かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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混迷の世界②

 

 

 大罪都市エンヴィーもまた、太陽の結界の揺らぎに伴い状況は変化していた。

 

「グローリア様!もう無茶です!!」

「泣きごとをいうんじゃないですよ!」

 

 ガルーダは飛翔する無数の魔物達の襲撃に遭っていた。

 太陽の結界は、魔物の進路をただ塞ぐためのものではない、中に潜んだ人類の気配を隠し、魔物達を退けるための力を常に放っていた。ソレが失われた事によって、都市の外ではびこっていた無数の魔物達がヒトの気配に誘われてやってきたのだ。

 

『――――――――――――――』

 

 燃えるような炎の鱗粉をまとった【火雷蝶】、十数メートルはあろうかという蝶達が炎をまき散らしながら移動要塞ガルーダに群がり、焼き払わんとする。天空を自在に駆けるその飛翔能力によって焼け落ちる事だけは回避しているが、それでも内部は熱が籠もり、乗組員達は地獄のような苦しみを味わっていた。

 

「グレーレの国を守るのです!!!」

 

 そんな中、彼らの指揮を執るグローリアだけは元気いっぱいだった。騎士鎧を脱ぎ捨ててインナー姿になりながら、猛る彼女の姿はなかなかにすさまじいものではあったが、しかし周囲はその熱意についてはこれない。

 

「ふざけんなよ!あのヒトはとっくに俺たちを見捨てたんだ!!」

「いい加減現実見ろよクソババア!!!」

 

 とうとう、耐えきれなくなった騎士が叫んだ。

 遊撃部隊の騎士のなかでも、あの“陽喰らい”の後も残り続けた者達だった。しかしそれは別に、忠誠心が高かったりだとかそういう事では無い。単に仕事を失って食っていけなくなるのが嫌だっただけだ。

 元々労働意欲なんて無いに等しい。そこに来てこの大騒動だ。限界が来た彼らはとうとう叫んでしまった。

 

 ぶち切れてヒステリックが飛んでくる。そう思い彼らは身構えた。

 

「なあんにもわかっていないのね?あのお方はねえ……!」

 

 が、しかし、以外にもグローリアは冷静だった。むしろ余裕に満ちた笑みを浮かべる。そしてそのまま彼女は右手で握りこぶしをつくり、それを掲げ――――

 

「本当の本当にすごいのよ!!!」

 

 ――――なんというか、本当に頭が悪い信奉を叫んだ。

 

「…………ば、バカかアンタ」

 

 直接それを告げられた騎士達は、あまりの衝撃に一瞬絶句した後、思った通りの感想を告げた。元々グレーレの操り人形の哀れな女だとは思っていたが、想像を遙かに超えるあんぽんたんっぷりに言葉も無かった。

 

『――――――――――――――』

 

 しかし無論、そんな彼らの混乱した心中など魔物達は知ったことでは無かった。気がつけば【火雷蝶】がガルーダを取り囲むようにして動き、そして炎の鱗粉をまき散らすように強く羽ばたく。もう回避なんてできないとガルーダを補助していた術者達は身をかがめる。

 

「――――!!」

 

 唯一、グローリアだけが、外の光景を映し出す水晶を睨み付けた。そして、

 

『――――――――っ    』

 

 次の瞬間、地上から突如として天を切り裂くようにして伸びる無数の光が魔物達を引き裂いていった。

 

「なん、だ!?」

「何の攻撃だ!?地上からの支援か!?」

「い、いや!見ろ!」

 

 そして、ガルーダの周辺を映し出す水晶の内、エンヴィー中央工房の映像を騎士の一人が指さした。そこには、中央工房のあちこちから、巨大な数メートル超の人形が出現していた。それらの人形は次々に、上空を舞う銀竜達や魔物達を迎撃していく。

 先ほど、ガルーダを囲っていた【火雷蝶】達を打ち抜いたのも、人形達の咆吼に違いなかった。

 

「……ありゃ、間違いねえ。グレーレの作品だ」

 

 騎士達の中でも、年老いた騎士がぽつりと、確信に満ちた言葉をつぶやく。確かにこの、こちらの苦労を鼻で笑うかのように攻略してしまうのはグレーレの技術に他ならない。

 なにゆえに中央工房から突如としてそれらが出現したのか、最初から用意していたものなのかはわからなかった。が、自然と騎士達の視線は司令席で仁王立ちするグローリアへと集まった。

 

「ほーらみなさい!ほらみなさい!!!」

 

 その彼女は、掲げた握りこぶしを振り回しながら高揚した表情で吠え猛った。そしてそのまま周囲を見渡す水晶を指さして叫んだ。

 

「グレーレの人形達を援護なさい!あんな羽虫ども蹴散らすのよ!!!」

 

 彼女の指示に、一時的に機能停止していた騎士達は、そのまま即座に彼女の命令を実行すべく行動を開始した。

 

「あの女すげえな……」

「なんか元気出てきたわ、俺……」

 

 その最中、呆れとも尊敬ともつかぬ声が騎士達の間から漏れたが、勿論グローリアはそんなこと知ったことではなかった。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【中央工房】にて、ラスター・グラッチャは至る所から慌ただしい稼働音を響かせ始めた周囲を見渡しながら、叫んでいた。

 

「なぜだ!!誰の許可で人形を動かした!!!」

 

 彼が怒りをまき散らしている理由は勿論、突如として稼働し始めた中央工房の秘密兵器についてだ。グレーレが中央工房に配備させていた人形兵器、その稼働は工房長以外に起動を許されていない。その長とは勿論ラスターである。にもかかわらず彼は今回の起動を知らなかった。

 無論、状況が状況だ。使用もやむなしという状況と言えなくも無かったが、ラスターはそれを使うつもりは無かった。先の神殿との激突の時にすら彼は使わなかった。彼は自己保身が強く、めったなことでは自分の手札を消耗するような真似はしない。たとえそれで国が滅ぶようなことになったとしてもだ。

 

「切り札だったんだぞアレは!アレは――――」

 

 だから、この人形の起動は彼の知るところでは無い。誰かが勝手に使ったのだ。ふざけるなという思いで、彼は中央工房全体の制御を執り行う制御室へと足を踏み入れた。

 

「誰だ!誰が勝手に――――」

 

 そして、部屋で自分が座るべき座席にいる人物を見て、言葉を失った。

 

「…………」

「ヘ、ヘイルダー……?!」

 

 先の大騒動で大失態を犯し、あげく意識を失って療養をしていたヘイルダーが目を覚まして、司令席の前に立っていた。ずっと昏睡していたためか痩せ細っていたが、しかしその分眼光は強く、その目でぎろりと入ってきたラスターを睨んだ。

 

「貴様、目を覚まし……いや、そもそも監禁、なぜ……!」

「この期に及んで保身か。親父」

 

 びくりとラスターは震える。

 以前まで、このヘイルダーが中央工房のほとんどを取り仕切っていた。工房長であるラスターを無視するような形で彼に権力が集中していた理由は単純で、ラスターが経営者としてはうだつが上がらず、一方でヘイルダーは実績を示したからだ。最後に彼は失態を犯したが、それでも彼はそれまでに実績を重ねてきたのも事実だった。

 実際、制御室にいる作業員達のヘイルダーへと向けられた視線には、崇拝のようなものが入り交じっている。世界が滅ぶかも知れない事態に対して恐れ、自分の部屋に引きこもっていたラスターと比べたら、よっぽど彼の方が頼もしく見えるのだろう。

 

「じょ、状況を考えろバカが!!!もうこのイスラリアは終わりだ!!!」

 

 しかし、引き下がるわけにもいかずラスターは実の息子を罵倒しながら近づく。どう見たって病み上がりだ。力尽くで排除してやる。その勢いで彼は近づく。

 

「だからこそ、自分たちの身を守る。その判断の何が――――っが!?」

「イスラリアが終わる?」

 

 だが、不意に首が絞まった。見ればヘイルダーの体から機械の腕が伸びて、ラスターの首を絞めていた。何事かすぐに理解できた。ヘイルダーの体に食い込んで、摘出困難となった魔導鎧だ。それを今彼は、自分の手足のように操っている。

 

「そう簡単に世界が終わってたまるか!!敗北主義者が!」

 

 そう叫び、ヘイルダーは実の父の体を放り捨てる。壁にたたきつけられて、あっけなくラスターは気を失った。ヘイルダーはもう、父親に目もくれず、眼下の部下達に向かって腕を振り上げて叫んだ。

 

「ありったけの兵器を全て出せ!!グレーレが残していったもの全てだ!!!なりふり構うなぁ!!!」

 

 その号令に中央工房をは再起動を果たした。

 手を出してはならぬものに手を出して、中央工房を失脚させた男の言葉。しかし、この世界が滅ぶかもわからぬ窮地において、一切迷うことの無い指導力を発揮した彼は、再び中央工房のトップに返り咲くこととなった――――が、しかし、

 

「世界が終わる?終わるだと?終わるわけが無いだろう……!」

 

 当の本人は、自身の復権など、まるで眼中にはなかった。ギラついた目は崩壊寸前の世界を映し出す。しかし彼が見つめる先は外の景観などでは無い。

 

「どうせ、この状況はウルが動かしたに決まってるんだからなあ……!」

 

 彼は昏倒する前と何一つ変わりはしていなかった。

 が、しかし、結果として彼のその希望にも似た妄想は一部的中しており、ただただ自分の目的のために状況に抗おうとしている彼の狂った情熱が、結果としてエンヴィーの窮地を救わんとしている。

 その様子を彼の幼なじみが見ていたらなんとも言えぬ苦笑を浮かべたことだろう。

 

「終わりはしない……!こんなところで終わってる暇なんてないんだからなあ……!」

 

 勿論彼にはそんなこと知ったことでは無かった。

 灼熱のような情熱を燃え上がらせながら、彼は邪魔者達の迎撃をし続けた。

 

 

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