かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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無双天剣⑤

 

 大罪都市プラウディア外周部。

 

「ベグードさん!!部隊の再編終わりました!」

「ああ……」

 

 魔物の襲撃が小康状態になり、ベグードは部下達の再編成を行った。

 仲間達の状況は決してよくはなかった。怪我人は多くないが、動ける者は少ない。銀竜達の数も減ったが、こちらの動ける数も減っている。強制的な膠着状態が作り出されている。

 

「全く、好き放題してくれる……」

 

 ベグードは苦々しい表情でプラウディアの中心に鎮座する巨大移動要塞ウーガを睨む。

 彼等が何をしたいのか、その意図は理解しないでもない。

 何とかしようともがいているのも理解するが、しかしせめてこちらに一度くらい相談しろバカ!と、ベグードはあの灰色髪の少年の肩を揺すってやりたかった。

 

「ベグードさん、バベルへと向かいませんか?」

「スーア様達を助けないと……」

 

 部下達の何人かが叫ぶ。彼等の表情は必死だ。当然だろう。自分たちの守護すべきバベルがあのような有様になったのだ。本拠地が奪われたに等しい状況、なんとか奪還を目指したいと思うのは自然だ。だが……

 

 少数に絞り向かうか……?

 

 判断は難しい状況だ。

 実のところ、こういった事態は事前に上から指示は受けていた。バベルが敵に奪われる、破壊される可能性は予見されていた。だからこそスーア達は各地に避難所を設置し、万が一の時にはそこに逃げ込むこと、そして戦士達は必要とあらばバベルの守護を放棄し、避難所の護りに専念する事も言われていた。

 

 だが、そういわれたとて、全てを諦めるのは難しい。

 

 バベルを失いたくないと願う部下達の心情は分かる。

 だが、不用意にバベルへと突っ込んでも意味はないだろう。むしろ状況をより悪化させる可能性が高い。個々人の戦闘能力がこの世界は隔絶している。自分達ではどうにもならない戦場には首を突っ込んではならないのは基本だ。

 

 バベルが損なわれた以上、自分たちで正確に状況を把握する必要がある。

 それも精度の高い情報だ。それが把握出来る場所があるとすれば――――

 

「なん、だ!?」

 

 ベグードが迷っている内に、再び大地が揺れた。今度はどう状況が変化したか

 

「バベル、が!?」

 

 バベルを取り巻く骨の竜達が蠢き、地面に突き刺さり、更なる異変を引き起こし始めていた。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ――悪感情の信仰対象として、七首は凄まじい力となります。どうか、お気をつけて。

 

 主であるシズクからの忠告を思い出しながらも、ロックは躊躇なく七首の竜を一気に解放する。七首の竜達は何も形のみをなぞったものではない。竜達の魂、その莫大なエネルギーを収める器として形作っている。

 当然、それを創り出すロックにかかる負荷は凄まじい。メキメキと自分の器が破裂しそうな音が聞こえてくるかのようだった。

 

『カッカ……!』

 

 だがロックは躊躇しない。全力でもって力を引き出し、七竜達をこの深層へと呼び出し、顕現させる。

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 雄叫びをあげながら、七つの骨竜達がその長首を振り回しながら荒れ狂う。瞬く間に一帯は骨の渦に飲み込まれ、尚も激しい破壊を起こす。だが、ロックは尚も力を注ぎ続ける。

 半端はできない。何せ――

 

「また首を落とされたいと」

 

 ――相手は、自分を遙かに超越した怪物だ。

 

『全く……!死人のワシよりも人類をやめておる……!!!』

 

 星天の剣は舞う。

 七首竜の一体が渦巻きながら空間をえぐり、食いちぎろうとする。渦巻き、周囲の構造物全てを吹き飛ばし、ユーリへと咆吼を放った――――が、次の瞬間ユーリの姿は消えて無くなる。

 

「【終断】」

 

 気がつけば竜の頭部に立っていた。

 

『OOOOOOOOOOO!!!?』

『カカカ!!』

 

 そのまま彼女は剣を閃かせ、一つの頭が落ちる。

 あまりにも呆気ない。こうしてみると七首竜がまるで大したことがない雑魚であるかのように錯覚しそうになった。

 そして墜ちた首を道にしてユーリは駆ける。纏う光を散らしながら駆ける姿は流星だ。だがその美しさに見蕩れるには、まっすぐ放たれる殺意があまりにも鋭すぎた。

 

『まだまだああ!』

 

 手を振り上げる。合図に応じて残る首が咆吼を放つ。炎や念力に激流、権能の大部分は主を護るために預けているが、力だけなら眷属竜に見合う破壊が巻き起こる。破壊の渦は一瞬で少女を飲み込む。普通ならばそのまま彼女は消し炭になって終わる――――が、

 

「それも既に視ました」

 

 ユーリを護る翼剣が廻り、彼女を護る。

 中央の彼女は当然のように無傷だ。そして、ブレることなき殺意をこちらに向ける。だが、そこまでは最早ロックも想像がついていた。この程度で彼女が止まるなら、バベルの外でとっくの前に決着はついている。

 

『【餓竜髑髏ォ!!】』

 

 出現と同時に、自身を巨大化する。頭部や腕が竜化した怖ろしい巨人をロックが操り、現れた彼女に向かって即座に拳をたたき込む。無数の本棚が重なって出来た地面がたたき割れて一気に周囲が崩れ、一段落下していく。

 

『ッカアアアア!!!!』

 

 だが、尚もロックは続けた。拳をたたき込み、咆吼を吐き出す。周囲の残された七首達も同様にそうした。辺り一帯が火の海へと変わり吹き上がる。

 何もかもを断ち切る殺意は、それでも尚途切れはしない。

 

「【終断】」

 

 落ちる。落ちる。首が落ちる。

 首根っこを両断され、真正面から断ち切られ、宙に散らばる。

 大罪の象徴、禍々しく怖ろしいバベルを呑んだ七竜が何も出来ずに塵芥のようになって散っていく。ここが外でなくて良かったとロックは心底思った。コレが外であれば、イスラリアの戦士達はさぞかし盛り上がってしまったことだろう。悪感情の信仰なんて消し飛んでしまう。

 

「シズクはもとより、貴方にも容赦する理由は私にはない。理解していますよね」

『カカカ、無論!!!』

 

 連続する閃きの刹那、囁かれた丁寧な処刑宣告に、ロックは笑った。

 全く律儀な性格をしている。

 だが、だからとて、ただ黙って殺される訳にはいかない。

 

『【百竜夜行!!!】』

 

 砕け散った死霊の竜達に更に呼びかける。散らばった骨片が更に広がる。舞い散ったそれらが新たなる小型の竜となって一帯を満たす。その全てが、主より与えられた負の信仰魔力を吼えるべく、大口を開く。

 

『放てェ!』

「【終断――】」

 

 だが、その高熱が星天を貫くよりも、彼女が動く方が遙かに速かった。

 

「【――斬華】」

 

 空気が、否、空間が切り裂かれる音がする。

 星の光が無数に奔る。その軌跡に沿って全てが切り裂かれる。百ツの竜達が次々と落ちる、巨人の腕も、足も容赦なく切り刻まれる。墜ちた無数の骨が巻き上がった炎を散らす。

 

『【餓――】』

「温い」

 

 そして、自身をも断たれる。ロックは自身の胴が断ち切られ、鎧のようにまとった巨大なる身体を断たれ、その内に潜んでいた自分ごと情け容赦なく断ち切られた。彼女自身の予告の通り、そこに一切の情けは存在しなかった。

 

『まだぁ!!』

 

 だが、足掻く。

 

 止まれぬ。終われぬ。まだ眠れぬ。

 

 何の喜びもなく散り果てた人生、今の自分はその余白に過ぎない。だが、それは楽しき余白だった。愉快で、退屈する暇など欠片もなく、騒がしくて驚きに満ちていた。

 

 得られないと思っていたものを得た。

 

 本来あり得なかった生は十分に満たされた。だが、だからこそ、その日々をくれた主の元に、無双の剣神を敵対者として向かわせる訳にはいかない!

 

 この怪物は、殺すと決めたなら絶対に殺す!!それだけは止めねばならない!!

 

『起きよ!!!』

『OOOOOOOOONNNNNNNNNNNNNNNN!!』

 

 ユーリの背後から、彼女の斬撃をかいくぐった最後の一頭が蠢き、突貫する。既にボロボロと形を保ちきれずに崩壊しかけているが、堪えるように雄叫びを上げながら、まっすぐに激突し――

 

『OOO――    』

 

 ――それをユーリは振り返ることすらせず、飛翔する剣でたたき切り、

 

「――視なくて良いのか」

「ッ!?」

 

 断ち切られた骨竜の顎から飛び出したウルが、彼女の背後から突貫した。

 

 

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