かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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魔術の探究者たち

 

 

 魔術ギルドは魔術を学び、伝え、保護し、導くための大連盟公認の大ギルドである。

 

 が、しかし同じ魔術ギルドであっても、その場所、その土地によってそのギルドの教えや導き方の傾向は変わる。魔術ギルドに求められる能力も変わってくるのだからそれは当然だろう。

 例えば大罪都市グラドルでは、特に需要が高いのは食料の生産、品種改良の類い。大罪都市エンヴィーなら魔道機械の術式構築だろう。

 そして、大罪都市グリードは冒険者の活動が最も活発な大罪都市と言われている。で、あればこのギルドで求められるのは迷宮の内部でも利用可能な対魔戦闘を想定したような攻勢魔術の類いが多い。迷宮探索が大陸で最も活発なグリードでは、その一分野に限っては最も魔術の発達に積極的な大罪都市ラストと比べても遜色ないどころか上回ることもあるほどだ。

 

「――――と、このように、白王陣の構築、その下準備は行われます」

 

 故に、迷宮での攻略利用とは対極に位置する白王陣の技術は未知の領域で有り、そして知らないと言うことは学ぶだけの価値があると言うことでもある。

 魔術ギルド大罪都市グリード支部にてゲリラ的に行われた白王陣の研究発表を聞いた魔術師一同は、講義を行っていた【ウーガの守護神】とも呼ばれるリーネに幾つもの質問をぶつけた。詳細で熱心な質問の一つ一つにリーネは回答し、幾つもの応答の後、熱意冷めやまぬといった具合で講義終了の時間となった。

 

「……一の魔術にここまでの術式を込めるか。どういう執念だ……?」

「研究職というよりもこれは最早職人の類いでは……?」

「いや、しかしこの下地の構築技術は参考に……」

 

 グリードの魔術師達は幾つもの感想を口々にしながらも教室を出て行った。全員、満足げというよりも疑問や不満、あるいは怒り、多種多様な苦悶の表情を浮かべていた。しかしそれらには熱が籠もっている。

 そんな彼らの表情からも良い講義だったのだと支部長マージィも理解した。講師役を買って出たリーネに近付いてゆく。少し疲れた様子のリーネもこちらに気がついたようだ。

 

「マージィさん」

「リーネさん。本日は急な依頼に応じてくださり、本当にありがとうございます。大変よい講義でした」

「若輩の身で、どれだけ皆さんの力になれるか心配でしたが」

「ご謙遜を。あの竜吞ウーガの管理を一手に担えるものはウチにもいませんよ」

「仲間達の協力あってのことです」

 

 マージィの言葉にもリーネは実に落ち着き払った様子で応対していた。

 小人という種族も相まって若いを通り越して幼い子供のようにみえるが、その応対の冷静さ一つとっても見た目とは乖離していた。しかし彼女は今や、この大陸で最も注目を浴びる魔術師の一人だ。

 竜吞ウーガが出現した際、多くの魔術師達は世間のようにただ仰天しただけではなく、どのようにしてあんな巨大なる使い魔を維持しているのか、こぞって調べようとした。どう考えても既存の技術では、あのような巨体を無理なく持続させることなんて不可能だったからだ。

 

 遠からず、自己崩壊を起こすと、とある若い魔術師が断言した。

 自己保存のために冬眠する機能でもあるのだろうか、と老いた魔術師が推測した。

 おぞましい、邪教徒の技術が使われているのだと、信心深い魔術師が戦いた。

 

 しかし、そういった様々な推測は、どれも外れることとなる。ウーガは何の問題も無く、イスラリア大陸を闊歩している。勿論時折休眠状態になることはあるが、それでも短期間だ。それは使い魔の魔力の充足と、代謝が恐ろしく上手く機能していることを示していた。

 次第、魔術師達の注目は、ウーガそのものよりも、それを管理している術者へと集まった。大罪都市ラストでくすぶっていたという、レイライン一族の末裔へと。

 そして、そんな彼女がグリードを訪ねるという話を聞きつけたならば、講義を依頼するのは魔術師ギルドグリード支部の長としては当然の責務だった。

 

「白王陣の秘奥については教えることが出来ませんが、表層的な技術部分でよければ」

 

 幸い、冒険者ギルドへのツテもあったため、その経由で彼女と連絡を取り、最終的に合意してもらい、今日に至った。

 興味深い話が聞けて、マージィとしては大変に喜ばしい結果だった。が、一方で少し負い目もある。

 

「教えてもらってばかりでは申し訳ない。何か、参照したい文献などはあるかな?講義でも、可能な限り融通しよう」

 

 勿論、報酬を支払いはしたが、それでも彼女の英知、研鑽の成果を一方的に受け止めてしまうのは申し訳なかった。魔術師にとっての研究は、比喩でも何でも無く命よりも重い。勿論彼女もそのことを了承し、要の部分は決して明かしはしなかったが、その断片をつまびらかにするだけでも、とてつもないことだった。 

 金や物以外でも、此方も見合うだけのものを返さなければ、無礼というものだ。

 

「ありがたい話なのですが、私もこれからグリードで別の仕事がありますので」

「ふむ……なるほど」

 

 仕事の内容については触れないようにした。黄金級となった【灰の英雄】とその一行がわざわざプラウディアではなくグリードでその授与式を行った理由、何かあるのだろうと言うことは察しがつく。仮にも大ギルドの支部長である自分でも、情報が届かないような大変な事案が。

 あえて伏せられている情報を無理につついて暴くような迂闊さはマージィにはなかった。では代わりに、というように、彼は指を立てた。

 

「これは提案なのですが――」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 大罪都市グリード 【行軍通り・カルミの茶屋】にて

 

「と、いうわけで、講義の報酬として幾つかの魔道具をもらったわ。ありがたい事ね」

「け……っこうごっついな。大丈夫なのか?」

 

 店の一角のテーブルで広げられた魔道具一式を前に、エシェルはちょっと引いていた。別に、違法な物品でも無いはずだが、周囲をきょろきょろと見渡して目立っていないだろうかと確認している姿は女王というよりも小動物だった。

 

「爆発したりはしないわよ。ほら、さっさとしまいなさいな」

 

 言われて、エシェルはコクコクとうなずきながら、自身の【鏡】の力で、魔術ギルドから獲得した物資を片っ端から収納していく。改めて、無茶苦茶な能力だった。【拡張鞄】のような物資を収容する魔道具はもちろん存在はしているが、ここまで何でもありで問答無用とはいくまい。

 グリードの攻略において、彼女が一つの要となるのは間違いなかった。

 

「今回の報酬、いくらか足しになればいいのだけど」

 

 しかし、そんな無茶苦茶なエシェルがいたとしても、今回の攻略が未知で、困難であることには変わりない。取得した魔道具達はどれもグリード支部で眠っていた一級品ばかりであるが、どこまで役立つことができるかは不明だ。

 

「前の騒動で手に入った“アレ”はだめなのか?」

 

 エシェルが尋ねる。やや言葉を濁しているが、それが何を指しているかは分かった。

 

「私たちが行くの、迷宮よ。おそらく機能不全になるわ」

「あ、そか」

 

 例の闇ギルドとの闘争の果てに、シズクが交渉してウーガ管理預かりとなった幾つかの強大な聖遺物。どれもこれも強い力を発揮するが、少なくともグリード攻略には使えない。聖遺物も、神官の加護も、どれもこれも迷宮には使えないのだ。

 だからおそらく、今回の探索で天祈のスーア様も深層に潜ることはできないだろう。

 

「貴方と、アカネ様は例外ね。アカネ様は若干気持ち悪くなってたみたいだけど…………興味深いわ」

「怖い、目怖い」

 

 エシェルがおびえたので、仕方なく店員に氷菓子を頼むと、機嫌を取り戻しニコニコとしだした。本当に、年上であるはずなのに妹みたいになってきたなと、リーネは友人の姿を面白そうに眺めた。

 

「でも、大ギルドで講義する先生だなんて、すごいな、リーネ」

「どう凄いのか分かってないでしょ」

「そ、そうだけどぉ……」

 

 図星をつかれて唸るエシェルに苦笑しながら、リーネは肩をすくめた。

 

「まあ、単発の講義ってだけじゃなくなるかもしれないけどね」

「うん?」

「魔術ギルドの顧問として勧誘を受けたの。長期契約のね」

 

 そのリーネの説明に最初エシェルはピンと来てはいなかった。が、しばらくすると思い当たったのか、目をぱちくりとさせて驚きの声を上げる。

 

「教室をするって事か?白王陣の?」

「白王陣は門外不出。レイライン一族から出すわけにも行かない秘匿技術だけど、公表可能な魔法陣の分野に限っても教えを請いたい魔術師は多そうだからって」

「……つまり、いい話、ってことでいいんだよな」

「魔術ギルドからの特別待遇だもの。間違いなく良い条件よ」

 

 巨大なギルドで自身の教室を開くと言うことは、弟子を取ると言うことでもある。そこから優秀な魔術師を輩出すれば大きな影響力を得ることにも繋がるだろう。

 そしてその場所として大連盟の公的ギルドの魔術ギルドなら最適といってもいい。ラストのラウターラ魔術学園を除くならば最高の環境だ。

 

「成果は出し続けなければいけないのでしょうから、別の大変さはあるでしょうけど、魔術師としては誉れと言って良いかしら」

「……そうか」

 

 それを聞いて、エシェルは少し黙る。その様を見てリーネはまた笑った。

 

「一応言っておくけど、教室を請け負っても、ウーガから降りる気は無いわよ、私」

「本当っ!?」

「そりゃそうでしょ。あそこほど【白王陣】の研究に最適の場所ないもの」

「やっぱ研究の為か!!」

「当然でしょ」

「でも嬉しい!」

「貴方って、本当に好意を隠さないわよね……」

 

「カハハ、仲の良いことだなあ?全く!」

 

 そこに突然、やや癖のある男の笑い声が飛び込んできた。

 リーネは眉をひそめ、エシェルはなにか強く警戒するように席を立つと、逃げるようにリーネの背後に回り込んで、凄い表情でその男をにらみつける。

 金色の髪、森人特有の長い耳に、端正な容姿――――で、あるはずなのに、その顔の3分の1ほどに、“何かに焼かれた跡”のようなものがクッキリと残っている。だが、それでもその姿は、リーネも覚えがある。

 

「俺も、その英知を講義してほしいなあ?レイライン殿?」

 

 天魔のグレーレが実に楽しそうに、リーネ達の前に姿を現した。

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