かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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天拳の願い

 

「いやあ、全く、本当によくぞ生きて帰ったなあ!銀の乙女!お主など深層に潜り始めて最初の方でいきなりぶっさされておったからな!」

「ええ、本当に、しかも呪いの類いがたっぷり込められておりましたので、全然【神薬】も効かなくって」 

「ロックが傷を直接塞がねば出血多量で死んでおったな!」

「まあ、最終的に、深層が一部崩落して巻き込まれて、皆様そんな感じになられましたね」

 

「そんな朗らかに話すことかコレ?」

 

 はっはっは、と笑う二人にウルが突っ込んだ。まあ兎も角、わかりきってはいたものの、地獄の死闘であったらしい。

 

「しかし、どうして今日はここに?」

「うむ、実は暫く昏倒していてな。目を覚ましたのはつい最近でな。リハビリしてようやく動けるようになったのだ。なので銀の乙女にお礼をとな」

 

 うむうむ、とグロンゾンは軽快に頷く。数ヶ月間昏睡状態で生死を彷徨っていたという事実をこんな簡単に聞いて良いものか判断に困った。考えても見れば凱旋式でプラウディアを尋ねた折も、彼の姿は見なかったのは眠っていたのだろう。

 そしてその事を知っていたのであろうシズクは彼の言葉に苦笑を浮かべていた。

 

「お礼と言うならばよっぽど、私の方こそ助けていただいたのですが」

「我が民を助けるのは当然のことだ!だがその逆は当然ではない!助かったぞ!」

「超強い」

 

 彼と言葉を交わした回数は少ないが、だいたい彼の人となりは理解できた。それほど単純明快なヒトだった。押しはとても強く強引で喧しいが、強者であり権力者であることへの責務に忠実だ。

 だから、不愉快に感じることは無かった。が、やはり圧は強い。

 

「しかし、シズクへの礼の為にわざわざグリードまで?」

「うむ、要件はもう一つ。古馴染みに挨拶をしにな」

 

 と、そういうとグロンゾンはウル達から視線を外す。目を向けるのは、こちらから距離を取り、関わるまいというツラをしていたグレンだった。

 

「久しいなあ!グレンよ!!」

「ドチラサマデシタッケー」

 

 とりあえず自分の師の演技がゴミクズであるとウルは知った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「お二人はどのような関係だったのですか?」

「他人」

戦友(とも)よ!!」

 

 シズクの質問に対する回答は早速矛盾した。グレンは死ぬほど嫌そうな顔をしているが、グロンゾンはそんな彼の拒絶を慣れた顔で受け止めていた。

 

「共に死線を幾度となくくぐり抜けた仲でな!!幾度となく命を助け合ったのだ…!」

「と、グロンゾン殿が言ってるが」

「コイツの無茶苦茶になんど命を脅かされたか思い出したくもねえ」

 

 双方の認識に相当なズレがあるらしい。

 豪快に笑うグロンゾンと死ぬほど陰鬱そうな顔で顔をひしゃげているグレンとでは陽と陰である。よく肩を並べて戦う機会などがあったものだった、と思わなくもないが、考えてみると、魔術師であるグレンと、近接戦闘を主体とするグロンゾンの相性はよさげだった。

 しかしどういう機会があって、七天と冒険者が巡り会ったのだろうか。

 

「私たちのようなこともあったのかもしれません」

「ああ、なるほど」

 

 グレンは己の竜への報復のために黄金級までに上り詰めた冒険者である。だが、その実力があれば、ウル達のように”陽喰らい”の要請を受けることもあるだろう。彼が積極的にあんな厄介ごとに首を突っ込むとも思えないが、ウルのように不可避の状況に巻き込まれる可能性は大いにあった。

 やや同情的な気分になったが、グレンの不細工な不機嫌ヅラを見ているとその気分も失せた。肩に手をかけようとするグロンゾンの手を払いのけると、顔を顰めたままうなり声をあげる。

 

「で、なんのよーだよ。グロンゾン。いっとくが俺は忙しいんだからな」

「さっきまでヒトの宴会で酒飲みまくってた男のセリフか?今の」

「お酒を嗜むのに忙しいと言う意味かも知れません」

「おうこらうっせーぞコラ外野コラ」

 

「うむ。実はな」

 

 そう言って、彼は右手の拳を握る。すると仄かに彼の右手が輝いた。魔名の顕現だった。しかしそれは通常の、一般の冒険者達のものとは形が異なる。七天達にのみ与えられる特別な魔名。天賢王から授かった特別な加護の魔名だった。

 グロンゾンはそれを示し、そしてグレンへと顔を向けた。

 

「お主に【天拳】を託そうと思って――――ぬ?」

 

 その瞬間、グレンがグロンゾンの視界から消滅していた。

 文字どおりである。一瞬の間に、グレンがその場から消えていなくなっていた。ウルは絶句し、シズクは視線をやったが、彼女もやや驚きながら首を横に振った。

 

「音すらも聞こえませんでした」

「……目で追えなかった」

 

 厄介ごとの押しつけ回避のバックれ技術に最強の冒険者としての技能の一端を垣間見せられてもイマイチ尊敬しづらかった。

 残されたグロンゾンは、あまりに一目散なグレンの逃走に対して愉快そうに笑った。特に怒った様子はない。何処かこの結果を予想しているようでもあった。

 

「実力は健在。遊ばせるには惜しいなやはり」

「というか、大丈夫ですか。グロンゾン殿。天拳の譲渡って」

 

 ウルは尋ねる。

 今日に至るまでやたらめったら、七天達と関わり深い日々を過ごしてきたウルだ。その象徴とも言える王の加護の譲渡ともなれば、無関心ではいられなかった。ましてや自分の師――それも感謝も尊敬もしているとはいえ大分アレな男――にそれが与えられるともなれば、大丈夫なのだろうかと疑問がよぎる。

 無礼な問いであったのかもしれなかったが、グロンゾンは気にする様子はなかった。

 

「奴は黄金級。つまり第三位の官位持ち。かつ実力者だ。資格はある」

「それは……」

 

 ウルは黙る。シズクもだ。やや無理やりな理屈があって、少し答えづらい。ウルとシズクの反応にグロンゾンは分かっている。というように苦笑した。

 

「だが今は、多少の無理を通してでも奴には手を貸して欲しいのだ。理由は分かるだろう」

 

 それは言われるまでも無く分かる。王から伝えられた理想郷計画の事だろう。王の忠臣である彼ならば当然、その話は詳細に知っているはずだ。

 

「出来れば、我が自ら王の力になりたかったのだがな。正直、まだ回復しきれていないのだ」

 

 そういうグロンゾンの表情は心底までに口惜しそうだった。

 左腕を失うほどの全力を賭けて、計画の一端である大罪竜ラストを討ったのだ。それほどの貢献を成したのなら、十分に満足したって誰も責めはしないだろうに、それでも彼は心底己を不甲斐ないというように責めていた。

 王の忠臣と言うほか無い。自分の脱落の穴埋めを少しでもしたいという彼の願いも必要性も理解できた。

 

「流石に最前線で戦うまでは望まぬ、もう少し話をしてみるとするか。」

「聞きますかね、師匠殿」

「お主もあやつに師事したなら知っておろう。奴は楽したがりの乱暴者だが、義理堅く真面目だ――――それと、二人とも」

 

 グロンゾンはウルとシズクの前に立った。正面に立つとどうしようもないくらいに見下ろされる事になるほどに体格差があったが、グロンゾンは膝を曲げて視線を合わせた。

 精悍であるが優しげで、そして少し悲しげな彼の目が、ウルとシズクを捉えた。

 

「王を頼む。あの方は、とても分かりづらいが、思慮深く、優しいヒトなのだ」

 

 己がそれをできない悔しさを隠さず、それだけを告げると、グロンゾンは堂々と手を振って、二人に別れを告げて去って行った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「……疲労感の残る飲み会だった」

 

 ウルは深々と溜息をついた。

 一応最初の目的であるグレンへの挨拶と情報収集を終えたワケなのだが、得られた情報の重さもさることながら、その後の情報もとてつもなく濃かった。若干目眩を感じるのはアルコールのためだけではないだろう。

 

「挨拶回り、行きますか?」

「今日はいいや……」

 

 グレンの指摘を受けて、と言うわけではないが、この後更に真面目にグリードを回る気には少しなれなかった。幸いにしてまだ少し、時間的な猶予はまだあるのだ。少しのんびりしたって、絶対にバチはあたらない。

 情報を飲み込んで、整理して、思考にまとめるためにも休憩は必要だった。

 

「……グレンの言ってた賭場見に行ってみるか」

「でもウル様、ウル様の運、ゴミではありませんか?」

「泣くぞ。確かに勝ったこと無いけど」

 

 こうして、ウルとシズクはグリードを遊んで回ることになった。結果、賭場でウルが秒で資金を尽かせ、シズクが大勝ちし、胴元にイカサマを疑われ、逆に賭場のイカサマを見抜く大立ち回りを演じることになるのだが、それはまた別の話である

 

 

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