かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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眷属竜②

 

 決戦が始まる少し前、

 

 暗闇の中にウルはいた。

 

 それは既にウルも慣れ親しんでいた魂の内側の空間だ。五感をもたない魂が情報を獲得し発信するために無意識に創り出す疑似空間だとかなんとか、ディズが説明をしてくれたが正直よくは分からなかった。

 ともあれ便利な場所ではある。体感での時間の流れと比べて外の時の流れも遅く、幾度となくウルはここで竜達と相対して会話してきた。

 

 しかし今ウルが相対しているのは竜ではない。対峙しているのは――――

 

「――――それで、これが貴方の秘策ですか?」

 

 誰であろう、天剣のユーリだ。

 現在ウルは自分の魂の内側で、“ユーリの魂と接触していた”。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 七つの大罪竜の欠片と、七天の一部を混ぜ込んで、“神もどき”の力を作る。だからこそ、必要な欠片を持ってる魔王との接触は不可欠だった。

 

「しかし、貴方が神?」

「俺もアホかって思うよ。まあ、リーネ、グレーレに、魔界の研究者のおかげだな」

「あの男、ちゃっかりあなた方にも手を貸していたと……」

 

 ユーリは周囲を見渡した、自分の体に触れる。

 慣れた動作で彼女は剣を創り出すが、それは神々の力、太陽神ゼウラディアに分けられたものではなかった。その輝きで一切を切り裂く圧倒的な光とは比べるべくもない光。しかし煌煌と、確かに周囲を照らす灰色の炎によって創り出された剣だ。

 

「かなり強引なやり方ですね。というよりも、相手の加護……力を引き剥がすなんて聞いたことがない」

「元々はあいつらの同意が全く得られなかった時に、力だけ引き剥がすための作戦だからなあ……お前には必要なかったかもしれんが」

「武器は必要でしょう。ディズと相対するならば、【天剣】はどのみち回収される。武器を渡したままにするほどあの子は温くない」

 

 灰炎の剣をユーリは手応えを確かめるように振り回す。太陽神の力と比べれば全く、見る影もない筈なのに彼女の剣の冴えは微塵も衰えては見えなかった。どころか瞬く間に【灰炎】――ウルの加護を我が物にして研ぎ澄まし始めているのは頼もしいやら怖ろしいやらだ。

 

付与(エンチャント)のオーバーフロー現象を、加護で再現したんだと。詳しいことはリーネに聞いてくれ……しかしまあ」

 

 改めて考えて、ウルはため息を吐き出した。

 

「上手く行って良かったなあ……」

「ぶっつけ本番だったのですか!?」

「これが完成したの、お前との殺し合いの真っ最中だぞ。だから試したかったんだよ」

「…………」

 

 力の制御を中断し、ユーリは絶句した。まあその反応は理解出来る。正直言って上手く行くかどうかの保証は全くない賭けだった。

 

「しょうがねえだろ、時間なかったんだから……マジで」

「そんな不確かなものヒトに押し込んだのですか」

「言い方ぁ」

 

 ノアから獲得出来た情報を下に確認して、シンタニを誘拐もとい協力を取り付け、ザインの所でそこから更に情報を摺り合わせ間違いが無いか確認し、そこから更に研究開始だ。

 デスマーチにも限度がある。実験台になるウルもえらく大変だったが、術式開発する側であるリーネ達はもっと地獄だっただろう。

 本当に全てがギリギリだった。

 

「想像以上の行き当たりばったり。よく私に啖呵切れましたね」

「準備万端になるまで時間かけてたら世界滅ぶだろうが」

「それについては否定しません」

 

 さて、と、ウルは改めてユーリに向き直る。

 

「世界をどう壊すかはさっき説明したとおりだ。その力、貸してもらうぞ。ユーリ」

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ユーリは自身を“善き者”の守人として定義している。

 

 それはアルノルド王に頼まれ、己自身に誓った事。曲げるつもりは決してない。

 

 それ故に、ユーリは無条件に【方舟】という世界の味方というわけでもなかった。

 魔界、外の世界の者達が方舟の世界と敵対しているからと言って、誰もが邪悪で身勝手な悪党で在るわけがないと彼女は理解しているし、自分が守るべき“善き者”もいるだろうということも分かっている。

 

 そうした者達を見捨てるのは、自身の信条に背く事だ。

 

 ウルの前でバッサリと切り捨てたが、それもこれもウルを見極める為だった。

 

 強大な運命の濁流に全てが飲み込まれようとしているこの世界において、ウルの存在は間違いなく特異点だとユーリも理解していた。場合によっては“易き”へと流れ続けていくこの世界に立ち向かう大樹となるようにも見えたし、あるいは世界を道連れに破滅へと向かう災禍にもなりえるようにも見えた。

 滅びに抗う存在ならば良し。場合によっては利用する。

 そうでないなら、その命を賭けてでも殺さねばならない。

 

 見極めねばならなかった。

 

「方舟を見捨て、世界を滅ぼし、人類を混沌に貶める手伝いをしろと」

「そうだ」

「誤魔化さないのですね」

「事実だからな」

 

 そうして、殺し合って、血肉を喰らい合って、

 図らずも、肉の鎧すらも捨て去った彼の本質に触れる事となり、確信を得た。

 

「俺は世界を滅ぼす」

 

 利用などと、とんでもなく、甘かった。

 

「二人に押しつけられた全てを、皆に背負わせる」

 

 この男は、劇物だ。

 身を守る鎧もなく、着飾る服もなく、直接触れるウルの気配はあまりにも禍々しい。どれだけ精神で自分を律しようとしても尚、魂が目の前の灰色を畏れ、退こうとする。

 

「――――っ」

 

 その畏れすらも見抜くように、手がユーリの腕を掴む。逃さないとでも言うように。

 

「ユーリ。お前の力を寄越せ」

 

 口をこじ開けられ、流し込まれる。蕩けるほどに、熱く爛れた、蜜を――――

 

「――――強引、開き直り、不愉快ですね」

 

 震えるような恐怖と、身もだえるような悦を隠し、振りほどくには苦労が必要だった。

 

「生まれたときから弱い者もいる。自分の足では歩くことも出来ない者だっている。罪なき弱者達にすら、貴方は背負うことを強いようとしている」

「ああ」

 

 呼吸を整えて前を見る。淡々と指摘すると、ウルは頷いた。

 

「ならばせめて、()()()()()()くらいはあるのですよね」

「無論。皆にも手伝ってもらわにゃならんだろうが、上手くやれたなら、世界中走り回るつもりだよ」

 

 責務の再分配。あまりに乱暴なやり方。それで不幸が起こるのは確実でも惹かれることがあるのは否定しようがなかった。一人が背負い圧し潰れてしまうならば、持てる者が、共に背負ってやれば良い。

 それは正しく実行する事は極めて困難だが、誰もが知る最も基本的な道徳だ。

 何より、友であるディズとてユーリにとっては守らねばならない“善き者”なのだ。

 

 その犠牲を見ぬふりして、他の安寧を優先するのは、ただの()()だ。

 

「ならば私も誓ったとおり、約束を果たしましょう。ただし」

 

 ならば後は覚悟の問題だろう。ユーリはウルから与えられた灰の剣を創り出すと、それをそのまま主であるウルへと突きつけ、宣言した。

 

「もしも逃げ出せば、地の果てまで追いかけて貴方を殺し、私も死にます」

「地獄みたいなプロポーズだあ……」

「おぞましい事を言わないで下さい」

 

 かくして二人の契約は成った。そして――――

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『【終断・灰炎】』

 

 黒と白が入り交じった灰の力、神すらも屠るその力を刃とし振るい、二つの神からたたき込まれた力を叩ききる。太陽神から分けられた力を失って尚、彼女の剣才に微塵の陰りもない。

 終焉の剣にして灰王の眷属と成り果てた少女は、ウルの背を守るように立つ。

 

「助かるよ全く……お前がいないと早々死んでたなこりゃ」

『行き当たりばったりで突っ込んで死にかけないで下さい、馬鹿なんですか』

「眷属が口悪くて泣きそう」

『主マウントとらないで下さい鬱陶しい』

 

 ウルの言葉にユーリは悪態で返した。魂の内側で接触して、その後目を覚ましてから初めての会話であるにも関わらず微塵もブレがなさすぎてウルは苦笑した。

 

「まあ本当に助かってるよ…………何せ」

 

 そう言ってウルは見上げ、ユーリは見下ろす。双方の視線の先には――――

 

「【太陽神(ゼウラディア)】」

「【月神(シズルナリカ)】」

 

 ――――二つの神が、更に力を解放する姿だ。

 先ほどと比べ尚、膨大な魔力が溢れ、空間を満たし始める。

 

 ここからが本番だ。その圧を前にウルは冷や汗をかきながらため息をついた。

 

「………俺だけだと、絶対どうにもならねえからなあ。これ」

『強引に貴方の船に乗せてきたんです。しょうもない負け方したら殺しますからね』

「俺の死因になり得るものが多すぎる!!」

 

 眷属からの容赦ない発破に泣きそうになりながらも、ウルは更なる地獄へ特攻した。

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