かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜呑ウーガの死闘Ⅱ④

 

 女王と巨大なる白銀竜との戦いが激化し、地上でも状況は加速した。

 

「くそったれが!!!」

「やっぱ容赦ねえっす!!!シズク!!!」

 

 既に侵入していた銀竜達の動きは、巨大な銀竜の影響を受けて加速した。それまで乱雑に動いていた竜達に明らかに統率が宿った。一糸乱れず飛び回り、こちらの戦力を容赦なく潰していく。

 兵器を破壊し、戦士達を次々になぎ倒していく。的確にこちらの戦力の急所をえぐり取ろうとしてくる。一歩間違えれば命を落とす。期待していたわけでは無いが、全くもって躊躇は皆無だった。

 

「間違ってでも殺されるなよ、てめえら!!!」

 

 部下達に適宜ジャインは声をかける。

 

 この戦いで死んではならない。それは絶対だ。

 

 現在、敵対しているシズクとディズをこの状況から助け出すという奇妙極まる状況に陥った以上、死ぬわけにはいかなかった。彼女達の攻撃で、あるいはその攻撃の余波なんかで死んでしまえば、それだけで彼女達を助けるという大義が損なわれる。士気は致命傷に至る。

 全員で生き残る。この戦場は死ぬわけにも、負けるわけにもいかない戦いなのだ。

 

『AAAAA――――!』

「だから、邪魔するんじゃ、ねえ!!!」

 

 ダヴィネが鍛え上げた黒色の手斧をたたき下ろす。たたきつけられた銀竜の首は強烈な轟音と共にへし折れる。刃は通らなかったがそれでも殺した、ように見える。

 

『――――A、A』

 

 が、次の瞬間、へし折れた首の頭がジャインの方へと向き、白銀の咆吼が放たれようとしていた。ジャインは驚かなかった。死んでいるとは思っていなかった。次の瞬間、奇妙にへし曲がった銀竜の口に短剣がたたき込まれる。

 

『A   』

「ほんっと、加減してほしいっすねシズク」

「あの女にそういう可愛げがあるわけないだろ」

「そりゃそーっすねえ」

 

 だが、良い情報もある。少なくとも小型の銀竜達は、上空で暴れ回っている銀竜達の“月鏡”のような特性を持ち合わせていないらしい。

 

「つまり、ただただひたすらやたらしぶとく、やたら速く、攻撃性能が高くて死ぬほどやっかいな魔物というだけだ!」

「それが空を覆うくらい無数にいるってだけっすねー」

「地獄か!!」

 

 だが、そんなことはわかりきっていたことだ。

 あのシズクを、女の形をした怪物を助け出すのが簡単な訳がない。

 捕らわれのお姫様を助け出すというのとは、全く訳が違うのだ。

 

「まー勇者様が直接敵に回らなくてよかったっすけど」

 

 空を飛び交い、銀竜と敵対しているディズが生み出した使い魔のような存在、“金色の天使”はウーガを狙っては来ない。手伝っては来ないが、敵対しないだけ御の字だ。

 

「あっちはウルに投げちまおう」

「そっすね」

 

 こんな戦いまで自分たちを引っ張ってきたのだ。それくらいは背負ってもらわねば困る。こっちは目の前の分だけでも死に物狂いなのだから。

 

「準備できたか!!」

《応!!!》

 

 通信魔具に向かって声を張り上げると、仲間達の力強い声が返ってきた。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 竜呑ウーガ【迎撃用通路】にて

 

「いくぞ!」

 

 ジャインの合図と共に準備を整えていた白の蟒蛇のメンバーは動き出した。通路にはロックンロール2号機以外にも、無数の兵器が配備されている。この戦いが始まる前に、既に準備は整っていた。シズクと敵対した時点で、ウーガの内部に敵が侵入すると言うことはわかりきっていたからだ。

 

「ガザ、レイ!!!」

《いける!!》

「撃てェ!」

 

 【竜殺砲】などというあまりにそのままな名前のついた大砲を撃ち出す。以前【陽喰らい】の儀の時に用意された物の改良版。ダヴィネが用意したソレが竜殺しを次々と打ち出す。圧倒的な連射力だった。

 黒の大槍が空を羽ばたく銀竜達を狙い撃つ。

 

『AAAA――――』

 

 無論、銀竜達は素早く自在に空を飛ぶ。無数の黒い閃光をあっけなく回避していく。が、

 

「【風よ】」

『A、AA!?』

 

 その大槍の全てを、フウが誘導する。竜殺し達は風の流れによって軌道を変え、速度を増し、銀竜達へと狙いを定め、

 

「【戦の精霊よ!!】」

「【灯火よ!!導け!!】」

 

 更にソレを無数の神官達の加護が援助する。空を飛び交う【竜殺し】が逃げ惑う銀竜達をまるで生きた蛇のように追跡し、食らいつき打ち落としていった。

 

《すっげえなフウちゃんたち!?》

《感心してる場合じゃ無い。彼女たちに敵を絶対近づけないで》

《わかってらあ!!》

 

 そして彼女を護るための防衛陣も正しく機能していた。【白の蟒蛇】に【黒炎払い】、【グラドルの従者】達、奇妙ないきさつのもと集った彼等は一見バラバラのようでありながら高度な連携が取れていた。

 それぞれが遭遇した困難、試練、経験と交流、多くが積み重なった結果の連携だった。事、方舟にいる誰もが経験したことが無いような未曾有の戦いにおいて、竜呑ウーガは紛れもなく、名の通り竜をも呑むほどの一大戦力へと進化していた。

 

 だが、だとしても、そうであっても――――

 

『【A】【A】【A】――――』

「ッ!?」

 

 それを覆すほどに凶悪なのが、竜という存在なのだ。

 女王が相対しているものとは違う、もう一個の巨大なる銀竜が鳴く。その瞬間、凄まじい光が全方位に放たれ、周囲に設置してある光が瞬く間に焼き払われた。飛び交っていた竜殺しがたたき落とされ、迎撃通路に集っていた戦士達はその熱で吹き飛ばされる。

 

《んだあ!?》

「怯むな!!!」

 

 古参の【白の蟒蛇】の戦士は叫ぶ。戦場に立った全員には対衝の護符はいくつも身につけさせている。そう容易く死ぬような事にはならない。それよりも

 

「怖じ気るな!!!反撃が――――」

『A』

 

 来た。

 遙か上空にいた筈の巨大な銀竜が、気づけば目の前にいる。音もなく、恐ろしく速く。指揮の頭を的確に狙い、全てを焼き払わんと輝きを増した。

 

「【疑似天、剣……!】」

 

 直後、ジースターが銀竜の身体を刃で貫いた。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『AAAAAAAAAAAAAAAA――――!!』

「通った、か!」

 

 ジースターは剣の手応えに一つの確証を持った。

 この眷属竜はこちらの攻撃を吸収し、跳ね返してくる。竜呑女王と同じ性質を有してる。

 だが、全ての攻撃を完璧に跳ね返してくるわけでは無い。

 竜が有するそういった性質は無尽蔵では無いとジースターは知っている。超常の現象は魔力が関わる。それは絶対だ。そして信仰による魔力の供給を受ける神でもない眷属には、魔力の貯蔵限界がある。

 で、あるならば、その超常的な現象を常時引き起こすような余裕はない

 

 ならばその隙はどのタイミングか。その一つはこちらを攻撃しようとしたその時だ。

 

「ならば、やりようは――――」

《ジースター!!!》

 

 だがそのとき、通信が聞こえた。内容のないその声が明らかな緊急だとすぐに分かる。銀竜への警戒を解かぬまま、ジースターは周囲に視線を走らせ

 

「次から次へと……!」

 

 そして、その通信の理由をすぐに察した

 

『OOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!!!!!』

 

 あまりにも巨大な、粘魔の巨人の頭が、空を浮かぶウーガの防壁に手をかけて、こちらをのぞき込んでいた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 プラウディア中央部、崩壊した建造物の屋上にて。

 

「――ふぅ。危うかったなあ?」

 

 先ほどまで、崩壊しかけていた機神スロウスの司令室にいたグレーレは息をついた。

 嘘偽り無く、危うかった。ある程度、しでかしてくる事は予想していた。予想していたから有無言わさずに仕留めていったというのに、最後の最後に選んだ手段が自爆とは。

 

「やれやれ、昔はビビりだったのに、どうして血迷ったのだか」

「何百年前の記憶を言っているのだ、お前は」

 

 【元・勇者】ザインの助けが無ければ本当に自爆に巻き込まれて死んでいたかもしれなかった。本当に危機一髪だ

 

「いざというときは、ウルを助け出そうと思っていたが、まさかお前を助けることになるとはな。

好き放題して死にかけるな」

 

 ザインはため息をつく。見た目はどう見てもくたびれた老人であるが、その彼があの瀬戸際で、迅速にグレーレをとっ捕まえて【転移の巻物】で脱出させてくれたのだ。

 ()()()()()()()()、荒事に対しては右に出る者もいない。

 

「カハハ!すまんなあ!なにせあっちこっち火がついたような有様なのだ!」

「だからミラルフィーネの少女に月竜を押しつけたと」

 

 空を見上げると、赤黒い空で無数の光が飛び交っている。白銀と竜呑の女王が戦っているのだろう。遠目にも激しい戦闘であると分かる。どうやらきっちり彼女に銀竜の対処を押しつけることには成功しているらしい。

 

「何、仕方在るまい?協力関係とは言え、七天としての仕事もある。優しくはしてやれん」

「お前が優しかった記憶はない」

「優しくしようとしたのを無視したんじゃあないか。折角もっとしっかりとした長命施術を受けられると言ったのになあ?」

「見目だけ若々しくなることに何の意味がある」

「見た目は大事だぞ?」

 

 ケラケラとグレーレは笑うが、どうでもいいというようにザインはため息をついた。

 

「ゲイラーが逝ったか」

「まあ仕方在るまいよ。【原初の()()】のメンバーでも、一番拗らせていた」

「お前が言うか」

 

 もっとも速く、メンバーから離脱した男だったが、まさか魔王の所に転がり込んでいるとは思いもしなかった。しかも、自分がトップとして暗躍するのでは無く、服従して献身する道を選ぶとは

 とはいえ納得もある。彼は気も弱かった。あの魔王が生物としてあまりにも傑出していたのは間違いなかった。呑まれてしまったとしてもさもありなんだ。

 感傷も生まれるが、しかし去ってしまった者達の事を考えても仕方ない。

 

「それで、動けるのか。七天の仕事は」

「想像以上にウーガの連中は動けるらしい。任せても良かろう」

「ではゆくか」

 

 そういって、「しかし」とザインは顔に刻まれた皺を更に深くさせた。

 

「まさか、お前を手伝うことになるとは思わなんだがな」

「カハハ!俺もお前が生き残るとはおもわなんだよ!」

 

 もっとも修羅場に首を突っ込んでいたのはザインだ。長命施術も最低限だったというのに、それでもメンバーの中で生き残れたのは、運が良いのか、それとも彼の戦闘能力が傑出しているのか、精神力が傑出しているのか、分からなかった。

 彼以外のメンバーは殆どがこの世界から去った。思想の変化、ズレ、反発で距離が離れ、そして誰もが死んでいった。慣れはしたが、一抹の寂しさを感じないかと言えば嘘だ。

 

「まあ、クラウランのように家族を増やす気にも「おい」……ん?」

 

 だが会話の途中、ザインが声をあげる。なんだと彼の視線の先を見ると、

 

『OOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!!!』

 

 彼の視線は機神スロウスへと向けられている。否、正確に言えば、既にそれは機械の神という異名からはかけ離れた姿と成り果てていた。

 

『OOOOOOOOONNNNNNNNNNNN…………!!!』

 

 灰の王によって破壊しつくされ、結果として人形としての本来の形を維持することは困難となった。備え付けられた兵器の大半も砕け、それを維持しようと腕を持ち上げても、その自重に耐えられずに落下を繰り返す。

 身体にのこった昏い闇が、身体を破壊する。粘魔の再生と破壊が繰り返され、それでも、砕け散った身体の部品をその身体に強引に積み重ねて、飛翔しているウーガに飛びかかる。その姿は、紛れもない粘魔王そのものだった。

 

「ふむ、えらいことになってるな?」

 

 グレーレは実に端的に、そして無責任に目の前の光景を評した。

 

「どういう有様なのだアレは」

「灰の王の攻撃によって【暴走】は頭から叩き潰された。となるとアレはもう人形の機能では無いなあ?」

「粘魔、邪教徒ヨーグか」

「アレのやりそうな仕事だ!懐かしい!昔はよくやりあったものだ!」

 

 ケラケラとグレーレは笑い、そして頷いた。

 

「うむ、まあ、アレだ。若者達の力を信じようじゃあないか!カハハ!」

「そういう所だぞお前」

 

 懐かしい突っ込みを受けたが、グレーレは無視した。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【竜呑ウーガ】司令塔にて

 

『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNN!!!』

「ダメです!重力魔術では捕らえられない!どうしても取り逃す!!」

 

 遠見の水晶に映し出される未曾有の脅威を前に、司令塔内部の魔術師達は悲鳴のような声で状況を説明した。【巨大機械人形】――否、【巨大粘魔王】が空中を飛翔するウーガの身体をひっつかんで、引きずり落とそうと藻掻いている光景は、絶句する以外無いだろう。

 冷静に考えれば空中を飛翔する都市を背中に乗せている巨大使い魔を操っている自分たちも相当頭がおかしいのは間違いない筈なのだが、それを上回る混沌がたたき込まれた。

 

『GGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

「引きずり落とされる!!」

 

 ウーガが揺れる。【聖遺物】を活用した重力制御によって、飛翔そのものは絶対の安定度を確立したが、それでも流石に超巨大な粘魔に直接捕まれて揺さぶられるような状況を想定する方が無理だった。否応なく、ウーガは地面に落ちていく。

 

「リーネ!!どうしますか!!」

 

 カルカラは叫び、ウーガの技術担当者へと叫ぶ。すると彼女は――

 

「……やっぱ、こうなるわね…………ウルの……」

 

 部屋の中心で、ひたすら研究に打ち込んでいた。

 凄まじい揺れでいくつかの筆記具が周囲に飛び散って資料が飛翔しても全く動じずに、目の前の研究に全力を注いでいる。凄まじい集中力と言えなくも無かったが、この状況下でやってる場合ではない。

 

「師匠」

「何、邪魔を……」

 

 彼女の弟子の男が肩を揺さぶると、彼女は顔を上げ【遠見の水晶】を見る。異常すぎる光景を確認した彼女は――

 

「――ああ、いつもの大混沌ねはいはいはい」

「冷静!」

 

 ため息をついた。周りの魔術師達が驚愕するが、リーネは本当に淡々と動いた。

 

「もう慣れたわよ。意味不明な状況」

 

 弟子からローブと杖を手渡され、彼女は司令室の中央に移動する。彼女のために広げられた円陣の中心に立つ。

 

「ウーガ周辺部の避難はできてるのよね」

「生命反応はありません」

「よろしい」

 

 必要な分だけを確認すると、彼女は杖で中央を叩いた。

 

「【開門・竜呑大噴火】」

 

 

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