かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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進潜

 

 四十階層は部屋全体が一個のトラップとして完成した大部屋だった。

 足を踏み入れた瞬間、地の底が抜け、幾多の魔眼を有した子竜がその力を発動させ、侵入者への迎撃を開始した。王一行は一瞬にして破壊の渦に飲み込まれたが、しかし、それを予期していた天魔と、エシェルの鏡の精霊の力によって、その全ての破壊の渦は、子竜達へと返っていった。

 

「虚飾のと比べると、やや遊びに欠けるなあ」

「迷宮に遊び心なんていらない!!」

 

 大罪迷宮深層 四十階層、攻略完了

 

 

 

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 四十三階層は無限にすら思える広大なる迷宮都市だった。

 三十一層目の都市人形が出現した時と似ているが更に広い。しかも悪質な事に、シズクとグレーレの探査魔術に対して、障害が発生した。天衣曰く、都市内のあらゆる場所に魔術による感知を阻害するジャミングが仕掛けられているのだという。

 

「対策方法は?」

「残念ながら無いですなあ。こればかりは一つ一つ、阻害装置を破壊するほかない」

 

 結果として此処の階層で2週間ほどの時間をかける事となった。

 全員で手分けして、一つ一つの阻害装置を探し、破壊する。そのたびにシズクとグレーレは周辺を探索し、下層への階段を探すと行った作業を繰り返し続けた。途中、番兵達や竜達を天剣とディズとアカネが対処しながら、最終的に北端に存在していた小さな神殿を模した建造物――――の地下に複雑怪奇に巡らされていた地下墓地のその奥の奥に次の階層への階段が存在しているのを天衣が発見した。

 

 大罪迷宮深層 四十三階層、攻略完了

 

 

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 四十五階層目に王の従者と護衛の騎士たちが離脱した。

 

 幾度目なる竜達の襲撃の際に、王の身を守るためにその身を盾として、1人が重傷を負い、その他も負傷した。完全な治療には至らなかった。恐らくはこの迷宮自体が呪いの発生源となっているため、迷宮の主である大罪竜を討たねばならないというのがリーネの見立てだった。続けて治療を行う指示を王が出すよりも早く、重傷を負った従者はそれを拒否した。

 

「貴重な神薬を私如きに消費するわけにはいきません」

「だが」

「すでに我らは足手まといになりつつあります。ここまでです」

 

 凶悪極まる迷宮の攻撃に、護衛の騎士たちも従者たちも、限界まで削られていた。ここまで、王たち一行の消耗を限界まで抑えようと努力してくれていたが、これ以上は限界だった。以降、彼らが逆に負担になる可能性が高い、というのは、だれの目にも明らかだった。

 

「最後までお付き合いできないのは無念でありますが……皆様。王をお願いいたします」

 

 深い傷と癒えぬ呪いを負い、死人のような顔色になった老女の従者は、それでも尚気品ある美しい所作で深く頭を下げて、後を託した。護衛の騎士達を含めて、彼らは階層の狭間、比較的安全な場所で救助部隊《サルベージ》を待つことが決定した。

 

《あなた方の攻略ルートをたどり、救助に向かわせます。ですが、そこより先は竜の気配が強すぎる。通信も届かなくなる可能性が高い。どうかご注意ください》

 

 安全領域からの連絡が届く。実際、それ以降、どれほど強固な魔道具でもっても、向こうへと連絡を取ることが困難となった。

 

 大罪迷宮深層 四十五階層、攻略完了

 

 

 

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 四十七階層

 アカネが一時的にダウンした。

 

《……うー、ぼええ……》

 

 竜の気配が濃密になった事による弊害、であるらしい。

 勿論、ウルには竜の匂いなんていうものは感じ取ることは出来ない。ただなんとなく空気がやや濁ったような気がしたくらいだ。他の者達も同様だ。そして、

 

「だ、大丈夫か?アカネ」

 

 そのアカネの背中をさする、エシェルもなんともなかった。

 

「同じ精霊憑きでも違いが出るのかな?」

「元々彼女は、竜の目や翼も吸収できたからなあ……」

『なんかあれじゃの。自分の体臭に気がついていないヒトみたいな感じかの?』

「その表現やめろぉ!」

 

 数日間の足止めの末、リーネとグレーレが共同で、竜の気配避けの護符を完成させ、アカネの体調を回復させ、先に進むことが出来た。

 

 大罪迷宮深層 四十七階層、攻略完了

 

 

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 大罪迷宮深層 四十九階層、攻略完了

 

 

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 大罪迷宮深層 五十三階層、攻略完了

 

 

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 大罪迷宮グリード五十五階層

 

「やむを得ないとはいえ、ファリーナ達が離脱してしまったのが痛いですね」

 

 天剣のユーリは頭痛を堪えるような表情でそう呟きながら、自分が担当している炊事の鍋を睨み付けながら溜息を吐いた。

 ファリーナとは、途中で離脱した王の従者の名であり、彼女がいる間は、このような迷宮探索の途中途中、迷宮内での野営が必要なときには率先して様々な雑務をこなしてくれていた。

 彼女たちが離脱した現在は、代わりを別の者が果たさなければならないのは言うまでも無い事であるのだが、深層の迷宮探索を終えた後の野営の準備というのはなかなかどうして、疲労が残る。

 

 調理などの作業は問題ない。というよりも、調理済みの料理をエシェルが幾つも鏡の中に丸ごと納めているため、鮮度も落ちず、手間もない。しかし流石に何もかもというわけにはいかない。

 

「従者の皆様、私達の手の届かない所を常に先回りしてくださっていましたからね」

「エシェルの力と魔道具で色々準備ができるとは言え、限界があるしね。迷宮の中だと」

 

 そんなユーリの苛立ちを察してか、シズクとディズがフォローに回っていた。

 

 この五十五階層の攻略は半ば完了していた。体力と精神力は共に充実しており、まだ先に進むことも出来たのだが、五十五階層が他の階層と比較して変動も少ない大都市型で安定していたため、ここで一泊する事となった。

 

 既に、大罪迷宮グリードの深層を潜り始めてから結構な日数が経過していた。途中途中、恐ろしい規模の大都市型の階層が出現するか、厄介な魔物や竜の出現に時間がとられてしまっていた。

 食料にはまだまだ余裕がある。準備は万全だ。しかし場合によってはこの先、いままで以上の足止めと停滞を喰らう可能性もある。在庫の管理と、今後を見据えたチョイスは必須だった。

 

「というか、全体的に味が濃いんですよ……料理のチョイスをしたのは?」

「私も協力しましたが、主にエシェル様とウル様でした」

「ああ、竜吞女王は灰の英雄に従順でしょうから、つまり彼の好みに寄ってると」

 

 好きなものばかり選ぶほど彼も阿呆ではないだろうが、どうしたって味の基準がウルの価値基準によってしまうのは避けられない。

 

「彼、旅の経験が多いから、塩分を自然と多めにとるんだよね」

「今はちょうど良いのでは?」

「飽きるのが早いんです。調味料を貸してください」

 

 シズクに手渡されたそれを幾つか鍋に適量足して、熱源の術式の上でかき混ぜる。鍋の中のスープの香りが少し変わったのを確認し、ユーリは盛り付けを開始した。

 

「ユーリ様は、料理もできるのですね?」

「天陽騎士代表ですから、野営の心得くらいはあります……後は」

「後は?」

 

 一瞬、ユーリは言葉に詰まったが、諦めたようにため息をはいた。

 

「前勇者、ザインに仕込まれました」

「私たち二人とも、子供の頃ザインに色々仕込まれてるんだ」

 

 あら、とディズを見ると、彼女も楽しそうに、懐かしむように笑った。

 

「お二人は昔からの付き合いなのです?」

「師が同じ、というだけです。忌々しい思い出です」

「だいぶ長いこと一緒だったねえ。良い思い出だよ」

 

 二人は仲良く、正反対のことを口にした。

 

 

 

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