かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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少女たちを救うための方法④

 

「【護人】とくくったが、今はもう集団としては機能してない。随分と脱落した」

「カハハ!何せ一千年だ。大半は精神が持たなかったなあ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 どこか慣れたような二人のやり取りを呆然と聞いていたが、エシェルは口を挟み声をあげた。そしてグレーレを睨み指さした。

 

「何故ここに!」

 

 グレーレは素知らぬ顔だ。なんてこと無いように、そして慣れた様子で研究室の中に入り、そしてザインの隣で笑った。

 

「この元勇者と俺は親友だ。親友の窮地に顔を出すのは当然だろう?」

「いや違う。親友ではない」

 

 ザインは即答した。あまり表情は動かなかったが、ザインの目つきは心底面倒くさそうなものを見る目であり、対してグレーレはそんなザインの態度を面白がっているかのようだった。

 グレーレはどうやらザインに対してすら、あまり自分たちに対してと変わらない態度でいるらしい。本当にブレない男だった。

 昔からの仲間。そして先ほどザインが明かした自らの素性。それらを考えると色々と結びつくものがある。そして妙な納得も生まれた。

 

「アンタ、度々俺たちに情報を流してたよな。めちゃくちゃ遠回りに」

「ああ、言語統制を受けていたが、自分たちでたどり着く分には別だからなあ?高い影響力を持ちつつあるお前達が、真実に気づけばよい駒になるかもと思っていたのだ」

 

 結果は想像以上だったがな?とグレーレは笑う。なんともまあ、本当にろくでもない男であったらしい。色々と言ってやりたくもなったが、ここで何を言ったところで適当に流されるだけなので、一端その話は置いておいた。

 

「……って事は、此所はアンタの研究室でもある訳か」

「正確には研究書類倉庫だがな!全く、この男が定期的に立場を変える所為でいちいち書類を移動させるのが面倒でたまらない!」

「必要故だ。必要でなく、やらかして中々同じ場所にいられないお前の方が問題だ」

「高度な政治的判断というヤツだとも?それを利用して度々手を貸してやっただろう」

「迷惑も同じくらいかけられたがな。そもそも人の拠点を倉庫に使うな」

「仕方あるまい。王の許可を得ていたとはいえ、こんな資料、バベルはおろか、エンヴィーにすら置いておけない!理解せぬ者が知れば大惨事だ!」

 

 二人は何やら慣れた様子のやり取りを交わした。

 正直、性格的には全く正反対に思えるが、こうして会話を交わしているとどうにもしっくりくるのが不思議である。そして納得もあった。武術において卓越していたザインが、研究に打ち込む姿はあまりイメージが結びつかなかった。しかしグレーレが利用していると言われると、途端にこの部屋の乱雑な有様がしっくりときた。

 彼はそのままいくつかの書類を雑に寄せて椅子を取り出し座った。

 

「ザインから連絡が来たので、全ての仕事を部下達に押しつけてすっ飛んできてしまった!」

 

 どうやら、ウル達が来たことによってグレーレの部下が若干かわいそうな事になったらしい。が、グレーレはまるで気にする様子もなく、ウル達を見渡し、ニヤリと口端をつり上げる。

 

「我々以外にも、イカれた事を考える者達がいるとはなあ?」

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「カハハ!なるほど!無茶をする!だがそれなら確かに可能性はある……いや、あるか?」

 

 それから、リーネからプランの説明を受けたグレーレは愉快そうに笑い、笑った後ピタリと笑うのを止めて、首を傾げた。

 

「まあ色欲を凌ぎ、黒炎を超え、挙げ句最強の強欲をも超えるに至ったお前に賭けるか」

「期待されすぎても困るんだが……」

「仕方あるまい。お前達のようなイレギュラーは、ユーリを除いて他にいない。王が賭に出るのも分かる」

 

 そこを月神に付け狙われた訳なのだがな!と、身内であったリーネの前で実に遠慮なしの感想を吐き出した。エシェルがふくれ面でうなり声を上げているので、ウルになんとか彼女を抑えてもらう。

 

「貴方も私達の作戦に協力してくれるって事で良いの?」

「時系列的にはお前達が我らの作戦に協力してもらうことになると思うのだが、まあどちらでも良いか」

 

 そう言って、ザインが自分達に見せた書類とは別のものをグレーレは取り出す。彼の出してきた資料のいくつかはザインの持っていたものと比べて目新しい。本当に直近まで更新され続けていた研究なのだと言うことが見てすぐに分かった。 

 リーネは急ぎその資料に目を通した。グレーレもリーネの読解力を理解してか次々と書類を渡してくる。その作業を続けながらも、ウル達へと視線を戻した。

 

「こちらの研究は行き詰まっていた、作戦を成すためのキーピースが足りなかったからだ」

「俺たちのやり方なら、それを入手出来ると」

「行き当たりばったりだがなあ」

 

 けなすようなグレーレの言葉だったが、全くもって否定は出来ない。自分達が組み立てた作戦はかなりの無茶だ。しかし、それはグレーレ側も全く同じだ。どちらも無茶苦茶だ。その無茶苦茶な二つの作戦を一つにまとめようというのだから、無茶も甚だしい。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()……口にすると上手く行くか自信無くなってきた。」

「上手くいくわけがあるまい?」

「おい」

 

 あまりにあんまりな言葉にウルはおろか、隣のザインまで若干眉をひそめていたが、グレーレ当人は知らぬ顔だ。

 

「事実だ。間違いなくイレギュラーが起こる。可能な限りシミュレーションはしてきたが、現実に存在する混沌(カオス)は机上で再現できぬものだ」

「……まあ、それは否定できないわね。どこまで誤差が出来るか、想像も出来ないわ」

 

 資料の中身を見る限り、間違いなくグレーレは膨大な数の試行錯誤を繰り返している。その点は全く時間がなかったリーネにとって大変ありがたい保証となるが、そのグレーレであっても実際に試すわけにはいかなかったのだ。

 しかし机上の研究を実行に移すと、机上の計算では絶対に読み切れないノイズが発生する。それはほんの僅かであっても、瞬く間に全てを崩壊させる事に繋がるのだ。

 その現象をぶっつけ本番で死に物狂いで打ち消して、誤差を修正し続けなければならない。間違いなくとてつもない地獄となると容易に想像がついた。

 

「決戦の時まで、否、決戦の時すらも我々は修羅場となろう。覚悟しておくと良い」

 

 それを同じく理解しているグレーレはリーネに向かって、実に楽しそうに笑いかけた。

 

「……栄養剤、用意する必要はありそうね」

 

 ウルから瞑想による短期睡眠を教えてもらっていてよかったとリーネは心底思った。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ちょっと最後に確認しておきたいんだが」

 

 こうして、リーネとグレーレ、双方から作戦の概要説明を受けた後、不意にエシェルが手をあげた。彼女は不安げな表情でウルの服の裾を指で引っ張っていた。

 

「どうした?」

「その、結論として、ウルが魔王を倒すんだよな?」

 

 その質問に対して、グレーレは「何を今更」というように頷いた。

 

「それは必須だ。そこな灰の英雄が魔王を討たねばならない」

「それで、道中の障害を退けて、ディズとシズクを倒して……?」

「そうなるな」

 

 彼女が何を言いたいのかは分かった。これから先、やらなければならない課題を並べ立てたエシェルは、沈痛な表情でウルへと尋ねた。

 

「…………なにをどうしたらこんな地獄みたいな事に?」

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 そして現在

 

「……俺が聞きてえ」

 

 真なるバベル深層にて、ウルは無限に続く螺旋の暗闇を見上げ寝転がりながら、深々とため息を吐き出して、身体を起こした。見ると既にその場には友の姿はなく、残ったのは小さな骨片のみだ。近くではユーリの寝息だけが小さく聞こえてきた。

 そして更に自分たちがいる場所より更に地下からは、激しい戦いの音が響いている。先ほどよりも大きく聞こえるのは、場所が近くなっているのか、それとも彼女たちの戦いの激しさが増しているのか判断がつかなかった。

 

 地獄は今なお続く。だが、立ち上がったウルはそれでも前を見据えていた。

 

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