かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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六輝竜神⑤ どれほど無様であろうとも

 

 時間を少し戻して、55階層 地上部にて。

 

「さて、諸君、無事、かな?」

 

 少しおどけたようにそう声をかけるのは、早い段階で強欲の竜によって戦いからたたき出された天魔のグレーレだった。彼は、自らにかけた蘇生の術で、なんとか復活し、そして四極の竜達の爆発によって死にかけていた仲間達を集め、治療を施していた。

 

「やあ、グレー、レ、流石だね」

「ありがとう、ございます」

「……」

『カカッカ』

 

 ディズやシズク、天衣のジースターに途中から救援に来たグレンも、ひとまず目につく範囲では全員がそこにいた。彼らはボロボロではあるが、なんとか戦えるレベルまでは回復していた。

 だが、問題はここからだ。

 

「さて、それで?どう救助に向かう?」

 

 ジースターは問うた。が、即座にグレーレは首を横に振った。

 

「無策では、何の役にも、たたんなあ?カハハ」

 

 事前に、彼は地下での戦いの状況を確認している。最早この世のモノとも思えないほどの激闘が巻き起こっているのを確認した。それ自体は興味深かったが、今、この状態で、自分たちがそこに介入するのは、何の意味ももたらさない。どころではない。

 

「死ぬだけ、だね。それで、王が心を乱して、隙をつくってしまってはたまらない」

「王も、ハイになっておられるのだろう。それを邪魔するような、半端な事はできない」

 

 だが、だからといってここで戦いが終わるのをじっと待つというのはあまりにも間抜けな話だ。問題はその好機がどこにあるかだが―――

 

「…………あ?」

 

 それに最初に気づいたのは、彼らから距離を取っていたグレンだった。崩壊した瓦礫の山、リーネが創り出した簡易要塞の残骸へと、彼は手を伸ばし、指を鳴らす。瓦礫が浮き上がる。そしてその中に、グレンの気がついたモノが見つかった。

 通信魔具。それが、声を放っていた。

 

《――――――30、秒……後!!―――》

 

 その短い通信で、音が途切れる。その声がエシェルの声だと全員気づいた。

 

「信じるか?」

 

 彼女が今、非常に不安定な状態であることは理解していた。

 それが真っ当な状態で紡がれた言葉なのかも怪しい。

 だがその上で、全員は頷き、残された最後の力を振り絞るため、武器を構えた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 嵌められた。

 

 あまりにも単純極まるトラップ。正気を失ったように見せかけた、命がけの特攻。ミラルフィーネと一体化した少女の、その覚悟をグリードは見誤っていた。

 ミラルフィーネそのものの特異性、その異様なまでのきらめきに目を奪われて、もう一方の側面、少女の輝きを視損ない、判断を曇らせた。

 その代償はすぐさまやってきた。

 

『カッカッカカカカ!!!!』

《うにゃああああああああああ!!!!!》

 

 真っ先に飛び出したのは、灼熱の炎の剣を身構えた死霊騎士だ。刃はまっすぐに、身動きのとれなくなっているグリードの身体にたたき込まれ、切り裂かれた。灼熱の痛みが身体を焼く。

 

「【模倣天剣】」

「【無尽強化】」

 

 金色の天剣を模倣する天衣の身体を、ボロボロの天魔が強化する。その術式は本来の彼の能力を鑑みればあまりにも稚拙であったが、しかし天衣の剣は間違いなく、グリードの身体を切り裂き、脚を落とした。

 

 身体が灼ける。両断された身体が痛む。

 

 癒やしを、そう思い、治癒の魔眼を消費しようとしたが、手応えが無いことに気づく。膨大な速度の消耗、そしてここに至るまで負い続けた膨大な数の傷の治癒。消耗し続けたリソースが、とうとう尽きた。

 

 敗北、死のイメージが頭をよぎる。

 

 ソレはとても恐ろしく、切ないことだった。

 

 自身の培ってきた全てが、失われていく。

 

 あれほど望み、全てを得ようと画策し、培ったそれらが全て損なわれようとしている。全てを望もうとした者に訪れる悲劇としては、あまりにも典型的な末期が、自分に迫っている。

 あんなに頑張ったのに、ダメだった。皆の想いを、苦しみを、無駄にしたくないとあがいてみたけど、ダメだったのだ。

 

 だが―――

 

『――――フフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 その末期すらも、愉しんでしまう自分は、やはりどうしようも無い怪物だ。

 

 最後の刹那。強欲の終わり、それを満喫すべく、グリードは残された拳を動かした。

 

「っぐ!?」

 

 縫い止められた鏡を強引に引きちぎる。いくらか簒奪されたが、かまわなかった。その拳で少女の腹を蹴り飛ばす。更にそのまま、再び此方を灼熱の剣で切り裂こうとする死霊騎士の腕を引っつかむと、それを容赦なく砕ききり、その勢いのまま、騎士の身体を粉砕した。

 そして、落下した灼炎の剣、赤錆の精霊、その少女を残った脚で蹴り飛ばす。

 

《ふぎゃぁ!?》

『っがあ!?』

 

 その剣は、天衣の元へと飛んだ。即座に自身の形態を解除した赤錆の少女は、味方を傷つけないだけ優秀ではあったが、否応なく隙は生まれた。

 

『【天罰覿面】』

「っご……!!」

 

 拳を、叩きつける。自分の腹に勢いよく飛んできた少女ごと、天衣を叩きつぶす。グリードは更に次の獲物を睨む。天衣に庇われた隙を見て、禍々しい術式を展開させようとするグレーレを視た。

 

「【大罪権能再――――――】」

『それはだーーー、めっ!アハハハハ!!!』

 

 発動の前に、それを叩きつぶす。不完全な術式が弾け飛び、竜と魔術師を吹き飛ばす。色欲の術式だったのだろうか、術式を砕いた腕があらぬ方向にへし曲がった。

 グリードはそのまま背後を振り返る。金色と白銀、そして忌々しい鐘の音が背後から響いていた。

 

「【星剣よ、無双の力を】」

「【銀糸よ】」

 

 少女達は重ねるように唄う。銀の糸がグリードを取り囲む。周囲に正常なる鐘の音が充ち満ちる。既に実体の殆どを失ったグリードの身体はみるみるうちに砕け散る。それでも尚、グリードは微塵も揺れず、前を見た。

 

「【破邪・紅蓮奥拳】」

 

 二人の少女の強化を受け、拳を構える我が子の仇がそこにいた。砲弾のように空を蹴り、突撃する。グリードはそれをいなそうと身体を動かすが、

 

「【■■】」

『が』

 

 白銀の停止が、その身体を僅かに止め、その隙を縫うように、右の拳がグリードの身体を貫いた。

 

『う、フフフ』

 

 金色の拳が、グリードの腹の中で鐘を響かせ、彼女の身体を更に破壊する。腹に大穴が開けられ、身体の至る所を欠損し、破損させて、それでもグリードは笑い、目の前の怨敵を見つめた。

 

『素敵ね、我が子の復讐の機会があるなんて』

「同意見だよ、クソトカ、ゲ!!」

 

 もう一打、と、逆の拳を振りかぶった怨敵を前にしたグリードの動きは、まるでよどみなかった。食い込んだ拳をそのままグリードは掴むと、躊躇なくその腕を両断する。

 

「…………!!!」

『【咆哮・六重合唱】』

 

 そして、叫ぶ。

 天拳の鐘の音すらもかき消す雄叫び。人が模倣し、再現した竜牙槍のソレよりも遙かに純粋で、おどろおどろしい竜の砲撃が空間全体に叩きつけられた。銀の糸がちぎれ飛び、金色と白銀の少女も、紅を殺した男も、纏めて弾き飛ばし、なぎ払う。

 

「【ミ、ラ……ル……――――】」

『頑張り屋さん。そろそろ沈みなさい』

 

 尚も黒衣を輝かせ、鏡を展開しようとする少女の首を掴み、剣を構える。防護の術式は未だに展開するが、最早崩れかけている。穿ち、砕いて、押し込んでいく。そのまま彼女の心臓を抉るべく力を込めた。

 

 そんな状況にあって尚、彼女は空へと手を伸ばし、涙をこぼしながら叫んだ。

 

「【会、い……たい!!】」

 

 上空が輝く、空を見上げる。

 グリードは見た。その恐るべき瞳でなくともハッキリと、その姿はあった。

 

 昏い翠。

 揺れる灰色

 白く輝ける槍を構える少年の姿。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 最後の激突が起こる、その少し前。

 

 五十五層の地下空間、リーネは崩落寸前の迷宮通路にて、ウルと再会していた。

 正確に言うと、グリードの攻撃で死にかけだったウルを引きずり込んで回収し、治療していた。

 

「リー、ネ、大丈夫か」

「へ、い、き、よ……!!」

「……了解」

 

 ウルは、それ以上何も言わなかった。大変ありがたかった。とてもでは無いが、彼の慰めも耳に入らない状態だったからだ。

 

 悔しい

 悔しい悔しい悔しい

 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!!!!!

 

 自分の状況を、リーネは理解している。エシェルに助けられた。エシェルに護られた。安全な場所で、怪我を負わぬよう、万が一の事があったら逃げられるように助けられたのだ。

 それが、あまりにも悔しい。

 リーネは驕っていた。今ハッキリと自覚した。

 白王陣の速度に革新が起こり、万事が上手くいっていた。全ての技術が発展し、何もかもが自由になる気がしていた。今なら何だってできる。ありとあらゆる事に手が伸ばせると、そんな確信が、高揚感が自分の中にあった。

 

 あまりにも、無様な、驕りだ。

 つまるところ、調子に乗っていたのだ。

 エシェルの傍にいたのも、いざというときに彼女を守れるようにする為だった。

 いざというとき、自分なら彼女を守ってやれると、驕ったのだ。

 

 それがなんだ?コレはどういう状況だ。

 彼女に自分は守られた!助けられたのは自分だった!!!

 無様を晒したのは己だった!!!!!

 

「っ…………ぐ、ぅぅぅぅう……!!!!」

 

 涙が止まらなかった。学園でいじめられていた時も、祖母が死んだときも、決して流れなかった涙があふれ出て止まらない。己への怒りでどうにかなりそうだった。

 それでも尚、自分の指と髪は微塵も止まらない。震えようと、筆跡がゆがもうとも、決して破綻には至らない。

 今日までの訓練の賜だった。祖母がその心血を込めて授けてくれた技だった。それが彼女を進ませた。

 驕り、無様をさらし、それでも成すべきを成すための力が、彼女にはあった。故に、

 

「ウル、ウル、ウル……!!!」

 

 涙を流し、爪先が割れ、血が滲み、魔力そのものが尽きかけて尚、ウルの背中に術式を刻み込む。強く力を込めすぎて、彼の背にも自分の血が滲んだ。痛みもあろう、だが決してウルは身じろぎしなかった。

 

「勝って……!!!」

「ああ」

 

 刻み込まれた白王陣と激情を背負い、ウルは頷いた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「【白鋼終牙】」

 

 灰が墜ちる。

 腕が切り裂かれ、心臓を抉り落とそうとした少女は消えていた。

 灰の少年は竜から奪った簒奪の姫を抱きしめて、地面に降ろすと、此方を見て、構えた。

 

「【白王降臨・落葉】」

 

 少年の背が輝く。それまで彼女が見てきた魔法陣と比べて、それは不格好だった。完成度という一点において誰がどう見ても、劣っていた。

 

 形も歪み、造形も不安定。バランスは悪く、強引に整えている。

 不細工だ。そんなものであっても彼らは、ヒトは、使う。

 それが、グリードにはどうしようもなく美しくみえた。

 

 それを背負い、掲げ、空を蹴り、少年は宣告する。

 

「殺す」

『やってみなさい』

 

 二つの竜の牙が激突する。

 

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