かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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魔王の密談②

 

「ま、裏切るっつったって、今すぐって話じゃあない。途中までアルとは協力するって手はずにはなってんだ。アルはそれも承知の上だ」

「魔王は協力しているとは、そりゃ言っていたけども」

 

 世界破滅の危機とはいえ、全員が都合良く一丸になって戦う、と言うことは出来ないらしい。とはいえ、それはそうだろうとウルは納得していた。

 窮地がヒトをまとめ上げるのなら、黒炎砂漠攻略の時、ギリギリまで大乱闘する羽目になっていない。【陽喰らい】の一致団結は割と奇跡に近い。

 

「で、そうなると何処で裏切るっていうんだ。っつーか、んなもん今俺に話しても良いのかよ」

「心配するな。アルにはお前を裏切り勧誘するって伝えてる」

「うそだろ……」

「俺たちマブだからな」

 

 天賢王と魔王がどういう関係なのかさっぱり分からなかった。

 裏切ると予告する魔王も魔王だが、それを受け入れる天賢王も天賢王だ。そうしなければならないほど切羽詰まっていると言うことなのか、魔王の策を上から潰せると言うことなのか、想像しか出来ない話だったので、とりあえず考えないようにした。

 

()()()()()()()()()()。そこまでは俺も絶対に裏切らない」

「……保証は?アンタに血の契約なんて通じないんだろ?」

「んなもんなくたって大丈夫だよ」

 

 信用できるか、と言おうとしたが、魔王は真顔だった。それまでの巫山戯た態度の一切を捨てて、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう断言した。

 

「……強いのか」

「大罪竜最強だよ」

 

 最強。魔の頂点ともいうべき大罪竜の、更に頂点。正直、イメージがわかなかった。計り知れなさすぎた。

 

「……何が強いんだ?どんな能力を」

「ああ。ラースの黒炎みたいなのを想像したか?アイツはアイツで特殊だからなあ」

 

 見ただけで、その対象を焼き尽くす悍ましい黒炎。豊かな大地を死の砂漠へと変えてしまった呪いの塊。今も思い出すだけで身震いするような

 

「ま、安心しろよ。そんなクソギミックはねえよ。グリードには。主立った能力は魔眼だし。見ただけで即死するようなものも……あるにはあるが、消去(レジスト)可能だろ。グレーレに、お前のとこのレイラインでもな」

 

 まあ、死の呪いなんて“返し”されたら終わりの諸刃、迂闊に振るうほど間抜けじゃあないがな。と、魔王は鼻で笑った。

 

「じゃあ、どういう……」

 

 ウルは訝しむ。が、その態度を見た瞬間、魔王はなにか理解したかのように笑った。

 

「はっはーん、さてはクソゲーみたいな戦いやり過ぎて、疑心暗鬼になっちゃったな?性悪畜生ギミック満載なんじゃねえかってさ」

 

 図星だった。

 今日まで、ウルが戦ってきた魔物や竜、大体が悪辣だった。一筋縄ではいかないような能力を有していて、それを必死にくぐり抜けても新しい問題が直面し、とどめを刺したと思ったら妙な形で復活する。そういう敵ばかりだったのだ。

 最強、と言われれば必然的に、そっちの懸念をしてしまうのはどうしようもなかった。

 

「安心しろ。そういうんじゃねえ。魔眼にしたって、通常のソレと性質は変わらないしな。視界を潰す。光を閉ざす。同種の魔眼で打ち消す。全部通る」

 

 ウルも魔眼の所有者だ。故にその強さも弱さも理解している。視界に入れるだけでその対象を魔術の効果範囲に収める事が可能な力だ。

 

「……それでも、最強」

「そう――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、どんな厄介な呪いや能力を有していると言われるよりも、威圧感があった。

 

「部下の眷属竜達もバカつええし、戦術もやらしいし、お前の師匠の【紅蓮拳王】が、眷属の一匹落としたが、大金星だぜありゃ」

 

 大罪都市グリードにいる師、あの常にやる気を見せない無精髭の男の顔が頭をよぎる。心の中で感謝を告げようとしたが、そうしたら気味悪がられそうなのでやめておいた。

 

「とはいえ、そっから更に油断しなくなりやがった。自分のテリトリーから全く出ない。やる気ねえ色欲や雑な嫉妬とは比較にならねえ」

「やたら詳しいな」

 

 魔王ならばなんだって知っているだろう――――と、片付けても良いが、妙に魔王の発言は実感がこもっていた。なにやらしゃべってる間、遠い目をしている。

 

「やりあったからな、昔一回。まあ【紅蓮拳王】がやりあう前だが」

「は?」

「いや、俺も昔は若かった。楽勝だろ-!とか思いながら特攻かましてさ」

「結果は」

「泣かされて、死に物狂いで逃げ帰った」

「急に頼もしくなくなってきた」

「泣いちゃうぞ?」

「みっともないから止めてくれ」

 

 ウルが真顔で切って捨てると魔王はシクシク泣いた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「っつーわけで、グリードは全員で倒す。これは大前提」

「そこで全滅したら笑えるな」

「はっはっは、普通に可能性あるからな。【天拳】落ちたの馬鹿いてえ」

 

 口は笑っているが、魔王の目は笑っていなかった。本気でその可能性を危惧している。前提の戦いから、相当レベルの修羅場になるのは確定らしい。ウルは既に頭が痛かった。

 

「……全滅はもう、考えても仕方ないとして、それで?その後のプランは?」

 

 一端棚に上げるにはでかすぎる問題だが、そうしなければ話が進展しない。ウルは尋ねた。

 

()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

「ろくでもねえ。聞かなきゃ良かった」

 

 そして速攻で尋ねたことを後悔した。本気でろくでもなかった。

 この世界に住まう者にとってすれば、太陽神は、在って当然の存在であり、この世界に住まう全ての人類を守護する神だ。ソレは最早、水や空気のように、失えば確実に死んでしまうに等しい。もしもこの場に神官などが

 この場に神官――――いや、一般的な都市民がいたとしても、魔王の発言を聞けばあまりの不敬さに怒り狂って血管ちぎれて死ぬのではないだろうかというくらいの暴言である。神の恩恵薄い名無しのウルですらも、一瞬言葉が出ないほどなのだ。

 

 そんな、今ある常識そのものをひっくり返すような話を続けなければ話にならないのだから、

 

「言うて、面白半分とか、反逆心だけでやるんじゃないぜ?ちゃんと理屈がある」

 

 嘘くせえ、と言い返したかったが、続きを待った。

 

「難しい話じゃねえ。要は今の精霊の管理体制を砕くのさ。今、【天祈】が管理しているが、太陽神には【星海】という精霊を管理する機能がある」

 

 【星海】

 おぼろげな記憶の中で、聞いたことがあるような単語だった。チラリと右手を見てみるが、特に痛みなどの反応を示すことは無かった。

 

「そんな【星海】を砕けば、今のように人類は精霊とコンタクトできなくなる」

 

 そうだな。それこそ【寵愛者】レベルの親和性じゃなきゃ無理じゃないか?と、魔王は指摘した。それはつまり、大半の神官達が、精霊の加護を授かれなくなることを意味する。

 

「……つまり、あんたの計画ってのは」

「神官達の大半を、都市民レベルまで引きずり下ろす」

 

 皆で幸せになろうじゃあ無いか?そう言って、魔王は悪辣に笑った。

 

「……いや待て、そもそも邪神なんてどうやって利用するんだよ」

 

 さらっと魔王が口にしたし、当然のように言うものだから、出来るような気がしているが、冷静に考えると大分おかしな事を言っている。邪神が太陽神と同等の存在であるなら、利用なんて、軽々しく出来るはずがない。

 

「お前はもうそれをやってるだろ」

「竜化?」

「【権能の支配】だ。竜は邪神の端末だ。その一部を俺たちは支配している。コイツは単なる超克者とは一線を画する現象だ」

 

 もう、自分の能力として使えてるんだろ?と魔王はウルの右手を見る。

 確かに、既にウルは【色欲】の権能を自由自在に使えている。魔力は勿論消耗するが、しかし、それ以外に一切のリスクは無い。手や足を動かす延長上に、色欲の権能がある。

 

「端末が支配できるなら、本体にも同じ事が出来る。違うか?」

「暴論がすぎねえ?」

「おいおい、大罪竜の権能を支配してるのは現実的なのか?ん?」

「……」

 

 そう言われると、返す言葉はなかった。大罪竜自体、元々は災害の類いに等しい代物だった筈なのだ。しかし今はそれが当然のように我が物となっている。勿論、だから神にも同じ事が出来るというのはやはり暴論に思える…………が、

 

「それでも失敗したら?」

「その時はその時だな?最悪、【星海】に干渉さえ出来ればいいからな。状況に応じて臨機応変にってな?」

「いい加減な……」

 

 頭痛がしてきた。だが、ブラックは指を揺らして、楽しそうに笑った。

 

「悪だくみのコツってやつを教えてやろう」

「いらん」

()()()()()()()()()()。幾つものプランを同時並行で走らせるのがコツだ。状況に応じて別のプランに乗り替えながら、混沌をかき回すのさ」

 

 何十年と悪党を続けてきた男の助言に、この上ない説得力を感じて、ウルは顔をしかめた。

 

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