かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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ウーガの選択②

 

 【竜吞ウーガ守護部隊、白の蟒蛇】基地にて。

 

 ジャインは“この状況”に陥る以前の状況、大罪迷宮グリードの攻略にウルたちが向かった時点で、何かしらの予感はしていた。ラビィンのような第六感に近い【直感】とは違う、経験則から生まれる、肌が泡立つような予感を感じ取っていた。

 だから、ウルたちがグリード討伐に向かった直後から、あらゆる備えをしていた。“こうなってから”、ウルたちがすぐにウーガに帰還できたのは、ジャインたちが準備を進めていたというのも大きい。

 ジャインたちはしっかり備えていた。それは間違いなかった。

 

「まあ、そりゃ、備えちゃいたけどよ。何が起こってもいいようにって…」

「そうっすねえ」

 

 白の蟒蛇のジャインは深々とため息をはき出して、窓の外から覗き見える外の光景を見つめる。砕けた空、遠くにうごめく白銀の竜、世界終焉のその光景を前に、ジャインはもう一度ため息をはき出した。

 

「此処までとんでもねえことになるのは流石に想像つかなかったな……」

「想像できたらそいつの頭おかしいっすよ」

「そりゃそうだ」

 

 エシェル達がボロボロの状態で帰還した後、彼らはグリード探索から魔界へと至り得た情報の全てをジャイン達に伝えた。無用な混乱を招かないように、住民達にはある程度は伏せたが、ジャインには一切を隠さなかった。

 結果として、世界が正常であれば口封じに殺されてしまわれかねないような秘密を知ってしまう羽目になったのだが、それでもエシェルはジャインに何も隠さなかった。

 ありがたい、とは思う。その上で判断しろとこちらにゆだねてくれたのだから。

 

「シズクはイスラリアの敵、か」

「正直あんまおどろかない……とは流石にいえないっすけど」

「おまけに魔界とイスラリアでの大戦争……全く、えらいことになったもんだ」

 

 と、いうわけで、とジャインは集まった【白の蟒蛇】のメンツに視線を投げつける

 

「こっから先は本当の本当に、安全安心とは無縁の混乱が待ってる。抜けたいなら今のうちだ。止めないから好きにしろ」

 

 今回、一同で集まったのは仲間達の意思を確認するためだった。

 間違いなく、これからさきウーガがどのような選択をするにしても、間違いなく混乱が待ち受けている。必然的に【守護隊】として、ウーガの守りを担うジャイン達は矢面に立つ事になる。ソレは確定だ。

 だが、いくらなんでも世界滅亡の危機に、矢面に立てというのは酷だ。故にこそ、最後の逃げ道をジャインは用意した。

 

「…………」

「……いや、まあなあ」

「そうよねえ……」

 

 そう、用意した筈なのだが、彼らの反応はあまり芳しくなかった。そうしているウチに一人が手を挙げた。

 

「リーダー、俺今度ここで結婚すんだけど」

「知ってる、おめでとう」

「私はそろそろ引退しようかってウーガに店構えようとしたところ。だから金欲しい」

「嫁が妊娠してる」

「俺、ちょっとウーガで借金つくっちゃって……」

「だっせえ理由だなオイ」

 

 各々好きに喋り始めて、口々に此処にとどまる理由を述べ始めた。ジャインは苦い顔になるが、ラビィンは「まあそりゃそうっすよね」と涼しい顔だ。その内、白の蟒蛇の中でも一番の古株の男が肩をすくめ、苦笑した。

 

「ジャイン、今更だぞ」

「そうらしいな」

 

 ジャインは頭を掻いた。

 確かに、今更だ。もうとっくに【白の蟒蛇】はこのウーガという場所を故郷(ホーム)として定めている。生活の拠点、というだけでない。自分が守るべき場所、自分の帰る場所だと、彼らは決めているのだ。

 此処を失うのは、安全安心じゃない。

 ジャインはとっくにそれは分かっていたが、どうやら仲間達にとってもそうらしい。

 

「否応なく、一蓮托生か……」

「言ったじゃないっすか。そうなるって」

「言ったな……」

 

 ラビィンの言葉にジャインは笑った。

 ウルを上手く利用してやろうと画策して彼に交渉を持ちかけて、逆にまんまと取り込まれた時、ラビィンが言ったことは本当に正しかった。もうとっくに、自分達は降りることができない舟の上にいるのだ。

 

「……俺たちが乗った舟は泥舟か?」

「泥舟ならすぐ沈むって分かったすけどねえ。この舟はもっととんでもないゲテモノすよ」

「それもそうだな……そんでお前はどうする」

 

 最後、ラビィンに尋ねる。ラビィンは何一つ揺らがない目でジャインを見返す。

 

「ジャイン兄と一緒にいく。ジョン兄の墓も、ここに造ってもらえたしね」

「そうかい」

 

 ジャインはラビィンの頭を優しく撫でた

 

 

 

              ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「で、結局コイツはなんなの」

『方舟 を  縛っていた  鎖だ』

 

 ウルの質問に、大罪竜ラストは実に楽しそうに答えた。その片手で小さなノアの服をつまみ上げると、ぴぃぴぃと泣きながらノアはじたばたし始めた。

 

『住民達を監視し  管理し  方舟の脅威を  粛正する者 【方舟】の統制機構よ』

「粛正、あの目玉か」

 

 グリードとの戦いで干渉してきたあの不気味な瞳をウルはおもいだす。グリードのみならず、ウル達にも襲いかかってきたアレらは、強く恐ろしかった。結果としてグリードに一蹴されたが、アレ単体で見れば十分な脅威だった。

 

『“魔力工房ゼウラディア”と共に  忌まわしく不愉快な創造主の  作品だ …………  ああ、  やはり   言語統制も 解けている  さてはフォーマットしたな?』

「ふぉーまっと?」

『ラースと  同じ  生まれ直した  だからそんな  純粋無垢な訳だ  もう目玉も  操れまい』

 

 そう言ってつまんだままのノアを顔に近づけると、ラストは引き裂かれんばかりに口を大きく笑みに変えて、囁いた。

 

『正常に戻ったら  世界が崩壊していた気分はどうだ?  同胞  いや  親戚か?』

〈みぃ……〉

『ないた』

「泣いたなあ……いじめるのやめたれ」

 

 ラストからノアを取り上げる。ラストは鼻を鳴らし、つまらなそうにぴすぴすと泣き続けるノアを見下すだけだ。まあ兎に角、このノアの素性というのは大体理解できた。だが、問題は何も解決していない。

 

「結局、どうしろと?」

 

 正直扱いには困る。

 ウルが自分の内面にこもっているのはあの魔界の大騒動の後疲れ果てて眠ったら、うっかり昏睡して此処にたどり着いただけだ。多分純粋に心身に限界が来たから昏睡したのだろうが、感覚的にそろそろ目を覚ますことは出来る。

 出来るのだが、この新たにやってきた異物、ノアを放置して無視するのもなんというか憚られた。そもそも何故にそんなよくわからんものが自分の内側にいるのかすらよくわからない。

 

『いらんなら  なぶり殺しても 良いか?』

〈ぴぁ……〉

「ダメだっつの、っつーかノアは結局どうしたいんだよ」

〈依頼発注・惑星救済・お願いします〉

 

 すると再びウルに同じ事を言う。結局こんな調子だ。世界救済とかやたらめったらスケールがでかすぎる事を命令されてもできんとしかいいようがない。

 というか、絶対頼む相手を間違えてる。

 

「なんで俺の所に来たんだか」

『あなたがその可能性を持っているからでしょうね』

 

 その時、更に別の声が背後から響いた。

 ウルはその声を聞いた瞬間、全身が跳ねるような恐怖に襲われ、冷や汗をかきながら即座に振り返った

 

「っおっぉぁ……!?」

『あら、ひどい反応』

 

 とても幼い少女の姿をした大罪竜グリードは微笑みを浮かべていた。ウルは驚愕のあまり喉がひっくり返ったような変な声が漏れた。

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