かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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竜呑ウーガの死闘Ⅱ⑩ 最強

 

 大罪都市プラウディア決戦 三日前

 

「大事な話をするわ」

 

 エシェルはリーネに呼び出され、真剣な表情でそのような言葉を告げられた。

 

「大事な話」

 

 エシェルは姿勢を正した。同時に少し覚悟をした。

 ウルがこの世界の状況全てに対してケンカを売ることを決断した。勿論それはとてつもない選択で、危うい綱渡りである事は理解している。ましてやリーネはこのイスラリアに家族がいるのだ。

 自分のようなろくでもない血のつながりではない家族。彼女が手紙でずっと大罪都市ラストの家族とやりとりしていたのをエシェルは知っている。だから、状況がさし迫り、家族を護るためにそうしたいとリーネが言ったとしても、それは仕方がないことだとエシェルは覚悟していた。

 真剣な表情でエシェルが向き合うと、リーネは頷いて、口を開く。

 

「私の白王陣は最強よ」

「大事な話って言ったよなリーネ」

 

 エシェルはリーネに頬を引っ張られた。

 

「白王陣の話が大事じゃ無いの?」

「すみまへんれした」

 

 理不尽過ぎてエシェルは泣いた。

 

「心配しなくても、とても大事な話よ。貴方にとってもね」

 

 暫くそうしたあと、彼女はパッと手を離した。実際、彼女の表情は真剣そのものだった。それも、どこか悲壮感が差し込むほどに重い表情だ。

 

「グリードの戦いを経て、白王陣の研究は更に進んだ。心底屈辱だったけど、あの戦いは糧となったわ」

 

 本当に死に物狂いだった大罪竜グリードとの戦い。あの全員が死を覚悟した戦いの後、魔界に直行というとてつもないドタバタだったためにエシェルなどは未だにあの戦いを消化しきれてはいなかったが、リーネは短い時間できっちりとそれを飲み込んでいた。

 戦いの後、本当にドタバタとたたみかけるように状況は動いたにも拘わらず、その隙をつくように白王陣の研究に没頭を続けたリーネの執念は凄まじかった。ウルから【短期睡眠】の技術も即座に習得し、空いた時間はほぼ全て研究に没頭していたほどだ。

 

 彼女はあの戦いを自身の敗北と捉えていた。

 決して許されぬ驕りと敗北だったと。

 

 エシェルからすれば、彼女の力によってことごとく助かったとしか思えないのだが、リーネにとっては違うらしい。そしてその怒りと屈辱を燃料に、彼女はその力を更に昇華させた。それはエシェルも認めるところではある。

 

「私の白王陣は最強になった、そして、“貴方もウーガで最強なのよ。エシェル”」

 

 リーネは続けた。エシェルは眉をひそめる。

 

「……でも、実戦訓練とかしたら今でも」

「それは貴方が手加減しているからでしょう?」

 

 エシェルは沈黙した。

 前線で戦う戦闘職の面々で実戦訓練はウーガでも繰り返し行われている。そこにエシェルも参加しているが、彼女の戦績は高くは無い。それはリーネの言うとおり、手加減をしているからだ。

 

 相手を、()()()()()()()()()()()()()()()しているからだ。

 

 相手から”奪い取る”力。簒奪の力を安易に使えば、相手の命をそのまま奪い取る事が出来る。出来てしまうのが今のエシェルだ。ウーガ内の戦力では最強、と評したリーネの言葉は決して嘘ではない。

 そして、それが意味するところは

 

「つまり、()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かにそれは恐ろしい話だった。真剣な話だった。

 エシェルは自然と生唾を飲んだ。

 邪悪なる精霊の力が暴走する危険性は、既に幾度も経験済みだ。誰にも止められない程の強い力で、味方に襲いかかってしまう危険性を自分は有しているのだ。まして、それが【白王陣】使用時に起きてしまったならば?

 

「……使わない方が良い?」

「使わずに済むならそれでいいけど……そうもいかないかも、でしょ?」

 

 今日までだって、滅茶苦茶な戦いばかりしてきたが、これから先はこれまで以上の滅茶苦茶が待ち受けていること確実だ。だとして、戦力の出し惜しみをする余裕が出てくるかは全く分からない。大罪竜グリードの戦いですらも、ああだったのだから。

 

「……暴走したら殺してでも、止めるとか」

 

 先程、リーネが自分を指して、殺すつもりが無いからと言っていたが、それはエシェルに対するウル達にも言えることではある。もしも――――特にウルが――――エシェルの後々の事を考えずに本気で殺そうと思うなら、成功する気がする。

 彼に自分を殺させる、というのは哀しいし、心苦しいが、自分がウルを殺してしまうよりは気が楽なのも事実だった。が、リーネは首を横に振る。

 

「ウルは一切その気は無いし、万が一それやったら、カルカラが私達を殺すわね」

 

 確かに、カルカラがその結末を許すはずも無かった。待ってるのは結局破滅だ。

 

「んん……じゃあ、どうすればいい?」

「話は単純よ。難しいけどね」

 

 矛盾した言葉を言いながらリーネはこちらを指さした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かにそれは、単純で、難しい話だった。それができるなら苦労はない、という話で在り、しかし一方で、真理でもあった。

 

「完全に、私次第って事?」

「そうよ。対策を用意する時間は無いもの。今ダヴィネが創ってる【冠】も魔本の代わりじゃない。貴方の力を御しやすくするための補助装置でしかない」

 

 グリード戦で【魔本】は失われたが、もしあったとしてもそれはもう身につけることは出来ないだろう。今のエシェルの力を封じきれるか怪しいし、もし封じることが出来た場合、シズクは恐らくその魔本を狙う。それが実行可能だと【陽喰らい】の時に証明出来てしまったが故に、弱点となってしまう。使えないのだ。

 だから本当に、外付けの保証は今のエシェルにはない。エシェル次第でしかない。

 

「貴方が出来ると思えたなら、陣を刻むわ。無理と思うなら止めておく」

 

 こうして、リーネにそう告げられてから三日後、決戦の日。

 

 エシェルは自らに白王陣を刻むことを望んだ。

 

 考え、悩みもした。暴走の不安は結局最後まで消えず、自分がそうならないという確信が得られることは結局無かった。だが一方で、リーネの力が絶対に必要になる事態が訪れるという確信があった。不可避の災厄が訪れるという確信があった。

 

 敵に回ったシズクが、自分たちに情け容赦をしてくれないという確信があったからだ。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『AAAAAAA――――!!』

 

 白銀竜達が使う銀糸の結界を創り出してから、眷属竜の動きは飛躍的に向上した。

 自身の生み出した銀糸に潜り込み、かと思えば瞬く間に糸を伝って背後へと移動する。リーネの手によって銀糸を浸食し、敵の行動範囲を狭めれば、あっという間に新たなる銀糸を創りだす。

 攻撃のタイミングで見せる隙も、最早無い。銀糸の内側に潜り込み、その状態で自在に動きながら攻撃を仕掛けてくる。追うように攻撃しても全く狙いが定まらない。

 

 縦横無尽としか言い様がなかった。

 

 自分たちの陣地である筈のウーガで戦っているはずなのに、最早敵地と大差ない。

 だが、この眷属竜を放置するわけにはいかなかった。負けるわけにもいかない。もしもコイツを自由にさせてしまったら、その瞬間、この眷属竜は瞬く間に自分たちを蹂躙する!!

 今、此処で、自分が討つしかない!

 

「【鏡花爛眼!!!】」

『AAAAAAA――――!!』

 

 周囲の銀糸をデタラメに焼き払い、【塗り替えの黒翼】によって切り裂く。そして砕いた側から簒奪する。敵の逃げ道を片っ端から奪い去り破壊していく。

 だが、それすらも敵は予期していたのだろう。銀糸の形が揺らぎ変わる。まさに生き物のように蠢きながら、銀竜に纏わり付く。

 

『A――――――!』

 

 無数の糸が眷属竜の身体に纏わり付いていく。最早、元々のサイズも定かではない、それがウーガの中央に座し、こちらを睨み付けている。

 

「【ぐ、ぐうううううう……!!】」

 

 一方で、エシェルの状態は全く良くない。

 傷は無い。ダメージは貯蔵していた回復薬を片っ端から消費して癒している。問題は傷では無く、内側から零れる衝動だ。

 

 ――ちょうだい?

 

 内側から零れるミラルフィーネの衝動が、白王陣を起動してからずっと続いている。声が勝手に零れそうになって、エシェルは自分の口を塞いだ。

 

『AA――――――』

 

 無論、その隙を竜が見過ごす筈も無い。銀糸が更にうごめき、形を変える。いくつもの刃が重なり結晶のようになる姿、グリードの眷属竜が使っていた無音の飛翔剣が形をなして形成される。それがエシェルを睨み、即座に放たれた。

 

《撃てぇ!!!》

「【魔機螺!!!】」

 

 だが、エシェルの肉体をえぐる直前、飛んできた戦車の砲撃と刃が銀糸を打ち抜き、その軌道をわずかに逸らした。駆けつけた戦車に乗るジースターは、自分の力を抑えるように身体を丸め込むエシェルへと叫ぶ。

 

「落ち着け女王!!しっかりしろ!!!」

「【わ……かって、いる……!】」

 

 否、分かってはいないだろう。大丈夫ではないのだろう。そう見えるから向こうは必死に声をかけている。今にも自分が決壊してしまいそうに見えるのだろう。

 御さねばならない。分かっている。だが、力と衝動が今にも溢れようとしていた。

 

 押さえ込む。抵抗する。そうしなければ皆死んでしまう――!

 

 ――否定しない方が良いかもしれない

 

 だがその時、不意に頭をよぎったのは、彼の言葉だった。

 

 

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