かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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魔界⑪ 中心へ

 

 

 十数年ほど前の事。

 

 当時、最高峰の兵士として評価されていた星野仁に最重要任務が与えられた。

 任務の内容はイスラリアの現地調査だ。極めて情報収集が困難な世界の向こう側、忌むべき黒い太陽の向こうで方舟が現在どのような状況下にあるのかの調査が彼の仕事だった。

 なぜ情報が必要なのか。これがどういった作戦につながるのか、詳しい説明までは聞かされなかった。必要以上の情報は伏せられた。イスラリアの恐るべき“精霊使い”が、此方の記憶を読み取って、情報を全て抜き取ってしまう危険があったからだ。

 予知、読心、誓約による支配。おおよそあらゆる特殊な技術が存在する。あらゆる対策が必要だった。

 

 だが、対策を重ねたとしてもイスラリアへの侵入は困難を極める。

 

 当たり前だ、世界を隔てた場所に存在するのだ。しかも、たどり着いた先の世界では、今の世界では到底再現困難な、不可思議な力が跋扈した異世界。その世界にたどり潜り込む成功率は低く、たどり着けたとしても、そのまま死亡する可能性が極めて高い。挙げ句の果てに、帰還方法は現在確立されておらず一方通行だ。返せるのは情報のみで、それにもノイズが多く混じる。当然その機密情報を家族に送ることは許されない。

 どれだけ帰りたいと願っても帰れない。そんな恐ろしい仕事なのだ。

 

 仁はそれでもその任務を請け負った。死ぬリスク負ってでも、やるべき事があった。

 

 この危険な任務を請け負う者は自分だけでは無かった。何人かの適正者がいたが、しかし任務の過酷さを聞くと多くのものが怖じ気づいた。逃げたいと泣きつく者もいたので、上に掛け合って脱落させてやることもした。仲間はいてくれた方がありがたかったが、自分よりも若い少年少女が、知らぬ土地で故郷に帰れず戦い続ける道を進むのは不憫だった。

 そうして最終的に残り続けたのは自分だけだった。奇妙極まる転移装置に彼は放り込まれ、そして気が遠くなるような奇妙な感覚に全身が襲われ、彼は方舟への侵入を果たした。

 

 そしてその直後だった。彼がアルノルド王に対面したのは。

 

 ――イスラリアの外の来訪者だな。お前を待っていた。

 

 目映いばかりの輝きと畏怖を放つ。彼がアルノルド王であり、このイスラリアの頂点に立つ男であると知ったのはすぐのことだった。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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「当時の天祈が俺の来訪を予期して、アルノルド王が俺を拾った」

「……じゃあ、王は貴方の正体を知っていて、天衣を与えたの?」

 

 驚くように尋ねるリーネに、ジースターは頷く。本当に、とんでもない話だった。

 

「かわりに、俺は彼の元で働くことと、魔界の情報を提供する約束をした」

「二重スパイか……」

 

 なんてことだ、と、隊長と呼ばれた男は顔をしかめ首を振る。改めて、このジースターという男は、とんでもない苦労と責任を背負ってきたのだという事実に、ウルはなんとも言えぬ感情を抱いた。

 

「どうした?」

 

 その、ウルの視線に気づいたのか、ジースターが尋ねてくる。まだ、分からないこと聞かなければならないことは多いが、それでも、尋ねずにはいられなかった。

 

「このぐっしゃぐしゃの世界で、アンタはどうする気なんだ」

 

 ウルは問う。問われたジースターは特に言葉に悩む様子もなく即答した。

 

「自分の命と家族を守る……後は出来るだけ、家族の周りの平和が守られれば上出来だ」

 

 その答えはあまりにも単純明快が過ぎて、ウルは笑った。少なくともここまで彼が明かした世界の禍々しい秘匿と比べると本当にわかりやすくて、共感しやすかった。

 

「本当、気が合いそうだよ。アンタとは」

「そうだな。俺もそう思う」

「殺し合いにならないことを祈る」

「全くだ。ろくでもないからな」

 

 本当に、殺し合いなんてろくでもない。彼もウルも、この場にいる全員理解できていることだ。

 

「間もなくだ」

 

 その合図で、二人顔を上げる。

 目的地Jー00 中枢ドームへと二つの勢力を乗せた車は到着した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 車両が通れる地下通路を抜けた先、内部は荒れ果てており、彼方此方で警報音が鳴り響いていた。高い技術力によって建築された通路が見るも無惨な姿になり果てていた。

 それを目撃した兵士達は、隊長の指示の元、怪我人達の救助を進めながら破壊された施設の奥へ奥へと移動していった。ウル達もその移動に同行していく。

 

「こっちだ。急ぐぞ」

 

 先陣を切るジースターの歩みに全く迷いは無かった。幾つもの階段を下っていき、奥へ奥へと進む度

 

「仁、そっちは立ち入り禁止区画だぞ!」

「こちらで間違いない」

 

 そのジースターの言葉に、ウルも同意する。魔界の兵士達には感じ取れなかったのかも知れないが、ウル達には感じ取れていた。このドーム、その地下から流れ込んでくる膨大な魔力を。そして、周囲の温度が下がっていくかのような悪寒を。

 

 この破壊をもたらした者の目的地も、間違いなくそこだと、確信した。

 

 破壊の跡をたどるように、どんどんと先に進む。途中で大穴の開けられた扉を何個もくぐり抜け、そしてようやくウル達一行は、“そこ”に到着した。

 

「……なんだ此処」

 

 ユーリを背負いながら、ウルは呟く。

 最下層はここまで通ってきた施設と大きく異なっていた。まず、破壊の跡が少なかった。上層では、最早壊されていない場所などないというような有様だったのに、それがない。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()、気遣われたように。

 そして、空間には魔力が満ちている。魔界には殆ど存在しないはずの魔力が。

 

「……これ、術式だわ」

 

 リーネはそう囁いて、明滅する壁を見つめた。確かにそこには魔術の術式が刻み込まれている。つまり此処は魔力を活用した施設であるのは間違いない。此処にたどり着くまでの間、魔界では魔力の活用を示す痕跡、設備は一切存在していなかった。

 この地下空間だけ、あまりにも突然まったく異なる世界が、否、正確に言うなら方舟イスラリアの世界が広がっているように見えた。

 

「……この先か」

 

 戸惑いながらも、ウル達は通路を進む。足音がやけに響いた。空間に刻まれた術式と、そこを迸る魔力の光量は多くなる。肌にもハッキリと感じ取れるくらいに、空間を満たす魔力は多くなっていた。

 迷宮の奥深くに潜ったような感覚。否、それよりももっと――

 

「……コレは」

 

 そして正面に巨大な扉が現れた。首が痛くなるくらいに高く、巨大な扉。ソレは既に僅かに開かれていた。まるで中へと自分達を誘うように。膨大な魔力もその扉の先から流れ込んできている。

 間違いなく、事の中心、“核”がこの先に在る。それを察したのか、エシェルはおびえるようにウルの腕を掴んだ。

 

「行くぞ」

 

 しかし、最早この期に及んで、躊躇している場合では無かった。ウルは大きく息を吸い、吐き出すと、仲間達を連れて奥へと足を踏み出した。

 

 そして

 

「お、役者は揃ったな?」

 

 その先に広がる静謐なる空間。

 

 その中心で魔王は笑っていた。

 

 

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