かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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望みを尊ぶ者

 

 

 自分自身に突きささった無数の封印術、白い槍、そして灼熱。

 その全てを克服し、砕ききって外に脱出したグリードは、尚も身体に纏わり付いた光る指を、埃を払うようにして除けると、ため息を一つついた。その身体には無数の傷跡があった、穴あき、血のようなものがこぼれ落ちる。背中に現れていた光輪も大幅に破損の跡がある。

 だが、グリードはまるで気にした様子は無かった

 それどころか、その身体の傷はみるみるうちに回復していく。子供のような細く短い手足に空いた穴は瞬く間に埋まっていく。背中の光臨も、あっという間にもとの状態に戻った。異形に封じられる前の状態と、何ら変わらない姿に戻っていた。

 

『―――――はあ』

 

 だが、グリードの表情は晴れなかった。それまで、アルノルド王達と相対し、一方的に殴りつけられて、拳をたたき込まれていたときすらも、そんな表情を浮かべてはいなかった。

 その、心底不愉快そうなその表情で、目の前の異形の眼球を睨んでいた。

 

『裁定者、ですか?』

 

 背中の光臨が輝いた。廻る。回転する。激しい光を放つ。

 

〈抵抗を確認、戦闘能力の無効化を再実gggggggg〉

 

 再び、瞳の異形の中央に突如として陥没した。光臨から放たれた力が、一挙に異形の身体を焼き払った。肉が焼けたような、金属が焦げたような、異様な悪臭が周囲充満した。

 

『今更のこのこと、賢しい顔で出てきて、何のつもりなんですかね?』

 

 無数の翼が、先と比べると恐ろしく速く、グリードの身体へと伸びる。明確な敵意を持って蠢いたそれを、強欲の竜は手で掴む。掴んだ端から、掴んだ部分を瞳の翼は砕いていった。グリードの身体が次々と崩壊していくのが見えた。それが翼の有する力なのか、砂糖菓子のようにぽろぽろと崩壊していく――――が、その身体が砕けるよりも速く、瞬く間に光輪は輝き、グリードの肉体を再生をする。

 翼の破壊を凌駕する回復力で、翼を容赦なく鷲掴みする。

 

『努力は好き、自分でも自分以外の誰かでも、それが報われる事がなかったとしても、望み、得ようとする渇望を、私は尊ぶ』

 

 翼を、まるでヒトの腕を掴むように、グリードは“異形の瞳”を背負い、壁に叩きつけた。奇妙な音がした。何か、異形を構成するものが強くひしゃげる音がした。肉が潰れるような音も聞こえた。なのでその“異形”が最低限、生物的な要素を有しているのは間違いないようだった。

 もっとも、その要素がたった今、粉砕されたようなのだが。

 

『だから、魔王の坊や、天賢王の坊やも、私は好きですよ?』

 

 半ば呆然とした顔で、そのとんでもない光景を眺めているアルノルド王とブラックに、グリードは微笑みかけた。

 

『ああ、でも』

 

 そしてそのまま、自分がぐしゃぐしゃにした異形を見下ろす。その瞳は冷たかった。

 

『何も成さず、安全な場所から傍観して』

 

 再び、空間が割れる。強欲の周囲から、先と同じような翼が、複数出現した。翼が伸びて、再び強欲の竜へと向かう。そこに、最初の時のような、どこか確かめるような躊躇は皆無だった。脅威を排除すべく、一挙に蠢く。

 

『結果だけを見て』

 

 その翼と、空間の奥から賢しく隠れるようにしてグリードをつけ狙う瞳達を、引っつかんだ。音も動作もなく高速で飛翔し、出現した翼かっさらうようにまとめて掴むと、まるで投網にかかった獲物を引っ張り出すようにして、その翼を引き抜いて、空間の裂け目から引きずり出した。

 

『ソレは間違ってる。存在してはならない。なんて、後出し』

 

 引っ張り出した無数の瞳を、壁に叩きつけられ、地面に叩きつけられ、また叩きつけられる。振り回し、壁になすりつけて、悲惨な悲鳴と破壊音を鳴り響かせても尚、グリードは一切手を休めずに、そのまま、最初に粉砕した“異形”のすぐ傍に“ソレ等”を叩きつけた。

 

『下品、よね?』

 

 異形達は、それでも抗う。その大量の瞳達が一斉に、先ほどグリードを捕らえた力を、聖なる杭を放とうと輝きを放つ。が、最早二度目は通じなかった。それらを強欲の瞳で一瞥すらすることもなく、それを片手で弾き飛ばす。

 その時点で、瞳達はようやく、自分たちの手に負えない存在だと気が付いたらしい。

 

〈撤退――――    〉

 

 異形達が、自分達の周囲に再び空間の裂け目を創り出す。そしてその中へと撤退を試みる。しかしそれよりも速く、異形達が作り出した“裂け目”よりも遙かに荒々しい“ひび割れ”が、異形をまるごと飲み込んで、砕ききった。

 

『【六輝壊界】』

 

 強欲の竜は、全ての異形達を一蹴した。

 一瞬にして、場は静寂に包まれ、新たなる異形は現れない。空間は正常に戻された。グリードはその結果に『根性が無いのね』と小さくなじると、そのまま再び、二人の王たちへと視線を戻して、ニッコリと笑った。

 

『さて、それでは、続きをしましょうか?』

 

 王二人はこちらを見て引いていた

 

『あら』

 

 グリードは割とショックを受けた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「おい、お前の懸念、消し飛んだぞ。雑に」

「そうだな。雑に」

 

 魔王の指摘に対して、天賢王アルノルドは半ば呆然となりながらも、答えた。先ほど、グリードが巻き起こした光景に対して、どうリアクションすべきか、アルノルドは大分困っていた。

 長い年月、歴々の王たちに苦渋を吞ませていた“機構”が、なんか雑に消し飛んだ。

 無論、だからといって万事が解決に向かうかと言えばそんなことは全くない。あくまで、先ほどグリードが粉砕したのはその端末でしか無い。

 ないのだが、あそこまで、こう、かなり直接的な「暴」によってぶっ飛ばされると、感情の置き所に困る。歴代の王たちがコレをみたらどんな顔をしていたことだろうか。

 

「で、どうすんだよ」

「勝つ他在るまい」

 

 結局、状況的には何一つ変わっていない。想定外(イレギュラー)は消し飛んでいなくなった。いるのは全ての儀式を完了させ、万全となった敵のみだ。魔王は遠い目になりながら、笑ってアルノルドに問うた。

 

「俺、向こうについて良い?」

「ダメだ」

 

 魔王は舌打ちした。この期に及んで敵に尻尾を振られるのは大変に困る。

 チラチラと、未だに飛び散っている光る指先。手のひらを指先でつつくと、それを自身の闇で消し飛ばしながら、魔王は鼻で笑った。

 

「期待外れって考えで良いのかね」

「期待も歓迎もしていない存在だったが。向こうが想像以上、という方が正しいだろう」

「どうなってんだよアレ。一応あの目ん玉一個一個、“七天と同等”の力あるはずだろ」

「知らん」

 

 本当に知らない。

 後からの追い打ちが全く来ないことを考えると「対処不能」として判別された可能性が高い。ハッキリとしたのはただ一つ、グリードが本当に、完膚なきまでの規格外と成り果てたという事実のみだ。

 無論、だからといって此処で引く選択肢は皆無なのだが

 

『相談、終わりました?』

 

 グリードは小首を傾げて訪ねてきた。律儀に待っていたらしい

 

「ああ、待たせたな」

『いえいえ、私と貴方たちの仲ではないですか』

 

 グリードはクスクスと笑う。笑いながらも、背の光輪は回転を続けている。輝きの激しさがましていく。先の“瞳の異形”から受けたダメージは最早跡形も無い。

 

『おかしな邪魔者が入りましたが、それでは』

 

 光輪の光が放たれる。迷宮が、その主の力を受けて断末魔のような軋みを上げる。それでも尚、崩壊へと至ることは無いのは、自身を生み出した主に対する忠義故だろうか。

 

『最後の生存競争を始めましょう?』

 

 【終焉災害/六輝竜神】

 

 グリードは高らかに謳った。

 

 

 

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