かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜吞ウーガの一番では無いけれど比較的長い一日⑨

 

「むー!!うぐー!!?」

 

 【至宝の守護者】の待機組の一人、レナミリアは目を覚ますと同時に、自分が完全に拘束され、身動き一つとれない状況になっていることに気がつき、パニックになった。

 手足を必死に動かして、声を張り上げようとするが、まったく身動きできないし、声はくぐもったうめき声にしかならない。視線をさまよわせると、仲間達も同様に捕まっている。一カ所に乱雑に纏められていた。

 

 捕まった!?聖遺物は?!

 

 探そうとしたが、見つからない。身につけて、絶対に外さないようにしていたのに、あっけなく奪われた。そして、その聖遺物を奪った犯人は、自分たちを縛り付け、距離を開けて此方を観察していた。

 

「おっと、目が覚めたらしいぞ」

「はっ、かわいい顔してるねえ、盗人の癖に」

「おうおう、おびえてるぞ。被害者はこっちだってのになあ?」

 

 彼らは、全員強面の男達だった。

 顔や身体に傷があって、禍々しい剣を油断なく構えて、此方を睨んでいた。レナミリアは息を吞んで、おびえた。聖遺物は彼女や仲間達に万能感を与えてくれた。何だって出来ると勘違いさせてきた。それを喪えば、無力な子供がそこにいるだけだ。

 

 当然、これまでもこうなるリスクはあったのだ。しかし幸運にも、そして不幸にも、今日まで彼らは無事だった。それが今の事態を招いたのだ。

 

「で、こいつらどうするんだ?」

「聖遺物もこいつらも、親元にお返しだろ。ま、()()()は、こちら預かりになるらしいがな」

「流石」

 

 今度は、聖遺物を自分の子供にパクられるなんて間抜けはしないようにって釘を刺してな。と、リーダーと思われる男は笑う。縦にも横にも大きな大男だった。筋骨隆々で、笑っている姿も恐ろしかった。

 

「天陽騎士には?」

「言わない約束なんだと」

「…………ふうん」

「不満げだな」

「そりゃそうだろ。どうせ馬鹿またやるぞ、こんな馬鹿な奴ら」

 

「んむ……!?」

 

 そう言って、こっちをにらみつけるのは獣人の男だ。やたらと鋭利なトゲのついた大盾をドスンと鳴らして、鋭い目を向けてくる。レナミリアはまたおびえた。怖かった。

 その不審と嫌悪の視線を向けられている理由が、自分たちにあることを、彼女はまだ自覚できてはいなかった。

 

「お前が言うな……って言いたいけど、確かにガザよりも遙かに馬鹿だよな」

「どうすんだよリーダー」

 

 問われると、大男はくだらなそうに肩をすくめた。

 

「身じろぎできないガキを私刑にかけるってか?」

 

 その言葉で、獣人の男が少し力を抜いたのが見えた。レナミリアは安堵するが――――

 

「――――ただ、俺はな」

 

 リーダーの大男は、此方を見て、その大きな口を歪めて、笑った。

 

「親の金にあぐらかいて馬鹿してる馬鹿なガキって嫌いなんだわ」

 

「気が合うな、隊長!」

「俺も嫌いだわ!!ぶち殺したくなる!!」

「優しくしてやろうって気が全く起こらねえよなあ!!」

 

 男達はゲラゲラゲラと下品に大笑いした。狭い部屋の中で笑い声が響き渡った。レナミリアは震えて、泣いた。近くで拘束されていた仲間達も既に目を覚ましたのか、震えて、泣いている。

 

 取り返しのつかないことをしたのだ。

 

 ようやく、彼女達はソレを理解した。

 

「家に帰るまで時間はあるんだ。それまでたっぷり働いてもらおうじゃあないか」

 

 大男がしゃがみ込み、ニヤリと笑う。この先、自分たちに待ち受けているであろう未来を想像して、猿轡は涙とよだれでぐしゃぐしゃにぬれてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、働くって何させるんだよ、ボス」

「これまでの窃盗分の無償労働。ウーガにどんだけ仕事あると思ってんだ」

「一生働いても足りねえでしょうよ」

「っつーか、ぜってえ使い物にならねえぞ。こんなアホガキ」

「荷運びくらいできるだろ。泣くまで働かせてやる」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 力ある言葉に魔力を込めて放ち、現象を引き起こす。

 

 魔術の発動で最もポピュラーなのは、口頭による魔言の詠唱だ。

 

 理由は単純で、口が利ければ誰でも使えて、単純で、汎用性が高いからだ。長い研究の末、どの魔言を選べばどの現象を引き起こせるかは既に研究が進んだ。相応の魔力を取り込めるようになれば、子供だって使える。

 

 だから、誰もが使う。誰もが使うから、技術は発展する。より汎用性は増す。

 詠唱の魔術を誰もが利用するようになったのはソレが理由だ。

 しかし、これで勘違いする者もいる。

 

 詠唱による魔術現象が”もっとも優秀な魔術発動の手段であるという勘違い”。それ以外の手法は下であるという勘違い。

 

 口頭の魔術現象は、全ての中で優れているのでは無く、現時点で、汎用性が高いだけだ。より高度な魔術現象を引き起こす為の術が生まれれば、あっという間に口頭魔術は廃れるだろう。

 

「く、はははははは……!!」

 

 その、転換の可能性、その一端をルキデウスは目撃している。

 

「怪物がぁ……!」

 

 汗を垂れ流しながら、眼前の怪物レイラインと相対する。無数の魔道具を使い、あらゆる攻撃を試すが、その全ては結果として無為に帰した。何一つして目に見える成果を彼女にも、この場にも、残すことは出来なかった。 

 戦況は“心の底から喜ばしいことに”圧倒的に不利だった。

 

「【嬉しそうね、気持ち悪い】」

 

 吐き出す息、言葉、その全てが魔言の如く響いている。それほどまでに彼女の内側には力が満ちている。白王の力で満たされている。しかも、それらの力を使って新たなる陣を構築し続けている。

 彼女が操る穂先が、新たなる力の発生源を作り出している。しかも周囲の魔力を奪い、自分だけの力として取り込むおまけ付きだ。

 

 本当に、手に負えない怪物だ。どう考えても魔術師の常識、能力から逸脱している。

 

「その英知、どう磨いた?まさか本当にヨーグの秘奥を盗んだわけでもあるまい」

「【優しき緋色の精霊様から与えられた天恵よ】」

「羨ましい事だなあ!!」

 

 ルキデウスは叫びながら、懐から無数の魔石を砕き、魔力で満たす。同時に地面を杖で叩く。今日のために準備してきた術式を展開する。

 

「【闇よ来たれり!!その虚ろなる顎を開き、雷を放て!!!】」

 

 奈落の空間にため込み続けていた風の魔力を解放する。相互に反応し合い、ため込み続けていたエネルギーを眼前に解放する。手間も時間も大量にかかるが、擬似的な終局魔術の再現を可能とする。

 

「貴様の目的は防衛だ!!!終局魔術(サード)の無差別砲撃を前に全てを守れるか!?」

 

 今にも炸裂寸前の魔術を維持するために食いしばった歯を、笑みに変える。現状自分が再現可能な最大の火力。機関部でコレを放てば間違いなく痛手だろう。

 

 何処までやれる? 

 否、どうせなら、完全にやってみせてくれ……!!

 

 そんな狂気めいた期待を込めて、レイラインを睨んだ。眩く輝く彼女は、ルキデウスが生み出した暗黒と、その奥で今にも吐き出されそうな雷を前にも動じない。そのまま彼女は、自身の魔女服の外套を取り払った。

 

「【創造の機手】」

 

 美しい文様の刻まれた、二本の白い義手が現れた。

 自身の腕と合わせ計4本の腕を構え、完全なる異形へと変わったレイラインは微笑む。同時に、義手が凄まじい速度で指を動かしはじめ、周囲に蠢く白の糸と、魔法陣の数が加速を開始した。

 

「【本当に、素晴らしいわ、ダヴィネ。連れてきてくれたウルにも感謝しなきゃ】」

「――――ハ、ハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 レイラインの微笑みに、ルキデウスは狂い笑う。その喜びの絶叫と共に、雷の魔術は解き放たれた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 【黒羊】の“彼”はその日も真面目に労働に勤務していた。

 持ち運んだ商品をウーガに売り渡し、残った商品は次の都市に運ぶ契約を取り付ける。その日の仕事は午前中に終わったため、早めに食事を済ませた。そのままウーガの公園辺りを散策に向かうと、ウーガで知り合いになった男が、手持ち無沙汰な表情で呆然とベンチに座っているのをみかけた。

 

「おや、どうされました?」

「ああ、どうも」

 

 挨拶をすると、男は「恥ずかしいところを」少し困った表情で頭を掻いた。

 

「いや、今日は機関部の調整で、急遽仕事が休みになってね」

「なるほど。急に空いた時間どう過ごせばいいかわからなくなったと」

「いやあ、恥ずかしい。ウーガに来てから慌ただしくも仕事が充実していまして」

 

 男は楽しそうに頭を掻いた。なるほど、ウーガの日々は良いものであるようだ。と、“彼”は納得して頷く。そのまま懐に手を入れる。

 男は首をかしげていると、彼が取り出したのは―――

 

「どうですか?一局」

 

 ―――小型の、盤上遊戯だった。

 男はニヤリと笑った。

 

「なるほど、お付き合いしましょう」

 

 それからしばらく、二人は暖かな光の差し込む公園で、ゲームを楽しんだ。

 

 ちなみに負けたのは“彼”だった。

 

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