かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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なつかしき学び舎と勃発する地獄

 

 

 冒険者ギルドグリード支部 訓練所

 

 黄金級の授与式の後、黄金級冒険者としての諸々の説明を受けるため、ウルはシズクと共にイカザ達の話を聞きに行っていた。その間、時間が空いたエシェル達は、訓練所で時間を潰すことになった。

 

 ウル達のスタート地点にはエシェルも興味があった。

 

 エシェルは、ある程度冒険者としてやれるようになってからのウル達しかしらない。だから彼女にとってウルはずっと、頼りになる存在だった。勿論、何もかも完全無欠というわけではなかったが、つまるところ彼は最初から“先輩”だった。

 しかし、誰もがそうだが、最初からそうだったわけがないのだ。

 最初の、始まりの頃の彼を鍛え上げたグリードの訓練所、その主である黄金級冒険者グレンがどんな人物であるのか、興味津々だった――――の、だが、

 

「ヒトってさ……」

「なに」

 

 エシェルが、呆然とした声を上げると、隣のリーネが、同じくやや呆けた声で返した。

 

「飛ぶんだな……」

「飛んでるわね」

『あ、落ちたのう?』

 

 ヒトが、飛んでいた。

 飛翔魔術や、精霊の加護を使って飛んでいるというわけではない。その飛び方は、言うなれば全速力で走っている馬車に正面からぶつかった衝撃で吹っ飛ばされてるという意味での“飛ぶ”だった。

 

「ひいあ!?」

「ごげえああ!!」

「ひっひっひぃいいいい!!」

 

 性別種族様々な冒険者見習い達が、全員平等に、等しく飛んで、落ちていく。あまりに現実離れしすぎて、何かしらの見世物か何かと脳みそが錯覚し始めていた。

 

「黄金級冒険者の凱旋式なんててめえらとは一切縁のない場所に遊びに行くんだから、さぞかし自信があるんだろうなと思ったんだがなあ……」

 

 そして、その交通事故のような光景を引き起こしているが、ぼさぼさの無精ひげの男だった。一応、ウル達の師匠に当たると当人達からもいわれているその男は、死屍累々担った光景を前にして、至極かったるそうにため息をはいた。

 

「なんだ、つまり俺にボコられて殺されたかったわけだ。それならさっさと言えよ。ちゃんと息の根を止めてやるから」

 

 より一層強くなった阿鼻叫喚を前に、エシェルは顔を覆った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「おし休憩。ちゃんと片付けとけよ雑魚ども」

 

 そう言って、グレンはぴくりとも動かなくなった冒険者見習い達に向かってそう告げて、グラウンドを去って行った。残された見習達はそれからしばらくしても立ち上がる気配はなく、ちょっと震えたりしているがたぶんあれは泣いていた。

 

「懐かしい光景だなあ」

《あったなー……こういうの》

 

 その光景を見て、一緒に見学していたディズとアカネがつぶやく。

 ――――【歩ム者】に一時加入することになったから。

 という、実に雑なウルの説明によって、ウル達一行に加入すると最初エシェルが聞いたときは、上手くやっていけるのか少し心配になった。

 何せ勇者だし、自分は割と最初のほう、無礼千万な態度をとってしまっていたからだ。

 しかし、そんなのはまるで杞憂だったようで、ごくごく自然に、彼女達は馴染んでいた。

 

「そういえば、ディズ様にアカネ様は、ご存じなのでしたか」

「ちょこちょこ様子見に来てたからねえ。ウルもよく飛んでたよ」

《しゅーちゅーてきにねらわれて、シズクといっしょにとんでったで》

 

 二人が言っているように、そもそもウル達があんな風に交通事故に遭うよりも前からのつきあいであったことを考えると当然でもあった。単純なつきあいの長さでいえば、アカネは言わずもがな、ディズも古参といえるのだ。

 

「……まあ、ルーツというか、あの二人のタフさの源流は分かったわね」

「源流で良いのかなあ……」

「彼の模擬戦は、肉体を鍛える意味での訓練じゃないからねえ」

 

 ディズの補足に、エシェルは首を傾げた。

 

「違うの?」

『訓練というよりも、根性のたたき直しじゃの』

 

 ロックがカタカタと骨をならしながら口にする。

 

『あんな風に一方的な暴力たたき込まれて、何かしら強くなると思うカ?そんなら迷宮に潜って、小鬼どもをぶっ殺しとった方が魔力の足しにはなるじゃろ?』

「効果的だけどね。特に駆け出しの冒険者にとっては」

「まあの」

 

 ロックも納得しているようだったが、エシェルはいまいちピンと来なかった。するとリーネが、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて、こちらを指さした。

 

「いきなり実践だと、貴方みたいに、縮こまったりしちゃうヒトが出るって事」

「……う」

 

 ウル達に上から無理矢理命令して、無理矢理同行して、最悪の無様を晒したことをエシェルは思い出して、顔を覆った。思い出したくもない思い出が過ぎて、掘り返さないようにしていたが、記憶をさかのぼると酷いが過ぎた。

 

「どれだけ素晴らしい素質を持ってるヒトでも、最初は素人だよ」

 

 そんなエシェルの様子を気遣ってか、ディズは優しく微笑んだ。

 

「いきなり修羅場に投げ込まれたら誰だって萎縮する。そのまま死んだら、素質もなにも無い」

 

 エシェルの時のように、周囲にフォローしてくれるヒトがいるとも限らない。そうすれば、そのたった一回の失敗で全てが台無しだ。実践に「大失敗で死んでしまったからもう一回」なんてものはない。

 だから、ここで失敗させる。その為の模擬戦だ。

 

『だーいぶ乱暴じゃがの。これで心折れるやつもおるんでないか?』

 

 というか、実際に心折れてる者がいる。べそべそと泣きながら、ふらふらと訓練所の外へと逃げ出している者がいるが、あれは戻ってくることはないだろうという気がする。

 

「ま、それならそれってたぶん彼は思ってるんじゃないかな」

「噂に違わぬ暴虐なる師匠様ね……それで、その弟子は?そろそろ戻らないの?」

 

 そんなことを話していると、不意に訓練所の出入り口が騒がしくなった。なんだろう、と思っていると、自分たちの待ち人、ウルの姿が見えた。良かった!とエシェルはパッと喜んだが、なんだか少しだけ様子が違う。

 彼の横には、短く髪の切りそろえた、若い剣士の姿があった。

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 時間は少しさかのぼって

 

「いきなり押しかけて申し訳ないです!ボク、銅級のハロルと言います!!」

 

 一通りの説明が終わり、ウルとシズクは来賓室から退席した。さて、訓練所で待っているという仲間達と合流するか、と思っていたところに、その冒険者はやってきた。

 自称の通り、冒険者の格好をしている。銅級というが、だいぶ若かった。髪は短く切りそろえられているが、女の只人だ。その彼女が、活気と、挑戦心にあふれたきらきらした目でこちらを見つめてくる。大体いつもやさぐれてるか、身の丈に合わぬギャンブルに立ち向かうためにぎらぎらした顔つきになってたウルにはややまぶしかった。

 

「ああ、ええと、どうも始めまして――――」

「ボクと手合わせ願いますか!!」

「なんて?」

 

 思わずシズクを見ると、彼女は彼女で「まあ」と少し驚いた顔で、ウルに向かって微笑むばかりだった。

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