かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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外伝編 ある日の彼ら彼女らの日常または非日常② [時系列黒炎砂漠編直後]
ギャンブル好きな骨とギャンブルへたくそ(極)な少年


 

 

 とある衛星都市滞在中の事。

 

『のう、ウルよ』

「なんだよ」

 

 その日の訓練を終えて、汗を水で流してさっぱりとしたウルに、その訓練につきあっていたロックがカタカタと音を立てながら、尋ねてきた。

 何を言い出すか分からないが、なにやら楽しそうである。大抵、このテンションのロックが言い出すときはあんまろくでもない。死霊騎士の肉体を利用したアホアホな必殺技を考え出したときも大体このノリであるが、十回中九回くらいは失敗する。

 今回も似たようなものだろうか、と思いながら聞き直すと、ロックは頷き、尋ねた。

 

『お主、本当に運が悪いのか?』

「傷つく」

 

 傷ついた。本当のことでも言って良いことと悪いことがある。

 

『いや、よくお主、賭け事が弱いというとったじゃろ?』

「そうだな、大変不本意ながら」

 

 実際、ウルも流石に自分が賭け事の運が、なんというか、大分“アレ”な事には自覚的であるから、自分からそっちに近づく事は滅多にしないし、そのお陰で大損こいて、色々と差し支えでるような事には滅多にならない。

 が、誰かの付き合いで賭け事に足を運んだときは大抵大負けしている。それは事実だ。

 

『じゃがのう、賭けというのは、なんもかんも運が全て!というわけではない!』

「ギャンブル中毒者がよく言いそうな台詞トップテン来たな」

 

 似たような事を酒場のギャンブル大好き冒険者が何人も言っているのを知っている。よくよくその賭けのウンチクというか、必勝法を酒で赤らんだ顔で幼いウルに何度も言い聞かせてきていた。

 まあ、そのウンチクが本当に必勝法なら賭けごとなんて成立しないし、そもそも、その必勝法を聞いたウルが無残を喫しているので、やはりあまり役に立たないというのが証明されてしまったのだが。

 

『無論、完全な運頼みもあるにはあるがの?しかし、ある程度運を収束させる見極めどころというものはあるもんじゃ』

「ふむ」

『そしていかに負けを減らし、勝ちを取るかというのが賭けの醍醐味じゃ!』

「ああ、つまり、俺はその勝負所が見極められてないだけじゃ無いかと?」

『うむ。単に賭けがヘッタクソなだけなんじゃないかと思っての!』

「言わんとする事は分からんでもないが……」

 

 前述の通り、ウルは自分の賭け事の弱さに自覚的で、滅多なことで賭場には近づかない。だから、そういうギャンブルのセオリーというか、賭け方が理解できていないといわれれば確かにその通りだ(酒場のギャンブル大好きおじさんのウンチクは置いておく)。いわゆる競走(レース)でも誰が強いだとかそういうのも理解できずに賭ければ、それは外れるのは道理だろう。

 

『っちゅーわけでこの都市にそこそこでっかい賭博場があるらしいのでいってみんカ?』

「結局ソレが目的かい」

『いかんカ?』

「まあ、つきあうよ。今日の鍛錬はもう終わったし、仕事はない」

 

 随分長々とした遊びの誘いだったな、と笑いながら、ウルはロックと共に衛星都市へと降りていった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 衛星都市ルルウル、賭博場【廻る金貨】にて。

 

『ふむ、あいわかった』

 

 周囲の目から隠れるため、全身鎧姿となったロックは神妙な表情で頷き、ウルの両肩を叩いて、優しく言った。

 

『ウル、お主、賭博場をおりろ』

「かつてない追放を受けた」

 

 ロックと一緒に賭けを始めてから大体ⅰ時間後、ウルはロックから解雇通知を受けた。

 

『いや、まあ、ある程度覚悟はしていたんじゃがな?』

 

 ロックは心底悩ましそうにウルを見ながらウルが先ほど賭けた“大蜥蜴競走”のチケットを睨む。確か今回はロックと同じ、鉄板の大本命のチャンピオン大蜥蜴に賭けたはずだった。まあ、こいつならば一位から三位までは堅かろうという、鉄板の勝負だった。

 の、だが、

 

『お主が賭けたとたん、本命が大事故で機能不全になるのはどうなっとんじゃ』

「知らん」

 

 レース中、走ってる大蜥蜴が何故か突然頭からすっころんで気を失い、大波乱となった。今も本命に賭けた連中が「無効レースだ!」「金返せ!!」と大合唱している。

 勿論、その事故に何かしらの悪意が介入した様子も無く、本当にただただ、運が悪かっただけで、それを言い出すとその本命大蜥蜴に賭けた全員の運が悪かったと言えるのだが、何故かロックは真剣な表情でウルの肩を何度も叩く。

 

『うん、悪いことは言わん。お主、賭けは止めておけ。もうワシにお主は救えぬ。誰にも救えぬじゃろう。独り、荒野を行くが良い』

「こんな哀れまれながら言い渡されると逆に止めたくなくなってきた」

『あーよせいかんぞ。これ以上賭博場を荒らしては。出禁になってまう』

「そのレベルなの?俺の運の無さ」

 

 確かにその大事故が起こる前までも、悉く大外れをしたが、賭けになれているロックが真剣に引き留めてくるのは一体どういうことなのか。というか、どんな負け方をしたんだろうか、己は。

 

「おう、にーちゃん!見てたぜ!すっげえ負け方だったな!!」

「泣くぞ」

 

 と、そこに、赤らんだ酔っ払いの男が楽しそうに声をかけてきた。

 ウル達が賭博場にきてからちょくちょく顔を合わせただけの、名前も知らない男だ。しかしその、酒が入っているとはいえ大変に浮かれた顔を見るに、先のレースで大勝ちしたらしい。

 そう、レースが荒れると言うことは、レースで大勝ちする者も出ると言うことだ。彼のように、鉄板から外れたところに賭ければ、それだけもうけは大きいだろう。彼はとても上機嫌にウルに絡んできた。

 

「まあまあ、落ち着け!俺は代わりに大勝ちしたんだ!その金で良いところつれてってやるからよお!!」

『ほーん、どこいくんじゃ?』

「そりゃおめえ!ねーちゃんが山ほどいるところだよ!!グッヘッヘ!」

 

 それを聞いた瞬間、ロックは速やかに両手を合わせて合掌の姿勢になったのは理不尽だった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 その後、男のいう「ねーちゃんのお店」に顔を出したウルは、そこで自分についた無愛想な女が何故かいきなり目の前で明らかにカタギでない連中に誘拐され、それをなんとかするためのトラブルに巻き込まれる事になるのだが、ソレは別の話だった。

 

 

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