かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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「どういうこと、なのでしょうか」

 

 騎士団団長にしてユーリの父親、ビクトール・ブルースカイは悩ましげに声をあげた。向かう先にいるのは、枯れ木のように細い老人、【最強の勇者】と名高いザインが座る。

 今回の騎士達の動員は、彼の依頼だった。勇者の後継者であるディズと、自分の娘、ユーリの為の剣術訓練。七天として今後活動していく以上、魔力によって強化された対人戦闘も必要になるという、尤もなザインの言葉に同意し、騎士団と七天候補生達の合同訓練を行ったのだ。

 プラウディアの安寧のため、という使命感があった。

 娘のために、なにかしてやりたい。という親心も否定はしない。

 そんなわけで気合いを入れてきたのだが、その彼の気合いと覚悟は、想像だにしない方向でくじかれることとなった―――つまり、自分の娘であるユーリの無双と絶望によって。

 

「何故、あの子はあんな風に……」

 

 ユーリには天賦の才能がある。ソレは間違いない。親の贔屓目なんて必要ないくらいの、圧倒的な剣の才能だ。魔物退治によって肉体が強くなるこの世界において、武術なんてものは役に立たない、なんて抜かす者もいるが、そういうこの世界の常識すらも一笑す程、彼女は卓越していた。

 現実にして、これまで濃密なる年月をかけて、魔物を殺し、肉体を強化し続けてきた騎士達が、それよりも遙かに若く、【魔画】も乏しいはずの彼女に敗れているのだから、文句なしの天才と言っても良い。

 良い、はずなのだ。だからこそ「剣の握り方」に悩み、泣く彼女がまるで解せない。我が子の事であるのに、彼女の思考が、嘆きが、ビクトールにはまるで理解できなかった。

 

 あの後、ユーリは疲れ果てたのか、勇者の後継者に連れ添われ、眠ったらしいが、それまでの狂乱は酷かった。なんとかしてやりたいと思うが、何を嘆いているのかが分からない。

 だからこそ、ザインに答えを求めた。自分よりも遙かに上の剣の達人である彼ならば、答えは分かるだろうと願って。

 

「わからない」

 

 しかし、ビクトールの願いは、あっけなく打ち砕かれる。彼は首を横に振ったのだ。

 

「わからない、ですか……」

 

 少し、失望した顔になるビクトールに、ザインは淡々と言葉を続ける。

 

「実際に握り方が間違っているなら補正も出来る。頭が勘違いしているなら指導もできる」

「ええ」

「だが、アレは、正しく剣を握り、正しく剣を振り、正しく相手を打倒した。執念でもって鍛え上げた並み居る騎士達を、その幼さで」

 

 相手となった騎士達からすればそれはあまりに理不尽としか言い様がない事だ。

 血豆をつくって毎日汗水流して剣を振り、魔物を殺してる彼らの努力を嗤うようだ。実際、これからしばらくは騎士達のメンタルリカバリーは必須だった。

 

「にもかかわらず、分からないという。間違っているという。自分は正しくないと確信している」

「やはり、勘違いなのでは?」

 

 ヒトの脳は、容易く間違いを起こす。勘違いする。誤作動を起こす。間違ってるのにも関わらず、それが楽だと身体が勘違いして、悪癖となる。そういう事は騎士達の指導をしている最中、よくよく起こりえた。

 そういった躓きが、娘にも起こっているのでは無いかと、そう思った。

 

「おそらくは違う」

 

 だが、ザインは首を横に振る。

 

「此方の指導、教えを、彼女は全て吸収した。正しくない癖、肉体の動作。起こりうる躓きの全てを彼女は読み解いて、理解していた。我々が認識出来る範囲の過ちは全て見抜ける」

「はい……」

「その上で、今の自分は間違っていると言っている。ならばそうなのだろう。彼女は、彼女にしか分からないレベルの、間違いがある」

 

 それは最早常人では到底計れぬほどの微細な誤り。髪の毛一本分ほどの僅かなズレが、彼女の中に存在する歯車に噛んで、動かなくしている。それがあまりにももどかしくて、苦痛で、彼女は泣いているのだ。

 

「そしてそのズレが、()()()()()()()()()()()()

「成長……いや、ちょっと待ってください」

 

 ビクトールは頭痛を堪えるような顔つきで、ザインの言葉に待ったをかけた。

 

「あの子は、剣技を教えてから、瞬く間にその技術を吸収し、成長しました。実際、あの子は私の部下達を容赦なく叩きのめしたではありませんか」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ヒトが両足を使って歩くという機能を獲得したのと大差ない」

 

 四つ足で歩いていた赤子が成長する事を鍛えたとは言わない。備わっていた機能が、生命の設計図の通りに備わっただけだ。

 

「彼女は生まれながらに完成していたと思ったが、どうやら違ったようだ。俺は彼女の才覚を全く引き出せていない。成長していない」

「いくら、なんでも、買いかぶりすぎでは……」

 

 あるいは冗談か何かであってくれ、というビクトールの願いは、ザインの真顔によって一蹴された。彼は一切の誇張抜きに、淡々と、自分の推測を語っている。

 

「そしてその間違いを指摘できない俺には彼女ほどの剣才がない」

 

 ザインはそう断じた。ビクトールは本気で頭を抱えた。

 

「貴方以上の剣士はこの国には、というかこの世界にはいないのですが……」

「そうだな、大変に不本意だが」

 

 あるいは、冒険者の最高峰、黄金級のイカザ殿ならば、ともおもったが、ザイン曰く、彼女も指導を勇者と共に受けているのだという。その上で、あの狂乱だ。

 

「この世界に、彼女を導ける者はいない。自分でたどり着くしか無い。自分の剣の、その神髄に」

「出来るのでしょうか……」

 

 ビクトールは、自分の娘が、酷く困難な道を進まざるを得なくなっていることに気がついた。そこに標はない。手を引いてくれる導き手もいない。たった一人で、歩みを進めなければならない、困難極まる孤高の道。

 その娘の道を、手助けする事もままならないのは、父親として、あまりにも忸怩たる思いだった。

 

「そして、できたとして、娘はどうなってしまうのか……」

「想像もつかない。何者になるのか、どのような存在へと至るのか。この世の大半の者は、自身の秘めたる才能を知らぬまま終える。そしてそれは必ずしも、不幸であるとは限らない」

 

 そんなビクトールの絶望を理解するように、ザインは語る。その言葉は、やはり淡々としていたが、気のせいで無ければ、少し柔らかだった。

 

「過ぎた才能は、時に当人を砕く。そうならぬよう、助けることはしてやれる」

「……お願いします」

 

 ザインに頭を下げて、ビクトールは祈った。

 我が子、ユーリの道行きに、少しでも幸いが訪れることを。あるいは、その道の困難さに心おられ、逃げ出してしまうこともまた、願った。それが、人類にとっての損失だとしても、父親にとっては、その方が喜ばしかった。

 

 だが、そうはならないであろうと言うこともまた、父親として、どこかで理解していた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 【星剣継承の儀】

 

 勇者の証たる星剣に選ばれ、その輝きに包まれた友を前に、ユーリは師であるザインから、言葉を受けていた。

 

「お前は勇者になることはできない」

 

 それは残酷な宣言だった。

 

「お前には聖者の才がない」

 

 ユーリが勇者ザインの、その鮮烈なる姿にどこか焦がれていたのは隠しようのない事実だった。血族の願い、先代の願い、それらを鑑みても、彼の剣を学ぶ過程で、そこに焦がれないというのは、無理な話なのだ。 

 だから、彼の言葉はユーリを傷つけ、しかし、それでも彼女は決してひるむこと無く、正面から師の言葉を受け止めた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼の言葉は、自分を突き放す言葉では無いと理解していたからだ。

 

「敵を説くでもなく、誰かを救うでもなく、斬る事を選ぶ。それは最早、本能に近い」

 

 そういって、ザインはその枯れ木のような掌で、ユーリの頭をそっと撫でた。それは誤魔化しでは無かった。慰めでも無かった。これから独りを行く、ユーリの身を案じ、尊んだ。

 

「友を助けたいと願うならば、彼方まで昇れ。障害の全てを切り裂いて」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 幼い頃から、ずっと分からなかった。

 

 どれだけ剣を握り、振るっても何かが間違っている気がしてならなかった。

 父に訴えても理解して貰えない。先代の天剣にも、理解されなかった。

 先代の勇者の元に案内されて、ここならばと期待もしたが、変わらなかった。

 幼い頃からの友すら、自分の訴えが理解できず、悲しそうに、申し訳なさそうに謝った。

 理解者はいなかった。

 何も分からないまま、光のない、水の中を泳ぎ続けるに等しかった。

 血迷って、一度武者修行なんて事をしたこともあったが、何も変わらない。

 自分と同じ視座を持つ者はどこにもいなかった。

 

 自分は一人だと理解した。

 

 それを悟ってから、更に厳しく自分を鍛え抜いた。

 自分以外の皆は、どうしようもなく弱い。

 守らねばならない。

 その役割が、自分にはあるのだ。自分をそう定義した。

 そうでなければ、この寂しさに理由が無ければ、あまりにも悲しすぎた。

 

 そう決めていたのに、

 

 何故か今、自分は逆に守られている。

 

 自分よりも遙かに非才な男が、身を挺して守ってくれている。 

 凡夫の身で、非才の身で、死にものぐるいで守ってくれている男がいる。

 竜の放つ滅光から、ボロボロの身体で自分を抱きしめ庇おうとする。

 

 その事実が、どうしようもなく、腹が立った。

 

 才能も無い凡才が、孤独でも無い男が、何故自分を守る。

 寂しさを理解してくれないのに、どうして抱きしめる。

 

 あまりにも不愉快だった。

 

 天から才を賜りながら、守られて、その温もりに安堵を覚えた自分が、気持ち悪かった。

 

 で、あれば切り捨てろ。

 

 醜悪な雌に成り下がって、甘えて、守るべきを守れず死ぬくらいなら、己ごと一切を両断しろ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()―――――

 

「――――あ」

 

 その瞬間、かみ合わず、ずっと動かなかった歯車が押し出され、

 

()()()()

 

 そして次の瞬間、迫った破壊の光熱が、真っ二つに切り裂かれた。

 

「は!?」

 

 ウルは今日、何度目かになるかもわからない驚愕の光景に目を見開いた

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

〈gggggggggggeeeeeeeeeeeeeee―――緊急事態発生(エマージェンシー)

 

〈創造主の定mtttttt規定能力からのooooo幅な能力超過を確認〉

 

〈新たなる【終焉災害】発生〉

 

類別(カテゴリ)■■■(エラー)■■■(エラー)・eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeerrrrrrrooooooorrrrrrrrrrrrrrrr】〉

 

〈ライブラリに該当する種目無し、判別不明〉

 

〈新約12条に基づき、新たなるss終焉因子項目を【ノア】へ申請〉

 

〈申sss中〉

 

〈申請中uu〉

 

〈申請完了〉

 

〈新項目登録完了、再識別開始〉

 

〈【因子類別(カテゴリ)(ソード)】〉

 

〈――――――――――――――――――――――――――――――(ソード)?????〉

 

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