かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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愚天跋扈③ 視座

 

 

 機神スロウス中枢部。

 

「魔界で、どうしてアイツらの攻撃が全く効かなかったか分かるか?」

 

 部屋の構造故だろうか、ブラックの声は周囲の緩衝材に吸収され、反響はしなかった。それ故の奇妙な静けさが、ウルの心に不安をよぎらせた。

 

「奴らの銃は別によわっちいわけじゃねえ。ちゃんと十分な火力で、人肉くらい平然と打ち抜いて、ものによっちゃ岩も貫通出来るくらいの力はある筈なんだ」

 

 命の取り合いをしている真っ最中に何の話なんだ、と思っていても、ウルは耳を傾けざるをえなかった。耳を塞ごうとも、彼の艶ある低い声は耳に強制的に押し入ってきた。

 

「結局、魔力さ。俺たちの血肉に染みこんだ魔力が、それを介さず起こった現象の悉くを歪めさせる。生命本能に基づいたもっとも原始的な魔術だな」

 

 魔王は優雅に歩き、ウルを通り過ぎる。そして中央にあった立方体。彼曰く、イスラリアすら滅ぼしかねない爆弾の収まったその箱を軽い調子でぽんぽんと叩いた。

 

「つまり、裏を返せば魔術を介しさえすれば、魔界が生みだした兵器は十分、イスラリア人を蹂躙できる」

 

 ウルは深く額に皺を寄せた。詰まるところ、目の前にある物体は、魔界に存在する兵器だと言うことになる。ウルが知る限りにおいても、魔界の文明レベルはイスラリアのソレと比べても遙かに高い水準であるように思えた。

 それが、イスラリアの所持していたアドバンテージを獲得してこの場所に鎮座している意味を理解した。

 

「これは、“世界”がイスラリアと大戦争していたときに双方で大活躍した爆弾だ。山ほど殺して、殺し返した馬鹿な兵器さ」

「んな危険物、なんで用意した」

 

 此処で初めてウルは質問を返した。質問すること自体、彼の手の平の上であるように思えたが、どうしても尋ねざるを得なかった。

 彼に勧誘されたとき、彼の目的が神の力を有しての世界支配なのは明かされた。いくらか虚言も交えてのことだったのだろうが、それほど外れてはいないはずだ。

 その彼の目的とこの爆弾の存在がかみ合わなかった。

 

「なに、幾つかの“セカンドプラン”の一つって奴さ。神同士を戦わせて良い感じで両方弱ってくれたら儲けものだが、神のどちらかが健在だったら困るだろ?」

「言いたいことは分かるが、これで神を倒すって?」

「あー、無理無理。これくらいの威力の爆弾あいつら自分で作れるし、自分の身だって守れるぜ?まだどっちも使いこなせちゃいないが、その内それくらいできるようになる」

 

 ただし、

 

()()()()()()()()()()()?」

 

 魔王は語る。

 

「イスラリア人は神を強化する。方舟を満たす魔力を取り込み、信仰と畏れを吐き出す。この二つがそれぞれの神を強くする」

 

 実に楽しそうに、休日のプランを語るような軽快さで、

 

「だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 イスラリア人の皆殺しの計画を、彼は謳った。

 

「この爆弾をしかるべきポイントで爆発させれば、イスラリア大陸の浮遊機構は破壊できる。ソレで皆殺しさ。まあ、大陸落下で起きる災害で“世界”もそれなりに被害は出そうだが――――ドームの性能を信じようか。ダメなら滅びるが」

「――――――」

 

 ウルは言葉が出なかった。

 だがそれは義憤にかられて、だとか、魔王の言葉が信じられなくて、だとかではない。もしもこの後、ウルを倒し、神と神の激闘の果て、漁夫の利を得ることが出来なかったなら、神と真正面から戦う羽目になったなら、魔王は間違いなく今語った言葉を実行するだろう。それは決してハッタリではない

 

「冴えてると思わねえ?そうすりゃかなりの精度で神を弱体化できる。どっちの神もな?まあ、どっちからもパクってる俺も弱るかもだが、地力なら負ける気はしないねえ」

 

 ウルは恐ろしくなった。

 魔王はシズクやディズと比べて強くない。あの最凶の竜グリードにだって敵わない。

 だけど、恐ろしかった。【権能】の有無など、些事だ。

 

「神の力を奪った後は、時間をかけて神の機能を改竄するか、分解(バラ)して再利用、あるいは生き残った人類を使ってイスラリア人として増やすか、かな?敵はいない。時間はある。ゆっくり研究を進めりゃいいじゃないか」

「…………なるほど、よくわかったよ」

 

 ウルは頷いて、納得した。

 ブラックという男の人柄を、まだここに至るまでウルは正確には読み切れていなかった。おちゃらけて飄々とした言動と態度で道化のように振る舞う事すらある彼の本質は、真正面から向き合っても揺らいで、つかみ所が無かった。

 だが、今ハッキリした。この男は、この魔王は―――

 

「頭おかしいんだな。お前」

 

 ()()()()()()()

 

「本当に今更だな同類」

 

 ウルは駆け出した。どのみち、この魔王を殺さなければならないのは何も変わりはしない。その必要性が更に加速したというだけの話だった。竜殺しと竜牙槍を身がまえて、大罪の力を込める。相手に攻撃が通用しないだろうが関係ない。

 魔王が跡形もなくなるよう叩き潰す。それができなければ――――

 

「言っておくが、暴れすぎると、ケースが壊れて時限装置起動するから注意しろよ」

「――――っ」

 

 だが、ブラックが不意に零したその言葉に、ウルは肉体を僅かに硬直させた。意識すまいと思っていて尚も囁かれたその言葉が、ウルの身体に誤作動を起こした。

 

「ほらみろ躊躇ったな?」

 

 魔王は嗤う。ウルの硬直をせせら笑った。ウルは自らの失敗と、この後に待ち受けるであろう痛みに歯を食いしばった。

 

「お前、まだどっかで自分のことを“路傍の石ころ”だって思っちまってるだろう?」

 

 衝撃が走る。コレまでよりも更に増して魔王の動きは早かった。動きが洗練されていた。愚星を纏った拳がウルの腹を殴りつけ、鎧を砕いた。

 

「小娘どもを贄にして全部押しつけるのを拒絶する!ご立派な選択だが、それを決めた時点でお前には“権利と義務”が生まれる!」

 

 攻撃が連続する。反撃を試みるが、通らない。動きが先読みされる。振りかぶれば動作の手前で熱光が腕を焼き払い、回避を試みればその先に蹴りが飛んでくる。咆吼を放てばその手前で蹴り飛ばされる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!その視座が無い内は“英雄”止まりだなあ!!」

 

 血を吐き、闇に肉体を喰われ、肉が引き千切られた。尚も魔王の蹂躙は止まらない。

 

「その一歩を踏み出した瞬間!果てしない数の屑どもが死に絶えて、同じだけの数の屑どもが救われる!!善意であれ悪意であれ野心であれなあ!!!」

「っがあ!?」

 

 蹴りが顎を打ち抜いた。口の中が血で一杯になりながら、それでも死に物狂いで構え直したウルに、魔王は笑いかける。

 

「お前はもう路傍の石ころなんかじゃねえ、()()()()()()()()()()!!!確信しろ!!!」

 

 魔王の肩から、真っ黒な闇が握り拳のように固められていた。それが【天賢】の拳に似て見えたのは、決して気のせいではないだろう。ウルは色欲の力を解放し、衝撃に備えた。

 

「【揺蕩い、狂え!】」

「【天罰覿面・愚星】」

 

 だが、闇を纏った拳はウルの色欲の力を貫通し、ウルの身体を殴り、えぐる。

 

「―――――」

 

 悲鳴を上げることも出来ず、ウルはたたきのめされ地面に転がった。

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