かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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愚天跋扈

 

「あら、あら、大変なことになったわねぇ」

 

 出現し、暴れ始めた魔王と灰の英雄を前に、ヨーグは困ったような声をあげて目を細める。といって、表情に浮かべた困り顔は表層だけだ。

 実際は困っていない。あの魔王の計画がズタズタの台無しになる可能性を前に悦びを抑えるのに必死だ。無論、言うまでも無くそれは自分の破滅も意味している訳だが、ヨーグは気にしない。

 だがさて、どう立ち回ろう。ヨーグがそう考え始めた瞬間。

 

「っが」

「やはりここにいたか」

「初めまして。ヨーグさん」

 

 その思考の隙を突くように、二つの剣が躊躇無くヨーグの心臓と腹を貫いた。一方は背後から、もう一方は正面から。

 

「あら、ミナちゃんはちょっと前ぶりねえ?そして、初めまして風見鶏さん?」

「七天不在の隙に逃げ出したと思ったぞ。狂人が」

 

 ミクリナの刃は殺意に満ち満ちていて、ある意味ではわかりやすい。理解しやすい。問題はもう一方だ。

 

「僕は貴方に恨みなんてないんですけど。ウルの邪魔になりそうなので死んで下さい」

 

 エクスタインはさわやかに微笑みを浮かべる。本当に心の底から、恨みも敵意も一つも無い笑みだ。その笑みのまま、彼はヨーグの心臓を抉り、引き抜いた。

 

「怖いわね。ミナちゃんよりよっぽど」

 

 血はぼたぼたとこぼれ、ヨーグは膝を突く。そのまま溶けるように彼女の肉体は消えていく。その有様を残されたエクスタインは淡々と見つめた。

 

「逃げられたか。一筋縄ではいかないな」

「この場所で逃げられる場所は限られる。こちらだ」

 

 ミクリナが即座に追う。エクスタインは彼女について行く前に、司令室に空いた大穴。ウルと魔王が戦いを続けるその先へと向けられていた。

 

「君のために出来る事を全てしよう。頑張ってね、ウル」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 まず魔王を討たねばならない。

 

 様々な討論の末に得られたその結論の意味を、ウルは正確に理解していた。

 ウルと魔王の接触はそれほど多くはない。会話だって数えられる程度で、戦闘している所を見たことも限られる。

 だが、その僅かな接触でも、ウルは彼が方舟イスラリアにおいて長きに渡り君臨し続けてきた怪物であることは確信していた。

 

 その存在と今、ウルは一対一で相対している。

 

「……」

 

 機神の臓腑の何処か、無数の配管が重なった狭い空間にウルは一人立ち、周囲を警戒し深呼吸を繰り返す。いつの間にか魔王は姿を眩ませていた。周囲は自分が破壊した配管から漏れ出る蒸気の騒音と熱が吹き出す。

 否応なく、意識が散る空間であっても尚、ウルは集中を高め続けていた。

 そうせざるを得なかった。死闘の中で培われた本能が警告を鳴らし続け、ウルの意識を強制的に研ぎ澄ませていた。

 

 僅かでも集中を萎えさせれば、その瞬間死ぬと、本能が集中を強要していた。

 

「ッ!!」

 

 呼吸の狭間、一瞬の隙を狙い撃つように暗黒の咆吼が飛んでくる。暗黒の熱線をウルは寸前で屈み回避すると、その射線の方角へと足を蹴り出し、竜牙槍の咆吼を放った。

 焼き払われた射線の先を双槍を構え、直進する。魔王の姿は――――

 

「い、ない!!!」

 

 想定内だった。素直にそんな場所にいるわけがない。

 そして、そうなれば当然この場所を罠にしてくる。それも分かっているから、ウルは即座に竜殺しを地面に突き立てて、権能を展開した。

 

「【揺蕩え!!!】」

「いいのかなあ?ウル坊」 

 

 そして発動するとほぼ同時に闇の咆吼が飛んでくる。ほんの一瞬遅れていれば即座に打ち抜かれていた暗黒は、しかし完全に防げたとは言い難い。

 

「お前の推測通り、【天愚】は神も竜も殺すぞ?」

 

 射線の方角から聞こえてくる声の通り、闇は全ての指向性を狂わせる【色欲】の結界すらも、徐々に浸食していく。ウルは自分が放っている力そのものが“台無しになっていく”感覚に身震いしながらも、射線の方角を睨んだ。

 

 【天愚】の脅威は分かっている。色欲の結界は守りの為ではない。

 

「お?」

 

 ウルは懐から小さな球体を三つほど放り投げる。同時にもう一方の槍、竜牙槍の顎を開いて放り投げた球体――――魔封玉に狙いを定めた。

 

「【白王魔封】」

 

 戦いに備え、リーネからもたらされた道具を躊躇無く使う。ここで後先は考えない。それを考えてたら絶対にこの魔王には勝てない。

 

「【終局起爆】」

 

 咆吼を放った瞬間、封じられていた究極の終局魔術が三つ同時に起爆する。巻き起こった氷結と炎、雷の嵐が同時に巻き起こり、互いを喰らい合いながらも周囲の一切をなぎ払う。魔王の咆吼も途絶えた以上、効果範囲の中にはいたらしい。

 

 だが、まだだ。

 

「【咆、吼!!!】」

 

 放つ。灼熱の咆吼を打ち抜く。狙いは定めない。定める必要は無い。その威力は旅の始まり、宝石人形に放った時のそれとは比べものにならないほどに強大で、広範囲で、無差別だった。機神の頑強なる装甲すらも打ち抜いて、外へと続くような大穴を空け、焼き払う。粘魔王が機神の身体を覆い、その破損を塞ぐようにしていなければ、とっくに無残な姿となっていたことだろう。

 

「…………」

 

 眼前の一帯を焼失させたウルは、そのまままっすぐに目の前を睨み付ける。未だ、その表情は緊張と、集中に満ちていた。膨大な煙と炎の嵐を睨み続けた。

 

「――――ヒトの家で好き勝手してくれるじゃ無いかウールー坊?」

 

 そして、その視線の先からゆらりと闇が吹き上がり、至極当然という笑みで魔王ブラックが姿を現した。ウルは冷や汗を流れるままにしながら、尋ねた。

 

「……一応聞いておくが、どうやって凌いだ?今の」

「はっはっは、種と仕掛けを明かす魔術師(マジシャン)はいないぞお?ウル坊」

「さいで」

「しっかしここらへんとか、俺の部下が死にものぐるいで突貫工事してたんだぜ?かわいそうに思わないのかよ」

 

 嘆いて、悲しんで、そのまま銃口をウルに向けて引き金を引く。

 真っ黒な闇の咆哮は射線の全てをなぎ払い、一切合切を台無しにしていく。寸前でそれを回避したウルは、その欠片も躊躇のない破壊に冷や汗を流した。

 

「こっちの台詞だわ。どんだけ躊躇ないんだよお前」

 

 敵の本拠地で戦う事で、敵の攻撃手段を制限し抑制する。というメリットが得られるとは正直なところ思ってはいなかった。どうせそんな安い目論み通じないだろうと予感はしていたが、それにしたって限度というものがある。

 こちらよりも積極的に破壊活動行っていないだろうかコイツ。

 

「安心しろ、俺の部下達が直してくれる」

 

 そんなウルの心中を察してか、魔王がなにやら良い笑顔を浮かべ断言する、が、

 

《あああー!!やめ、おやめください魔王様!!あ、ああー!!》

《B区画が爆発するぞ!!閉鎖しろぉ!》

《畜生!!灰の英雄そのバカぶち殺してくれぇ!!》

 

 直後、悲鳴のような通信が響き渡った。その通信は魔王の破壊の影響なのか、間もなくしてあっけなく途切れる。

 

「…………」

「…………な?」

「なにが、な?なのかわからんわ」

 

 この男のノリとテンションについていくのは大変によろしくない。ウルはそれを理解し、戦闘を再開した。

 

「【黒瞋よ、熾ろ】」

 

 竜牙槍を握る。黒と白の顎が開く。その両顎に守られた魔導核が激しく唸る。ウル自身の魔力が注がれ、激しく明滅したそれが、入り交じった咆哮を一直線にはき出し、機神スロウスの肉体を焼く。

 

「【黒瞋咆哮・竜牙】」

 

 それを、ウルは刃のように振るう。射程無視の巨大熱剣を魔王は寸前で回避―――できていない。回避しきれず両足が焼き断たれ、それをそのまま再生させながら、黒炎が機神の腹の中を砂塵に変える光景を興味深そうにしながらウルへと語る。

 

「ッハハハ!!黒炎で呪わなくて良いのかい?」

「危なっかしくて使えるかあんなもん!」

 

 実際、ウルのはき出す黒炎には見た者を呪う機能は有していない。色欲曰く、『呪いは後付けされた侵略機能』だと聞いている。“本来の機能”がそうであるというのなら、わざわざそれを歪めて使う理由はウルには無かった。

 

「―――なるほどなあ?」

 

 だが、そのウルの選択に対して何を思ったのか、魔王は口端を広げて禍々しく笑った。

 

「……何かいいたげだな。容赦が足りないってか?」

「いやいや、そうじゃねえ。歪んだ黒炎は不細工で面倒くさかったしなあ?それを使わないってんならソレも一つの選択さ―――だが」

 

 彼の身体にまとわりつく闇が、魔王の身体と共に揺れる。炎の様で在りながらも、違う。それが、魔王自身が【天愚】と共に研ぎ澄ませた“歩行術”の類いであると気が付いた。

 気が付いた時には、魔王は既に眼前に迫っていた。

 

「っ!!?」

()()()()。後一歩って所か」

 

 蹴りがウルの腹に突き刺さる。強烈な痛みにウルはうめき、しかしすぐに距離を取る。そのまま闇に焼かれれば、ダヴィネの鎧すらも情け容赦なく破壊され、そのまま肉体が破壊される。

 

「決断力は100点」

 

 咆吼を放つ。だが、放つよりも速く魔王は更に距離を詰める。まるで回避を考えずに突っ込んできた。そのまま撃つと、当然魔王の肉体は抉れちぎれる。だが、魔王はそれでも止まらない。

 

「行動力も100点、判断力もある、経験とセンスは赤点だが、こっちは些細だ」

 

 構えていた竜殺しを振る。だがその刃を魔王は白羽取りで受け止め、ウルを驚愕させる。竜殺しの特性が魔王の魔力を奪い、その手を砕いているがまるで気にする様子もない。そのまま再び腹を蹴り飛ばされる。

 

「そして覚悟は百億点」

「っが……!」

「だが、足りてねえ。この“戦争”においては一番重要な部分が欠落している」

 

 弾き飛ばされ、機神の壁にたたき付けられたウルを魔王は観察する。強欲のものともまた違う、あらゆるを喰らうような視線にウルは眉を顰めた。

 

「まあ、しょうがねえわな。こればかりは学ぶ機会なんてあるもんじゃない。まして名無しの小僧から百段飛ばしでこんな所まで来ちまったんだから尚のことか」

「何の、話、だ」

()()()()()。お前の目指すところは大体分かった。“贄を望まない”考え好きだぜ俺?だが、だったら尚必要なものがある」

 

 連続して放たれる咆吼の連射から逃れるように引き下がるが、まるで全て見えているかのようにこちらの導線を塞がれる。

 

「仕方ねえから講義してやるよ。お前には期待してるんだぜ?だから――――」

 

 咆吼から逃れるため、周囲の剥き出しになった配管を蹴り、更に機神の奥へと逃れるように落下していく。だが、振り返ると魔王は既にこちらを見定めていた。

 

「――――死ぬなよ?まあ殺す気でやるが」

 

 魔王が纏う闇が一層に深くなる。ただ存在するだけで周辺が砕け散っていく。その魔王の姿に寒気を覚えながら、憤怒の力を全力で放った。

 

「【愚星】」

「【熾ろ】」

 

 強烈な衝撃と共に、ウルと魔王は二人仲良く機神スロウスの中心部へと落下していった。

 

 

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