かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

640 / 729
剣の化身と七首の竜

 

 【真なるバベル】外周部

 

 ――どうやってユーリは剣を避けてるの?

 

 幼き頃、その日の鍛錬で既に数十回目の敗北を喫したディズにそんなことを尋ねられたことがある。ディズは当時も酷く不器用で、模擬戦のように鍛錬を行うと常に彼女は一方的にやられるのが殆どだ。

 しかしどれだけ一方的に打ちのめしても決してめげることが無かった彼女が、不意にそんなことを尋ねた。

 

 ――相手を見ていれば、何処に攻撃が来るかなんて大体分かるでしょう?

 ――え、分からないけど?

 ――相手の視線や敵意を読み取れば、敵の剣筋が自然と浮かび上がるでしょう?

 ――まってまってまって

 

 結果、どうやら自分と他人では物の見え方自体が全く違うという事が判明した。自分以外の者達がいかに狭く分かりづらい視野で戦っているのかもよく分かった。自分が他人と違う事に悩む事も少しはあった。

 今思えば幼い悩みだ。他人と違うと言うことに対する得体の知れない恐怖、不安が言語化出来ず、訳も分からず不安がっていただけだった。その不安は暫く続いたが、特に変わらず自分と接してきて、相変わらずボロカスに負けるディズの姿を見ているうちに、彼女の不安は消えて無くなった。

 

 そして今は漠然とした不安では無く、明確な確信がある。

 自分の生物としての根幹は、他者とは異なる。ソレは最早言い逃れようのない事実だ。

 だからこそ、

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

「貴方程度の脅威は打ち倒せなければダメですよね」

 

 七大罪の竜の咆吼を罵りながら、ユーリは再び竜と相対した。

 

「【神剣・翼剣】」

 

 12枚の翼の剣が蠢く。それぞれが生きているかのように蠢きながら飛び交う。その挙動はディズが生みだした天使のそれに近いが、彼女が手繰る力はより攻撃的だ。全てを切り裂く剣それ自体が生き物の様に蠢きながら、竜の身体を切り刻む。

 

 刺して、引き裂いて、鱗を剥ぐ。抉って、砕く。ひたすら貪欲に竜の首を刈り取るために一糸乱れず動いていた。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 咆吼が来る。七首、もとい六首の咆吼がそれぞれの長い首をくねらせて、的確にこちらを包囲するようにして取り囲み、その力でこちらを崩壊させようと試みてくる。

 ユーリは自身の生み出した翼剣を足場に蹴る。その動きを見極め回避する。無数の呪いが入り交じった咆吼は、此方の挙動を予想し、射線が通るようにと嫌らしい動きを繰り返すが、ユーリはその予測を裏切るように動作を反転させ、竜を翻弄する。

 

 この七首の竜は紛れもない脅威であり、最悪なのは疑いようがない。

 

 熟達した神官でも、天陽騎士達でも、まとめて全滅させられる可能性が極めて高い。

 だが知性は無い。あの恐ろしき、おぞましき強欲の竜のような悪辣さも、技もない。

 

「――――なら、殺せる」

 

 七首から吐き出される【咆吼】を、ユーリは()()()()

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!??』

 

 吐き出された熱光を刻む。引き裂いて、切り刻む。砕ききる。

 理不尽の権化、人類の敵対者にして天災、その象徴とも言うべき竜が悲鳴を上げる。本来理不尽を弱き人類にたたき込む筈の竜が、理不尽を押しつけられていた。

 

 【剣】による災害と化した少女は、その終焉を竜が相手だろうとも等しくもたらす。

 彼女の剣は、竜の首に真っ直ぐに伸びて――――

 

『――――カカカ!!!』

「む」

 

 だが、ユーリの剣が竜の首を刈り取る寸前、竜の首は自ら“自壊した”。

 

 正確には、ユーリが両断した筈だった首元が途端に崩れ、それを回避した。切り裂く前に自ら首と頭が別たれるという珍妙な回避手段にユーリは眉をひそめる。

 

『生まれ直したばかりのこやつをそんないじめてやらんでくれるカ?ユーリよ』

 

 ユーリが切り落としたいくつかの頭が浮遊する。

 その頭の一つに、人骨の戦士ロックが座り、カタカタと笑って手を上げていた。一見すると何でも無いただの死霊兵にしか見えないが、ユーリはその戦士の危険性を理解している。故に油断なく剣を構え、彼女は応じた。

 

「弱い物イジメしかしたくないとはとんだふぬけですね。そのトカゲは」

『カカカカ!!やめたれやめたれ!!本当に泣いてまうぞ!!』

 

 ユーリの罵倒に対してロックはケラケラと笑った。その仕草はプラウディアでユーリの情報収集の仕事をしていた頃と全く変わっていない。つまり老獪で、油断ならぬ敵だと言うことだ。

 そして、自分の行動に確信があるというのなら――――

 

「貴方を殺すことにも、躊躇する必要はないようですね」

『おお、怖い怖い。まあ、ワシも仕事をするとするカ、の!』

 

 こちらの殺意に対して呼応するようにロックもまた動いた。自分が乗った足下の七罪の竜へと、彼は足を踏みこむ。骨の足が、その瞬間竜の頭部へと吸い込まれていった。

 

「ああ、なるほど」

 

 そして次の瞬間、“竜の表面が剥げ落ちていく”。肉も鱗もそげ落ちるように、七首の竜の表皮が消失していく。その下から見えてくるのは肉や臓物の類いではなかった。それらを飛ばして現れたのは、巨大で無数の骨によって形作られた骨の竜。

 まるで博物館の骨の標本の様な姿が現れて、ユーリは納得した。

 

「形だけ模したガラクタだったと」

『カカカカカ!さて、本当に形だけカの?』

 

 七罪の竜の首のひとつがしゃべり出す。ロックが同化したらしい。と、なると先程のような獣めいた単調さは期待できないだろうと言うことをユーリは理解した。そして、

 

『カカカカッカ!!!』

「――――なるほど?」

 

 正面の竜から、ではなく、背後から飛んできた竜の首を、ユーリは反射的に両断する。それはユーリが先程斬り捨て両断した七罪の竜の首のひとつだ。今更に縦にかち割ったが、その頭は特に痛み苦しむ様子など皆無だった。

 当然だ。血も肉も脳もない。斬ったところで急所でもなんでもないのだ。

 

『斬ろうが焼こうが砕こうが、無尽に再生する骨の竜よ。厄介じゃぞ?』

「粉みじんにした後、更に刻めば良いのでしょう?」

 

 それに、と、ユーリはロックの有様を見つめ、目を細める。

 

「どれだけ強固でも、ただのヒトの魂が、竜を手足のように操る――――()()()()()()()()()()()

『カッカッカ!!!優しいのう、天剣様は!!心配してくれるのカの!』

 

 ロックの挑発にユーリは真顔で切り返す。ロックは楽しげに笑った。

 

 そして竜との戦いの二回戦が始まる――――筈だった。

 

『――――む?』

「なんです?」

 

 ロックとユーリが同時に足下を見る。

 二人が戦うバベルの塔外周部、その足下から突然光が満ちてきた。その()()の光は突如その一帯を飲み込んで――――

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 大罪都市プラウディア、商店街の一角、【蒼水の癒やし】にて

 

「火事場泥棒申し訳ない。今度代金支払いに行くよ」

 

 崩壊した店から抜け出したウルは振り返り、申し訳なさそうに看板に頭を下げる。店の名前を頭の片隅に刻み込んだ。

 もし生き残れたら、使用した回復薬の代金は支払っておこうと決める。自分で持ち込んだものもあるが、ここから更に戦いが続きそうなことを考えると、温存できるに越したことはなかった。

 

「体調は?」

「六~七割、やっぱ【神薬】って凄かったんだなあ」

 

 ウルの後から出てきたエクスタインの問いに応じる。

 本当に、グリード攻略の時湯水のように使った【神薬】の効果は凄まじかった。どれだけ重傷だろうと、どれだけ魔力を使い切っていようとも、どれだけ疲労困憊になっていようとも一度呑めば全快だ。生産量すら限られる希少品だ。

 この店の回復薬も質は良かったが、身体の芯の部分に残った痛みと疲労感までは拭えなかった。が、贅沢も言えない。戦える状態に戻ったことには安堵する。

 

 装備も大きな破損は無く、補給も出来た。ならば前に進むべきだ。

 

「いきたくねえけどなあ……」

 

 バベルの塔はここからでもハッキリ見える。七首の竜達と、それと相対する星天の剣閃が見える。魔王と死闘を演じて、更にそこにこれから首を突っ込むのは悪夢に思えるが、それを選んだのは自分である、腹をくくるしか無かった。

 

「僕は残念だけど、これ以上君を手伝うのは難しい、かもね」

「かまわねえよ、死なれても困る」

 

 一方でエクスタインは冷や汗を掻きながら肩をすくめる。実際彼は限界だった。魔王に一蹴されただけで、いくつかの骨がたたき折られたらしい。回復薬で動けるようになったようだが、それでも無理はさせられない。

 機神スロウスの内部誘導を担当してくれたミクリナも「此処で出来る仕事は済んだ」と別行動をとっている。と、なると彼がこの鉄火場で出来ることはもうないだろう。

 

「君を手伝えないのはとっても悔しいけどね」

「はいはい、ま、まだここら辺は――――」

 

 未練がましいエクスタインを流しながら、ウルは改めてバベルへと向き直り――――そして眉をひそめた。

 

「なん……?」

 

 一瞬、地の底から何かの光が漏れた。かとおもうと次の瞬間、何かが爆発したように光が噴出した。まさかバベルが大爆発でも起こしたのかと見間違いそうになったがそうではなかった。

 バベルを中心に、その周囲に、緋色の大樹……のようなものが一斉に伸び始めたのだ。

 幻想的とも、まがまがしくとも取れる奇妙な木だった。緋色の鱗粉のようなものを周囲に飛び散らせながら、それは一帯を埋め尽くしていく。その光景を前にウルはなんとも言えぬ表情で顔を引きつらせ、エクスタインに尋ねた。

 

「……何が起こってると思う?」

()()()()()

 

 エクスタインは即答した。

 

「キレたかな?」

「キレたな」

 

 幼なじみと兄は、緋色の少女の激昂を確信した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。