かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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陽殺しの儀⑬

 

 眼前に迫るあまりにも凄まじい巨人を前に、イカザの取った行動は早かった。

 

「【雷壁】」

 

 直接、人形の咆哮を守り防ぐ事は困難だと即座に判断し、自分の周囲の戦士を守ることに全力を注いだ。研ぎ澄ました魔力で雷の障壁を創り、盾とした―――が、

 

「っぐう!?」

 

 そのエネルギー量にイカザは絶句する。誰であろう、当のブラックが予告していた通り、その威力は凄まじい。少なくともこれまでイカザが経験したこともない未知のモノだった。

 【天陽結界】はまだ無事だが、全ては防げない。銀竜達の空けた穴もある。それがプラウディアの内側の住民達の心を更におびやかすのは想像に難くはなかった。

 だが、それ以上の問題がある。

 

「ブラック……!?」

「マジかよ!?……!」

「だが、あの野郎、アイツは……!」

 

「「「アイツはやりかねねえ!!!」」」

 

 物理的なダメージ以上に問題なのは、冒険者達の混乱だ。

 

「不味いな……」

 

 魔王ブラックの名は、冒険者の中ではある種のカリスマだ。冒険者という枠組みを越えて、長い間激しい戦いの節目には姿を見せ、気紛れに多くの大騒動を巻き起こしてきた。

 人格はとてもではないが真っ当とは言い難い。巫山戯た道化のようでもあり、得体の知れない悪党にも見える。幼稚な子供にも思える。彼を知る者は誰もが苦笑い混じりに彼を語るが、それは憧れの裏返しでもあった。

 そんな彼が、イスラリアという世界の敵に回った。その事実を知れば、特に彼を慕う冒険者達の士気が総崩れに―――

 

「よっしゃああの野郎ぜってえぶっ殺す!!!」

「全力で嫌がらせすんぞこら!!」

「ツケ死体からはぎとってやらあ!!!

 

 ―――――は、ならないらしい。

 

 冒険者達の士気は、むしろ向上した。

 あの男にカリスマがあるのは間違いないが、かなり独特なもののようだった。

 

《元気が良いねえ!お前等みたいな“石ころ”ども好きだぜ?――――だが死ね》

 

 とはいえ、士気だけでどうにかなる敵ではない。

 再び人形の腕が動く。尋常ではない蒸気を吐き出した右腕を下げ、左腕を持ち上げる。先の一撃をもう一度かますつもりらしい。勿論、それを許すわけにはいかない。今の結界では、あの攻撃はなんども防ぐことは出来ない。それを止められる戦力をこの場で有しているのは自分だけだ。

 

「止める……!!!」

 

 イカザは雷を纏い、跳ぶ。右腕と同じように膨大な魔力を凝縮し、放とうとしている左腕を断ち切るために刃を振りかぶり全力を込める。巨大人形が撃ち放った力にも劣らぬほどの熱量が、機神と比べれば豆粒ほどにしか見えないほどの彼女の身体から溢れ出る。

 

「【極剣・神鳴】」

 

 雷の刃は過つ事無く、機神の左腕に着弾した。が、しかし、

 

「何……!?」

 

 その奇妙な手応えの無さに、イカザは眉をひそめる。切り裂いた刃を見れば、機神の左腕は確かに高熱を伴った斬撃で溶解しているようにみえる。

 だが、そうではない。イカザはその洞察力で察した。

 この機神は、自らの身体を歪め、此方の攻撃をいなした。まるで粘魔のように―――

 

「粘魔王……!?いや、だが……!?」

「粘魔とは似て非なるもの。決まった形を記憶しながら自在に形の変わる“液状の金属”」

 

 不意に、声が響く。薄気味の悪い、空虚な女の声だ。

 

《“世界”の技術って、凄いでしょう?あなたたちみたいなズルがないから、必死に創りあげた英知の結晶よ?》

 

 右腕が再び歪み、人形の形に戻る。だが、その腕の上に、何かが寝転がっていた。女の形をしているが、ヒトというにはあまりにも悍ましい者。

 銀竜出現の大騒動の隙を狙って、うっかりと逃走をかました最悪の邪教徒。

 

《まー、それを魔術とごちゃごちゃに混ぜちゃったんだけどねぇ?ウフフフフフフ!》

「ヨーグ……!最悪だ!!」

 

 この邪教徒の最悪っぷりはしっている。イカザもやり合ったことがあるからだ。長い間、イスラリアという世界を混乱に貶めることを繰り返した邪教徒の中でもとびっきりの最悪。それが最凶の冒険者についたのだ。本当に最悪だった。

 この巨大人形の攻略方法もまだつかめない。一度下がらなければ―――

 

《悪いが、お前は逃がす気はないぜ?ビリビリ姫》

 

 しかし、直後に身体が硬直する。機神の四つの目が光り輝く。それが魔眼、拘束の魔術の類いであるとイカザは察したときには、彼女の身体はガチガチに固定されていた。

 【消去】をかけ、拘束を砕く。だが、それよりも機神が力を解き放つ方が遙かに速い。イカザは自らが判断を誤ったことを悟り、自身へと放たれようとする灼熱を忌々しく睨み――――

 

《【天罰覿面】》

 

 それよりも早く、大いなる巨神が二人の間に割って入るようにして飛び出し、そして機神の身体をその拳で殴りつける。

 

《おおっと、きたかよ。【“新”天賢王?】》

 

 最強の助けが来た事をイカザは悟った。

 星天の輝きに包まれた、真なる巨神が、機神と相対する。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 機神の中にて、邪教徒ハルズは軽く舌打ちした。

 

「暴れ出す前に押さえられたか…………だが、まあ良い、巨神を引きずり出せた」

 

 この機神を出せば、向こうは否応なく対応せざるを得なくなる。勇者は自身に太陽神ゼウラディアの権能を集中させられない。全てを守るために分配し、貸し出している。

 機神を無防備な場所で大暴れさせるもくろみは外れたが、陽動自体は順調だった。後はこの機神で【天賢】を押さえつければ―――

 

「あ、まじーな」

 

 と、思考を回していると、中央の座にてあぐらを組みながら眼前のモニターを睨んでいたブラックが、非常に軽い調子でぼやいた。

 

「……何がだ」

「ほらみろ、スーアのあの顔」

 

 ハルズは顔をしかめながら尋ねると、ブラックはモニターを指さした。顔、といっても、そこに映っているのは機神が睨んでいる光景―――即ち、星天の輝きを放っている【天賢】そのものでしかない。

 

「顔など見えない。そもそも遠隔操作だろう」

 

 スーア当人はバベルの塔の中にいるのだろう。ここまで離れた場所に完全なる巨神を作り出せるのは驚異的と言えなくもないが、しかし魔王の言っていることは何も分からなかった。しかしブラックはしたり顔で続ける。

 

「巨神の顔だよ。ぷんすこ状態だろ?キレてるわアレ……“バレたかな”?まあそりゃそうか」

「だからなんだ、怒ってどうなる訳が―――」

 

 と、ハルズが言おうとした。するとその次の瞬間、巨神が一歩前へと踏み出すような動作を取った。近づいてくるのか、とハルズは当然のように想定したが、ソレは違った。

 

《――――――》

 

 巨神は足を動かし、そのまま中腰のあたりにまで持ち上げた。

 そしてそれを、思い切り、全力で、一気に機神に向かって蹴り出した。

 

「は!?」

 

 ヤクザキックだった。

 

「なあああ!!!?」

「戦い方が雑になるんだよ。やっぱアルそっくりだなー。ジジイちょっとしんみりしちゃった」

「言ってる場合か!!!」

 

 凄まじい振動に揺られ、大量のアラートに鳴らされながら魔王はしみじみと語り、ハルズは地面を転げながら叫ぶ。二つの異なる神の戦いが始まった。


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