かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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生産都市ってどんなとこ?

 

 【竜吞ウーガ生産都市化計画】

 

 という壮大なる計画が主にリーネやシズクを中心に組み立てられていた。

 目的としては単純で、事、食糧事情に関してはどうしても外部に依存することの覆いウーガが、せめて自前の食料くらいは自分達でなんとかするための計画だった。

 勿論、他の都市との交易によるつながりを軽視するわけではない。いきなり何もかもを自立させることが必ずしも良い結果に繋がるとは限らないのはそうなのだが、あまりにも自活能力に乏しいのはそれはそれで問題だった。

 

 なにせ、他の都市国とは違い、ウーガには直接的に結びついている【生産都市】が存在しないのだから。その為の計画でもあった。

 

「どう?」

 

 そして、その計画の成果のお披露目会が、ウーガの大食堂で行われていた。目の前の皿に並べられた、シンプルに塩で味付けされた肉を、招かれた一同はかぶりつき、それぞれに感想を述べた。

 

「かってえ」

「うん、かてえ、歯ごたえバッチリ」

「いやー、きついっす」

「俺は好きだな」

「貴方は食べれるでしょうけど、お年寄りとかは厳しいわ」

 

 住民等の実に忖度の無い感想に、リーネはため息をついた。

 

「まあ、そうなるわね」

 

 正直、あまり期待はしていなかった。野生化していた角豚をなんとか捕らえて、育てたものだったが、まだ試作の段階であり、「まあ、食えはするけども……」というレベルなのはリーネも分かっていた。

 品種改良も進んでいない。ぶっちゃけると、“粗野な味”であった。

 

「やっぱウーガで家畜を一から育てるのは無理があるのでは?」

「品種改良には時間がかかりますしね」

 

 リーネの部下である魔術師達の意見も、実に正論だ。研究者として軟弱な意見を言うな、といいたいが、今回ばかりは反論の余地が無い。今更一から始めるのはどう考えても非効率だ。

 

「というか、都市で食える肉が柔すぎるんすよ」

 

 と、そう言うのは、比較的、食が進んでいた【白の蟒蛇】のラビィンだった。やや、独特な意見だったので、リーネは視線を向ける。

 

「そう?そこまで柔いと思ったことは無かったけど」

「まあ、名無しの意見だわな」

 

 そこにジャインも便乗する。むしりと、歯ごたえのある肉をかじりつきながら、彼は語った。

 

「俺等は都市の外を移動するとき、野生の生き物を食ったりするが、大抵はこんなもんだったよ。もっと臭くて、えぐみのある肉も山ほど食った」

「食べ慣れていると」

「というか、だ。【生産都市】の食料が凄すぎるんだよ」

 

 ああ、と、これまた反論の余地がない意見に、リーネは唸った。

 

「人類の英知の結晶だもの。あそこは」

 

 人類全体の食料を全て支えている、まさしく要とも言える場所。高位神官でも容易には立ち入れない、高度なる技術の結晶。これまで人類が培ってきたあらゆる知識が、英知が、あそこに蓄積している。

 

「家畜も、品種改良に品種改良を重ねた一級品。そりゃ、そこでとれる肉と比べたら、野良の獣の肉なんて、固い臭い不味いでしょうね」

「粗野な味も嫌いじゃ無いっすけどねえ」

 

 名無し達には好まれているのを喜んで良いべきかは分からなかった。まあ、味の好みという者は、貴賤は無い。誰だって慣れ親しんだものを好むもの。ラビィンの賞賛をリーネは素直に受け止めた。

 

「っつーかさ、生産都市の家畜を直接融通してもらえればいいじゃん!!」

 

 そしてそこに、酷く直球の解決案が跳んできた。元【黒炎払い】、現【白の蟒蛇】のガザの意見だった。

 

「……まあ、その結論に至るのよね。業腹だけど、無駄な努力を重ねるより、賢い選択よ」

「へえ、賢いじゃんガザ、馬鹿のくせに」

「時々鋭い事いうよなコイツ、馬鹿のくせに」

「馬鹿は止めなさいあなたたち。馬鹿だけど」

 

 馬鹿馬鹿といわれ、ガザはぶち切れて喧嘩を開始したが、リーネは無視した。とはいえ、彼の意見は正しい。正しいと思っているから、今、リーネ達はその方針でも動いていた。

 

「グラドル領の【生産都市ホーラウ】と現在交渉中よ。その件で」

「え、もう話し進んでるんすか?じゃあこんな風に苦労する必要なかったんじゃないっすか?」

「上手く行くか分からないから、色々試してるのよ」

「……ん?ウーガは、グラドルの管理衛星都市っすよね?なんで上手く行かないんすか?」

 

 ラビィンは不思議そうに首を傾げる。確かに彼女の言っている言葉は正しい。ウーガをグラドルの衛星都市で、そのグラドルのラクレツィアとウーガはそれなりに密の関係だ。そして、そのグラドルの生産都市に何かを融通して貰うのは難しい話ではないように思える。

 

 が、実際のところは、そうは問屋が卸さない。

 

「グラドルは、“例の騒動”で特に生産都市は大打撃を受けた。大地の精霊の使い手が消失したことで、一気にバランスが崩れてる。立て直しで大変」

「ピリついてると」

「何年も何年も品種改良重ねた家畜なんて、秘中の秘でしょ。それを、いろんな都市国と交流のあるウーガに渡して大丈夫か?って思われてるのよ。おまけに、ウーガの管理者は、カーラーレイに縁のあるエシェル」

「……あーそりゃ大変っすね」

 

 書面での交渉では、悉くが不発だった。ラクレツィアを介してもまるで上手く行かなかった。やむなく今回は直接顔を合わせての交渉である。これでなにもかもすっかり交渉が上手く行って、きっちり家畜をゲット、なんて話になると考えるのはあまりにも楽観的が過ぎるだろう。

 

「【生産都市】の運営者達は異次元に頭が良いって話は聞いたが、そんな連中と誰が交渉に向かったんだ?」

 

 ジャインが尋ねてくる。リーネは少し遠い目になりながら、答えた。

 

「エシェル、補佐にカルカラ、ウルに――――――シズクよ」

 

 次の瞬間、その場にいる全員が「ああ……」と声を上げた

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【生産都市ホーラウ】来賓室にて

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………まあ」

 

 ウル達は、抜き身の剣を見せつけてくる武装したどう考えても神官の制服からはかけ離れた衣装に身を纏って何故か珍妙なる仮面を顔に被った謎の連中に囲まれながら、交渉を続けていた。

 

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