かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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魔界③ 違い

 

 

「治癒完了、カハハ。全く、生き延びたか。奇跡だな」

 

 ウル達とは、少し離れた場所で自らの身体の治療を終えたグレーレは立ち上がった。幾度かの蘇生を経て、大分身体全体が弱っていた為、立ち上がることも少しおぼつかなかったが、魔術によって強引に肉体を補正した。

 本来であれば、ゆっくりと療養しなければならないのは間違いなかった。が、しかし、今はそれどころではない。調べなければならない情報が山ほどある。

 

 たとえば、自分を今さっき襲ってきた、“竜もどき”などもそうだ。

 

「行き着く果てはこうなるか。まあ、推測の通りだな。至極、残念なことだ」

 

 ぶすぶすと悪臭を漂わせ、次第に溶けるように消えて無くなる“竜もどき”を前に、グレーレは珍しく、少し憂鬱そうなため息をはき出した。

 

「ここまで進行しているとなると、やはり王の目的は間に合わぬか…せめて、もう少し時間があればよかったのだが……ふむ」

 

 誰に向けてでもなく、そうつぶやきながら、彼は周囲を見渡す。やはり、見渡す限りあるのは無数の廃墟と、異常極まる空だ。しかしグレーレはそれらには目もくれなかった。みるべきものはない。というように視線を外し、そして無数の廃墟の中から一つ、無事な建造物を見つけた。

 

「なるほど、あそこか」

 

 それは、半円形の形をした白い建造物だった。

 他の廃墟のよう暗空間と比べても明らかにその様相は異なっていた。何処にも崩壊の後は見られない、幾つかの補修痕は確かに見て取れるが、それはつまるところその建造物が機能していることを示していた。

 つまり、あの建造物を維持する者がいると言うことに他ならない。

 

 飛翔術式を展開しグレーレは飛び上がるが、不安定に身体が揺れる。グレーレは苦笑いする。

 

「術もチューニングせねばな。いや、()()()()()か」

 

 やや不安定となった飛行を、新たな術式を重ねることで維持し、滑空するように落下しながら、彼は飛んだ。

 

「無事の再会を祈ります、王よ」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「小鬼よりも弱い……」

 

 魔界の住民達からの襲撃を受けて、困惑している間に瞬殺できてしまうというなんともいえない状況に困惑する中、ジースターだけが淡々と行動していた。

 テキパキと捕らえた魔界の戦士達を全員拘束していくと、そのまま

 

「天拳代行とユーリを呼んでくる。少し待っていろ」

 

 そう言って、ウル達が降りてきたはげ山へと戻っていった。

 ウルとしてはアカネ達を探しに向かいたかったが、流石に何も分からないまま未知の世界をうろつくわけにもいかずに待機することになった。

 とはいえ、ぼおっとしているわけにもいかない。ウル達の目の前には現地住民と思しき戦士達がいる。話でも聞いてみるか、とウルは彼らに近づいた。

 

「バケモノめ!」

 

 が、残念ながら、向こうはまるでこちらに好意的ではなかった。

 

「酷いこと言われた……まあ、冷静に考えると今の俺の身体まともじゃないけども」

「なんだそのコスプレのような格好は!!巫山戯てんのかよ!!?」

「格好?なんだ、ドレスコードみたいなのがあるのか。魔界って」

 

 拘束された若い戦士(兜で容姿が分からないが、声の質からそうだと思われる)からの怒りの罵倒を受けながら、ウルは困惑する。とはいえ、ウルからすれば相手の戦士達の方がよっぽど珍妙な格好に見えるのだが、兎も角元気ではある。間違って怪我をさせたりだとかそういうことはないらしい。

 随分と頭に血が上っているが、少なくともウルとコミュニケーションを取ろうというのはこのウルと同じ年くらいにみえる少年以外いない。彼以外の戦士達は沈黙し、こちらを警戒している。喚く彼に注意を促そうと顔を歪める者もいるが、少年は気づいていない。

 

 だから出来れば彼から話を聞きたいが、もう少し冷静になって欲しいのだが……

 

「ちょっと、いい加減落ち着きなさいよ」

 

 そんな彼の様子を見て、リーネはやや呆れ顔で言う。すると少年はやや驚愕したような反応をし、再び叫んだ。

 

「なんで幼女がいるんだよ……お前等どこのドームから浚った?!」

「誰が幼女だコラ」 

 

 リーネはチョップを叩き込んだ。それで彼の頭が割れてしまわないか少し心配になったが、幸いと言うべきか、彼の脳天が割れる心配は無かった(代わりに痛みでじたばたもがいていた)

 

「そういやリーネって今何歳だっけ?もう15?成人だっけ?」

「そうね。小人が幼く見られることは時々あるけど、ここまで無礼なのは初めてだわ」

「こ、小人……」

 

 エシェルと会話を続けていると、再び戦士の男はなにやら驚愕に満ちた声をあげる。

 

「そんなの居るわけが無いだろ!」

「いや、目の前にいるが」

 

 ウルはリーネを指さすと、リーネは鬱陶しそうに手を弾いた。しかし彼女は紛れもなく小人だ。ウルの様に色々と例外になってしまっているのとは違い、一般的な小人との間に差異はない(精神的には大分異端だが)。

 つまり、魔界には小人がいない…?とウルが考えていると、彼は更に声を荒げた。

 

「そこの女もそうだ!付け耳なんて巫山戯てんじゃねえぞ!」

「え、わ、私!?」

 

 そう言って顔を向けたのは、先程から彼らが使っていた魔導銃をこそこそと弄っていたエシェルだった。彼女はびっくりしたのか身体を起こして、ウルへと頭を向けた。

 

「付け……耳?え、耳になにか付いてるか?」

 

 ピコピコピコと獣人特有の耳が動いた。ウルはエシェルの頭を撫でるようにして払ってやるが、特に何かゴミが付いてる様子はない。

 

「なんにも。安心しろ」

 

 そのまま耳を撫でるように揉んでやると彼女は嬉しそうにニコニコと笑った。その様子を見て戦士の男はなにか分からないが混乱した様子でブツブツと呟き始めてしまった。

 獣人もいない……?

 魔界の疑問が更に進む。とりあえず彼が落ち着くまで待つべきか、と、ウルはエシェルが握っている彼らの武装、魔導銃に視線を落とす。

 

「で、なにしてるんだ。エシェル」

「い、いや、全然見たことの無い物だったから興味があって」

「そういや、扱えるんだったな。魔導銃」

 

 エシェルは少し楽しそうに銃を動かしながら、銃口をそらへと構えた。

 

「ちょっと形式が違うから使い方が難しかったんだけど」

 

 そう言って、物は試しというように引き金を引いた。

 

「多分ほら、こうやったら撃て――――」

 

 次の瞬間、竜牙槍と間違うばかりの閃光が銃口から放たれた。ウルは目を見開いた。撃ったエシェルも驚愕に呆然となった後、慌てたように引き金から手を離した。

 

「――――びっくりしたあ!!?」

「いや、出過ぎだろ威力どうなってんだ!?」

 

 ウルも驚く。どう考えても先程の威力の比では無かった。流石にあれだけの破壊力があれば、ウルも死ぬまでは至らずとも丸焦げは避けられないだろう。先の包囲のとき、あまりに威力が低くて実はなにかの冗談が催されているのではと考えもしたが、どうやら決して冗談の類いでは無かったらしい。

 

「ば、かな……?!」

 

 が、どうやら、この破壊力はその戦士達にも予想外だったらしい。若い少年のみならず、捕縛された戦士全員が彼女が放った強烈な光を見て、どよめいている。

 

「あ、壊れてる」

「…………許容量を超えたのね」

 

 同時に、魔導銃が今の砲撃で無理が出たのか、方針の一部がひしゃげていた。まだ銃の形は保っているが、この状況では使い物にはならないだろう。つまり、今の火力は想定されたものでは無い。

 疑問、不可解。異物感。やはりなにかが決定的に噛み合っていない感覚だった。ウルは眉をひそめ、エシェルは途方に暮れ、そしてリーネは得心いったというように頷いた。

 

「ちょっと分かってきたわ」

 

 リーネはそう言って、そのままおしゃべりの少年の元へと近付く。そのまま彼の兜をぐいと掴むと、すぽんと外してしまった。

 

「ここら辺だけの現象かなとも思ったんだけど…」

「な、なにすんだ!?」

 

 やはり、というべきか、少年は若く見えた。黒髪の男。年は16-7程で、ウルとも殆ど年が離れているように見えなかった。が、リーネは彼の容姿についてはどうでも良いらしかった。彼女は冒険者の指輪で彼を指さして、囁いた。

 

「【名を示せ】」

 

 魔名を浮かび上がらせる魔術だ。魔物相手によく使用される魔術であるが、ヒトが対象であってもその魔名が浮き上がる、はずだった。しかし、

 

「魔名が……でない?」

「なに言ってんだお前等……」

 

 魔名は、出てこなかった

 ウルとエシェルは訝しんだ顔になったが、リーネは驚かなかった。

 

「魔名を示す魔術は、対象の身体から漏れ出す魔力を魔名の形にする」

「つまり?」

「彼は殆ど、魔力を体内に有していない」

 

 そういってエシェルは空を見上げるようにしながら、言った。

 

「此処は、魔力が薄いんだわ、すごく」

 

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