かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜呑ウーガの死闘Ⅱ⑥ 飛んだ

 

 竜呑ウーガの意思は薄い。

 

 元々、グラドルのカーラーレイ一族の策謀によって生まれた対都市攻略のための巨大兵器だ。その大規模すぎる巨体を御するために、通常の使い魔以上に自らの意思を押さえ込むように造られている。

 ウーガの有する感覚は酷く鈍い。

 現在の主であるエシェルの指示に従う以外では、せいぜい自分が心地よいかそうではないか程度の判別がつくくらいだ。だからこそ、危険地帯に身を置く事態になってもそれに従うし、文字通り地に足をつかぬような異常な状況になっても混乱して暴れるようなことはしないのだ。

 

 優れたる道具として、正しく機能していると言える。

 

『GAAAAAAAAAAAAA……!!!』

 

 だが、そのウーガが今、雄叫びを上げながら身もだえていた。

 ウーガが魔石を砕き喰らう大顎を大きく開きながら、地面が震えるような声を放ち続ける。あえて鈍く造られているはずの生存本能が、今現在強い警鐘を鳴らしていたためだった。

 重力の魔術を強引に操りながら、地面に着陸する。プラウディアの街並み、その一角を豪快に踏み潰しながらも、なんとか着地に成功した。しかしそれでもウーガは雄叫びを止めることはしない。

 

 何の異常が起きているのか、それはウーガの様子を遠目に確認すればすぐに分かったことだろう。

 

 ウーガの背中。まるで火山のように盛り上がった部分に異常が起こっていた。銀色の糸が纏わり付いているのだ。糸、といってもウーガのサイズを鑑みれば、糸の大きさも、長さも、量も尋常ではない。

 

 膨大な白銀の糸が、ウーガを絡め取り、押さえ込み、地面に縫い付けている。

 

 それから逃れようとするものの、うごめくほどに銀糸はウーガにからみついて離れようとしなくなる。蜘蛛に捕らわれた虫のように、ウーガはみるみるうちに窮地に陥った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 一方その頃、ウーガ内部、防壁通路にて、

 

「ち、っくしょう!本当にめちゃくちゃだ!?」

 

 コースケもまた、この状況の窮地を戦車の中から実感していた。

 ウーガ全体に張り巡らされた銀の糸の結界に閉じ込められてしまったのだ。細く、美しい糸は束となってまるで大樹の枝のように至る所に伸びて、戦車の通路をも浸食していた。小さな虫が蜘蛛の巣に潜り込んでしまったとき、きっとこんな恐怖を覚えるのだとコースケは思った。

 

「撃て!!!」

 

 勿論、だからといって何もしないわけにもいかない。隊長の指示の元、即座にコースケ達は銀糸へと砲撃を行う。実体弾ではなく、魔力を凝縮した砲撃。外の世界の時とはまるで違う、膨大な量の魔力を蓄えた砲撃はまっすぐに銀糸へとぶつかり、大きく揺らした。

 だが――――

 

「やっぱダメか……!」

 

 しかしどれだけ打ち込んでも、銀の糸は壊れなかった。恐ろしい頑丈さだった。細い一本程度であれば、強引な力をかければ千切れはするが、それも時間が経てば再生するか、他の糸に吸収されてしまう。

 しかもその性質だけでも恐ろしく厄介であるというのに、

 

『――――AA』

「来たぞ!!」

 

 糸に染みこんでいた水滴が零れるように、銀糸から銀竜が不定期で出現し、こちらを狙い撃ってくるのだ。先に襲いかかってきた二体の巨大な銀竜だけではなく、無数の小型の銀竜まで銀糸に溶け込み、その銀糸から【咆吼】を放ってくる。

 

「っぐ?!」

「被弾しました!後方――――いや!もう姿を隠した!」

「モグラ叩きか!?」

 

 移動が制限され、敵は自由に全方位から攻撃を仕掛けてくる。そして攻撃が終わればすぐさま銀の糸に隠れてしまう。あまりの厄介さにコースケは思わず叫んだ。

 すると、通信を聞いていたイスラリアの住民達が疑問の声をこぼした。

 

《あ?なんだよ土竜叩きって?》

「穴から出てきたモグラを片っ端から殴り倒すゲーム!!!」

《え、何それ……怖……》

《何かの祭りの儀式っすか?》

「説明面倒くせえ!!今度全員ゲーセンつれていくから後にしろ!!!」

 

 異文化交流をやっているような状況ではない。このままではなぶり殺しだ。

 ロックンロール2号機などという奇妙な名前がつけられた戦車は頑丈であり、耐えているが雨あられのように降り注ぐ敵の砲撃にいつまで耐えられるか怪しかった。敵の砲撃、そして銀の糸から逃れるように戦車は走り続ける。

 だが、戦車の想像以上の頑丈さ故にか、彼等も見誤っていたことがあった。

 

 即ち、戦車そのものよりも、自分たちが走っている通路の方が脆いという事実だ。

 

「前!!」

「しまっ!!!」

 

 繰り返される砲撃の雨の中で、戦車に着弾せずに逸れた一撃が通路を打ち抜いた。既に幾度となく砲撃を受け止めていた通路はその一撃で崩壊し、戦車の目の前に大穴を空ける。だが、既に全速力で移動していた戦車が、その穴を回避する手段など持ち合わせているわけもなかった。

 

 ぽーんとあっけなく、戦車は空中へと飛びだした。

 

 無論言うまでも無く、その後に待っているのは遙か地面への自由落下である。待ち受けているであろう落下と衝撃に対してコースケ達は全員身構え、身を固くした。

 

《飛ばします!》

 

 がしかし、その次の瞬間、“フウ”と呼ばれていた少女からの通信の声が響く。同時に、コースケ達は奇妙な浮遊感に全身が包まれ、驚き目を見開いた。

 

「「「は!?」」」

 

 目を開き、モニターを見ると、戦車は前進していた。

 ついさっき、奈落へと一直線に走っていたはずなのに前進を続けていた。何かが上手くいって、器用にも大穴を回避出来ただろうか、とも思ったが、同時に展開するいくつものモニターを確認するとそうではないと気づく。

 戦車の走ってる場所は地面でも、増設された防壁通路でも無い。

 

 空だった。

 

「…………ええ?」

 

 飛んだ。浮遊、飛翔した。

 どのような表現であれ、事実は一つだ。戦車は空中を走り、落下を回避した。そしてそのまま「すぽーん」と飛び出して、空中を走り続けている。キラキラと、何か翠色の光りが散っていることから、イスラリアの連中が使っている魔術の類いが戦車にもかかったのだろうが、その結果、戦車がそのまま空を飛ぶのは流石にコースケ達の常識を超過していた。

 

「マジで飛んだよ……」

「まあ聞いてたけどさ。マジで飛ばなきゃいかん事態になるんだな……」

「生きて帰れたら息子に教えてやろう……戦車飛ぶって……」

 

 コースケ含め自警部隊の面々は呆然とした表情になりながら、しみじみと自分たちの陥った状況を噛みしめた。ファンタジーアニメイションの主人公にでもなった気分だったが、飛んでいる物が物々しすぎた。

 

「しっかりしろお前達!!再度砲撃準備!!!」

 

 隊長の言葉で再起動を果たす。

 幸いにしてと言うべきか、空中を飛んでいる戦車の挙動は、愉快なことにというべきか、あるいはやや理不尽な事にというべきか、地上を走っている時と何ら変わりはしなかった。アクセルをふかせばそれに対応し前へと走る。上下移動も操縦者の意思で可能だというのだから、果たしてどういう理屈で飛んでるのかますます不明だ。

 

「マジでなんでもありだな!!」

「それは敵も同じだ!油断するんじゃ無いぞ!」

 

 戦車は空を駆ける。銀の糸をくぐり抜けつつ、砲撃を繰り返す。出現する小型の銀竜達を砕きながらも、彼等が目指す場所は決まっていた。

 

「あのお嬢ちゃんを助け出すぞ!!!」

 

 ウーガの中央部、無数の銀の糸で創り出された巨大結界の中心に存在する巨大な球体。竜呑ウーガの女王であり、最も激しく銀竜と戦っていた最大の戦力があの中に捕らえられていた。

 

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