かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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ウーガの選択③

 【竜吞ウーガ】ダヴィネの工房にて。

 

「あいつら一体どういう戦いをしてきたんだ!!?」

 

 工房主であるダヴィネの前には、大罪迷宮グリードから帰還したウル達の武具の数々が並んでいた。それらは修理の為にとダヴィネの下に運ばれたものであったが、それらにダヴィネは一つたりとも手をつけていない。

 理由は一つだ。

 

「こんなもん直せるか!全部新しく打ち直しだ!!!」

 

 修理なんて、やりようがなかったのだ。

 ダヴィネは最高傑作の武具の数々をウルにもたせた。手抜かりなど一切なく創り出した武具の全ては、その悉くが修復不可能なレベルで粉砕されていた。再利用なんてやりようがない。もう完全なスクラップだ。

 

 その結果はダヴィネにとって腹立たしかった。自分の作品を否定されたのだから。

 だが、一方で、これほどまでに創作意欲のわき上がる敗北はなかった。

 

「不足、足りなかった……!?俺の作品が……!!」

 

 ダヴィネは口端をつり上げながら鎚を振るい、武具を次々と創りあげる。まだウルは眠ったままだ。別に頼まれたわけではない。だが、ダヴィネは誰に命じられるでもなくそうしていた。ウーガに来てから使う暇も無く溜め込んだ大量の資金全てをつぎ込んで、ありとあらゆる鉱物資材を集めまくった。

 

 ああ、くそったれ!最高だ!!!

 

 最早休むヒマすら惜しいといわんばかりに、彼は鎚を振る。もっと良い武具を造る。今度は壊れない、最凶の竜の牙にすら打ち勝つほどの最強の物を造る。

 楽しい。やはり、物を造るのは楽しい!

 それが、自分でも出来るか分からないほどの困難であるならそれは最高だ!!!

 生まれてから経験したことも無いほどの爆発的なモチベーションと共に、彼はひたすらに武器を打ち、尋常ならざる速度と精度で次々に新たなる剣を生み出していった。

 

「相変わらず絶好調だなぁ、ダヴィネさん」

 

 そんなダヴィネをペリィは呆れたような、感心したような表情で見つめる。汗だくになったダヴィネは一呼吸入れると、茶々をいれてきたペリィを睨んだ。

 

「んだペリィ!ぼやいてないで仕事しろ!」

「夜は店もあるんだから勘弁してくださいよぉ」

 

 そう言いながらも彼は工房内で職人達の手伝いをするためにせわしなく動いていた。焦牢で、ダヴィネの小間使いのように働いていたことも一応はあったので、工房の仕事に戸惑うことはなかった。

 

「なんだ、こんな状況になっても店やってんのか」

「俺も休もうと思ったんだけど、何時もやってる店が休みだと怖いんだってよぉ」

 

 ペリィは唸る。

 空が割れて、銀竜が覗き込み、ウル達がボロボロになって帰ってきて、シズクは戻らなかった。そんな異常事態に対して、やはり不安に思う住民達は多かった。

 そんな彼らの不安が和らぐならと、ペリィは今でも酒場を開いている。

 

「ダヴィネさんの造ってくれたコップも人気だぜぇ、綺麗で安心できるってさぁ」

「当然だ!また造ってやるよ!」

「ありがてぇ」

 

 ケラケラとペリィは笑う。すると不意に、割って入るように作業着を着た少年がダヴィネの前に駆けてきた。

 

「ダヴィネさん!!道具の準備出来ました!!」

「おう!!テキパキ働けよ!!」

「はい!」

 

 やや無理矢理声を張り上げるようにしながら少年は駆けていく。その彼らの姿を見て、ペリィは首を傾げた。

 

「なんだっけ?バカなボンボン?流石にもう実家に返したんじゃ無かったっけ?」

「残りたいって変な奴が何人かいたんだと!だから働かせてる!」

「物好きだなぁ」

「バハハハハ!!こんな状況に酒場やってるお前がいうか!」

「こんな状況に鎚叩いてるアンタにいわれるこっちゃねぇよお」

 

 奇人に物好きにはぐれ者、混沌としたウーガの中で天才の笑い声と鎚が武具を叩く音はいつまでも響き渡った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 神官見習達の宿舎内。

 

「こんなことになってしまうなんて……」

「どうなっちゃうの……私たち」

「太陽神様……」

 

 グラドル出身の従者達であり、神官見習いとしての訓練を続けてきた彼らの表情は暗かった。といってもそれは至極当然のことではある。

 月の、この世界を滅ぼす邪悪なる神が世界を滅ぼそうとしているのだ。それを見て尚笑っていられる方が異常で、彼らの方が正常だ。元々彼らはそこまでタフな精神を持ち合わせていなかった。そこに加えてのこの大混乱は彼らの心をへし折るには十分だった。

 

「逃げよう」

 

 誰かが言った。

 彼らの間では何時も交わされる言葉だ。辛い訓練に恐ろしい教官(カルカラ)、逃げ出したいと愚痴を漏らすのは何時ものことだ。だけど今回ばかりは本気の声だった。

 逃げよう、逃げなければならない。生存本能を揺さぶる心からの悲鳴だった。

 

「……どこに行くのよ」

 

 しかし、そんな悲鳴を同じ従者の一人が否定し、首を横に振る。

 

「だって、こんな場所だぞ!?絶対厄介ごとに巻き込まれるんだぞ!」

 

 その男の発言は、確かに正しい。彼は状況を良く理解していた。ウーガという場所は特別だ。ソレはもう彼らもとっくの昔に理解していた。何をどう上手く立ち回ろうとも、否応なく、混沌が起こればその中心に巻き込まれてしまう。ここはそういう場所なのだ。

 

 身を守りたいなら、逃げるしかない。その言葉は正しい。しかし、

 

「……フウは?あの子はどうなるの?」

 

 一人が言った。

 風の少女。ずっと自分達を励まして、助けてくれた少女のことを従者の皆は想った。

 

「あの子に、居場所なんてないのよ。ここ以外」

 

 そう、彼女には居場所はない。

 不義の子、名前を名乗ることすら許されずに捨てられた少女。今でこそ彼女は活気溢れる姿を見せているが、しかしそれはこの場所がウーガという特別な場所だからだ。

 もしも彼女が外に出てしまえば、どうなるだろう。風の精霊の加護を持って、特別な才能を有しながら、しかし名前も名乗れない呪いを被った少女。あまりにも彼女は目立ちすぎるし、特別すぎる。隠しようがないほどに。

 ウーガという聖域から外に出てしまえば、彼女はきっと今のようには生きられない。それは明らかだった。

 

 そしてその事実を理解して、沈黙し、項垂れるだけの情は、神官見習い達の間で育まれつつあった。

 

「だったら、あの子も連れて行けば……!ウチなら多分まだ……」

 

 そんな風に誰かが言い出したその時だった。宿舎の外でどたばたと音がした。

 外を出てみれば、宿舎のすぐ傍にある倉庫の中、ウーガが生み出される前の“仮都市”で自分達が持ち込んだ魔道具類が纏めて保管されているその場所がひっくり返されていた。

 

「皆さん?どうしました?」

 

 誰であろう、自分達が話していたフウが、その力で元気よく、倉庫をかき回していた。その隣でグルフィンが頭を抱えている。

 

「フ、フウ?なにしてるの?」

「風の力に作用する魔道具があったので探しています。グルフィン様が持ってきていたみたいなので!」

「だからそれは暑いのがいやだったから持ってきたもので大したものかはわからん…………って、おちつかんか!!!」

 

 どんがらがっしゃんと倉庫がひっくり返る。巻き起こる埃も即座に吹っ飛ばしながら、フウはにっこりと微笑みを浮かべた。

 

「大丈夫です。私が皆を守ります」

「いや、守るって……!」

「だって、皆さんここ以外居場所なんてないでしょう?」

「おごふぅ……!」

 

 そのあまりに言葉を飾らない指摘に、グルフィンのみならず見習い達全員がダメージを負った。確かにそれは事実ではあった。フウの事を皆心配していたが、決して自分達は大丈夫だという話ではなかった。

 

「私は皆さんの中で一番強いです。だから安心してくださいね」

 

 目当てとなる魔道具を見つけたのか、フウは見習い達を安心させるようにニッコリ笑うと、そのまままた別の場所へと移動していく。グルフィンは慌てて追いかけていくが、本当に嵐のようであった。

 

「……なんというか、本当に元気になったな、フウ」

「守ってやるつもりが、守られそうだぞ。我々……」

 

 しみじみするやら情けないやらで見習い達は項垂れる。だが、ずっとそうしているわけにも行かない。その内一人が立ち上がって、意を決したように声を上げた。

 

「……やるぞ」

 

 その言葉には、全てを割り切って覚悟を決めたような思い切りの良さは皆無だった。

 むしろ不安そうで、今にも震えだしそうな声だった。しかしそれでも、自分のその発言を翻すような事はしなかった。そしてそれに応じるように全員が立ち上がる。

 

「あの子みたいに天才じゃない。出来る事なんてこれっぽちだ」

 

 だけど、それでも

 

「あの子と、あの子の居場所くらい、守ってやれるさ……!」

 

 家族からも爪弾きにされたはぐれ者達は、それでもと顔をあげる。自分達に手をさしのべてくれたたった一人の少女の居場所を守る、その為だけに。

 

 

 

              ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

『っげ  え……』

『ぐりーど』

『ラース、元気そうね。会えてよかった。ラスト、あなたはなんて顔してるのかしら』

 

 ウルの上に乗っかったラースはグリードへとパタパタと手を伸ばす。その手を握って頭を優しく撫でた後、グリードはラストを睨んだ。ラストはというと、かなり面倒くさそうな表情になりながら若干後ろに下がった。どうやらラストもグリードの事は苦手らしい。

 

『……  何故知能体が  こっちに来ている  最後の討伐者は  天剣だろう』

『貴方たちがいるし、こっちの方が楽しそうだから、きちゃった♡』

『――――……』

 

 貴女みたいに自分を増やせれば良かったのだけどねえ?とクスクスとグリードは笑う。

 尚、ラストは絶句した。

 

『そんなに心配しなくても良いのよ?本来の月神の機能にない、後付けの“勇者の代役”であるが故に、徴収を免れたけれども、大部分の力は“彼女”にもっていかれたわ』

 

 貴方たちと同じで、自身と、自身を保つための権能は残されたけど、神々とは比べるべくもないわね。と彼女は悲しそうに微笑んだ。

 

『すっかり最弱の竜に逆戻り。悲しいわね』

『………… お前は   最弱の時の方が  遙かに怖ろしい   だろうが』

『あら、あら、あら、そんなに嫌がられることしたかしら?』

『ぐりーど、らすと、ぶっとばした』

『……?……ああ、方舟に来た直後、ラストがイキリ倒してた時ね、懐かしいわあ』

 

 グリード達との気安いやり取りの声を一つ一つ聞いてもウルはぞわぞわとした感触が全身を襲った。今の身体は実際の自分の身体ではないが、心臓が嫌な感じに震えるような気分だった。

 声を聞くたびにあの戦いが思い出されて、肉体が忌避反応を起こしている。

 

「び、びった……」

『そんなに怖がらなくても良くないかしら?殺されたの私の方よ?』

「よく言うわ、トラウマもんだからなお前……」

 

 大罪竜なんて誰も彼も似たような物で、それぞれに地獄だったと言いたいがその中でもグリードはとびっきりだ。本当に、心の底から二度と戦いたくはない。次にやりあったら絶対に殺される自信しかない。

 そのウルのびびりように、グリードは楽しそうに笑った。

 

『おかあさん哀しいわ。助けてあげようと思って、むりやり目を覚ましたのに』

「無理矢理……?」

『心配しなくても、もうすぐ眠るわ』

 

 そう言って小さくあくびをする。本当に眠そうだった。

 無理矢理覚醒した、というのは本当らしい。が、しかし

 

「それで、助け……?」

『ソレの使い方』

 

 そう言ってグリードが指さすのは、ぷるぷるとウルに抱えられて震えているノアだった。そのノアを指先でなぞりながら、グリードは更に続ける。

 

『本質的にノアは道具なのよ。そして今その使用者(ユーザー)はあなたに定められている』

 

 そう言ってグリードはウルを見る。

 

「……つまり?」

『道具は基本的に自分の意思では動かない。逆を言えば、命じれば貴方に必要な情報をノアは提供してくれるわ』

 

 何せ1000年間、方舟イスラリアを監視してきたのぞき魔ですものね?とノアに尋ねると、ぴぃぴぃとノアは頷いた。

 

『フォーマットされて、余分な機能が失せたから、できることはすくないでしょうけど?情報げんにはなるはずよ?』

「…………」

『だから、ねえ。貴方次第なの、ウル』

 

 強欲の竜は、ウルの頭を随分と小さくなった掌で掴み、囁いた。

 

『貴方の願いはなあに?』

 

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