かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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一方その頃②

 

 【真なるバベル・螺旋図書館】上層にて

 

「スーア様、よくぞご無事で!」

「ビクトール。良かった」

 

 けが人達を引き連れたスーア、グロンゾン達は自分たちと同じくシズクのバベル支配時に飲み込まれていたビクトール達と再会していた。バベルの変化時、スーアのように直接狙われなかった彼等は他の巻き込まれていなかった者達を集め、避難所に逃がす作業を繰り返していた。その最中の再会だった。

 

「変異に巻き込まれましたが、なんとか無事なものを集めておりました。助けに向かえず申し訳ない。天拳殿、助かりました」

「良い、俺も助けられただけだ。自分たちだけでよくぞ動いてくれた」

 

 グロンゾン達に頭を下げるビクトールは、そのまま周囲の状況を見渡す。その表情はどこか苦々しかった。

 

「……バベルは墜ちましたか。力及ばず本当に申し訳ない」

「団長殿だけの責任ではあるまいよ」

 

 ビクトールの言葉にグロンゾンは即答する。

 彼の表情もまた、堅い。この現状に対する責任を彼もまた感じていた。しかしそれでも決してうつむいて、ただ悔恨にふけることだけはしていなかった。彼を見て、ビクトールもまた深呼吸して精神状態を切り替えた。

 

 バベルは墜ちた。状況は致命的だ。

 しかしだからこそ、今は気落ちなんてしている場合ではない。

 

「我々は動ける戦士達を集めて、孤立している者がいないか再び探索します」

「私たちは再び地下へ」

「勇者達の支援ですか」

「はい」

 

 簡潔に状況を確認した後、速やかにそれぞれが動き出した。彼等の表情は決して晴れはしなかったが、あるいは、それは作業に没頭することでの現実逃避だったのかもしれない。

 

「イスラリアは滅ぶかも知れません」

 

 その、どこか投げやりにも近い空気を感じ取ったが為だろうか。スーアはあえてハッキリと告げた。戦士達の幾人かは表情を硬くさせ、震えるように腕をつかむ。しかしスーアは彼等の怯えや恐怖からけっして目を背けず、続けた。

 

「ですが、抗いましょう。私たちはまだ生きています」

 

 それは決して力強い言葉では無かった。だが、浮世離れしたスーアが不安に溺れそうになっていた戦士達を勇気づけるために大切に選んだ言葉で在ることは全員に伝わった。

 

「はい……!」

 

 姿勢を正したビクトールの部下達は頷く。

 崩壊していく世界のただ中にあって、彼等はまだ必死にあらがいを続けていた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 【真なるバベル・螺旋図書館深層】

 

「やれやれ、俺の職場が大変なことになってしまったなあ?」

 

 天魔のグレーレはケラケラと愉快そうな表情で周囲を見渡した。その場の空間は彼の言うとおり、大変なこととなっていた。まさに生物の腸の中のような空間だ。螺旋図書館と名前はついているが、この深度までたどり着くと本が並んでいることもない。

 バベルの深層、方舟イスラリアのもっとも深き穴の底へと近づいていた。

 

「いることの方が少ない癖に主人気取りか」

 

 そして、そんな彼のわざとらしい嘆きの声に対して、同行していたザインは酷くあっけない言葉で返した。心の底からグレーレの悲劇に興味なさげだった。

 

「おいおい酷いなあ?これでも真面目なんだぞ?与えられた仕事はちゃんとこなす」

「そして優秀さ故、誰もお前を咎められなくなる。お前の真面目は暴力的過ぎる」

「まるで見てきたように言うなあ?あっているが!」

 

 実際彼はそういう事をする。自分の優秀さに対して彼は自覚的で、武器として容赦なく使う。力のないものは彼に否応なく屈服するのだ。本当にたちが悪い男だとザインは確信している。

 

「カハハ、戦闘能力で一切を一刀両断するお前に言われたくは無いなあ?」

 

 グレーレに指摘されながら、ザインは目の前の“瞳”を両断しながら無視した。本当の舌戦で彼に勝てる見込みは皆無だ。まともに相手にするだけ損である。そうしてそのまま先に進むにつれて広い広間へと出た。その時点でグレーレは先に一歩前に出た。

 

「さて、このあたりか」

 

 そういって、いくつかあった柱の根元を足で叩く。するとその瞬間、肉の根で覆われた地面がズレて、動き出した。開いた扉の先には、中央の螺旋通路とは別の細く地下階段が姿を見せていた。

 

「隠し通路、この状況でまだ機能しているとは」

「方舟の各所に設置した避難所(シェルター)と理屈は同じだとも。空間そのものを隔絶している。迷宮が階層ごとに区切られているようにな。完全とはいかないがな?」

 

 そのまま二人は更に先へと進む。確かにグレーレが言うように、一部外の肉の根が浸食している部分が見えたが、進むことは可能だった。先ほどまで響いていた戦闘音――――二柱の神同士の戦いの音も此所では遠い。

 

「例のモノは無事、機能するのか」

 

 静かになった代わり、というようにザインが訪ねる。グレーレは肩をすくめた。

 

「恐らくは?」

「……」

「仕方あるまい?流石にこればかりはぶっつけ本番だ。試すわけにはいかぬ」

 

 なにせ、と彼は実に楽しそうに笑った。

 

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「今既に、終わっているようなものだがな」

「だからこそでもあるがな」

 

 真っ当な神官であれば顔をしかめるような言葉を七天と元七天は交わす。勿論この場に彼等を咎めるような者は誰一人としていない。

 

「尤も、あの灰の英雄……もとい灰王が成功させねば全て台無しだがな!本当にお前はあちらに向かわなくて良かったのか?」

 

 ウルを指して、グレーレはニヤリと笑う。彼は勿論、ウルが元はザインの元で育っていたことを知っている。彼がどれだけ短い間であっても共に過ごした子供達のことを大事に思っていることを知っているが故の、やや悪意のある問いだった。

 しかしザインは全く表情に動揺を見せない。代わりに彼は抜き身の剣を構えると、背後をついてくるグレーレにむかって剣身を閃かせ――――

 

『GGG……   』

「――お前の護衛が必要でないというなら、お望み通りウルを助けにいくが」

 

 グレーレの背後に音も無く迫っていた眼球の魔物を切り裂いた。グレーレは振り返り、首を傾げ、そして頷いた。

 

「必要だな、護ってくれ」

「正直なことだ」

 

 ザインは再び進み、グレーレは今度は余計な口を挟むことをせず彼についていった。

 

「……もう引率する年でもない。だが」

 

 前をゆくザインは、視線を自分が進む地下へと続く闇へと向ける。その先にウルがいると確信するように、ザインは小さく囁いた。

 

「死ぬなよ。ウル」

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 その頃、ウルとロックは

 

「んんんんん!?ちょいまてなんで権能が両断される!?」

『七首どもの咆吼もぜーんぶ両断するんじゃよなあ……マジなんなんじゃ』

「権能だの咆吼だの名前だけは大層ですね。死んで下さい」

 

 死にかけていた

 

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