かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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無双天剣②

 

 ――浅ましき簒奪者!!邪悪なるイスラリア博士に正義の鉄槌を!!

 

 と、いうようなプロパガンダを■■■■■は死ぬまでの間に百回以上目にしてきた。百回というのはかなり下に見積もっている。実際はもっと、山ほど見たし聞いた。あまりにも繰り返し見過ぎた所為で風景とか、環境音と化してしまっていたので、記憶には残ってない。

 そういった戦意高揚の宣伝は、大体は都会に住んでいるような、戦争のためのお金を出しているような連中のために向けられたもので、実際に殺し合いの戦争に向かうのはお金のない兵士達だった。

 ■■■■■もその一人で、金が無くて、食べるのに困らないから兵士になって、ずっと闘ってきた。

 長く闘った。長く殺した。敵が生みだしてくるよく分からない色んな兵器(生物兵器?)のようなものと長いこと殺し合いを続けてきた。幸か不幸か、戦いの才能があったらしくて、大体の兵士達が死んでしまうような所を何度となく切り抜けて生き延びた結果、とんでもない老兵になっても尚生き延びた。英雄とか、伝説とか言われたらしい。知らないが。

 

 そんなこんなで生き延びて、そして、もうすぐ死ぬ。

 

 イスラリアがその技術力でもって生みだした人工の大陸の上で行われた最終戦争の最中、激しい震動と共に大陸は揺れ、恐慌状態に陥った兵士達は逃げ出した。■■■■■も逃げ出すつもりだったが、大分悪くなっていた足がもつれて、後ろから生物兵器に貫かれて、どう考えても助からない血を流して倒れた。

 

《我々は最後まで闘う!!世界から全てを奪いさった悪しきイスラリアの魔の手から!人類を救い出す――――》

 

 通信機器からはダラダラと、つまらない音声が流れ続けていた。自分たちは正しい、アイツらは悪だ。そんな呪いと言い訳に塗れて、■■■■■はもうすぐ死ぬ。

 

「つまらん人生だったの」

 

 つまらない人生だった。

 ずっと殺していたし、ずっと仲間を殺された。ずっと戦場にいて、それ以外の何も知らなかった。都会の金持ちの連中は兵役を逃れて、俺たちに戦いは任せて遊んでいるんだと仲間の誰かが言っていた。恨みがましそうに呟いていたのを覚えているが、ろくに遊んだことも無い■■■■■にはなにが恨めしいのかも分からなかった。

 

 一度も心から楽しいと思ったこともないまま、彼は死ぬ。

 

「生まれ変わったら」

 

 死んだ同僚が、言っていたのを思い出す。生まれ変わったら、平和な時代に生まれたいと。もう闘いたくなんてないのだと。多くの兵士達が彼等の言葉に同意していた。彼等は全員既に死んでいた。望み通り、平和な時代に生まれ変わることが出来たのだろうか。と、■■■■■は思った。そうであれば良いとも思った。

 

 そして、自分はどうなのだろうと考える。

 

 もうすぐ死ぬ。生まれ変わるとしたらどうなるだろう。平和な時代に?しかし、別に彼は戦い自体は嫌いでもなかった。謎の生物や、兵士達相手の殺し合いも、退屈な日々の中であって唯一喜びを見いだせる時間だった。嫌いだったらこの年まで生きられなかっただろう。

 だから、望むことがあるとしたら、それは

 

「友達が欲しいの」

 

 友達がつくれる時代に生まれたい。彼は今際の際にそう願った。

 彼がそう呟いた直後、数メートル以上の生物兵器が■■■■■を踏み潰して、彼は絶命した。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『カッカッカカカ!!やっばいの!!!』

 

 雨あられのように降り注ぐ絶対両断のただ中にて、ロックは笑いながら駆け回る。途中途中で自分と同じ死霊兵達を無数に自分のダミーとして出現させ、目くらましをしているが全く意味が無い。剣は酷く正確に自分を付け狙い、容赦なく穿ってくる。

 七首と共に戦っていたときもそうだった。どれだけ自身をあの巨大なる七首竜の身体に潜ませて、自在に目を眩ませようとも正確に狙ってきていた。

 

 ――貴方の殺意はわかりやすい。鋭く、正確で、研ぎ澄まされた戦士のものだ。

 

 何故こちらの居場所が分かるのかと尋ねて、返ってきたのがこれである。あまりの理不尽っぷりにロックは笑ってしまった。そしてそのまま七首竜を打ち落とされて、こんな有様になっている。

 だが、そのまま楽しくなっているわけにはいかない。

 シズクを護る。その為にいる。出来ることをしなければならない。

 

『ッカア-!!!』

 

 雨あられのように降り注ぐ剣の山、それをかいくぐるようにロックは反転する。

 護るための盾は用意しない。【天剣】の攻撃は護ることは出来ない。どれだけ護りを固めようとも一切を両断してしまう。“魔力加工裁断機”は一切の防御を破壊し尽くしてしまう。

 

 だから、ロックはただ駆ける。

 

 前傾姿勢で低くし、ひたすらに敵の攻撃をくぐり抜ける。

 敵は二つの神ではない。信仰の対象でも、恐怖の対象でもない。出力には限りがある。故にこのやりたい放題の攻撃も無尽蔵ではなく、事実隙間なく攻撃を降り注ぐような無茶まではしていない。

 目にもとまらぬ速度で、絶対に防ぐ事が出来ない剣が、縦横無尽に飛んでくるだけだ!

 

『ッカカカ!!!』

 

 当然、腹や腕が次々両断される。そのたびに再生する。この無茶ができるのは主へのイスラリア人達の畏れあってのものである。バベルそのものを奪ったことにより、イスラリア人達の負の感情から生まれる信仰全てを主が奪い取り力としている。そのエネルギーをロックは糧とすることが出来た。

 しかしそれ自体が主の魂を痛めつけている可能性を考えると苦い顔になる。

 

「しぶとい」

 

 だが、だとしても、この異端の最強を放置だけは出来ない。

 

 ディズはまだマシだ。彼女には情があり、躊躇がある。一見してなまっちょろいと言われるようなその情こそが彼女の強みであり武器なのだ。

 だが、この“神の剣”は勇者のような躊躇はすまい。彼女は自分を剣と定めている。必要とあらば躊躇無く主を殺す。()()()()()()()()()、彼女は此所で止めねばならない。

 

『【餓者・七腕!!】』

 

 力を込める。宙を浮遊しこちらを見下ろすユーリの足下から七つの腕が出現する。ヒトならざる禍々しい獣のような腕が空へと手を伸ばし、剣の神をたたき落とそうと伸びる。

 

「【終断・界】」

 

 それを彼女は身じろぎ一つせず全てを断ち切った。最早剣を振るような動作すらない。ロックは納得する。既に散々やりあった。彼女がどういう存在なのか既に思い知った。

 

 剣士にあらず、彼女は剣そのものだ。

 

 現象、事象、精霊の類いである。ヒトの身でありながらそれを体現する者。全くもって理不尽の塊だ。

 

『たまらぬなあ!!!』

 

 それ故にロックは高揚し、吼える。粉みじんにされた骨片全てに干渉し、自らの分身に仕立て上げ、一気に彼女へと突撃させる。ロック自身もまた一気に接近し、愛用の亡霊剣を振りかぶる。

 

「【霊牙よ!!!】」

 

 自身の分身を貫通し、中のターゲットだけを切り裂く。その為に飛び上がる――――が、

 

「その剣筋は、()()()()()()()

 

 だが、分身達の骨の牢獄は次の瞬間真っ二つに両断される。切り開かれた牢獄の先、闇の中から蒼の眼光がこちらを射貫く。ロックはそれだけで自身が両断されたかのような感覚に襲われ、人骨の身体が硬直する。

 

 視線で、切られた!?

 

 そして硬直の隙をつらぬくように蒼い光が飛び出す。気がつけば眼前に迫った【天剣】は星天の刃を振りかぶり――――

 

「【黒焔瞋・比翼】」

 

 直後、白と黒の咆吼が彼女へと放射された。

 

 

 

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