かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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愚天跋扈④ 興味

 

 機神スロウス、駆動部管理区画

 

「やべえやべえ!!動力ライン切断されてるぞ!!?直せ!」

「うーわやっべえー!ここ粘魔が浸食してきてる!近づくと死ぬぞ!!!」

「っつーかなんであのバカは自分の家で暴れるの!!バカなの!?バカだった!!」

 

 魔王の配下達の悲鳴は最高潮だ。彼等は四方八方に駆け回って罵声を飛び交わせながら、機神スロウスの修繕に当たっていた。太陽神ゼウラディアが生み出した【天使】から攻撃をくらいながらもあばれ狂っている機神の状況は混沌極まる。

 ただでさえ、邪教徒ヨーグと魔界の技術を合わせて創り出したキメラのような人形兵器なのだ。そこに加えて、ハルズ自身が機神に溶け込み一体化するという異常、内部で暴れまくる灰の英雄と魔王の激闘、最早想定通りの部分を探す方が難しい大混沌だ。

 

「さあ直せぇ!魔王様の戦いを邪魔してはならんのだあ!」

 

 だが、不思議と彼らの目は輝いていた。

 魔王に悪態をつき、時に崩壊に巻き込まれて怪我を負って、血まみれになっても尚魔王に対する献身を辞めることはない。

 異様ではあったが、道理だった。彼らは穿孔王国が失われても尚、魔王に最後まで付き従うことを選んだ真性の狂信者だ。魔王のためならばなんだってする。彼の見せてくれる世界に魅入られ、彼の狂乱に灼かれた者達なのだ。

 

 彼らは例えこのまま死ぬことになろうとも、魔王を助けようとするだろう。

 

「うーん。皆、頭おかしいんだなあ。僕がいうことじゃあないんだけどもね」

「あいつらの相手をするな。私たちが逃げる前に、此処が崩壊されても困る」

 

 そんな彼らの狂気めいた献身をすり抜けるように、エクスタインはミクリナと共に機神スロウス内部を移動していた。現在二人は邪教徒ヨーグを追って機神内部を移動している。

 

「そっちも大変なんだけど、こっちもまずいなあ」

 

 【俯瞰の魔眼】で状態を確認したエクスタインは冷静に判断した。

 

 このままだとウルは死ぬ。魔王に負けて殺される。

 

 ウルがボロボロで殺されそうになっている事に動揺はない。何せ何時ものことだ。彼は絶対無敵でどんな困難にも打ち勝つ最強の男ではない。大体いっつも死にかけてるし、割と負けるし、失敗するときは派手に失敗する。

 エクスタインは彼を信奉しているが、盲信はしていない。正しくウルを見極めている。

 そして、彼が死ぬことは許容できない。世界が滅んでも認めるつもりはない。

 

 なんとかしなければならない。エクスタインは動くと決めた。

 

「ちょっと無茶をしようか――――っと」

「よそ見するなっ」

 

 だが、その直後、ミクリナに首根っこを引っ張られ、エクスタインはかがんだ。すると背後から迫った荒々しい魔術の光がエクスタインの頭上をかすめる。

 誰なのかはすぐに分かる。この混乱の最中、自分達を排除しようとしている人物は一人しかいない。

 

「驚いた。もう完全にヒトとは違うんですね」

「失礼ね。私はまだ人間よ。一応ね」

 

 機神の浸食された粘魔の中、潜り込むようにしてヨーグが再び姿を見せた。異常な形に歪んだ彼女は表情を笑顔に変えている。しかし、それは心から喜んでいるものとは違うのだろう。ただ、それ以外顔の形が変えられなくなってるだけだ。

 

「出来れば、邪魔をしないで欲しいのだけどね」

 

 能面のような笑顔のまま、ヨーグは二人に語る。

 

「この世界はどうしようもないのよ?皆が間違ってると知りながら、足を止めることも出来ずにどうしようもなくなった世界の果て」

「勝手なことを……!」

「あら、ミナちゃん。貴方だってもう分かったでしょう?この世界の構造。分かるでしょう?救いようが無いって」

 

 爆発が起こる。機神の身体の一部が崩壊し、穴が空く。そこから見える外の光景はあまりにも混沌としていた。赤黒い空、天を貫くような魔塔、それにまとわりつく七首の竜と、空を飛ぶ巨大な怪獣、竜と天使が飛び交って、それを睨む機神は粘魔に覆われヒトの声で喚き散らしている

 どうしようも無くなった世界の果て。

 ヨーグの言葉はこの上ないほどの説得力があった。

 

「それを、あの魔王は砕こうとしている。任せた方がいいと思「ああ、ちょっと良いかな」

 

 しかし、エクスタインはヨーグの言葉を遮って、爽やかに言い放った。

 

「ゴメン。本気で興味ない」

「「――――――」」

 

 ミクリナとヨーグは言葉を失うが、エクスタインは肩をすくめる。

 

「君たちを虚仮にするつもりは無いし、この世界が悲惨なのは同意見だけどさ。言う相手を間違ってるよ」

 

 そのまま彼は懐から何かを取り出す。それは魔導機を稼働させるためのスイッチだった。やや、玩具めいて見えるようなそのスイッチを、エクスタインは躊躇無く押した。

 

「お前それは――――!」

「僕みたいな破綻者相手にくっちゃべることじゃ、ない」

 

 次の瞬間、機神の内部は爆発に包まれた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 【竜吞ウーガ司令塔内、司令室】

 

「機神スロウス!爆発」

 

 司令塔の中でウーガを管理する魔術師達は、通信魔具に映る機神がその巨大な身体の至る所から爆発を引き起こす光景を眺め、驚愕と共に報告した。しかしその報告を聞いても尚、司令席に座るリーネは微動だにしなかった。

 

「あの男、用意しろとは言ってきたけど、マジで使ったのね」

 

 エクスタインが用意を頼んで、用意した白王符は真っ当なものでは無かった。枯れた鉱山が迷宮化するのを防ぐため、坑道そのものを破壊する大規模爆破術だ。

 いうまでもなく、そんなものは自分が乗り込んでいる移動要塞の中で爆発させるような代物ではない。彼の頭は普通におかしい。

 

 とはいえ、今は彼とウルに託すしかない。今は自分もやるべき事がある。

 

「銀竜も増加しております。どうされますか、師よ」

「続行よ。銀竜の対処に集中」

「承知いたしました」

 

 弟子のルキデウスに指示をしながら、リーネはひたすら目の前に集中していた。この後に及んで、この状況下であるにもかかわらず、彼女の目の前には無数の術式、研究書類が積もっていた。

 この瀬戸際において、彼女は魔術の研究を進めていた。

 無論、世界が終わろうというこの状況下において、酔狂で研究なんてしていない。彼女は魔術師としての己の誇りと全てを賭けて、仲間達のために、研究を続けている。

 

 無論、この研究は仲間達が敗北すれば、ウーガが墜ちればなんの意味ももたらすことはない。それを承知で、リーネは仲間達に全てを託した。

 

「ウル、勝ちなさいよ。そうしないと話にならないんだから……!」

 

 指先に血がにじむほど力を込めて、彼女は術式を幾重も刻み続ける。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 機神スロウス機関部。

 

 さて、このまま死ぬかね?

 

 魔王ブラックは自らがたたきのめした灰色の少年が無残に倒れ伏す姿を冷静に見つめていた。彼の身体はブラックの愚星が蝕み、砕こうとしている。その有様でもぴくりとも動かない。

 しかしブラックは不用意には近づかない。一切の油断なく淡々と彼が死にゆくのを観察し、そして銃を構えた。

 

 だが、そうこうしている内に激しい揺れが巻き起こった。

 

「んー?ゲイラーがトチったか?」

 

 いや、そうではないだろう。と、魔王は即座に思考を改める。あの男は慌ただしいが、仕事は出来るタイプだ。この程度の大暴れで機神を終わらせるような迂闊はすまい。と、なるとだ、

 

「っと」

 

 魔王は何気ない動作で一歩横にずれる。次の瞬間、彼が先程まで立っていた場所に刃が飛んだ。やや禍々しい短剣、確かヨーグを縛った【封星剣】の類いだと理解した。先の爆発に紛れて近づいてきたらしい。

 ブラックは振り返り、にんまりと笑みを浮かべて侵入者を出迎えた。

 

「――――よう、エクス」

「……いや、どうなってるんですブラックさん。僕みたいに魔眼はないんでしょう?」

 

 問われ、ブラックは首を傾げる。今の回避に特に理屈は無かった。ただまあこのタイミングでならここらで攻撃が来るなという大ざっぱな予感でしかない。

 

「うん、経験則って奴だな?」

「ええ……」

 

 どん引きされた。とても悲しかったので殺してしまおうか、なんてことを考えていると、エクスタインはそのまま突然両手を挙げた。そして、

 

「お願いがあるのですけど、ウルだけは助けてくれませんか」

「ほう」

 

 何か言い出した。何も聞かずにこのままぶち殺してやるのが最適解である事を理解してはいたが、この状況下で微塵も恐れずこちらを見るエクスタインの図太さに、ブラックは興味が引かれた。

 さて、この狂信者は何を狙っているのだろうか。

 

「正直言って、僕は彼以外興味が無い。あのウーガの連中が死のうとどうでもよい」

 

 ブラックはエクスタインへと近づく。躊躇はなくまっすぐだ。エクスタインは微塵も動かない。魔王が顔見知りの自分に対して一欠片も躊躇する事は無いと承知の上で揺らがない。

 うんうん、狂ってるねえ。とブラックは感心しながら銃を撃った。エクスタインが“ソレ”を取り出すのと殆ど同じタイミングだった。

 

「っが!?」

「はっは、なるほど“転移の巻物”ねえ」

 

 愚星の力は込めない、純粋な鉛玉で腕を打ち抜かれ膝を突くエクスタインの手元から転がり落ちた巻物を見つめ、ブラックは笑う。実にシンプルなやり方だが、悪い狙いではなかった。

 

「確かに一度転移されちまえば【天愚】じゃ対処は難しい。一瞬で俺は世界の反対側か、火山の中か、星空の仲間入りだ。まあ、もう【天愚】は手に入らなくなるだろうがなあ?」

 

 と、エクスタインの首を素早く引っつかんだ。

 

「っぐ……!」

「ウルの命さえ助かれば何だって良いなんて、そんな訳ねえーよなあ。お前が奴に魅入ったのは、“その生き方なんだから”」

 

 エクスタインの執着は個人に依存していない。ウルとその周囲が取り巻く環境全てで初めて意味がある。ウルが形作るその周囲の環境に対して「どうでも良い」なんて思う筈が無い。

 

「怖い、ですね。どうなってるんですか、その、観察力」

「お前は分かりやすすぎるだけだよ。さて、」

 

 無論、彼を殺さなかったのは慈悲や、会話を愉しむためではない。目的は彼が棚ぼたのような形で獲得した、その断片だ。

 

「お前の【嫉妬】も回収しておこうか――――」

 

 グレーレを手伝い、結果として彼と同じく嫉妬を打倒しながらも、シズクの“回収”から免れた【シズルナリカ】の断片の獲得。それが目的だった。

 

「―――お前」

 

 だが、直後に気が付く。

 魔王の反応、エクスタインは笑みを浮かべた。同時に、背後で動きがある。

 

「【其は喰らい合い、宙まで翔る白炎】」

 

 闇に食い尽くされようとしていた少年の身体から、白い炎が巻き上がる。

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