かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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天祈のお仕事、もしくは鏡の女王の狂乱③

 

 

 ウーガ地上部にて、白の蟒蛇たちは忙しなく動いていた。

 住民達の不安を煽るような焦りは表には出さないようにしながらも、何が起こっても問題ないように、至る所に白の蟒蛇の戦士達は配備された。その流れに淀みは無い。流れるような防衛の陣形がとられた。

 ただし、今回は外部からの敵では無い。内から起こるトラブルの対処である。

 

「ジャインさーん、配備終わったっすー」

「ご苦労」

 

 ラビィンからの報告を聞いて、ジャインは頷く。ひとまずシズクからの連絡を受けての対応は完了した。相変わらず、急な依頼が多い女だったが、彼女の命令は大体的確なので、ケチはつけられなかった。

 

「しっかし……だいじょぶっすかね?」

「どうかね」

 

 ラビィンの不安そうな表情に対して、ジャインは肩をすくめた。

 

「現実的な話として、アイツらは既に俺たちよりも上の領域にいる。俺らの常識からじゃなんもわからん」

 

 経験や知識、ギルドの連携等でウル達に負けるつもりはないが、個々人の能力については【歩ム者】達は常識外の能力を有している。そして、その中でも一番の常識外と言っても過言ではない女王の全力を引き出すというのだから、ジャインには何の保証もしてやれなかった。

 

「あっちゅーまに抜かれて悔しいっすかね?」

「んなに若くもねえよ。もう、俺たちに計り知れないってだけ――――」

 

 と、軽い雑談をした、その時だった。

 地下から、地響きのような轟音が鳴り響いたのは。

 

「……やっぱダメっすかね?」

「あらゆる意味で一筋縄でいく女じゃあないわな。混乱してる住民いたら落ち着かせんぞ」

「うーっす」

 

 ウーガの日常を守る要の彼らは、今日も今日とて駆け回っていた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 ウルが力を手にしたことで、驕りを覚えなかったかと言えば、それは嘘になる。

 自分自身のコントロールはどちらかといえば出来ている方だと思うが、それでもやはり、過ぎた力を得た事による慢心は、容易には飲み込めなかった。

 何せ、まだまだ身体のコントロールは効かない所多いとはいえ、事実として、強くなったのだ。これは覆しようのない現実だ。

 

『おう、ウルよ、大丈夫かの』

「まあ、なんとかな……」

 

 そして現在、その慢心はすっかり飲み干せた。

 ウルは訓練所の中で倒れ込んでいた。ボロカスである。慢心など否応なく消し飛んだ。ウルの隣でロックは座り込んでるが、彼もまあまあズタボロだ。少しずつ再生しているが、一部消し飛んでいる。

 

 訓練所の様相も変わっていた。先ほどまでは平坦でなにも無かった地面の至る所が隆起し、壁の様に突き出ている。といっても此方に関しては異常では無い。あらゆる戦闘状況を想定するために、必要に応じて仕掛けられている大地の魔術が稼働するようになっているだけだ。

 問題は、その影に隠れなければどうにもならない現状にある。

 

「で、どうする、あれ」

『どうすっかのう、あれ……』

 

 アレ、と二人が呼ぶのものは、隆起した地面に身体を隠すことも無く、堂々と空中を浮遊しながら、フラフラと移動している。そして、楽しそうに嗤い、叫んでいる。

 

「ねえ、ウル、ウル!あーそーんーでー!!」

 

 エシェル、暴走状態。

 あるいはミラルフィーネ状態と言うべきか。そんな今の彼女は荒れ狂っていた。実に楽しそうである。景気よく力を振り回して、ウル達をボロカスにして、現在の状況に至った。

 なんというかまあ、本当にどうしようもなかった。

 

「あらゆる遠距離攻撃は喰われる。じゃあ近接攻撃だといけるのかっつーと別に変わりない。ドレスに纏わり付いた鏡の破片が全部簒奪の効果持ち。攻撃速度は光並……」

『まあワシらもヒトのこと言えんが、ばっけもんじゃのー』

 

 エシェルのスペックを一つ一つ確認すると、なんというか本気でとんでもない生命体だった。ウル達も全員それぞれに異端の能力を手にしてはいるものの、やはりエシェルは飛び抜けている。

 

「とはいえ放置もできねえ。うっかり飽きて外に出たら訓練じゃなくて災害になる」

『我らが女王がウーガで大暴れは洒落にならんの!』

 

 しゃーない。というように、ロックはかけた自分の肉体を即時再生させる。同時に剣を構えると、自身の骨の足に手で触れた。

 

『【骨芯強化】』

 

 ロックの肉体が変貌する。骨がまるで筋肉のように纏わり付き、一回り大きくなる。みしりと地面を爪のように伸びた骨が食らいつき、そのまま蹴った。

 

『カッ』

 

 ウルもそれに合わせて飛び出す。エシェルはまだ此方に気がついていないのか、キョロキョロと周囲を見渡している、様に見える。一見して隙だらけ――――に、見える。が、

 

「――――みぃぃいいいいいいいいいいつけたああ!アハハ!!」

『ッカアアア!??』

 

 エシェルへと跳び、剣を振りかぶっていたロックが突如爆発した。彼女の周囲を守っていた鏡の中の魔眼がロックを捕らえたのだ。彼女が簒奪した竜の魔眼のこの上なく厄介なところは、その秘めた力そのものもそうだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、

 

『流石にもう慣れてきたわぁ!!!【骨芯分化】!!』

 

 粉々に吹っ飛ばされたロックの身体が、更に別たれる。砕けた彼の身体が更に変化し、別の形態、小さな動物の形に変わる。犬のようになったそれらの骨は、一斉に動きだした。

 

『走れや犬ども』

「わんわん!!」

 

 動き出した骨の死霊兵達をみて、エシェルは楽しそうだった。以前顕現した時と比べて、今の彼女はかなり“遊び”に思考が寄っているらしいという事をありがたく思いながら、ウルは骨の犬たちに紛れながら、一気にエシェルへと近づいた。

 地面を蹴り、跳ぶ。一気に彼女へと接近した。同時に、向かいからもう二つの人影が出現した。

 

「ディズ」

「合わせて」

《いくでーにーたん!!》

 

 別の方角からやってきたディズとアカネの声に頷き、ウルは彼女と合わせて槍を振った。エシェル本人に、ではなく、彼女の周囲を守るように旋回を続けていた巨大な鏡。それを正面からでは無く、額の部分を殴りつけて、物理的に吹き飛ばす。

 

「そらよ!!」

「あれ?」

 

 周囲に出現していた骨の犬に視線を奪われていたエシェルは驚くが、その隙に、ディズの背後に控えていたスーアが一気に飛び出した。無数の精霊の輝きを一気に振るい、放つ。

 

「【大地の精霊(ウリガンディン)水の精霊(フィーシーレイン)】」

「む――――?」

 

 岩で硬め、その上で凍てつき封じる。

 一瞬にして、エシェルの姿は覆い隠され、彼女の足下にたむろしていた骨の犬たちを砕き散らして、激しい音と共に地面に落下した。

 驚くべき早業の封印だった。

 ディズ曰く、スーアは精霊憑きは兎も角、精霊の暴走状態を収める役割もあるのだという。こういう事態は専門家なのだ。故に頼もしい。

 

 の、だが、

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハッハハ!!!!」

《あかんかったな?》

 

 次の瞬間、スーアの施した封印は一瞬にして砕け散った。内側から光が漏れたのが見えたと思ったら、氷も岩も紙切れのように引き裂かれてしまった。

 

「むぅ……」

 

 スーアも不満げだ。自分の封印があっけなく打ち破られた事が気に食わないらしい。が、今はスーアの機嫌を気にしている場合でも無い。

 

「どうしたもんかねこれ」

『あれじゃ、お前さんの魔眼で拘束するとかは?』

「鏡相手にか」

『あ~~~そりゃいかんの。相性最悪じゃ』

「基本、強敵相手に妨害(デバフ)系はよろしくないんだけどね」

 

 相手に仕掛ける妨害は強ければ強いほど、それが返されたときのリスクは跳ね上がる。エシェルのようにわかりやす過ぎる反射という能力を持っていなかったとしても、呪い返しの術の一つや二つくらい、身につけているものらしい。

 折角授かった強大な魔眼なのだ。もっと多様な使い方を身につけなければならない――――というのは、今は置いておくとして、

 

「じゃあ、どうする。動き封じるのは難しいが、訓練で怪我させるのはバカだぞ」

『良し!ウル!作戦を思いついたぞ!!』

「言ってみろ」

 

 ロックのなんだか楽しそうな声音に、若干嫌な予感がしたが、聞いてみた。

 

『ラブラブ作戦じゃ!!』

「聞かなきゃ良かった」

 

 本当に聞かなきゃ良かった。

 

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