かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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無双天剣⑥ 代行

 

「ああ、ぐっそ……」

 

 血を吐き出し、再びなんとか【天愚】の力で再生を果たしたウルは、その気色悪い感覚に悪態をついた。魔術による回復とも違う異様な感覚はいつまで経っても慣れる気がしなかった。こんなもんを息を吸うように多用していたあの魔王はやはりどこかおかしい。

 しかし、気分が悪いとうなだれている場合でも無かった。ロックだけで相手しているが、今の絶好調状態のユーリをロックだけで戦ってたらあっという間にすりつぶされる。

 

 さりとて二人がかりでもどうこうなる相手ではないのだが――――?

 

 そうウルが考えていたとき、不意に足下が動く。足場にしていた本棚の天板が動き、その下から隠れ潜むように骨の竜が姿を現した。

 

『――――――』

 

 禍々しい造形であるが、骨の竜はウルを襲いには来なかった。じっとこちらを見つめ、そしてその巨大な口をパカリと開く。しかし、咆吼を吐き出すこともなかった。

 

「……全く」

 

 ウルはその姿にため息をつく。そしてそのまま何も言わず、前へと飛び出す。

 

 ――このまま消化されたら恨み倒すからな!!

 

 無言で連携を求めてくる人骨へとウルは悪態をこぼしながら、大口の闇の中へとウルは落ちていった。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 視られない事。

 強欲なる竜の瞳。そのあまりに理不尽な観察力に対抗するもっとも単純な手段はそれだ。少なくとも、視て、解され、全てを上回られるという最悪の事態は回避出来る――――無論、それが彼女の持つ手札の内のたった一つを封じるに過ぎないとしても、そうしなければ何も出来ずに死ぬ以上、そうする他ない。

 

「穿つ……!」

「ッ!?」

 

 無防備だったユーリの背中に、死霊の骨竜の中から飛び出したウルは突貫する。

 

 まともな生物ならば確実に殺しかねない程の速度で突貫する。躊躇は無かった。手加減なんて事出来る相手ではないのは明らかだったし、それ以上に

 

「……っぐ!?」

 

 この程度で、彼女が死ぬはずがない。

 自身の突き立てた竜牙槍の穂先が、ユーリの身体を覆う星天の鎧に阻まれた事実を確認したウルは、改めてその事を確信した。

 

 ――剣の力を編んで盾にしたのか……!?

 

 ならばと、一度引き抜き咆吼を放とうとするが、槍が動かない。ユーリの鎧、その身体を覆う無数の剣の力が、槍の穂先に食い込んでいる。

 

 剣の本質は敵を切り刻むこと。

 

 鎧という形に納めても尚、向かう敵を刻む能力が満ちている事実にウルは顔を引きつらせた。だが、次に思考を巡らせる暇も無く。

 

「っが!?」

「小癪ッ!」

 

 背中をとるウルの肩にユーリの手が突き刺さる。更に無理な姿勢のまま、彼女はギリギリとこちらを振り向こうとしている。

 不味い。この状況は二度は取れない。両断されたロックが復帰したとて、同じ不意打ちは出来ない。彼女にそれはもう通じない。ここで決めるしかないのだ。

 

「【揺、蕩、え!!!】」

 

 力を放つ。腕を弾き飛ばし、彼女自身の身体を吹き飛ばす。だが距離は離さない。そのままウルも宙を蹴り、彼女を追撃する。

 

「押さえ込む――――ッ!?」

 

 なんとしても、そう思った矢先、ユーリが空中で振り返る。途端腹部に強烈な蹴りがたたき込まれ、ウルは身もだえた。爪先が刃のようになった蹴りは鎧を貫通し、ウルの腹を抉った。

 

「蹴、りッ!?」

 

 さらにつきささった脚をひっかけて、ぐるりと姿勢が変わる。下層に積み重なった本と骨の山の上にウルは先に落下し、その上にユーリが飛び乗る。押さえ込むつもりが、逆に押さえ込まれた事実にウルは歯がみした。

 だが、このまま好き放題されるわけにはいかない。

 

「【終――!?】」

「【白姫華!!!】」

 

 そのまま殺される前に【竜殺し】を地面に突き刺して【竜化】を引き起こす。真っ白の蔓が伸びてユーリの片腕を縛り、宙から狙いを定めこちらを貫こうとした【翼剣】を押さえ込み、更には彼女と自分の身体を無理矢理結びつけた。

 取りこぼした翼剣のいくつかの剣は身体に突き刺さる。ダヴィネの鎧も絶対両断の剣を前には意味は無く、ウルは激痛にもだえた。

 

 だが、最悪ではなかった。完全なマウントを取られる前に、拘束による利は握れた。

 

 技量で勝ちようがないなら、それが使えない状況に変えるしかない!

 

「くっ……!」

「【天愚】の再生は厄介ですが、いつまで保ちますか……!?」

 

 突き刺さった翼剣がそれ以上肉を切り裂かぬよう押さえ込むが、肉が切り裂かれていく。激痛で涙が出そうだ。そして彼女の指摘の通り、これは長くは続かない。魔力が尽きれば、心臓を突かれて死ぬ。

 だが、それはこちらも同じだ。

 

「お前の、魔力だって、無限じゃないだろ!」

 

 それが今のところ、最大の勝機だ。二対一の状況、致死のダメージを無効化する二人を相手に、ユーリはほぼ一切温存する様子もなく力を使い続けている。

 いくら【天剣】の力を自由に使えようとも、燃費まで無限であるはずがない!

 

「何時まで保つ――――!?」

 

 その時、ウルは見た。

 ユーリが、動かせる方の手で、懐から薬瓶を取り出したのを。美しい意匠の刻まれた薬瓶、【神薬】を馬乗りにして敷いたウルに見せつけるようにして一息に飲み干したのを。

 

「おっま……!!?せっこ!!!ちょっとまて半分よこせ!!!」

「嫌ですよ誰があげますかヒトの飲みさしほしがらないでくださいえっち」

 

 一滴も残さず飲み干したユーリは神薬の瓶を放り捨てる。

 同時に無数の星天の剣が宙を舞う。無数の蔓を引き裂いていく。竜化の蔓も追いつかない。このままだと串刺しになって死ぬ。

 

「残念ながら貴方の最大の勝機は潰えましたね。逃げますか?」

 

 挑発だ。それは理解出来る。

 拘束による接近戦をユーリは絶対に望んでいない。技量という一点が隔絶しているが、それ以外の純粋な身体能力が常軌を逸している訳ではない。

 その点は分があるのはこっちだ――――だった筈なのだが、今の神薬で体力の優位を奪われてしまったのは、あまりにも痛いタイミングで補給されてしまった。

 

 この状況を脱するには――――

 

《ウル、聞こえる?》

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ノアを経由して通信出来たわね。シンタニの研究を元に術式構築が出来たわ。ひとまず“統合”出来る筈」

 

 竜呑ウーガの司令室にて強引に設置された研究室の中心でリーネは告げる。表情には重い疲労が残り、彼女の周囲には彼女以上に疲れ果ててぶっ倒れた者達もいる。

 全員疲れ果てていた。当然だろう、世界が終末へと一直線に転がり落ちる中、リーネとその部下達は全員ほぼ休みなしに働きづめだった。本当に世界が終わってしまう前になんとかしなければならなかったからだ。

 

 そしてその成果が今、完成した。

 

「必要とあらばすぐに送るけど、――――」

《今、すぐ!!送ってくれ!!!》

「つまり、死にかけなのねいつも通り」

 

 我らがギルド長の叫びにリーネは苦々しい表情になる。

 全くもって、我らがリーダーは何時も死にかけている。そうなる可能性を考慮したからこそ、急ぎ連絡を送ったわけだが、何もかも予想通りなのは本当にどうかと思う。

 

「シンタニ!」

 

 呼びかけると、彼は頷く。

 

「……まさか、完成するとは」

 

 そう言いながら、魔界から持ち込んだ魔導機を操作する。創り出された術式を打ち込んでいった。

 

「送信するわ。ノアに頼んだら起動出来るはずだから……後は、なんとか使いこなして」

 

 カタンという音と共に、彼女たちの努力の結晶がウルの元へと送られる。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 殺せる。

 

 神薬で心身の状態を回復させたユーリは、間もなくウルを削りきれる事を確信した。

 

 ここで死ぬようなら殺す。

 シズクも殺す。

 全てを終わらす剣と成る。そこに一切の躊躇は無い。

 

 それを拒むなら、乗り越えて見せろ!

 

「ノア!!!」

 

 ウルが、聞き覚えのない言葉を発した。

 ユーリは身構える。この土壇場において、くだらないはったりを口にすることだけはあり得ないと分かっていた。

 

〈添付データ解放、映像転写開始〉

 

 そして懸念通り、ユーリにとって未知の現象が起こりだした。ウルの鎧、こちらの攻撃でいくつも切り刻まれ、破損しながらも残った籠手の一部が光り、音声を発する。人類の発した声とは思えないその声にユーリが眉をひそめていると、ウルの背後に何かが展開した。

 うっすらとした、半透明の光がウルの背後に映し出された。通信魔具越しに映る映像に近いが、それとも違う。

 そこに映し出されているものは――――"魔法陣だった”。

 

 ――術者がいないのに、魔法陣!?

 

 そして魔法陣を目視した瞬間、ユーリは警戒せざるを得なかった。大罪都市ラストにおける白の末裔 恐るべき【白王陣】の使い手、リーネを想起せざるをえなかったからだ。

 終極魔術の可能性。自分なら斬れるか?だが、この近距離で行けるか?

 思考が巡る。だが、それよりも先の音声が響く方が速かった。

 

《【魔力加工術式展開(コードオープン)()()()()】》

 

 身構えたユーリの警戒に反して、それは攻性魔術の類いではなかった。

 だが聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。

 

《【七つの竜、一つの天、集い混じりて】》

 

 奇妙なる音声の詠唱は続く。同時に馬乗りになったウルの肉体にも変化が訪れる。

 

《【灰へと至れ】》

 

 こちらの攻撃に対して、無効化を続けていた【愚星】の色が変わっていく。黒でもなく、白でも無い、入り交じった灰の色。彼の髪と同じように雑多で、けれども全てを受け入れるかのような灰の焰。

 

 これは、不味い

 

 直感が囁いた。と、同時に今この場で殺しきるという選択をユーリは完全に棄てた。

 灼熱のような闘争心に反して、判断はどこまでも冷徹だった。

 技量において、ウルとロックの双方をこちらは大幅に上回っている。ならば不確定要素(イレギュラー)はいなした後、こちらの有利を押しつけて殺しきる!

 

 ユーリはその判断で動く――――直前に、もう片方の腕も捕まれた。

 

「そう来るよな、お前は……!」

「ッ!」

「距離を取られるわけにもいかねえんだよ……!」

 

 刃そのものとなった掌がウルの指を切り裂くが、それでもウルは強く握りしめ、更にソレを白蔓ががんじがらめにした。強引に剣を創り出そうとしたが、できなかった。【色欲】の白蔓がこちらの力に干渉している。

 

「【()()】!!」

 

 同時に、灰色の炎がウルの身体から溢れ、ユーリを焼いた。

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