の術式だ――――いや、正確には、魔術の術式なのかも怪しい、かなり古く、読み取るのも困難な魔言が刻まれていた。

 

 そこには手を加えないように。

 

 とはディズも指示を出していた。勿論、依頼者から受けた指示を違えるつもりはダヴィネにはなかったが、そもそも手を加えることは出来なかった。その魔言の刻まれた部分は、“変化を拒絶している”。

 

「柄や刃は、なんども修繕を繰り返した跡があった。使い手に合わせて調整して、新しい技術を取り込んで、何度も何度も直した跡だ。だが、()()だけはねえ。なんなんだ?」

 

 異様ではあった。どれだけ周りを新しくしても、一部だけを古いままに残せば、そこから歪が起こったり、劣化したりするのが道理だ。しかしこの剣はそうはなっていない。

 

 むしろ、その部分の周囲だけは微塵も劣化していない。

 

 確かに、劣化しない素材というものはこの世界にある。希少で、極めて高価であるが、破損や劣化に応じて自ら修正する性質を宿すことは出来る。

 だが、コレはそういうものでもない印象だ。()()()()()()()()()

 ダヴィネすら理屈が分からない、全くの未知の技術だ。だから腹が立つ。

 

「神から、加護の代わりに授かった剣、らしいんだけど、詳細は不明でね。迷宮大乱立の時に、文献が紛失してしまったんだって」

「っつーことは、少なくとも迷宮が出るよりも以前の代物ってか?」

「そうなるね」

 

 年代物。迷宮から出土する遺物の類い。当時の大混乱の時代を超えて尚、一度も紛失されずに受け継がれ続けている武具という事になる。そこに執念を感じざるをえなかった。

 

「【星剣】は万能武装だ。使い手に常時、守りと攻撃の加護を与え続け、心身を高い基準で守り続ける。使い手に向けられた攻性魔術は、発展魔術(セカンド)クラスなら自動で【消去】する。勿論純粋な武器としても一流…………神の加護を授かることが出来ない【勇者】が、代わりに授かる武具だ」

「それが、その魔言に込められた力ってことか?」

「そうだね………ただその対価なのか、変な性質があってね?」

 

 と、ディズはなにか複雑な表情を浮かべた。ダヴィネは眉をひそめる。

 

「なんだよ、言えよ」

「この剣は、使()()()()()()

「ッハ!ベタベタな魔剣の類いだなぁ!」

 

 保有している魔力量、力量を判別し、それに応じて機能を解放する。武具が使い手を選ぶ。なんてのはよくある話だ。別に珍しくも無い。もったいぶった割に出てきたありきたりな情報にダヴィネは笑った。

 

「ところが、ちょっと選定の基準が奇妙でね」

 

 が、ディズの表情は変わらない。そのまま言葉を続ける。

 

()()()()()()()()()

「………………」

「ああ、ほら、そういう顔になる」

 

 ダヴィネの胡散臭そうな表情に、ディズは苦笑した。

 

「ああ?なんだ?つまりあれか?めちゃくちゃ心が清らかぁーな奴しか使えねえってか?」

「そうなるね。基準を満たさないと、さっき上げた機能の大半が封じられる」

「……」

「……」

 

 双方は沈黙した。そしてしばらくして、ダヴィネは堪えきれないといわんばかりに叫んだ。

 

「ばっかじゃねえの?!」

「うん、正直同意見。そもそも正しいの基準って何って話だしね…………私よりもずっと善いヒトが使えなかったりする。やたら厳しい上に、基準が謎」

 

 善性、なんてのは時代や場所、個々人の価値観によって変化するもので、絶対的な基準なんてものは存在しない。で、あれば【星剣】の選定基準は、【星剣】の価値観によって選ばれるということになる。

 ダヴィネの反応はごもっともだった。

 

「で、鍛錬を積んで、この剣の定めた合格基準を満たした者が、剣を使える。勇者になる」

「七天の下っ端になれるってか?」

「そ、とはいえ他の七天は天賢王や、先代からの選定で在ることを考えると、ワンチャンあるって考えるヒトもいるんだよねえ」

「バハハハ!「ワンチャン」なんて考える奴が聖者かあ?!」

「だーよーね-」

 

 実際、功名や力を求めて星剣の選定に挑んだ者が、星剣に選ばれる事例は皆無だった。歴史の中で【星剣】に選ばれた勇者達が、その時代で基準となっていた善悪の価値観から外れる者を排出したことがない事を考えると、ある程度は信頼におけるものではあるらしい。

 

「ただ、その厳しい基準をクリアして【星剣】を手にしたとしても、やっぱり他の神の加護を直接賜った同僚には及ばないんだよね」

「だから他の武器で補うってか」

「そ。そういう意味では貴方の【竜殺し】は本当に頼もしいよ。人造武器で、ここまで明確に竜に対して有効と言える武器はこれまでなかった」

「当然だ!!!」

 

 ダヴィネは腕を組み誇らしげに胸を反らした。

 

 実際、竜殺しという新兵器は対竜戦では凄まじい力をもたらした。

 

 竜殺しが存在する前は、竜に対抗する手段は特異な実力者を除けば、七天以外もたなかった。天賢王がもたらす太陽神の加護、その力を振るうことでしか竜は殲滅できない。兵士達が出来るのは守ることのみで、一度形勢が不利になれば、反撃は厳しい。

 

 陽喰らいの儀でも、迷宮への侵攻と防衛に割く七天の数は元々半々くらいだった

 そうでなければ、防衛側があっという間に崩れてしまうからだ。

 

 しかし竜殺しが生まれて、それが配備されるようになってから、陽喰らいの儀の戦闘効率は飛躍的に向上した。勿論、竜そのものは依然として脅威で、竜殺しをもってしても翻弄されることは多くある。

 が、しかし、竜殺しを持った一兵士が竜にとって「油断ならぬ戦力」として認識されるようになったのは間違いなかった。結果、戦場の盤面を人類側に優位に進められるようになったのだ。

 

 先の戦いでも、竜殺しなしでは恐ろしい被害が出ていたのは間違いない。

 

 ダヴィネは紛れもない傑物にして、革命者だ。

 

「だからこそ、プラウディアにも来て欲しかったんだけどね」

「やなこったな!神官どもに囲まれて仕事するなんて冗談じゃねえ!!」

 

 ディズの言葉に、ダヴィネはうなり声を上げた。顔を顰めて警戒する様子は不機嫌な犬のようだなとディズは少し面白くなったが、顔には出さなかった。

 

「俺は此処で働くってもう決めたんだ!!」

「此処が気に入ったんだねえ」

 

 ディズが嬉しそうに言うと、むっとダヴィネが顔をしかめる。

 

「……別に、悪くはねえってだけだ」

 

 ダヴィネは、酷くわかりやすい男だった。その事実に、ディズは優しく微笑む。年齢的にはずっと年上であるはずなのに、実家の弟や妹達のことを思い出していた。

 

「隠すことも無いじゃないか、此処は良いところだよ」

 

 ディズは視線を工房の中へと、そしてその先に開けた大通りの中を行き交う人々を見る。彼らは活気にあふれている。様々な種族、立場、地位の者達が混在し、それでも歩みを続けている。

 勿論、これだけのヒトがいるのだ。万事上手くいくわけが無い。時に不協和音も奏でながら、それでも決して、進む事を止めない。

 その光景を、ディズは目映そうに眼を細め、見つめる。

 

「いろんな悪意に傷つけられたヒト達が、それでも支え合って、抗って、戦って、一つのものを築こうといしている」

「…………」

「輝かしくて、愛おしいよ――――――だからこそ」

 

 そう言って、ディズは拳を強く握り、額に当てた。祈るように、誓うように。

 そしてその動作を終えると、すぐにダヴィネに向き直り、微笑む。もういつもの彼女に戻っていた。

 

「さて、ありがとう。ダヴィネ。また仕事を頼むかもしれないけどよろしくね」

「構わねえが、あんまり無茶すんなよ」

「心配?ありがとう」

 

 違う、と、ダヴィネはうなり、そしてディズの星剣を指さした。

 

「自分の仕事の心配だ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その剣!そうなんどもぶっこわしかけるんじゃねえぞ!!」

「はっはっは、努力するよ――――できる限り」

 

 そんな風に笑って、ディズは工房を後にした。そしてやれやれと剣を腰に装着すると伸びをして、次の目的地へと向かった。

 

「さーて、ウルのリハビリは大丈夫かなっと」

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【竜吞ウーガ・訓練所】

 

「いっだい……」

「大丈夫じゃなかったかあ」

 

 ウルは死にかけた虫のようになっていた。

 

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