かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜吞ウーガの一番では無いけれど比較的長い一日⑤

 

 

「すっげえ場所だなあ……」

「流石に見たことないわ、こんな場所」

「うーわ、アレ本当に全員名無し達なの?大丈夫なのかな」

 

 【至宝の守護者】、カルターン一行もまた、ウーガに乗り込んでいた。

 乗り込む手段は正規の手順だ。たまたまエンヴィー領近郊にウーガが来ていたため、見物客として問題なく彼らは乗船が許可された。

 勿論、此処とは全く別の都市部にウーガが停泊していたとしても、問題なく乗り込むための手立てを彼らは有していたが、使う必要は無かった。親に頼めば問題なく、ウーガに乗り込むまでの手続きを用意してくれる程度には生まれに恵まれており、そして放任もされていた。

 

「おお、衛星都市タルバの皆様ですな。どうぞ此方」

「ああ、ご苦労」

 

 ウーガの来賓用の宿へと案内してくれるという老人に荷物を預け、彼の牽く馬車にのってカルターン達はウーガ内を移動する。窓の外から見えるウーガの光景はやはり物珍しいものが多い。

 通常の都市と、その成り立ちからして違うのだ。建造物もその特性に合わせて形を変えていて、その姿がまた面白くもあった。

 しかし、彼らの目的は見物ではない。カルターンは馬車の窓を開け、御者として乗り込む先ほどの老人に話しかけた。

 

「やあ、聞いておきたいんだが」

「なんでございましょう」

 

 馬車を操るため、老人は視線は前へと向いたままだったが、応じた。

 

「とても綺麗な、銀髪の女の子を見たんだ。珍しい髪色だった。知らないか?」

 

 【白銀の至宝】という少女の情報を仕入れることだ。

 すると老人は、なにか小さく唸るような声を上げた。やや不愉快そうな声だった。

 

「ああ、シズクですな」

「シズク」

「見目は麗しいですが、決して皆様のような方が関わるような者ではございません」

 

 老人は断言する。明言こそしなかったが、そこには隠しきれない、嫌悪の感情があふれ出ていた。事前に仕入れていた情報の信憑性が増したことに、カルターンは自信を深めた。振り返れば、仲間達も確信したように頷いていた。

 

「ちょっと気になることがある。彼女と話したいんだ」

「それは……」

「今、彼女はどこにいるんだ」

 

 少し迷ったように声をさまよわせる老人に、カルターンは強く命じる。言うことを聞かない者に強いるのは、生まれてから今日まで息を吸うように彼がしてきたことだった。

 やがて老人は困ったように言った。

 

「会うことは難しいでしょう。あやつめは、竜吞女王の命で、機関部で働いております」

「機関部」

「許可の無い方は、例え皆様でも、立ち入りを禁じられております。あやつも許可無く外に出ることは許されておらぬのです。どうかご勘弁を……」

「……良いだろう」

 

 前を向いたまま、深々と老人は頭を下げる。

 先ほどと比べるとなんとも声が弱々しい。流石に哀れだったので、カルターンもこれ以上彼から追求するのはやめておいてあげることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………カカカ』

 

 何か、カチカチと鳴るような音がどこからか聞こえてきたが、おそらくは気のせいだ。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 竜吞ウーガ、来賓用宿泊施設【大亀舟】スイートルームにて

 

「さて、準備はいいな」

 

 七名の【至宝の守護者】達は、カルターンの借りている一室に集まっていた。

 それも、浴室に。

 流石にスイートルームだけあって、専用の浴室も備え付けられていた。彼らにはこの場所が必要だった。勿論、湯あそびをするためでは無い。彼らの姿も、此方に来たときの余所行きの格好から、身体に密着する黒い生地のスーツ。身体を動かしやすい“守護者の格好”に変わっていた。

 

 姿は統一した方がかっこいい。

 

 なんていう、これまた遊び感覚でカルターン達が用意した衣装だったが、財をかけただけあって、決してその性能は馬鹿に出来たものでは無かった。

 その上で、彼らは各々、奇妙な装飾を身につけていた。煌びやかな宝珠のついた首飾りや耳飾り、腕輪、どれもこれも黒を基準にしたスーツと比べると浮いていたが、しかし何故かどれもコレも、異様な存在感を放っていた。

 

 そして、カルータンは全員の姿を確認し、手を掲げる。その指先には、仲間達と同じ存在感を放つ指輪がはめられていた。黒と、蒼色の入り交じった宝珠の嵌められた指輪だ。無論、単なる装飾の類いではない。そして単なる魔道具の類いでもなかった。

 

 それは精霊から授かる聖遺物だ。精霊の奇跡をカタチにした代物だ。

 

 水の精霊フィーシーレインの聖遺物。名を【水路の王鍵】

 

 その力は恐るべきものであり、全く別々の場所にある液体の、その水面同士を繋げ、移動する力を所有者に与えるのだ。言わば、条件のある転移術である。

 遊び半分の窃盗を繰り返す彼らが、それでも今まで誰にも咎められずに今日まで続けられた最大の理由。彼らの家でそれぞれ保管されていた強力無比な聖遺物の悪用だ。

 

 いうまでもなく、そういった品々を犯罪に利用するのは重罪だ。

 

 天陽騎士達に叩き殺されても文句は言えないような重罪。しかし彼らは怖い物知らずだった。カルターンの仲間達に恐怖は無い。今日までカルターンについていって、上手くやれないことはなかった。今回も上手くやれる。そんな盲信だけがあった。

 一方、カルターンの心を占めているのは、確信と好奇心、それとこれから満たされる自尊心への期待だ。

 

 想像通り、銀髪の少女が此処で虐げられているのは間違いない。

 

 どれほど自分は感謝されるだろう。そんな期待と共に、彼は指輪の力を解放する。

 

「【繋げよ、我らを運べ】」

 

 その魔言を唱えると、浴槽にためられた水が発光する。間もなく彼らはその光に飲み込まれ、そして、その場から跡形も無く姿を消した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 数日前、闇ギルド【黒羊】は竜吞ウーガに正規の手段で来訪した。

 

 その日の“彼”はエンヴィー領にて活動する商人の一人だ。プラウディアから依頼された必要な商品を運び込むための商人であり、その経歴に一切の嘘偽りは存在していなかった。

 幾つかの魔術を通した質疑に対しても彼は正直に解答し、検査をくぐり抜けた。警戒する必要は全く無かった。彼は一切嘘偽りを口にしては居なかったのだから。持ち物の確認もされたが、勿論問題は無かった。不審な物など何も持ち込んではいなかったからだ。

 

 ウーガに到着してからの数日間も、彼は自身の身分通りの仕事をこなした。荷物を運搬し、ウーガの従業員達に幾つか依頼し、倉庫に格納されるのを確認した。外部の来客用の宿泊施設にて寝泊まりした。食事は食堂で行い、時間があるときは認められた範囲に限って見学をして回った。

 勿論、ただの物珍しい場所に商売しに来た商人として、当たり前のように観光気分で見物して回った。

 

「あら、お客様?綺麗な場所でしょう?此処は」

「ええ、本当に。仕事とは言え、全く役得ですよ」

 

 名無しの住民に声をかけられても穏やかに挨拶を返して、その後世間話をいくつかした。ウーガの外の様子についてだとか、当たり障りの無い話だったが、喜んでもらえたらしい。その住民から、今日はウーガ自慢の大浴場が開いている事を教えてもらった。仕事帰りにその大浴場を利用した。

 夕食も食堂で済ませる。最近、ウーガの生産区画でとれたという食材をふんだんに用いられた料理が出てきて、口にしてみると大変な美味だった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「ええ、ええ、分かっております。ご心労、察します」

「無傷、というのは難しいかもしれませんが――――」

「まあ。では、そのようにいたします」

「勿論、蒼剣様にはばれないように。それでは」

 

 シズクは、薄暗い一室に取り付けられた通信魔具を切った。得られた情報を整理するように一度目をつむると、側で転がっていた盤上遊戯の駒を手に取った。

 

「【血の探求者】」

 

 こつんと、ローブをかぶった術者の駒を盤上に乗せる

 

「【飴色の山猫】」

 

 こつんと、獣人の斥候の駒を盤上に乗せる。

 

「【至宝の守護者】」

 

 こつんと、若い盗人の駒を盤上に乗せる。

 三つの駒は、それぞれの駒に向かい合うように並べられた。

 

「問題は――――流石ですね」

 

 頭が羊の形をした、禍々しい意匠の駒は盤の外に転がした。

 

「誰も損なうことなく、今日が平穏であることを祈りましょう」

 

 シズクは駒達を、ただ静かに見下ろす。

 

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