かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~ 作:あかのまに
大罪迷宮グリード突入前 29階層安全領域にて
「では、これより大罪迷宮グリードの探索、大罪竜グリード討伐。更に魔界の邪神制圧の任務。最終調整を始めます」
場を取り仕切るのは天剣のユーリだった。天陽騎士団の鎧が恐らく世界一似合う女。蒼髪の獣人の剣神、一見するとウルとも変わらないような少女にしか見えないが、その内から放たれる英気は場の誰よりも鋭かった。
「よろしいですか。王よ」
「私のことは気にするな。戦闘指揮は任せる」
王に確認を取り、改めてユーリは全員を見渡す。その視線の鋭さは自分たちが彼女の敵なのではないかと錯覚するほどだが、その緊張感も当然だろう。これから本当に、世界の命運を賭けた戦いに出るのだから。
「迷宮探索に出るメンツは先に告げたとおり、【天祈】のスーア様を除いた七天と【歩ム者】です。残るメンツはこの場所での待機、万が一の救助策戦をお願いします。」
【歩ム者】からは
【灰の英雄】ウル
【白銀乙女】シズク
【死霊騎士】ロック
【白王の使い手】リーネ
【竜吞女王】エシェル
そして追加で
【元・勇者】ディズ
【赤錆の精霊憑き】アカネ
【七天】からは
【天剣】のユーリ・セイラ・ブルースカイ
【天魔】のグレーレ・グレイン
【天衣】のジースター
【天賢王】のアルノルド・シンラ・プロミネンス
そして、
【魔王】ブラック
また、神殿からは幾人かの従者と護衛の騎士達が同行する。これが迷宮攻略組である。また、攻略の設営の為、何人かの従者達が同行するが、戦闘要員としては期待できない。
そして待機組は
【神鳴】イカザ・グラン・スパークレイ
【紅蓮拳王】グレン
【天祈】のスーア・シンラ・プロミネンス
となる。
「ええー、ずりいぞグレン坊。俺もサボりてー」
「おい、このろくでなしのクソヤロウ連れて行くのかウル。正気か。死ぬぞ」
「それは割と俺もそう思う。」
グレンから真顔で忠告を受けたし、心底同意見だが、魔王の戦闘能力を余らせる理由がなかった。【強欲】を討つまでは共闘するという彼の約束を信じるほかない。
そしてそれ以外、何人かの口の堅い銀級冒険者達も待機組として集まってくれた。その中には
「来てもらえて心強いよ。パイセン」
「パイセンは止めろ、全く……」
【白海の細波】、陽喰らいの時、世話になった銀級冒険者、ベグードの姿もあった。
「既に先を行かれた身だ。口やかましい事を言うつもりはないが……黄金の指輪を穢す所業はしてくれるなよ」
「背中を護ってくれるなら、精一杯やる」
良し、というようにベグードは拳でウルの鎧をゴンゴンと強く叩いた。無駄に入っていた緊張がやや解けた。
「さて、迷宮攻略ですが、ハッキリ言いますが、秘策はありません」
「いきなり絶望的な情報だこと」
「カハハ!魔術的な抜け道があるなら、俺よりも前に、そこの紅蓮拳王がなんとかしてるしなあ?」
天魔のグレーレがニヤニヤと笑いながらグレンを見る。グレンは心底面倒くさそうに、グレーレの視線を無視した。
「
「ズルすると酷い目に遭うしなあ。具体的には国が滅んだりするし」
魔王ブラックがしみじみと語る。何があったのかは知らないが、まあ、ろくなことにはならなかったらしい。
「そもそも此処までの戦力を結集させた以上、半端な奇策を用いたところで、強みを削ることになるでしょう」
ユーリの声は鋭く、強く、まっすぐに、待機組含めたその場の全員を鼓舞する。魔術的な要素もなく、ただ語るだけで全員の士気を高めるそれは、彼女の持って生まれた指揮官としての才能でもあった。
「全力をもって強欲の超克を目指します――――それと、ディズ」
そういって、最後にユーリはディズを見た。
「七天ではなくとも、才能が無くとも、貴方の実力が無くなるわけでもない。道中、他の主戦力が疲弊しないよう、露払いなさい」
かなり挑発的な言い方だったが、ディズはむしろ喜ぶように強く頷いた。
「勿論、全力を尽くす」
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その宣言の通り、と言うべきだろうか。
「【魔断・二重】」
勇者ディズの戦い方は凄まじいものとなっていた。
星剣と緋剣の二本を握り、勇者は目の前の敵をひたすらに両断する。数メートル超はあろう悪魔が作り出す炎の海を切り裂いて、悪魔の首を断ちきっていく。二体の大型巨人が血を吹き出しながら地面に倒れていくのを尻目に、彼女は前進を続けた。
「ジースター。この先で間違いない?」
「再び迷宮の変動が起こりさえしなければ」
「急いだ方が良いね」
元同僚の天衣のジースターの言葉に頷いて、ディズは更に前へと跳んだ。ウルはそれに置いていかれないように必死だった。勇者という称号を剥奪されていながらも、彼女のその輝きに一切の陰りは見当たらなかった。
当然と言えば当然である。元々彼女は他の七天達のように、太陽神から加護を授かっていたわけではない。七天を辞めさせられたところで、彼女が損なうのは超法的活動の特権であって、彼女が培った能力はそこに依存していないのだ。
ディズはそれでも自分の能力は他の七天と比べ足らないと事あるごとに言ってはいたが、ウルにはそうは思えなかった。他の七天達の圧倒的な力をみても尚、彼女の戦い方は鮮烈で、美しく思える。
「若い者が、無茶をするものだ。少しくらい手を抜いても良いのに」
だが不意に隣から聞こえてきた否定的な声に、ウルは顔を向けた。そこには現在の階層を捜索し、次の階層への階段を発見した【天衣】のジースターがウルと併走する形でディズの後に続いていた。
「あー、ジースターさん?」
「ジースターで良い。それで何か用か?」
「何か、と言うわけではないのですが……」
殆ど言葉を交わしたことの無い、仲間の間でも面識の少ない相手に対してどういう距離を取れば良いか分からず、ウルは少し困った。特に、天衣のジースターは大罪迷宮ラストの深層で一瞬顔を見合わせた時以来だ。
そして、そもそも【天衣】のジースターについてはウルは殆ど知識が無い。末席とされている勇者ディズよりも更に増して、彼の情報は表向きに広まっては居なかった。彼がどういう人物か、ウルには全くわからなかった。
とはいえ、これから否応なく命を預け合う関係だ。よく分からないから、と距離を取る訳にはいかない。ウルは横からディズを狙う巨大な獣を竜牙槍で撃ち抜きながら、訪ねた。
「ジースターは、何故この戦いに?」
「仕事だ」
ジースターは実に淡々と答えた。なんというか、使命感というか、そういったものを聞けるかと思ったが、想像以上に淡泊な答えが返ってきてしまった。
「王からの契約で報酬は約束されている。ならばやるべきことはやるだけだ」
「なる、ほど」
「他の連中のように、使命感を持っていないのが意外か」
「それはまあ。とはいえ、別に偏見はないですが」
対価を得られるからこそ、ヒトは働くのだ。だからこそ王も【歩ム者】に対して苦心しながらも報酬を用意しようとしてくれていた。ディズやユーリのような気高さがなくたって、結果を出せるなら問題は無い
同時に、ウルとしては少し気楽になった。
ユーリやグロンゾン、ディズのような英傑でもなく、グレーレのような奇人でもない。淡々とした仕事人。ウルはこのタイプの人種は嫌いでは無かった。必要以上の付き合いを求めてこない分、距離感を見誤らなければ単純に互いが楽だからだ。
「ちなみに報酬は何に?答えづらいのならいいのだが」
足下が揺れ、地響きと共に爪が飛び出してくる。巨大で奇妙な土竜のような魔物を前に、ウルはジースターと共に跳び、尋ねた。ジースターは自分の外套を変容させ、光の槍のようなものを投げつけながら応じた。
「家族につかう」
「なる、ほど……所帯持ち?」
「子供が3人いる。全員嫁の連れ子だが」
「わーお」
ウルはややリアクションに困った。一見して無愛想極まる顔をしているが、どうやら少しややこしい家族事情を抱えているらしい。
「一番下の子がやや難病で、コネクションも多くが必要だったんだ」
「切実」
「今回の報酬で目処が付きそうなので安心した。生きて帰れるか分からないが」
「で、あれば、何が何でも生きて帰らなければ不味いだろう」
「そう思うだろう。俺が死なないように頑張ってくれ」
「……ひょっとして、同情を誘ってる?」
ジースターは真顔で頷いた。なんというか思ったよりも愉快な人物であるらしい。
「……まあ、互いに死なないよう頑張りましょう」
「そうしよう。さし当たっては」
そういって、ジースターは再び外套を変容させ、前を向く。先へと進んでいたディズが動きを止めていた。
『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』
「【石人形】……いや、【都市人形】っていったほうが良いかなこれ」
彼女の目の前の建造物が、まとめて蠢き出す。高層建築物が重なって胴や手足と変わる。塔が首となり、神殿を模した建造物が頭の役割を果たしている。
この階層そのものが人形(ゴーレム)となったかのような、巨体が姿を現した。
「元勇者を助けねばならないか。【模倣天剣】」
「わーでっけえなあ畜生!!」
奇妙な交流を進めながらも、激闘は続く。