かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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悪鬼どもに少女は問う

 全会一致での島喰亀の救助が決まった。当然、実行役となったウルとシズクは馬車にディズとアカネの二人を置いて、密やかに騒動の中心である島喰亀に接近していた。

 

「シズク、今は魔術何回使える?」

「本日は3回分の魔術を消費しています。残り7回です」

「なら、俺達に改めて不可視の魔術を1度頼む。これで残り6回か」

 

 現在シズクは魔力を貯められる魔蓄石と合わせ、10回の魔術を使用できる。残6回という回数は迷宮探索時にはまだ余力があるが、しかし盗賊退治ではどの程度必要になるのか想像がつかなかった。温存するに越したことはない。

 徐々に日が落ちていく夕暮れ時、隠蔽の魔術に紛れ、近づく。間もなくして島喰亀が眼前に迫ってきた。二人は高く茂った草むらに身を伏せ、状況を窺う。

 

「……島喰亀、やっぱり大きいですね」

「グリードの乗り込み口には外付けのスロープがあったが、ないと崖だな」

 

 島喰い亀は巨大な魔物だ。その甲羅に階段があるわけもなし。甲羅上部に存在する乗客用スペース以外は殆ど手が加えられていない。正規の手続きを踏まずに無法者たちが乗り込んでこられては困るからだ。

 

「だとして、じゃあ、あの複数の馬車の乗組員たちはどこ行った?」

 

 本当に乗り込めないなら、あれだけの大量の馬車に乗り込んでいた乗客たちが島喰亀の足元に存在しているはずである。あの死霊骨の馬車を見るに、乗っていたものが本当に人だったのか保証はないが、

 

「ですが、少なくとも見張りと思しき2人はヒトですね……あら?」

 

 シズクは死霊骨の馬車近くにいた乗組員と思しき二人の男に視線を移し、そして疑問の声を上げる。獣人と只人の二人、“その顔”を見つめ

 

「……入れ墨でしょうか?」

 

 その顔に刻まれた奇妙な模様に首をかしげる。二人の男の顔には、黒く禍々しい目立つ意匠の模様が刻み込まれていたのだ。ファッション、というにはあまりにも大きく人目を引くソレを、ウルは知っていた。何度となく旅を続けてきた彼にとって、顔に刻まれた特徴的な印は覚えのあるものだった。

 

「あれは、都市外追放のしるしだ」

「どこかの都市から追い出された事を示すと?」

「大連盟で定められた法の一つだ。重罪を犯し都市外追放になった人間には必ず印が施される。アレがつけられたものはどの都市にも入ることは許されない」

 

 別の都市の犯罪者を他都市が知らず招いては困る。という理由があった。都市と都市の間でのインフラが限定されたこの世界においての知恵である。結果として都市外追放された犯罪者たちの多くは人里に近づくこともできず、遠からず魔物達に食い殺される未来が待っている。

 が、しかし、時として生き残る者たちもいる。彼らの多くは盗賊となり、都市間を移動する旅人たちの荷物を略奪し、食いつなごうとする。

 

「まあ、ある意味この上なくわかりやすいな。少なくとも連中は島喰亀の観光に来たわけじゃ断じてない」

 

 彼らは経緯はどうあれ犯罪者であり、そして島喰亀を囲って武器を構えている。どういう事情であれ良からぬ目的であることには間違いなさそうだ。

 

 見張りと思しき強盗達の姿が2人、ウル達の視界に映るだけでも馬車は3台ほど、馬車数に対して人数が少ない。ならばのこりの大多数は既に上に上っている可能性が高い。だがどうやって?

 

「空を飛ぶ魔術を使ったとか?」

「【飛翔】は高度な魔術です。死霊兵を操る魔術師がいる以上、使い手がいないとも思えませんが、島喰亀側がその類の魔術への対策はしているはずです」

「だよな、ならますますどうやって――――なんだあれ」

 

 周囲を窺っていたウルは、自分の眼を一瞬疑った。

 島喰い亀の正面、ウル達の進行方向からは亀が陰になって見えなかった所にそれはあった。ウルの眼前に現れたのは、やはり骨である。骨で生み出された死霊兵だ。ただし、“デカい”。人より身長が高い、なんて物じゃない。高さは島喰い亀のソレに及ぶ。巨大な人骨だ。それが、島喰亀のルートに立ちふさがっている。

 

「……島喰亀が歩みを止めた理由がコイツか」

「背中を橋代わりに?」

 

 見れば、その巨大な両腕は島喰い亀の進行を塞ぐようにして伸び、上半身が斜になってよりかかっている。背骨に当たる部分を橋のようにして島喰亀の上部へと橋渡ししている。島喰亀はその巨大なガイコツに道を阻まれ、身動きもせず止まっている。

 

「押しのけられないのかね」

「というよりも、動こうとしていませんね」

 

 島喰亀に乗り込む手段は基本的に、都市側が舷梯を用意する。万一の時、無法者や魔物達が乗り込んでくるのを避けるために。折角のその警戒が、今のウル達にとっては障害だ。乗り込む手段がない。

 

「……あら?ウル様」

 

 と、少し立ち往生していると、シズクが声をかけてきた。

 シズクが指さす先、何か、淡い、小さな光があった。闇夜の中ですら薄っすらとしかわからないような小さな灯りだ。それを見て、ウルは一瞬訝しがり、しかしそれの正体に気づき、あっと声をあげた。

 

「……“ローダー”だ」

「【旅の守護精霊ローダー】様?」

「そうだ。鍋もってすっころびそうになったとき、この光が助けてくれた」

 

 その時も今と同じ、橙色の光の小さな人型、つまり精霊がウルが煮えた鍋を頭からかぶりそうになった時、ひょいと鍋を支えてくれたのだ。ウルがローダーにささげる祈りがより一層真剣なものとなったのはあのときからである。

 そして今回もウル達の目の前に出現した。つまり、

 

「私達を案内してくれる?」

「多分」

 

 悪戯好きの風精霊の眷属でもあるが、しかし生き死にのかかる場面でからかうほど悪辣でもない。ウル達が近づくと、先導するように橙色の光を放った小さな小さな人型が動き出した。ウル達は息をひそめ、盗賊たちに見つからぬようにと後に続く。

 

 間もなくして巨大なガイコツの舷梯とは反対側、盗賊たちのいない島喰亀後部にたどり着いた。そこでローダーは上空に飛び、そして巨大な甲羅の先端部分へと向かう。そして、

 

「おお」

 

 からから、と音がして。暗闇から梯子が落ちてきた。恐らく島喰い亀の乗務員が利用する秘密の乗り込み口だ。巨大ガイコツの反対側にあるのも大変都合がよかった。これなら気づかれずに乗り込むことが可能だ。

 

「ローダー。ありがとう。感謝する」

「今度はお供え物を持ってまいりますね」

 

 ウルとシズクが頭を下げると、橙色の光はクルクルとその場で回り、そして虚空に消えた。上位存在の助けは必ずしも得られる物ではないし、直接的なモノではない事が多い。名無しなら尚のことだ。

 故にこうした助けは本当にありがたい。ウルは改めて、念入りに感謝の祈りを捧げた。

 

「……良し行くか」

「はい」

 

 2人は頷き、梯子に足をかけ、島喰い亀へと乗り込む。

 スムーズに乗り込むことが叶ったが、ウルの表情は優れなかった。大罪都市が有する移動要塞を襲撃する、死霊兵たちを有した強盗団。決して単純な野盗の類ではあるまい。

 

「……ろくでもない予感がする」

 

 この先に待ち構えているであろう困難を前に、ウルはため息をついた。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 島喰亀の上部、つまるところ乗客エリアおよび貨物収容エリアは、魔物の背中の上という事を忘れそうなくらい、広く、そして整備されていた。足場はしっかりと組まれ大きな広間を形成し、雨風を防ぐ屋根に乗客たちがくつろげるベンチや机が備え付けられてある。当然寝床も完備だ。

 更に安全安心な旅路と言えど数日の旅路の間、食事も必要になる。が、当然、島喰亀にはその備えもある。レストランまであるのだから至れり尽くせりと言えるだろう。

 

 そして現在、そんな快適極まる島喰亀の甲羅の上は

 

「助けて!!助けてえぇ!!」

「キャアアアアア!!!」

「痛い……痛い……」

 

 地獄と化していた。

 突如、島喰亀の進路をふさぐように出現した巨大なる【餓者髑髏】と、その背中に乗って乗り込んできた盗賊たちの手によって暴力を振るわれていた。無論、島喰亀に警備の兵士も存在したが、「襲撃など起こるはずもない」という油断があった。

 

『KUKAKAKAKAKAKAKAKAKKAKAKAKAKAKAKKAKAKAA!!!!』

「ひ、ひいいい!!!?」

「なんだこい、っぎゃあ!?」

 

 そこに、盗賊たちと共に現れた大量の人骨の兵士たち。死霊兵たちが襲い掛かり、一瞬にして飲み込まれた。抵抗手段を失った島喰亀はパニックになった。

 

「おい!女つれてるぞあのジジイ!殺せ!!」

「ひぃ!いやあ!!助けてええ!!」

 

 身形の良い乗客たちはその美しく着飾った衣服を引き裂かれ、装飾を奪われ、ボロボロになっている。女子供相手にも容赦なく盗賊たちは嬲り、そして嗤う。

 

「……想像以上に酷いことになってるな」

 

 ウルは不快そうに皺をよせ、堪えるように溜息をついた。耐えているのはシズクも同じだ。今にも飛び出したそうな顔をしている。しかし隠蔽の魔術を揺らがせることは無く、冷静だった。

 二人がいるのは島喰亀の上部に建造されている施設の屋根の上、恐らくは乗客用の寝室エリアと思われる場所だ。

 そこからだと、島喰亀の上部の様子がよく見えた。集められた乗客たちの姿も、それを嬲り嘲笑う盗賊たちの姿も、そして

 

『KUKAKAKAKAKAKAKKAKAKAKAKA!』

 

 大量の死霊兵たちも。

 その総数は圧倒的で数十体の死霊兵が島喰亀の上部にひしめいている。ろくな兵装も与えられていないただの骨身だが、その両顎で肉を噛みちぎられれば痛いでは済まないだろう。

 何よりも逃げ場のない島喰亀の上ではその数が脅威だ。乗客たちは隠れる場所も失っている。

 

「数を減らさないとどうにもならん……」

 

 ウルは死霊兵の情報を思い出す。グレンによって文字通り叩きつけられた知識を。

 

 ――――死霊兵の行動パターンは二つ。天然と人工によって変わる。

 

 天然の場合は、その行動は実に単純明快だ。死骸に魂が宿り魂を動力として蠢く死体。自らの核を糧に蠢く死体は、終わったはずの己の存在を持続するために他の魂を求める。その両顎で、腕で、生者の血肉を引きちぎって魂を引きずり出す。

 

 では人工は?

 

 ―――性質が大きく違う。人形のように、魔道核を作って魂の代わりにしてやるわけにはいかん。死霊術師が“己の魂を別け生み出すのが”人工の死霊兵だ。

 

 命の根幹を別けるという狂気の所業を行うが故に、死霊術師の多くは人の道を外れている事が多く危険視される。当然、魂の“腑分け”が多いほどに危険は高まる。それを大量に行うほどに術者の技量が高いことを示す。

 

 つまり、この島喰亀を襲っている死霊術師はとんでもない術者であることを示している。少なくとも銅になったばかりの、加えて言えば冒険者として一月と少ししか経験がないウル達よりもはるかに。

 

「だが、あくまで死霊兵は死霊兵でしかないはずだ。特別に強いわけじゃない」

 

 あの多量の死霊兵をすべて自由に操れるというのは間違いなく脅威だが、その技量と単体の死霊兵の能力が=であるわけではない。単体ならウルでも容易に倒せる。

 

 状況を整理しよう。

 

 ウル達の目的は“乗客たちの救助”だ。此処に来るまで状況がわからなかったが故に具体的にどう救助するかの方針は定まらなかった。避難させる、という発想も此処に来るまであったが、今この状況を見るに、逃げるというのは不可能に近い。

 島喰亀の甲羅の上、グリードの前にあったような橋はない。

 

 で、あれば、いかにして乗客たちの安全を確保すればよいか。

 

「やっぱり【結界】か。シズク。使えるか」

「【氷結結界】ならば。ですが繰り返しの攻撃には耐えません。時間も3分ほど。魔力をすべて使い切っていいのならば、15分と少し」

「いや、魔術は3回分は残そう。それなら?」

「10分は持たせます」

 

 竜牙槍をちらと見る。咆哮ならば薙ぎ払う事も可能だ、が、乗客と盗賊達がごったがえしている。この状況でぶんまわして下手すれば乗客を巻き添えにする。この状況では動けない。

 

「オラ聞けえ金持ちども!!!」

 

 混乱が静まった。ウルとシズクも息を殺し身を更に屈める。好機か窮地か、見極める必要がある。

 

「俺らのボスは女を望んでいる、若い、処女だ。ソイツを差し出せば他の奴らの命は救ってやる」

 

 その言葉に、混乱していた乗客たちは更に混乱した。処女、若い女。傷を、それも深手を負った者は思わず視線を同じ乗客たちにさ迷わせる。そして心当たりある者は身をさらに小さくし、あるいはその身内をかばう。

 先ほどの混乱とはまた違う痛々しい沈黙と緊張が辺りを包む。その様子を盗賊たちはニタニタと笑った。

 

「なら、私が出るわ」

 

 沈黙を切り裂いたのは、女の声だった。ウルは視線を向ける。一塊になった乗客たちから一歩前に出たのは、煌びやかなドレスを身にまとった獣人の少女。

 

「ロ、ローズお嬢様!!」

 

 覚えのある少女だった。というか、搭乗口の前でディズ言い争っていた彼女だ。彼女は僅かに震える手を押さえるようにしながらも毅然とした表情で前に出て、盗賊たちを睨みつける。

 盗賊たちはそんな彼女を前に、せせら笑う。その笑みには加虐的な悪意が満ちていた。

 

「はーん?アンタが身代わりになるって?」

「出ろと言ったのだから出てあげたのよ、不満?」

「処女か?ちゃんとおぼこちゃんかね?おじょーさん」

「確かめてみたら?」

 

 無神経極まる質問も毅然と返すローズ。無法者相手に怯え竦むことなどしてやらぬという強い意志があった。物怖じしない瞳は真っ直ぐと盗賊たちを射抜く。若くして商会を率いるものとしての矜持と強さがにじみ出ていた。

 

「……ムカつくな」

 

 だが、それは、この場においては悪手だった。

 え?というローズの口が動いた時には、盗賊の拳は彼女の頬を打っていた。鈍い音。ローズは地面に倒れ伏し、乗客たちからは悲鳴が上がった。容赦なく暴力を振るった盗賊は、そのまま倒れ伏したローズに近づき

 

「ッあ……!!」

「なに誇らし気に胸張ってんだこの雌猫が!泣け!命を請いやがれ!!」

 

 二度、三度と強盗は殴打を繰り返した。微塵の容赦も躊躇も感じない、良心の“たが”の外れた暴力だった。鈍い音が響くたび悲鳴が上がるが、それは徐々に弱弱しいものへと変わっていく。

 

「ウル様……」

「限界か」

 

 その状況から目をそらさず観察していたウルはシズクの声に竜牙槍を握りしめ、唸る。このままでは彼女が死ぬ。見殺しにする気にはなれなかった。

 不幸中の幸いか、「処女の女探し」のためにか、乗客たちは一か所に集められている。盗賊たちの意識はローズに集中している。

 結界を張り乗客たちを守るのは、可能だ。問題はウルがどれだけシズクの結界が維持できている間に、敵を減らし、状況を傾けられるかだ。

 

 出来るか?否、やるしかない。

 

 ウルはふと右手の甲を睨む。己の【魔名】の刻印を思い出す。己の力の成長の証。宝石人形との戦いを経て、ウルは強くなった。それは間違いない。だが、

 

 ―――急激な強化は慢心と油断に繋がり、自滅する。忘れんな

 

「……わかっているさ、グレン」

 

 訓練中、繰り返された師匠の警告を胸に刻み、ウルは立ち上がった。同時にシズクは声を潜め詠唱を始める。目くばせするとシズクは頷く。彼女が詠唱を完了し、結界を張ると同時にウルがローズを救い。結界の外部で暴れる。シズクの結界がこわれるギリギリまで――

 

 

「はーい、美しい生娘なら此処にもいますよー」

 

 

 のんきな声がした。それはローズの時と同じく、乗客たちの中からの声だった。

 

 今にも飛び出そうとしていたウルは虚を突かれ動きを止めた。誰か?という疑問が一瞬湧いたが、その声には聞き覚えがあった。あったから、ウルは混乱した。その声は此処では絶対に聞こえてはいけなかった声だった。

 

「彼女をいたぶるなら先にこちらからどうぞ、強盗の皆さま」

 

 にこやかな笑みと共に姿を現した、金色の髪を揺らす女。軽やかな笑みを浮かべる美しい少女。

 

 ()()()()()()

 

 何故か彼女がこの島喰亀の、それも乗客たちの中から姿を現し、強盗達の前に姿をさらしていた。

 

「……なん、で?」

 

 馬車で待機しているはずの護衛対象がいつの間にか戦場の渦中に出現した現実にウルは混乱していた。先ほどまで飛び出す気マンマンだった姿勢が大いに崩れた。そもそも自分たちが可能な限りの全速力で島喰亀に向かったのに、何故馬車に待機していた彼女が乗客に紛れている???

 他人の空似かとすら思ったが、その恰好は馬車の中にいた彼女と同じものだ。

 

「どうし……どうする…」

 

 一瞬悩んだが、どうしたもこうしたもウルは護衛対象を守らなければならない。先ほど話した打ち合わせの通り、救出すべき人質が二人に増えただけだ。先ほどの流れと同じように――――

 

「―――――」

「っ?」

 

 一瞬、本当に一瞬だけ、ディズが屋根の上のウル達に視線を向けた。

 

 ディズには屋根の上に隠れる予定なんて伝えていない。そもそも島喰亀の甲羅の上がどうなってるかわかったものではないのだから当然だ。

 なら偶然?しかしウルはディズと目が合ったと感じた。彼女はしっかりとウル達のいる場所を視線で捉え、そして小さく素早く口を動かした。

 

「ま・て?」

「…………」

 

 意味不明だった。何を待てというのだ。目の前の盗賊たち、乗り込み強盗の連中は完全に道徳と倫理性が吹っ飛んでる。人の心を失った畜生と変わらない。身代わりになるといっても、次の瞬間殺される可能性もあるのだ。

 

 と、考えているうちに彼女が盗賊たちの前に立った。ウルは息をのむ。

 

「もし、ディズ様に暴力が振るわれそうになった時は魔術で視線を集めます」

「その間に俺が救出か……」

 

 自信は無かったが、そうするしかなかった。せめて救出のタイミングだけは見失わないでおこうと眼下をにらむ。

 

 盗賊たちは一瞬、呑気な声で出てきたディズに呆気にとられていた。が、ディズの美しい容姿を確認して、ニタリとその顔をすぐ下卑た笑みに変えた。

 

「お嬢ちゃんが代わりに殴られてくれるって?」

「うんそうそう」

「で、お嬢ちゃんは条件聞いてたか?処女じゃなきゃいけないんだぜ?ウチのボスは」

「勿論」

 

 するりと、かぶっていた上着を脱ぎさり、彼女の白い肌が露になる。島喰亀の魔灯に照らされた彼女の姿は美しく、そして艶めかしかった。盗賊たちは興奮するように声を荒らげ、早速、というように髭面の男が彼女へと手を伸ばし、ウルは竜牙槍を握りしめた。

 

「あ、そうだ、その前に一つだけ確認したいことがあったんだ」

「あ?」

「貴方たちは、ヒトを3人以上殺したことがある?」

 

 その問いに、一瞬盗賊たちは顔を見合わせ、そしてゲラゲラと大笑いした。

 

「なっつかしいなあ!都市の外の法か!1人目は事故!!2人目は正当防衛!3人目は殺されても文句は言えない!!」

「人を殺したこと?どーだったかなー?おいお前ら!どうだったっけかね?」

「そこらへんで転がってるジジイは骨共が殺したしノーカンだろノーカン!」

「ああ、砦の奴隷の女は最近2人くらいおっちんだぜ?」

「勝手に死んだんだから俺らのせーじゃねえな、ハハハハハ!!!」

 

 盗賊たちは自分たちが踏みにじった命を嗤いつづける。乗客たちは思わず顔を顰め唸る。あるいは怯え震える。そして、質問をしたディズだけは、ただ彼らの言葉を聞き、静かに頷いて、

 

「成程、残念だ」

 

 右手を振った

 

 その軌跡はウルには一瞬も見えなかった。ただ右腕が消えたように見えた。

 

 そして目の前の髭面の首が“するり”と地面に滑り落ちた。

 

「え?」

 

 ウルは呆けた声を出した。

 

「え?」

 

 盗賊たちも呆けた声を出した。

 

「え?」

 

 髭面の男も呆けた声を出した。そしてそのまま絶命した。

 

 




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