かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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警告②

 機神スロウス内部。

 激しい破壊音と警報音が鳴り響くその中心地にて、その乗組員達は騒然となっていた。

 

「魔王様が負けた」

「魔王が」

「我らが王が……」

 

 彼らは、自分たちの主である魔王が、たった一人の少年によって打ち破られたことを察していた。その事実を噛みしめるようにくりかえし言葉にした。だがそのうち、彼らを率いている最古の魔術師ゲイラーが両手を叩く

 

「――――では、決められたとおりに動こうか。諸君」

 

 最も魔王を信奉する男の、まるで動揺を感じさせない冷静なその声に、全員が顔を上げた。彼の部下達の表情には動揺や、悲しみはなかった。

 

「ああ」

「そうだな」

「まったく、世話の焼けるバカだよ」

 

 そこにあるのは「やれやれ」といった苦笑だった。彼らは一人残らず魔王の狂信者だ。それ故に分かっている。彼の所業が決して、真っ当では無いと。世界を滅ぼすような怪物が、道半ばで討たれるとしたらソレは道理であると。

 誰であろう魔王自身からもそれは度々伝えられていた。それ故に動揺は無い。だから彼らは淡々と、粛々と、事前に定められた仕事をこなそうとする。

 ゲイラーも率先して彼らを率いる。全ては魔王のため、あのとてつもなく狂気じみた、迷惑ばかりかけてくる、親しき友人に報いるためだ。

 

 報いるために、さらなる狂気の渦へと、この方舟を貶める。

 

「さあ、魔王様、貴方の花火、派手に打ち上げて――――「それはさせられんなあ」

 

 だが、その彼の腹を、魔術の光が焼き払った。

 

「っがあ?!」

 

 ゲイラーは驚き、振り返る。いつの間にか司令室の中心に、いくつもの術式を携えた森人が立っていた。懐かしいその顔を前に、ゲイラーは表情をゆがめる。

 

「グ、レーレ……!」

「守りの加護か。相変わらず用心深いな。だが好き放題やりたい放題するのなら、こうなる結末は覚悟していたのであろう?」

 

 そう言っている間に次々に、グレーレは周囲の魔術師達を打ち倒していく。容赦はまるでなかった。だがそれは当然でもあった。ここにいる連中は誰も彼も多くの罪を犯し、多くを傷つけた連中だった。そうされるだけの謂れはある。

 だが、この男に裁かれるのは納得いかない。ゲイラーは忌々しげに顔をしかめた

 

「相変わらず、だな!過保護めが!そんなに死んだ傀儡達が大事か!!」

 

 怒りと共に彼は叫ぶ。だが、その憤怒の声に対してもグレーレは冷静に首を振るだけだった。

 

「やりたい放題されすぎると、観測がしづらいだけだとも」

「っは!よく言う!!!だが!」

 

 そう言って、ゲイラーは身体を動かす。グレーレは即座に魔術を放ち、今度こそ彼の身体を焼き払う。だが、腕だけになってもなお、それは生きているかのようにうごめいた。そのまま機神の操作盤の中でも最もまがまがしく彩られた真っ赤なスイッチに触れる。

 

 魔王様の願い、完遂する!!!

 

「――――」

 

 次の瞬間、司令室は炎と破壊の渦に包まれた。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「【神鳴!!】」

 

 既に幾度目とも分からない全力の攻撃を振り回しながら、イカザは駆け回っていた。結界が打ち破られ、戦線を後退させる間の迎撃をほぼほぼ一人で賄っていた。肉体強化で身体は常に焼け付くような熱を放ち、凄まじい速度で魔物や竜達を蹂躙してかけ続ける。

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 斬って焼いても砕いても、魔物や竜は沸いてくる。それも鏡の巫女エシェルの魔力簒奪を経ても尚動くことが可能な元気の良い魔物達だ。弱くとも5級以上、1体でも都市の内部に潜りこめば大惨事になりかねない魔物達をイカザは一匹残らず狩っていた。

 

 現役時代よりも激しい戦いではないか?

 

 第一線を退いた筈の自分が、何故かかつての戦いを遙かに超える激戦を繰り広げているのだから、悪い意味で人生というのは想像が付かない。

 そして、にもかかわらずイカザの調子は良かった。極限状況で自分の伸びしろを更に見出す、というのは、冒険者として活動してきて時折あったが、まさかこの年になってそれを再び体験する羽目になるとは思わなかった。疲労と魔力不足が肉体を蝕むほどに、神経が研ぎ澄まされ、身体の反応が早くなる。かつての全盛期を遙かに超えて、彼女は鋭さを増していた。

 

『カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッカカ』

「失せろぉ!!!!」

 

 出現する餓者髑髏も叩き潰す。破壊しようとも復活する。核、ともいうべき死霊王ロックは此処にはいない。再生の時間を稼ぐために胴をさき、両足を砕き、すっころばせる。これで暫く時間が稼げるはず――――

 

「先生!!」

「ベグードか!そちらはどうか!」

 

 そのまま餓者を乗り越えた先で、イカザの欠けた穴を埋めるようにして戦っていたベグードと再会した。彼女の姿を見て一瞬ギョッとした表情になっていたが、すぐに表情を戻した。

 

「厳しいです…!怪我人の回収が必要ないだけマシですが……あの馬鹿ども!」

「袂を別った相手に怒っても仕方ない、完全に敵対する気が無いなら利用するぞ!!」

 

 鏡の精霊の魔力簒奪は、何も悪いことばかりではない。一定以上の魔力消耗を抑えるよう、注意を払えば良いのだ。魔物達はただただこちらを攻め立てて消耗することしかしないが、此方は補給の概念を持っている。身体の状態を見極め、必要とあらば交替し保たせれば、魔物達に一方的な不利を押しつけることは可能だ。

 

「魔力を削り、竜を落とせ!!雑魚の魔物どもを消耗させ――――」

 

 部下達を鼓舞する。だが、その矢先に、少し距離が離れた上空に、銀色の影が動いているのをイカザは目撃した。簒奪の巫女の魔力奪取を前にしても耐えしのんだ竜達が集まっている。その巨大な翼を広げ、それぞれをまるで手を繋ぎ合うようにして大きな輪となっていく。

 

 輪、魔法陣、竜の魔力と規模で起動する終局魔術

 

 イカザは飛ぶ。隣のベグードも一緒に動いた。だが距離が絶妙だった。潰す時間はもうない。イカザは剣を地面に突き立て、術を編み、発動させる。

 

「【雷甲――――】」

 

 だが、それよりも銀の竜達の魔術の稼働の方が速かった。翼で繋がった魔法陣から生み出される極大の熱光は、イカザ達が決死の思いで護っていた防衛戦線に向かい、

 

「【蒼壁・九重】」

 

 その直前、防衛戦線に張られた蒼い結界にその魔術は阻まれた。同時に、この戦況においてはやや空気を無視したような気色のある声が響き渡った。

 

「うむ!うむ!間に合ったか!!」

「クラウラン殿!」

 

 自らと同じ冒険者の黄金級。人造人間のスペシャリストにして、恐らくこの戦況でもっとも重要な役割を果たしている男、クラウランの登場にイカザは喜んだ。恐らくこの戦況において、もっとも頼りになる男がきた。

 

「ここは任せます!私は別の場所へ!!!」

「任された!!さあ皆!ゆこう!」

 

 イカザは雷と共に消え去る。それを見送るとともにクラウランは指示を出す。同時に彼が生みだした真人が次々に彼と、防衛戦線の兵士達を守るべく動き出した。その数は、一人、二人といった規模ではない。十数人以上の兵士達が、一斉に魔物を押し返し始めた。

 

「マスターを護れ!」

「人々を護れ!!」

「我らが役割を果たせ!!!!」

 

「多…!?」

 

 最早、軍勢と言っても過言で無いほどの数の【真人】達に、疲弊していた兵士達は奮い立つ。歯を食いしばり、雄叫びを上げながら、彼等に並ぶようにして魔物達を押し返し始めた。

 

「抗おう、戦おう!たとえこの世界がどれほど残酷であろうとも!抗う権利は君たちの手の中にある!!」

 

 クラウランの言葉に、一際に大きな雄叫びが上がった。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「真人……助かる!これならばまだ……!」

 

 真人達の増援を聞いたベグードは安堵を漏らす。

 【真人創りのクラウラン】の能力はベグードも理解している。一人一人が卓越した能力を有した意思統一された軍隊。結界が打ち破られて崩壊寸前だった戦線をなんとか立て直せる。せめて、全ての住民の避難が完了するまでは持たせなければ――――

 

 そう、ベグードが考えていた直後だった。

 

 プラウディアの結界を打ち破った“機神の頭部が”大爆発を起こしたのは。

 

「は!?」

 

 少し前から破壊行動の動作を止めて、あちこちから火があがっていた。いくらアレが魔王の作品であろうとも、あれほどの巨体だ。無茶が起こるに決まっている。いや、そうであってくれと願っていた矢先の大爆発だった。

 

 無論、それが推測の通り、無理の末の破綻であったならば喜ばしかった。

 

 しかし、ベグードは顔を引きつらせた。

 

「頭……!」

 

 人形と対峙する際は、核の破壊を優先し、頭部の破壊は避けろ。

 

 それは冒険者の中では常識で、あまりにも基礎的な知識だった。もしも魔導核を残したまま頭部を破壊してしまえば、その瞬間起こる現象は、冒険者を生業とする者達であればだれもが知っているからだ。

 

『O,OOOOOOOOO……!』

「…………ま、まさか」

 

 遅れて、ベグードの部下も戦くように呻く。

 頼むからそんなこと、あってくれるなと願うように。

 頭部の制御術式を失った人形の動作。

 真っ当な神経をしていれば、絶対に意図的に起こすべきではない災厄

 

『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!』

 

 人形の、【暴走現象】

 規格外で、ありとあらゆる兵器を搭載し、未知の粘魔王にまで浸食された機神スロウスが、その暴走現象を引き起こしたのである。

 

「ふ、ざけてる……!!」

 

 最悪が更に上乗せされた事実にベグードの意識は遠くなった。戦いの中では冷静であろうと常に心がけているが、それにしたって目の前の光景はあまりにもあんまりだった。

 

 地獄にも、限度がある!!!

 

『O,OOOOOOOOOOOOGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

 多足の足を利用し更に姿勢を低くし、雄叫びを上げる姿は完全に獣のソレだった。プラウディアの町並みを踏み潰しながら、無差別に敵意をまき散らす。爆発、破損によって至る所から火が吹き上がり、それを覆い尽くすように粘魔が溢れ、こぼれたものが美しかった街並みを飲み込んでいく。

 

 存在するだけで周囲を破壊しつくすような怪物が生まれた。

 そして当然、だからと言ってじっとしてくれる筈もない。 

 

『AARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!』

 

 機神が多脚の一つを大きく持ち上げた。その動作の意味するところを理解し、ベグードは臓腑が浮き上がるような寒気を覚えた。

 

「っば!?」

 

 機神が無造作に腕を振るう。

 その瞬間、街の一角が吹き飛んだ。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおお……!!?」

 

 避難が終えた場所であったのが幸いした。だが、直撃でもなかったその一振りでベグードは身じろぎすら出来なくなって、部下共々跪いた。

 

 見上げると、失われた機神の頭部部分にも粘魔が覆っていた。その頭はどこかヒトのそれに似ていたが、それを気にする余裕すらない。

 

「く……っそ!全員立て直すぞ!

「き、機神をどうしますか!?」

「対処しようと思うな!!アレはどうにもならん!!」

 

 長年の冒険者としての経験が容赦なく告げる。

 あの怪物を対処する手立てはない。

 暴走した人形の破壊力と、実体を持たぬ粘魔の不確かさ、何をどう考えても今の自分たちの備えでは対処出来ない!暴走による自壊を待つしかない!

 

「機神の動作に注視しろ!動きを見極めながら魔物の処理と救助作業を急げ!!!」

 

 必要なだけの指示を送りながらも、ベグードは自ら出した指示に疑問を覚えた。

 逃げ遅れた避難民の救助、などと抜かしている場合か!?

 一歩間違えれば、否、間違えなくても避難しなければならないのは自分たち……!?

 

『GAAAAAAAAAAAARRRRRRRRRRRRRRRRR!!!』

 

 そう思っている内に、今度はこちらに向かって攻撃の予備動作が来た。否、攻撃とそれを評して良いのかも不明だが。ただ無差別に暴れ散らそうとした予備動作で、周囲の有象無象が吹き飛ぼうとしているだけだ。その有象無象が自分たちである。

 

 ――守れるか……!?

 

 せめて、背中に居る部下達だけでも。そう思いながらベグードは固着の魔眼に力を込めようとした。

 

 

 

「【揺蕩え】」

 

 

 

 だが、攻撃がたたき込まれる直前、機神の身体が、唐突に激しくブレた。

 

『RRRRRRRRRRRRRRRRR――――――OOOOOOO!!!?』

 

 ぐらりと姿勢を崩して、すっころびそうになったのである。そのまま、振りおろされそうになった拳はベグードの位置を外して、空を切った。腕にも纏わり付いていた粘魔がボダボダと落下するが、それでも周囲に被害はない。

 

 何が起こった!?

 

 そう思い、ベグードは上空を見上げ、そしてソレを発見した。

 

「ウ、ル……!?」

 

 それは見覚えのある姿だった。

 と、同時に、巨大なる荒れ狂う機神と対峙してそれを見下ろす彼の姿は、あまりにもかつての姿からはかけ離れていた。

 ヒトのそれとかけ離れた四肢、

 禍々しき黒と白の双槍からかけ離れた圧、 

 至る所が破損した鎧からこぼれ落ちる闇は、魔王のそれに違いなかった。

 

〈警告〉

 

 同時に、まるで警鐘のような、あるいは祝祭に響く鐘の音と共に声が木霊した。

 

〈世界保護管理システム、ノアより全人類に警告する〉

 

 部下達にもその声が聞こえているのだろう。驚き、戸惑いながら周囲を見渡す。

 

〈方舟内に新たなる終焉災害の発生を確認〉

 

 何を言っているのか、無論ベグード達には分からない。

 だがその言葉が指し示す存在がなんなのかだけは、言われずともハッキリとしていた。

 

〈【終焉災害/灰の王】 降臨〉

 

 終わりの災禍の現出を知らす鐘の音と宣告が、イスラリア中に響き渡った。

 

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