かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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やるべきこと

 

 竜吞ウーガ

 ダヴィネの工房にて

 

「出来たぞ。新型だ」

「ああ」

 

 竜吞ウーガ新施の鍛冶場にて、ダヴィネに手渡された黒の大槍、【竜殺し】をウルは受けとった。そして受け取った直後、手に違和感を覚えた。

 

「……剥き身なのに、二式みたいに握っただけで削り取られるような感覚がないな」

「そもそもお前にあの時渡した二式は、急かされて造った未完成品だ!使用者の負担も全く考えられてねえ!」

 

 あんなものを渡すのは不本意だった。とダヴィネは唸る。

 つまり今渡された【参式】は不備を解決した完成品、という事になるらしい。確かに一見した形状に変化はない。余計な装飾の一切無い、相手を刺し貫いて滅ぼすことに特化した一振りであるが、大槍から放たれる竜殺し特有の異様な威圧感は、二式の上だ。

 喰らい、破壊する呪い殺しの大槍。やはり危険物ではあるが、今後を考えると頼もしい代物だった。

 

「わかっちゃいるだろうが、威力は更に増している。適当に振り回して手を滑らせたら、自分の身体が抉り取られて死ぬからな」

「……グリードにたどり着くまでに可能な限り練習するよ」

 

 ダヴィネの忠告にウルは素直に頷く。身の丈に合わない不相応な武器を振り回して自滅など、格好悪いことこの上ない話だった。ダヴィネはそんなウルの表情に、僅かに額に皺を寄せた。

 

「ん、どうした?」

「ラースの後、今度はグリードかよ、落ち着かねえ奴って思っただけだよ」

「正直返す言葉もねえなあ」

 

 不可抗力とは言え、あまりにも慌ただしい自身の人生をウルは噛みしめていた。

 冒険者になった直後は、アカネをディズに連れて行かれて、3年という期限に追いつくために死に物狂いで駆け回ったのは確かだった。しかし、結果としてみれば、定められた期限の半分ほどの期間でゴール目前に到着し、しかも新たな問題に直面している。

 どうしてこうなった!?と思わないでも無いが、困ったことにこれまでの道程で不明な事は一つもなかった。全部ウルの意思と選択の結果なのである。言い訳のしようも無かった。

 

「今度はなにをどう生き急ぐのかまでは知らんが、わざわざこの俺がここで仕事してやってんだ!早々にくたばったらただじゃおかねえからな!」

「俺も、アンタほどの人材抱え落ちするのは不本意だよ。肝に命じるさ」

 

 ダヴィネの工房が誕生してから、ウーガの活動の効率は一気に向上した。

 勿論、今まで、あちこちから道具や工具類を仕入れ、使ってきた。が、しかし、ウーガの、ウーガによる、ウーガのための道具というのはなかなか揃わない。都市国で生み出される道具は都市国のためのものだからだ。

 ダヴィネの登場と彼の開発は、全てがウーガで生きる、ウーガの民達を思って造られていた。彼は粗暴で傲慢な王様だが、事道具作りに関しては驚くほどに献身的だった。

 

 本当に、頼もしい。内心で感謝しながらウルは残りの依頼も告げた。

 

「他のメンバーの装備の更新も頼む。やれることはしておきたい」

 

 ダヴィネは露骨に顔を顰めた。

 

「どした」

「テメーの仲間めんっどくっせんだよ!」

「あー……」

 

 思い当たる節しかなかった。

 

「愛人の銀髪に、骨ヤロウ、激ヤバ白王陣狂いに、愛人その2の女王様。なんもかも統一性なさ過ぎて死ぬほど面倒くせえ!」

「後勇者、ディズも頼む。アイツも新調したい装備があるらしい」

「めんどくせえ!」

 

 今度上手い酒を持っていくからと、なんとかダヴィネをなだめて、ウルは工房を後にした。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 竜吞ウーガ守護隊鍛錬所

 

「連係訓練終わり!!休憩に入れ!!」

 

 守護隊隊長、白の蟒蛇のジャインのかけ声で、隊員の面々はぐったりと腰をつける。

 元黒炎払いの面々も参加し、いよいよ層が厚くなってきた反面、味方同士の連携はまだ未熟な面もある。故に新旧のメンツの能力の確認とすり合わせ、相性の良し悪しの確認など、やらなければならないことは多くあった。

 

 その指示を出すジャイン自身も勿論、忙しい。新しいメンツの顔や名前は当然ながら、能力や性格を覚えて、どう使うかを考えなければならない。いよいよもって部隊を分けていくのも検討しなければならなかった。

 

 が、しかし充実もしていた。悪くはない忙しさだった。

 

「順調そうだな」

「なんならお前もやってくか?」

 

 そんな様子を、工房帰りの英雄ウルが見に来ていた。試しに訓練に誘ってみると、彼は顔をしかめる。

 

「英雄様の化けの皮が剥がれそうだから、人目のつかないところで訓練するよ」

「心配すんな。此処の奴ら、お前の事頭のネジブチ切れたガキとしか思ってねえから」

 

 ジャインは笑う。中々の暴言だったが返す言葉も無かったのか、ウルは沈黙した。

 

「んで、そっちはあの天才鍛冶師のとこ寄ってたってことは、〝例の依頼”ってやつの準備か?」

 

 ウルは頷く。彼の手には包装された状態の槍があった。

 天才鍛冶師ダヴィネの腕の良さは、ジャインたちもすでに体感していた。彼の作り出す武具防具はどれもこれも、ジャインが今までやってきた冒険者家業の中でも随一のものばかりだった。

 そんな彼のところにウルが向かった理由は、それくらいしか思いつかない。

 

「やれるだけのことはやろうと思ってな。ただ、どこまでやっても足りる気がしない」

「同意見だな。天賢王からの直接の依頼なんて、俺も想像がつかん」

 

 ジャインも既に、偉大なる天賢王の依頼があったことはウルから聞いている。(互いのため、詳細は伏せてもらったが)

 銀級、一流冒険者と言えるジャインでも、経験があるのは精々高位の神官からの依頼だ。世界で最も偉大なる王からの直接依頼など、経験している冒険者は早々いないだろう。

 まさしく未知の依頼(クエスト)である。

 故にジャインが出来る助言も少ない。精々、ウルもわかっている通り、やり過ぎることは無いというくらいだ。

 

「グリードについたら、留守は頼む」

「は!お前らが帰ってこなきゃ、まんまとウーガは俺たちのものだな」

「実際そうなるかもな。で、そうなると、ウーガの全責任が押し寄せてくるわけだ」

「……忙しさで過労死しそうだな。マジで勘弁しろ」

 

 二人は顔を引きつらせて苦笑いした。互い、肩の力が少し抜けたのを感じた。

 

「死ぬなよ」

「努力する」

 

 年も、生き方も違う二人であったが、そこに友情のようなものは確かにあった。迫る、未知のトラブルに対しても、互いにならば任せられるという、信頼があった。ジャインがウーガに来てから得られた、代えがたい財産の一つだった。

 勿論そんなこと、彼はウルに言うつもりは無いが――――

 

「おうウル!何してんだ!お前もこっち来いよ!」

「よう、ガザ、レイ……と、なにやってんだペリィ」

「新作の試飲会だよぉ。」

 

 見ると、疲れ果ててる黒炎払いの面々に、酒場の店主が何やらカップを配っていた。汗だくの連中のためにわざわざカップが氷の魔術で冷やされているが、カップの中の飲み物が、やけに毒々しい。

 

「まーた変なもの造ったなお前……ザララクの実のジュース……?」

「まあ、変なハーブは入ってないけど……」

「酸っぱくて飲みやすいっすけど、なんか飲んだ後のえぐみひっでえっすね?」

「うるせえよぉ。ウルのお茶よりはマシだろぉ」

「「「そりゃそうだ」」」

「俺も同意見だが傷つくぞ」

 

 ウルの抗議に、全員が笑った。

 悪くない空気だった。やはり、得がたい場所だ。ジャインは改めてそう思った。そして、故にこそ、この先に起こるであろうトラブルに対処するため、出来ることは全てしなければならない。そう改めて感じた。

 そして、ウルも同じ事を思ったのだろう。

 

「――――やれることは、全部やらないとな」

 

 彼は、自らの異形と化した右手を睨み付けていた。

 

 

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