かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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天賢王勅命・最難関任務 色欲の超克

 

 

 ウルが黒炎砂漠の解放を成し遂げる前の事。

 

 【大罪迷宮ラスト】最深層にて

 

「は……は………はぁ………」

 

 七天の一人、天剣のユーリは地獄のただ中にいた。

 

 彼女は消耗していた。傷ついてもいた。天陽騎士団団長としての眩い鎧が血にまみれていた。眩き天剣も彼女の血に穢れていた。普段の彼女の太刀筋とその強さ、魔物達や邪教徒達の血を僅かたりとも浴びることの無い姿を指して戦姫と讃えられる彼女が見る影も無かった。

 

 だが、それは彼女の仲間も同じ事だった。

 

「……ユーリ。大丈夫?」

 

 天剣の隣りに立つ勇者ディズも、疲労の極地にあった。緋色の剣を杖代わりによろよろと、なんとか立ちあがってるような有様だ。

 

「貴方に、心配される事は、ありません。加護はないのだから、引っ込んでて、ください」

「そうも、いかない、かな」

 

 二人が見据える先、大罪迷宮ラストの最深層。空間そのものが歪み、樹齢が幾らかなのかも定かでないような大樹が出鱈目に乱立している。そしてその間を縫うようにして、真っ白な魔が姿を見せていた。

 

『ハ   ハハ』『 ハハハ ハハハ!』『アハハアハハハハ』『アハハハ』

 

 ヒトの形を模しただけの真っ白な竜達が至るところから姿を現し、嘲りを奏でていた。それら全てが大罪竜ラストの眷族――――ではない。それらは全て大罪竜ラストそのものなのだ。全てが本物だ。

 

「……()()()()()()()()()()()。いえ、此方が本家でしたね」

 

 大罪迷宮プラウディアで行われた無尽蔵の合成竜の”繁殖施設”。天魔のグレーレ曰く、あれは色欲の特性を利用したものだと言っていた。だとすれば、それよりも苛烈になるのは至極当然と言えた。

 だが、ものには限度という物がある。深層の更に奥、最深層に眠るラストの本領は、想像の遙か先を行く出鱈目さだった。

 

「【天剣轟斬】」

 

 ユーリが輝ける剣を振るう。一切を切り刻み、抵抗を許さぬ無双の剣。天賢王から賜った太陽神の加護、この地上で最も強い剣だ。それを束ね、重ね破壊の渦のようになったそれを容赦なく振るう。

 だが、竜達の嘲りは消えない。

 

『【【【【揺蕩え】】】】』

 

 天剣の力が砕ける。力そのものが消え去ることはないが、その力の方向が、竜達がその呪言を唱えた途端に狂うのだ。元より膨大な力をもった天剣の力が、その膨大さ故にバランスを失った瞬間、砕け散る。

 

「全員、一切の遜色なく、色欲の権能を持っている……!」

「反則だねえコレ。()()()は、温存してた、わけだ」

「グロンゾンの【天拳】の破魔の力があればまだましなのですが……」

「落ちちゃったからねえ彼」

 

 現在此処には3人の七天がいる。【勇者】、【天剣】、そして【天拳】だ。

 天拳のグロンゾンは一行から離脱している。道中で露払いの役割を担っていた彼の部下達が迷宮の変異の際、闇に飲まれたのを救出するために別行動を取ったのだ。

 

「最悪のタイミング……!」

「仕方ないさ。大罪竜との接敵前だった。色欲の分断作戦だと気付くのが遅すぎたね」

 

 色欲の大罪竜は此方の侵攻作戦、天賢王の理想郷計画を既に予期していたと言うことらしい。まさしく万全の体制で迎撃を受けてしまった。

 状況は最悪だ。だが、例えそうであったとしても、それを嘆いて尻込みしているわけにもいかない。最悪を真正面から叩き斬るくらいの覚悟なしに、この戦いを乗り切る事は不可能だった。

 少なくとも勇者ディズはそれを理解していた。ユーリよりも尚ボロボロの状態でも闘志を途切れさせず、前を見ていた。

 

「アカネ、まだいける?」

《き、きぼちわるーい……》

「竜の気配に酔ったか。前よりも深い場所だもんね。休んでて」

《ごめーん……》

「良いさ。動けるようになったら言ってね」

 

 緋色の精霊憑きを外套に収め、もう一本の剣を抜く。金色の大剣。星屑のような輝きが散った星剣を握り、それを掲げた。

 

「【星剣よ。星々の輝きを我が身に】」

 

 剣の輝きが彼女の身体へと伝播する。熱と光、輝きを纏った彼女が立った。不覚にもそれを美しいと思ったユーリは、首を横に振った。そんなことを考えてる場合ではない。

 彼女の内心を知る由も無いディズは、そのまま背後へと呼びかける。

 

「ディズ、貴方……」

「道中までなら、私の【魔断】の方が相性が良い――――シズク」

「はい」

 

 ディズとユーリ、二人の更に後ろから、シズクが前に出る。対竜術式としての能力、その力を見込まれ協力し、後方からの支援に徹していた彼女であるが、ディズの呼びかけに応じた。

 彼女も理解していた。この状況下においては最早後方であっても安全な場所は無いのだと言うことに。

 

「手伝って貰えるかな」

「勿論です。これくらいしか、私に出来ることはありません」

 

 頷くと共に小さく彼女は唄う。音に合わせて術式が彼女を中心に展開する。竜の動き、その力、あらゆる力を【停止】させる力だ。ここに至るまで幾度となく七天達を助けてきた力が、その本領を発揮しようとしていた。

 

「どうか、竜へとたどり着いてくださいませ。その為この命を賭けさせていただきます」

「ん。ユーリは私達の後ろについてきてね。奥地に大本が存在する筈だ。そこまで届ける」

「…………良いでしょう」

 

 ディズの意図するところは理解できる。

 

 本体、大本、即ち今この周囲に蠢いている”若い個体”ではなく、その奥地に存在する【心臓】を有する最古参の色欲竜。それを討ち滅ぼすことができなければ、ジリ貧になる。無論、この周囲に蠢く大罪竜の”幼体”も何れは自身を生み出す苗床となりうるが、優先度が違う。

 体力を使い果たす前に真っ先に、敵が増える元凶を討ち滅ぼさなければならない。

 その最後の役割を託すというなら、答えないわけには行かなかった。

 

「背中は任せなさい。骨は拾ってあげます」

「了解」

 

『アハハハハ  ハッハハハハ  ハハ    ハハハハハハ!!!!!』

 

 竜が動く。

 此方の攻撃の意思を読み取ったのだろう。攻撃に移る、その出鼻を挫くべく蠢いた。相手を食い千切る為の白翼が蠢く。肉を穿ち、精神を叩き潰して喰い殺す最悪の竜の力。それがまさしく無数に際限なく向かってくる地獄だった。

 

「【魔断・無間】」

「【■■■■■■■】」

 

 そのただ中、ディズは剣を構え、シズクは唄った。それにユーリが続く。

 黒い閃きが竜の首を断ち切り、その翼をもぎ取る。あらゆる力を歪とする色欲の力で持っても、その黒い閃きは歪めることも叶わなかった。だが、それでも尚色欲の大罪竜達は突撃を続ける。無限とも言える数の竜達をひたすらにディズは切って切って切り刻む。

 その剣先が僅かにそれ、懐へと飛び込もうとする竜も居たが、その先に展開していた銀の術式が竜を捉える。術式に触れた瞬間、あるいは彼女の唄を聞いた瞬間、竜達はその動きを停止させる。まるで魂が抜けた抜け殻のように、人形のように、深層の闇の底へと落下していく。

 

「お、おおおおおおおおおおおおお……!!」

 

 刻む、断ち切る、破壊し、止めて、落とす。

 

 そのままま迷宮の深層、奥深くへと突き進んでいく。

 闇はより深くなる。迷宮の奥地へと進むほどに、竜の気配は濃くなる。此処に至ると最早精霊の力は使えない。七天の内、天賢王を除いてもっとも強大かつ万能の力を誇るスーアがこの場にいないのはその為だ。

 ひたすらに殺し続ける。途中、ユーリの頬に血が跳ねた。ディズの血だ。

 攻撃されたわけではない。ただ、この無茶苦茶な連撃で彼女自身の肉体が破壊されている。シズクが絶え間なくディズを治癒し続けているが、それも長くは続かないだろう。

 

「……!!」

 

 天剣の力に手が伸びそうになる。ひたすら、身を削り続ける彼女の背中に隠れるのはあまりにも屈辱で、苦痛だった。

 だが耐えなければならない。なんのために彼女が自分の身を削っているのか分からなくなる。ユーリはひたすらに意識を集中し続けていた。極限まで極まった自らの力で、過つ事なくターゲットを狙い撃つために。

 

 やがて竜の襲撃は途絶える。歪な大樹の森を抜ける。開けた空間に飛びだした。ユーリは目の前に広がる光景に息を飲んだ。

 

『――――――――アアアアアアアア――――――ハハハハハハハハハハハ      ハハハハハハハハ!!!よく   来たなあ!!!!哀れなる   舟の   下僕 が!!!!」

 

 数十メートルを優に超える、闇に突如出現した巨大な大樹が、嗤った。 

 

 自らを産み、自らを育て、自らを増やし続け竜に堕とす。繁栄と堕落の災禍

 

 【色欲の大罪竜】がその姿を見せた。

 

 

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