かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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四極④

 

 その日、大罪都市グリードは突如として、凄まじい地震に見舞われた。

 

 理不尽な魔の者達が大地に溢れるこの世界において、想像もつかないような天変地異に遭遇する事は決して珍しくは無い。空が異常な色に染まったり、都市が迷宮へと変貌を遂げたり、あるいは太陽神がお隠れなられたり、と様々だ。

 大地が揺れる”地震”という現象も、これまでのグリードが未体験だったというわけでは無かった。だが、立っていられないほどの大振動は流石に未経験だった。

 

 精霊を司る神官達も、都市を守る騎士団も、魔物達を獲物とする冒険者も、誰も彼も身動き一つ取れなかった。万一に備えて都市に常備されていた防衛機構も起動させる暇も無い。倒れ、身体を縮こまらせて、なんとか、凌ぐだけで精一杯だ。

 この世の終わりかと、誰かが嘆いた。そんな言葉が大げさに聞こえないくらいの凄まじい振動だった――――だが、不意にその揺れは収まる。

 

 ピタリと、まるで巨大な何者かが両手でピタリと、その振動を押さえ込んだように。

 

「おお…!!唯一神が我等をお救いになられたのだ!!」

 

 誰かが言った。

 勿論、その言葉に根拠などなかった。しかし、その言葉に多くの者等は同意した。きっとそうに違いないと、誰もが確信した。自然彼らは両手を合わせ、深く深く頭を下げて、神と精霊達への祈りを捧げ始めた。

 

 これからも我等をお守りください。

 慈悲深いその眼で、その膝元で暮らす我等をお見守りください。

 

 それはこの世界に住まう彼らにとって至極当然の行いだった。神と精霊に対する祈りの奉納こそが最も現実的な、この世界で彼らが生き抜くための手段なのだ。

 

「嘆かわしい。なんと悲惨な光景だ」

 

 だからもし、そんな彼らの姿を嘲る者がいるとすれば、それはきっと邪教徒に他ならなかった。

 先の地震で揺れた建造物の一室、破損した窓から外の街を眺め見る年老いた只人の男、邪教徒の一人ハルズは必死に神への祈りを捧ぐ人類に対して、侮蔑とも嫌悪とも言えない視線を投げつけていた。

 

「誰がアレを起こし、そして誰が止めたかも知りもしないで、ひたすらに神なんぞに祈りを捧ぐ。末路に想像が付く」

 

 漏れ出る呪いと嘲りは、しかし少しも彼を愉快な気持ちにさせることは無いらしい。その目は何処までも淀み、口はなにかを耐え忍ぶように歪んでいる。

 

「……が、斜陽なのは我等の方か」

 

 邪教徒、【陽喰らう竜】は険しい状況にあった。

 この半年の間、七天達は精力的に邪教徒らの撲滅に動いていた。草の根を分けるかの如く、各都市に残存する邪教徒らのみならず、その温床となるような資金源、人材の調達場所すらも全て、余すことなく壊滅へと追いやっていった。

 だが何よりも痛手だったのは、陽喰らう竜をまとめる首魁の役割を果たしていた者達が次々と討たれたことだった。

 

「ヨーグもクウも去った。私が死ねば、遠からず邪教徒は、自分の不幸を他者に撒き散らすことで発散する悪鬼の集まりに墜ちるか」

 

 そして、自分の寿命はそう長くない。クウのような長命種でもない。ヨーグのように魂を弄くり回すような真似も出来なかった。幾つかの邪法を用いて寿命はのばせるだけのばしたが、もう限界だ。

 時間はない。だが、同時に悲願の成就も残り僅かであると彼は知っている。

 

「大罪竜。七の大罪の中でも最も凶悪なる魔眼の竜よ」

 

 ハルズは両の手を合わせる。自分が先程まで嫌悪し、侮蔑の言葉を吐いた都市民達と同じように、それを真似るようにして一心不乱に祈り仕草をして、竜へとその祈りを捧げた。

 

「どうか無事――――――」

 

 祈りとも、呪いともつかぬ言葉は、人々のざわめきの中に消えた。

 

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

四極の竜との戦いは熾烈を極めていた。

 

「【魔断】」

「【破邪天拳】」

 

 

 ディズは剣の冴えを取り戻し、グレンの支援によってわずかに形成は人類側に立て直した。だが、しかし、それを理解したのか、四極の竜はその戦い方を即座に変えた。

 

『VA』

 

 空中、高い位置へと移動し、旋回する。更に自身の周囲に更に細かく分割した自身の翼を旋回させる。輝ける翼の断片が竜の周囲を旋回する姿は美しくもあった。

 だが、その翼の旋回する目的は、竜を狙う遠距離からの攻撃は即座に射貫き、接近する敵の脳天を即座に砕くための代物である。竜が再び四属性の魔眼を凝縮した破壊を引き起こすための、徹底した防衛陣だった。

 

 徐々に、敵の動きが洗練されつつあった。明らかに、成長している。

 

「【天拳】で、あの四極の魔眼、防げると思う?」

「自滅覚悟ならできるかもな」

「【葬鐘】規模か……厳しい、な!!」

 

 近接で共に戦うグレンの言葉に、ディズは顔をしかめつつ、空から降り注ぐ翼の猛攻を星剣で弾く。

 色欲との戦いでグロンゾンが使った【天拳】の最大出力、【葬鐘】は圧倒的な消去の力を誇るが、一方で使い手に致命的なダメージを与える。先の戦いでは幸運にも――――と、言って良いかは不明だが、腕が先に吹き飛ばされたたために、結果として使い手たるグロンゾンは自由に動けたが、そうでなかったなら悲惨だっただろう。

 まして、グレンは本来の使い手では無い。その彼にそれだけの出力をぶっつけ本番で出させて、上手く行くかは不明だった。

 そして、現状を維持することも、今は厳しい。翼は雨のように降り注ぐ。音も無く、なのに目にもとまらぬほど速く、そして営利だ。牽制のための攻撃であるはずなのに、それを防ぐだけでも厳しい。

 

 どのみち、長くは持たない。どう動くか―――

 

《ディズ様。グレン様》

 

 その時、鈴の音の声が二人の耳を打った。

 

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 生誕したばかりの四極の竜は、冷静だった。

 四つの属性の入り交じった魔眼によって周囲を俯瞰している。

 四つの眷属竜達が打ち倒された情報も、四極は有していた。瓦礫の山の上で、此方を付け狙っている者達を有象無象として雑にまとめたりはしていない。その戦闘力と、自分に対しての脅威、そのどちらも鑑みて、もっと注視すべき相手を見定めていた。

 紅を打ち倒した個体。

 翠を砕いた個体。

 黄を不意討った個体

 蒼にあらがった個体

 どれに対しても警戒は怠るべきでは無いが、最も重視すべきは―――

 

『VA』

 

 四極の竜の、その魔眼の力の凝縮が9割ほどに達したとき、動きがあった。 

 だろうな、と、四極の竜はその動きについても冷静に見定めていた。母なる強欲の敵対者達は自分の魔眼を放置できない。この一帯の一切合切を灰燼とする攻撃を放置すれば、次の攻撃で、自己修復機能を持たない個体はほぼ消し飛ぶ。

 だから、敵はなんとしても妨害しなければならない。そして、その為に選べる戦術は限られる。

 

「【■■――――】」

 

 後方に隠れ、支援していた個体。母すらも、警戒せざるを得ない凶刃なる術式を操る白銀の個体が飛び出した。ソレが出るのは分かっていた。即座に翼を展開し、射線を塞ぎ、更にその個体自身を射貫くために走らせた。

 

「【ミラルフィーネ!!!】」

 

 そして、その先に鏡が来た。盾のようにしながら、銀の個体を塞ぐように。簒奪の力、翼を丸ごと奪おうと、銀を囮にしたのだろう。

 

『VA』

 

 それも、予想できた。故に、四極の竜は翼を即座に、瞬く間に鏡の射線から外した。音も無く、必要な予備動作も無い。まるで見えざる手が、飛翔する翼を摘まみ、動かすように、鏡の射線から退けさせる。四極の内にある【黄】の力のたまものだった。

 簒奪の力を翼はなんなく回避し、鏡の裏側に隠れ潜んだターゲットに殺到し、串刺しに―――

 

「――――よく、見るが、見えるものに、意識をとられすぎるか、確かにな……!」

『カカ、カ……!』

 

 しようと、した。

 だが、鏡の裏側にいた個体は、銀色では無かった。

 神のもたらした【権能】、その外套によって四極の【魔眼】を持ってしても見破れぬほどの精緻の変装を施した個体が、そこにはいた。身体に人骨の鎧を身に纏い、翼から身を守っている。それでも尚、骨ごと肉抉ったが、致命傷には至っていない。

 

 囮

 で、あれば――――

 

「【■■】」

『VA――――』

 

 別方向からの、鈴の音、四極の竜は動きを一瞬止めた。

 

 

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