かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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大間抜け

 

 中層への安全領域《セーフエリア》へと続く転移魔法陣は特別製だ。

 

 空間が歪み、乱れた迷宮の内部にある安全領域(スポット)にピンポイントで転移する、なんてのは並大抵のことではない。優れた術者が双方から長い時間をかけて、ようやく構築できたショートカットであり、中層を行き来する冒険者にとって貴重な移動手段だ。

 

 しかし、あくまでも術は術、小屋を建てて、鍵をかけても、中の術は誰でも利用できる。

 

 例え、許可を得ぬまま人の目を盗んで、勝手に利用しようとする愚か者であろうとも――

 

「疑問だが、どうやって飛び込んだんだ。術を収めた小屋には鍵もかかってたろ」

「その鍵を盗んで、よ。まあ、途中で気付かれて、強引に魔法陣に飛び込んだらしいわ」

「……アホなんかそいつら」

「間違いなくアホよ。転移先の安全領域でも止められたらしいんだけど、そのまま中層へと降りていったらしいんだから。しかもまだ戻ってこない」

「ほーん、なるほどなあ…………ご愁傷様」

「まだ死んでないわよ。まだ」

 

 受付のロッズが注意するが、カルメ含め、他の冒険者達も似たような表情だ。

 

「で、その自殺をしでかしたのはどの馬鹿なんだよ」

「ええっと……なんだっけ? ゆ……ゆ?」

「【優麗ナル鳳凰】だろ。カッコイイ名前だよなホント……」

「ああ……」

 

 そのやけに仰々しい名前に、カルメはすぐにピンと来た。

 職人街で絡んで来た、あの“血気盛んな”若者達だ。正直、大分危ういとは思っていたが、まさかここまで向こう見ずな真似をしてくるとは思わなかった。

 そして彼等の実力は、カルメが一瞬でのせる程度だ。そんな彼等が、熟練の冒険者でも隙を見せれば死んでしまうような中層に、許可もなく飛び込んでしまったと――

 

「なあ、正直に言っていいかい?」

 

 事の経緯をカルメと共に聞いていたナナは、なんとも言えない表情で挙手した。

 

「何が言いたいかは分かってるけれど、どうぞ」

「そんなに死にたいんなら、死なせてやりゃいいじゃない?」

 

 ナナはきっぱりすっぱりそう言った。

 その身も蓋もない言葉に、その場の全員なにも言わなかった。同意見だったからだ。

 

 別に冒険者は冷酷な訳ではない。

 ひたむきに努力する新人は可愛がってやろうと思うくらい情はある。

 清廉潔白で規則違反を嫌うかといえば、そこまででもない。

 元々荒くれ者の集まりだ。多少の横紙破りは黙認するくらいの寛容さはある。

 だが勝手して、規則を破り、自殺しようとする間抜けを助けるほどお人よしではない。

 冒険者に限らず、そんなのは当たり前のことだった。

 

「いやーまったくもってごもっとも……と、言いたいんだがな」

「中層の安全領域から連絡が来たんだが……その阿呆どもに気付いたグリード騎士団が、そいつらを追いかけちまったらしい」

 

 この国の騎士団、中層、訓練中、それで誰なのかはすぐに分かった。

 

「ショウ爺か……」

「まあ……ショウ爺なら追いかけるわな」

「お節介だからなあ……」

 

 相手が冒険者だろうと誰だろうと分け隔てなく口やかましいお節介。

 あの小人の老人は、向こう見ずの若者達を放ってはおくまい。例え当人達に邪険にされようともまったく気にせず、助けに向かうだろう。実際この中に、無茶をしたときに彼に助けられた経験のある者は多い。だから彼は慕われている。

 

「だけど、それならむしろ話としては一段落なんじゃないの? ショウ爺は年だけど、ベテランだ。救助部隊《サルベージ》としても申し分ないじゃないか?」

 

 カルメの疑問をナナも口にする。

 そう、普通ならそれで話が済む。グリードの騎士団は、冒険者達が心配する程ヤワではない。勿論、迷宮は冒険者達の仕事場で本領ではあるが、それでも一糸乱れぬ鍛錬を続けてきた彼等のお能力は舐めていいものではない。

 どうせ、新人達はおっかなびっくりロクに進めない筈だ。それを連れ戻すくらい、訳ない(勿論、助け出すまでに死んでいなければだが)。

 カルメもそう思った。だが、その場の冒険者達の表情は優れない。

 

「……どうも、安全領域からどんどん下に潜っちまってるらしいんだ。途中、騎士達の一部が戻ってきて、そう言ってきた。」

「恐らくは【深窟領域】まで、降りてしまっているわね」

「はあ!? どうやって…………って」

 

 思わずナナは驚愕し、そしてすぐに思い当たったように沈黙した。

 

 そう、ここは強欲の大罪迷宮だ。

 

 一見してオーソドックスでわかりやすい。シンプル極まる階層型迷宮。だが、そう思って油断するような輩相手には、この迷宮は容赦なく牙をむく。

 欲望のまま、強欲のままに、自分の実力に見合わない奥地まで、するすると導かれるように進んでいける時がある。そういう時は不思議と、魔物との遭遇も少なくなる。

 そして気がつけば取り返しが付かないような奥の奥地で、到底太刀打ちできないような魔物に襲われるのだ。

 

 熟練の冒険者でも時に陥る事もあるトラップだ。伊達に大罪迷宮の一角ではないのだ。

 

「つまり、そのバカどもは最初から誘われた()()()()ってか」

「本当にバカなだけかもしれんがな」

「で、騎士団が追加で救助部隊を組もうとしてるんだが、俺達も出るか考えてるって流れだ」

「そのアホどもは兎も角、ショウ爺は死なれると後味悪いしな……」

「だが、【深窟領域】は慣れてる奴は少なくてな……ヘタすりゃ揃って遭難しかねんから、装備が整うのを待ってるって状況だ」

 

 おおよそ状況は理解できた。カルメはため息をついて、そして挙手した。  

 

「なら、私が行く」

「カルメ」

 

 隣のナナが少し意外そうな表情を浮かべる。他の連中もそうだったが、カルメは無視した。

 

「あの領域(エリア)の調査依頼を受けたばかりだ。装備もある。ソロで動けば、かなり速く辿り着く」

「いいのか……? そりゃ騎士団からの覚えはよくなるだろうが……」

 

 冒険者の一人が少し不安げに言いよどむ。

 確かに、これを単なる判断を誤った白亜の暴走と軽く見る気にはならない。厄介な気配がプンプンする。こういう、本来なら起こりえないトラブルが起きた時、必ず別のトラブルが付随する。

 この迷宮は、そういう迷宮だ。

 実に丁寧に、真面目に、愚行を咎め、強欲を絡め取る。

 そんな状況に首を突っ込むのは、正直正しいとは思わない――だが、

 

 ――雑魚は身の程を知れっつったろうが、大間抜け。

 

 過去を思い出す。かつての自分のおおやらかしを思い出す。

 何度思い返しても、自分の事をぶん殴って足をじたばたさせたくなるような過去だ。

 さて、そんなやらかしをした過去の大間抜(じぶん)けと、今回やらかした大間抜け達と、何が違う?

 何も違わないのだとしたら――

 

「……ショウ爺の奥方がつくる酢漬けが食べられなくなるのは惜しいからな。仕方ない」

 

 カルメは自分の中で渦巻いた感情を吐き出すようにため息を吐くと、そう言って笑った。

 

「食いしんぼ極まれりね……」

 

 カルメの言葉に、ナナは呆れたように笑った。

 

「ソロの方が速いってんなら、ウチらは後から追いかける。死ぬんじゃないよ」

「ああ」

 




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