かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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襲撃

 ウル達がその”大変な事態”を確認したのは、”止まり木”から出発して数時間が経過したころだった。ペースは一定、旅路は順調、しかし、休みは必要な馬車に対して、全く休みなく進む島喰亀とでは既に大きな差が開いていた。

 巨体さ故にまだその姿は確認可能であり、それほど離れていないようにも思えるが、この馬車を引く名馬達が全力で走ってもそうそうに追いつけないところまで距離が開いてしまっていた。

 

「出来ればもう少し引率してもらいたかったんだが、まあ仕方ないか」

「まだ距離はありますが、徐々に魔物の気配が増えてきています」

「島喰亀の威を借りられなくなってきたと……次の止まり木までもてばいいが」

 

 少し警戒を強めながらも、ウルは島喰亀からできる限り離れぬようにとダール達の足を速めた。今のウル達なら多少の魔物が出現しても対処は出来るが、無駄な消耗は抑えるに越したことはないし、今ウル達は護衛をしているのだ。護衛対象に不要な危険を浴びせないようにするのは仕事のウチだ。

 次の”止まり木”のポイントにたどり着けば恐らく日は沈みかける、そうなればそこで今日は宿をとることになる。流石に島喰亀の恩恵はなくなるだろう。魔物に対する警戒はより強めなければならない。

 

 と、今後の対策を考えていたウルは、しかし、ふと気が付いた。

 

「……ん?」

 

 遥か先を行っていた島喰亀との距離が縮んでいるように見える。

 

 島喰亀の足は遅くはない。歩む馬の足と変わらない速度だ。で、あれば追いつける道理はないのだが、何故か島喰亀との距離が縮んでいる、ように見えた。

 少しでも島喰亀の恩恵を得ようと、馬達に足を多少急がせはしたものの、走らせている訳ではない。なのに距離が縮むのはなぜか。最初は巨大すぎるが故の目の錯覚かともおもったが、時間と共に大きく見えてくる島喰い亀の姿は気のせいでないことを告げていた。

 

「なんだ……?」

「ウル様」

「シズク?どうした」

「足音がありません」

 

 シズクに言われ、気づく。近くにいた時は一定のペースで発生していた島喰亀の足音が消えている。距離が離れたからと思っていたが、そうではない。つまり今現在島喰亀はそもそも歩いていない。停止している。

 

「島喰亀は休みなく移動するはずだったが…?」

 

 島喰亀はグリードから次の都市までの間は休みなく動く。都市で一度供給を済ませれば一月は休みなく動き回れるのだ。当然乗客用の食料もぬかりなく完備している。わざわざ魔物が存在する都市間の人類生存圏外で動きを止める必要性は皆無なはずだ。

 

 何か起きている。という警戒にウルは竜牙槍を手元に寄せる。手綱を繰りダール達の速度を落とし、周囲を警戒する。

 

「シズク、魔物は?」

「……います」

「どこだ」

「”島喰亀の上です。それも無数に”」

 

 ウルはその答えに一瞬、混乱した。

 

「……島喰亀の気配で混乱したわけではなく?」

「はい。島喰亀とは異なる小型の魔物の気配が無数に島喰亀に群がってます」

 

 ウルは島喰亀に視線を向ける。その甲羅上部、乗客たちが乗り込むエリアを確認した。まだこの距離なら上部の状態がわずかに見えた。なだらかな亀の甲羅の上に、乗客たちがくつろげるように幾つかの施設が建設されているはずだが―――

 

「……明るい、いや、火か?」

 

 日が徐々に落ち、薄闇が掛かり始めた空で、島喰亀の上部がやけに明るい。照明を常備している可能性もあるが、僅かな揺らめきを見せるその灯りは、人工の灯りとは違う。

 

「ウル様。周囲に複数の人の気配と”馬車”を確認しました」

「止まれ」

 

 手綱で制御する間もなく、ウルの声でピタリと馬たちは歩みを止めた。本当に賢い二頭だ、と感心しながらもウルは竜牙槍を構え立ち上がる。

 

「シズク、隠蔽の結界を」

「【風よ唄え、悪意の瞳から我らを隠せ】」

 

 速やかに馬車の周囲にシズクが結界を張り巡らせた。ウルは馬車の上に上り、冒険者の指輪を前に差し出す

 

「【鷹の目】」

 

 魔具としての指輪の機能が起動する。ウルの眼前の光景を望遠鏡のように拡大し、目の前に映す鏡が現れる。其れをウルはのぞき込んだ。馬車、とシズクは言ったが、そもそも賢いダール達ですら島喰亀のそばに近づくのは警戒する。何故に馬車を寄せられるのだ。と、映し出された光景を確認する。すると、

 

「……馬じゃない」

 

 そう、馬車を引いているのは馬ではなかった。四肢で地面に立った馬のような形をしているが肝心の肉が全くついていない。”骨”しかなかった。

 

「【死霊馬】…でしょうか?甲羅上部にいるのも恐らく同種の【死霊兵】です」

 

 同じように調べていたシズクから指摘がある。

 魔物の一種、正確に言えば【死霊骨(スケルトン)】という呼称の魔物だ。名称の通り、骨の魔物。人間や動物の死骸に魂が宿り、血肉ではなく魔力だけでさまよい蠢く魔物。宿る死骸は人とは限らないので、あの骨の馬たちは馬の死骸に何かしらの魂が宿ったのだろう。

 

「でも、わざわざ魔物を馬の代わりにするか…?」

「島喰亀に近づくためでしょうか。普通の馬では近づきすぎると怯えてしまいます。」

「……もしそうだとするなら、意図的に死霊骨を作ったってことになる」

 

 それが可能か?と問われれば可能だ。死霊骨は人形(ゴーレム)と同じく、人の手で生成可能な魔物である。都市によっては禁忌として定められることもある外法、悪用も可能な魔術の一種。

 しかし、今ウル達がいるのは都市の外、都市の中の法は通用しない場所だ。

 

 ウルは更に馬車周辺を調べる。と、

 

「……ヒトの姿を確認、獣人と只人か?二人、武器を持ってる」

 

 遠目では正確な装備は不明だが、剥き出しの剣を握っている状態がまともとは到底思えない。疑惑は確信に変わる。

 

「死霊骨を使った乗り込み強盗」

 

 都市間の安全な移動を可能とする移動要塞に対しての乗り込み強盗、前代未聞の事件にウル達は遭遇していた。

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「とりあえず状況は把握したよ。ウル、君運悪いね」

「この場合、運が悪いのはディズなのでは?」

《ふたりともついてなーい》

「まあ、いけませんよアカネ様。本当のことを言っては」

 

 話の主旨を聞いたディズはまだ寝ぼけた顔をしながらも、状況は理解したらしい。

 

「さて、君たちはどうしたい?」

「俺達に聞く意味があるか?雇い主」

「あるね。少数の旅だ。意見のすり合わせは大切さ。雇用の関係であってもね」

 

 そう言い切って両手を広げ意見を促す。果たして本音を言っていいものなのか一瞬考えているうちに、先にシズクの方が口を開いた

 

「助けに行くべきかと」

「即答だね。素敵だ。ちなみに理由は?」

「乗客の皆様が危険だからです」

 

 シズクは断言した。実にわかりやすく、そして真っ直ぐな意見だった。自分がどういう意見を述べるべきか少し考えた自分がアホらしくなるくらいには。ディズはシズクの意見に対して肯定的な意見も否定的な意見も述べず、うんうんと頷いて

 

「で、ウルは?」

「……助けに行ける、かはわからんが、出来ることがあるのならやってはおきたい」

「理由は?」

「……乗込口で俺達よりさらに小さな子供が乗っているのもみた。放置できん」

「カッコいいね。その割に随分と顔色が悪いようだけど」

 

 指摘の通り、ウルの顔色は悪かった。当然である。

 

「そもそもこんな災難起こってほしくはなかった」

 

 島喰亀なんてバケモノに襲い掛かる強盗団なんて命知らず、出来るなら関わりたくはない。かなう事なら生涯を通して。

 

「それなら道を避けて逃げようって提案すればよいのに」

「さっきも言っただろう、放置できん。そんな事したら不愉快だ。”俺が”」

「難儀な性格してるねえ」

 

 実際、ウルは難儀な性格をしていた。いや、難儀な性格に”なった”。そしてその難儀さに苦悩しているのはウル自身である。その苦労を知ってか知らずかディズは笑いながら、ウルの横でふよふよと浮かぶ紅の少女に目を向ける。

 

「アカネは?」

《にーたんといっしょよ》

「おにーちゃん想いのいい子だね」

 

 アカネは楽しそうだった。ウルは咳ばらいをして話を戻す。

 

「だが、雇い主はディズで、俺達はあんたの護衛の為に雇われている。あんたが望まない限り、下手に危険にさらす真似をするつもりはない。」

 

 その点においては既にシズクと話をしている。前金は既に支払われ、雇われている以上は優先順位はブレてはいけない。というのはシズクも心苦しそうにしながらも納得していた。

 そして、ディズからすればあの島喰亀は乗る筈だった自分を追い出したローズ含め、遠目にも悪意を向けてくる連中ばかりだった。それを考えると、彼女の意見は――

 

「あ、それは大丈夫だよ?」

 

 大丈夫?と問い直す前に、ディズは島喰亀を指さして

 

「皆の意見が統一されていてよかった。じゃあ全速力で島喰亀の皆を助けに行こうか」

 

 GOGOGO、と、彼女は乗り込み強盗犯の討伐を命じるのだった。

 

 

 

 

 依頼発生

 

 島喰亀に侵入した盗賊たちを撃退せよ

 

 

 

 

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