かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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陽月騒乱④ 燃えさかるほどの

 

 二柱の神同士の戦い、その隙を狙い撃つ。

 その方針で動く為に、ウルは状況を注視していた。何かしらの異変が起こればすぐに動けるように身構えていた。だが、それほど急激に状況が動くとも思ってはいなかった。

 

 あまりにも絶妙なバランスで成立している三つ巴の拮抗状態。

 

 この状況で、もしも誰か一方に余りに注視しすぎれば、別の勢力から隙として見られる。先ほどシズクがディズに横殴りにされたように、だ。ほんの僅かな隙でも晒そうものならば、それを即座に咎める怪物達しかこの場にはいない。

 

 だから、事が動けば一瞬で動くが、そうでないならしばらくこの拮抗は続く。

 

「【我は宙より真を照らす神陽】」

 

 そう思っていた。

 

「【神陽ヨ世界ヲ照ラセ(ゼウラディア・サルヴァ)】」

 

 その意識の隙に割り込むように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「んん……!?」

 

 突然彼女の内から溢れる太陽神の力にウルは驚愕し、しかしそれを咎めることはできなかった。本当に唐突かつ、予想出来ないタイミングだった。

 魔物のような理性無き怪物であろうとも、戦いのリズムというものが互いの間で生まれる。無意識下でそのリズムを共有するものだが、ディズの動きは完全にそれを無視していた。

 直接対峙しているシズクや、ディズと最も付き合いの長いユーリすらも、あまりに突然だったため咎められず、動けずにいた程だ。

 

「――――――ああ」

 

 膨大な力が周囲の空間を焼き、焦がす。

 それが竜達が引き起こす竜化現象と同じ浸食――――否、それ以上の支配であると気づく。周囲の環境が、世界が、彼女そのものに変わっていく。

 同時に膨大な力の渦の中から、ディズはその姿を変貌ていく。

 

 それはまさに、太陽の如くだ。

 

 全てを焼き払う白炎よりも尚目映く、焼き払う灼熱が彼女から放たれる。指先から髪の一本に至るまでその力が満ち満ちて、揺らいでいる。身に纏った鎧はその力と混じり、魔力と一体の炎となり、構えた【星剣】はその力を更に呑み、輝きを強めた。

 

 既にそのカタチはヒトからかけ離れた。

 

 だが、魔物とも竜とも違う。まさしく神の化身であろう。

 

「ウル」

「…………おう」

 

 その彼女から、真っ先に声をかけられたウルは、彼女の様子に眉を顰めながらも応じた。

 

「来てくれてありがとう。お陰で私、絶好調だ」

「そりゃ、どういたしまして……」

 

 ディズは星剣を構える。微動だにせずまっすぐに突きつけられた美しい刃から、何か得体の知れない気配が放たれるのをウルは感じた

 普段の彼女の静謐な刃とは違う、熱く、纏わり付くようななにかが。

 

 あれ、コレなんかヤバくねえ?

 

 と ウルは気づいた。

 

「全力で」

 

 彼女の言葉には凜々しい普段の態度とは対極の――――

 

「君をズタズタにするつもりだから、私のことぐちゃぐちゃにしてね?」

 

 ――――燃えさかるほど激しい情念が満ち満ちていた。

 

「急激に頭がおかしくなるの止めろ馬鹿野郎!!?」

「【魔断・緋終天昇】」

 

 言葉とともに実に気軽に振り上げられた剣から放たれる灼熱は、最下層の一帯を一瞬にして焼き払った。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 色恋を理解出来ないわけではない。

 

 忙しい義父やおっとりとした義母が、全く性格の異なる二人が、それでも互いを想い合い、補い合い、助け合う姿を見て知っている。【七天】として、【勇者】として活動する中で、そう言ったヒトとヒトの間に育まれる愛情を見て、触れて、知っている。

 理解しないわけじゃない。

 

 ただ、なんとなく自分の生涯には縁のないものなのだろうと思っていた。

 

 相手が男だろうと女だろうと、どうしても自分がその個に執着するようには思えなかった。スーアに耳年増だと言われたときは少し恥ずかしかったが、それでも変わらなかった。全てを愛することは出来ても、個人に執着するのは難しく思えた。

 

 多分、自分はそういう生態なのだろう。別に、その事に引け目を感じる事は無かった。

 

 例え、そうであっても、そこに生きる人々や、育まれる営みを愛おしく思えることに変わりは無い。そう思える自分のことも嫌いでは無かった。

 

 誰であろう、ディズ自身が、自分をそうであると定義して、枷にはめていた。

 

「あはは」

 

 が、しかしここに至るまでの事故めいた出来事の数々が彼女の枷を破壊した。複雑なる世界の構造、人類の存亡、その是非、あらゆる彼女自身を縛る状況も何もかも、今このときに限っては全て吹っ飛んでしまった。

 

 コレまでの信条を放棄するつもりはない。

 決して変わることなく、この世界を愛している。

 だが、今この一時だけは――――――この高揚に浸ろう

 

 金色の如く輝ける太陽をディズは背負う。太陽は灼熱に満ちて、爆発とともに炎を周囲に放つ。触れた者全てを一瞬にして焼き滅却する灼熱。その全てがまっすぐにウルへと向かった。

 

「【魔断・緋終天昇】」

 

 刃に灼熱の焰が纏わり付き、空間を焼き払う。

 動くだけで炎が吹き上がり、触れるだけで全てが焼き切れる灼熱。まるで今の彼女自身の状態を体現するかのように炎が次々に空間を焼き払い、その熱量全てがウルに向かって殺到する。

 

「っあっっつああ!!!?」

 

 ウルは灰炎によって身を守りながらも、その圧倒的な出力に悲鳴をあげていた。

 

 当然と言えば当然だ。

 

 使用する魔力が、イスラリア中から送られてくるこちらと、自分の魔力をやりくりする彼とでは出力が違うのはわかりきっていたことではある。だからこそ、シズクとディズをやり合わせながら、上手く戦わなければならないのがウル達の立場だった。

 

 その攻撃が、今は全部とんできているのだから死ねるだろう。

 

「【救世執行】」

 

 しかしディズは最早躊躇が無かった。全ての力を彼にぶつける。

 

「【神罰覿面・陽天】」

 

 陽炎を纏った拳がたたき込まれる。ウルは回避するが、着弾した瞬間、消去の鐘の音が反響し、ウルの灰炎を吹き飛ばし、焰に焼き払われ、吹き飛び叩きのめされ、ウルは悲鳴を上げた。

 

「めちゃくちゃしやがるんじゃあ――――」

 

 炎に焼かれ、吹き飛ばされ、それでもウルは姿勢を正すと同時に槍を構える。昏翡翠の瞳が輝くと同時に、燃えたぎる炎のいくつかは固着化し、動きを停止させる。

 

「――――ねえ!!」

 

 同時に、一気に炎を突っ切ってこちらに突撃する。

 炎による包囲からの滅却。その攻撃の意図を即座に見抜き、包囲が致命的になる前に即座に近接戦に転じてきた。その事実にディズは内心で感嘆する。

 

「【顎よ!!】」

「っぐ……!」

 

 そして竜牙槍の開いた顎で此方の身体を挟み込み、叩き付ける。既に魔導核は起動している。有する力の格差を押しつけられる前に、速攻を決めようとしている。

 出会った頃、そもそも戦うことそのものに不慣れだった頃とは全然違う。今自分が、神という存在になり果てていたとしても、あるいはその牙が届くに至るまで彼は成長したのだ――――故に、

 

「【神罰覿面】」

 

 油断する気も、侮る気も全くない。

 

「んな!?」

 

 壁に叩き付けられた状態で出現した巨大なる炎拳は、ウルの背面に出現した。無論位置としては確実に、ウルに組み敷かれているディズは巻き込まれる――――が、だからどうしたというように、拳は即座にたたき込まれた。

 

「がああああ!!!?」

「っ!!!」

 

 無論、互いにこれでは死なない。

 分かっている。真っ当な生物ならば致命傷とも言うべきダメージを負い、尚も再生する怪物達とは幾度となく戦ってきた。勿論、自身が“そう”なると勝手は違うが、しかし知識の経験は生きる。

 

 不死性の押し付け合いは持久戦、ならば優位は此方にある。

 

「っが!?」

 

 再生位置を先読みし、逆に組み敷く。手足を焼きながら、そのまま神剣を纏った手刀を腹にたたき込む。急所は心臓ならば、そちらを抉れば殺しきれる。

 

「ッ……!!」

「む」

 

 だが、貫くよりも前に、白い蔓がディズの腕を押さえ込み、心臓を抉る寸前で固定化した。神剣を伸ばそうとするが、色欲の力で神剣が狂わされ、届かない。

 上手く、こちらのダメージを減らしながら巻き添えを狙ったのに、再生が想像以上に速い。此所までのシズクとの戦いで牽制が多かった分、その技量は向こうに分があるか?

 

 ギリギリと寸前で抑え、血を口からこぼしながら、ウルはこちらを睨んだ。

 

「ちょっ、……と、待て、ディズ……!!」

「やだ」

「やだかあ……!」

 

 嫌だった。

 本当に嫌だった。

 止まるだなんてとんでもない。生まれてからこれまで、一度も浸ったことのないこの高揚、冷ますにはまだ速すぎる!!

 

「さあ、私に勝ってね。ウル」

「無茶、言う、なああ!!!!!!」

 

 ウルの叫びに笑みを深くしながらディズは更に神陽を背負い出力を上げ――――

 

「【魔弾】」

 

 ――――その背を、シズクが狙い撃った

 

 

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