かくして少年は迷宮を駆ける ~勇者も魔王も神も殴る羽目になった凡庸なる少年の話~   作:あかのまに

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神穿

 ディズはウルの仕掛けを一目見て、それが尋常ならざる代物であると分かった。

 

 ディズにとって既知の魔術と、未知の技術の融合。恐らくウルが今日に至るまで培ってきたいくつもの人徳が重なり合わさって完成したモノ。無数の英知と技術の結晶。

 その洗練に、一種の美を感じるのは義父の教育の賜だろうか。ディズは苦笑した。

 

 ――ぜーったい、やばいヤツ

 

 アカネも、ウルが持ち出した代物の脅威は感じ取ったのだろう。魂の内側から警告する。ディズも全くの同意見だ。だが、

 

「そうだね、全力で迎え撃つ。正面から潰す」

 ――アホね

「そうだね」

 

 内側から零れるアカネの呆れ声に苦笑する。

 本当に、彼女の言うとおりだ。

 見るだけで分かるほどの脅威、恐らく自分たちへの対抗策として用意されたウル達の切り札だ。こちらがどれほど力を有しているかを理解した上で、それを上回るために用意してきた代物に正面からぶつかろうとするのは馬鹿正直が過ぎる。

 実際、シズクは既に姿を隠している。彼女は正面からぶつかる気は全くない。

 

 とはいえ、ディズも自分の事を理解している。

 

 こういう土壇場で、自分が半端な小賢しさを出して、器用に立ち回れるようなタイプじゃないことはもうとっくに分かっている。

 

 真正面からぶつかった方が、目がある。それに、だ。

 

「納得がしたい」

 

 ディズは、星剣を前に構える。力を集中する。

 

「私は世界を救う、私は世界を見捨てる。その納得がしたいんだ」

 

 己は正義ではない。

 それは分かっていたことだ。思い知ってきた事だ。自覚出来たことだ。

 その重みを背負うと決めて、それでも守れるものを守るために戦うと決めたから、自分は神へと成り果てた。その自分の決断を間違いだったとは思わない。

 だが、全てを飲み干せた訳ではない。完璧に割り切れた訳ではない。当然だ。割り切らないのが自分だし、悩み続けるのが自分だ。

 

 だからウルから、逃げ隠れすることだけは出来ない――――なんて言うのは、彼への甘えだろうか、と一瞬思った。

 

 ――ええとおもうよ

 

 そんなディズの想いを察してか、アカネは笑った。

 彼女の力はディズの身体中を巡った。全幅の信頼がそこにはあった。

 

 ――さいごまでだしきっちゃおうぜ。にーたんはうけとめてくれっからさ。

「……ありがと」

 

 友との会話は終わった。同時に、ウルが動き出す。

 

「我、方舟の守護者 勇者」

 

 ディズは剣を身構えて、左手の甲へと力を込める。彼女の魔名が輝きだし、それが全身を巡っていく。背を護る翼剣を巡り、光が輪のようになって循環する。

 

「灰の王を断ち、イスラリアの礎とならん」

 

 彼女が放つ金色は、コレまでで最も強く激しさを増した。背負う円環は紛れもない太陽の象徴であり、イスラリアそのものでもあった。

 

「【我が拓く荒野の先に道よ在れ】」

 

 だがその神陽を前に、ウルは揺らがずただ前を、自分を見つめ、更に力を高めていく。

 

「嗚呼」

 

 ディズの観察眼は正確にその力を読み取り、戦慄する。ありとあらゆる技術を、英知を、研鑽を、この一瞬に注ぎ込んでいる事で生まれる鮮烈極まる輝きがそこに在った。

 素晴らしい。怖ろしい。だからこそ 

 

「その光で、貫いて……!」

 

 乞うように、祈るように、彼女は構えた。

 そして――――

 

 

「【神穿】」

 

 

 ()()()()()()

 

「ッッッッ!!!」

 

 空間が、世界が弾けた、そうとしか思えなかった。

 光と音が炸裂し、衝撃が駆け巡って、その威力に全てが震え、威力を殺せず弾けた。

 その全ての衝撃がただ一点、ウルの放った矛先の一点から放たれた力だった。それを星剣で受けることが出来たのは、ただの偶然だ。心臓の一点を護り、構えていたが故の幸運で、彼の不幸だ。

 

 だが、

 

「っが……!!!う、あああああああああ……!!!!」

 

 剣を支える腕が軋み、血肉が弾ける音がする。

 全身を満たす太陽神の力と祈りが恐ろしい勢いで消耗し、ひび割れて砕けていく音がする。

 背負った光輪が砕け散り、御しきれない力が爆発を引き起こしても尚、微塵も槍の力は揺らがない。

 

 耐えられない。抑えきれない。止まらない。

 

 ただこの時、神を超えるためだけに注ぎ込まれた力が、全てを押し潰していく。このままでは確実に圧し負ける。それを理解したディズは――――

 

「覚悟を、決めようか……!!」

 

 ――――構えていた【星剣】を()()()()

 当然、その無謀な行いの結果は分かりきっている。抵抗を失った事により、世界をも穿つ槍は、まっすぐに、太陽神(ディズ)の身体を貫き、穿った。

 

「ッがア!!!?」

「…………ッ!!」

 

 そのまま壁にたたき付けられ、砕け散る。肉体が粉々になって、引きちぎれる。真っ当な生物であれば即死の大ダメージ。神であってもただでは済まぬほどの破壊が起こり、

 

「あ、ああ…………ぐ……!」

 

 尚も、ディズは生きていた。そして破壊された自身の肉体を再生しながら、彼の槍を掴む。

 凌いだ。

 虚を突くように護りを棄て、矛先をいなし心臓を護ると同時にダメージの回復に専念した。【天魔】による治癒術と【天祈】による精霊制御で、擬似的な【神薬】をその場で精製し続け、自分の肉体の再構築を連続して行った。

 そしてディズは動いた。腕は完全に引きちぎれ、再生する途中である為に動かない。足も同様、ならばと動く頭を、彼に叩き付ける。

 

「がああ!!」

「っご!?」

 

 なんとも無様なヘッドバッドだ。吹っ飛んだ半身を再生する途中であったからか、治癒が回らず、頭蓋が割れたかもしれない。額から血がこぼれた。だが気分は良かった。不意の脳天への衝撃でぐらついたウルの顔を見るのは楽しかった。

 

「泥臭いのも、嫌いじゃ、ないんだ!!!」

 

 むしろ、こっちの方が性に合っている。

 

 ああ、全く!本当に!!

 

「神様なんて!ガラじゃない!!!」

 

 そう確信しながらもう一打たたき込み、彼の身体を蹴り飛ばす。突き刺さった竜牙槍を引き抜き握りしめる。既に切り札を使い終えたウルを殺すために構えた。

 

 そう、切り札を使い終えた筈なのだ。

 

〈【(ロード)()()()

 

 ――――そう、確信したディズは目をも疑うものを見た。

 

「な……」

 

 蹴り飛ばされ、ウルが立ったその場所に新たなる“道”が再構築されている。白王陣が再び回転し、そこに立つウルに、力を注ぎ込んでいる光景を見た。

 

「連発……!?」

「一回使ったら壊れるなんて“道”じゃあねえだろ」

「…………ッ!!」

 

 侮るつもりなど欠片もなかった。

 

 だが、此方の想定をここまで超えられると、一周回って笑えてきてしまう。喜びを隠しきれない。彼は自分に勝つために、超えるために、救うために、どれほどの心血を注いだのか!

 

 だが、それならば尚のこと、諦めることなどできない。

 

 彼が超えようとした自分は、世界は、それほどの物と認めてくれたと言うことなのだから――――

 

「【神衣創造】」

 

 空間を満たす炎が更に巻き上がる。焼き尽くした炎を更に力に変えて、物質を構築する。変幻自在、あらゆるを真似て創り出す【天衣】の力で、再現するのは――――

 

「【(ロード)】」

「マジか……」

 

 変幻自在の天の衣が、ウルが創り出した英知の結晶を読み取って、それを瞬く間に構築する。白王陣の代わりに炎が輪転し、ディズの力を更に底上げする。

 

「無茶苦茶しやがって……!」

「うん、ごめんね、でも――――」

 

 ウルはこちらの姿を見て一瞬目を見開いて、そして苦々しい笑みを浮かべた。しかし身じろぎすることもなければ、退くこともしない。それが嬉しくて、ディズは笑った。

 

「受け止めて」

「しょうがねえなあ」

 

 構える姿は異なるが、やることは変わらない。

 相手を断ち、穿つための極限の一撃を繰り出すために双方は構え、そして飛び出した。

 

 

『【終焉災害・白銀の虚】」

 

 

 そして、その瞬間を狙うように、神陽に潜んだ白銀の竜は終焉を唱え、

 

「「来た」」

 

 ウルとディズはほぼ同時に銀竜へと駆けた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ウルとディズがほぼ同時に自分に反応したのを白銀の竜は確認した。

 

 ああ、良かった。気づいてくれた。

 

 シズクは喜んだ。二人ならば浅ましい自分の動きに気づく。漁夫を狙い、最適のタイミングで襲ってくると確信して、構えているはずだという確信と――――信頼。

 信頼、ああ、そうだ。白銀の竜は二人を信頼していた。二人ならばきっとそうしてくれると信じて、動いた。

 凍り付きつつあった思考の奥底、その奇妙な信頼だけが彼女に僅かな暖かさをもたらした。だが、それを消し去るのもまた、自分自身だ。その痛みからも目をそらして、力を解き放つ。

 

『【深淵】』

 

 それは太古から存在した原初の終焉。

 太陽が消えて失せるという最悪の信仰。

 後に、星空の真実が明かされ、取るに足らぬ“嘘”となった現象。

 

 だが、この方舟の中では、太陽の化身を相手にする最適にして最悪の災害。

 

『【日蝕《エクリプス》】』

 

 満たしていた太陽の力、その全てを奪い取る、月が引き起こす終焉災害。

 

 眼を焼かんばかりに空間を満たし照らしていた陽炎が、まるで照明を落としたかのように、パチンと呆気なく、暗闇に飲み込まれた。

 

「――――が!?」

 

 ディズは自らを取り巻く力全ての簒奪に強制的にその動きを停止させた。

 彼女を取り巻く力の全て、信仰をこの一時に限り全て奪い尽くしたのだ。当然、この激闘の中で彼女の身体を維持し、補助してきたあらゆる加護も失われる。ウルから受けた大ダメージを、完璧には癒やしきれなかった最悪のタイミングで、彼女は力を失ったのだ。

 

「っ!!」

 

 同時に、ウルは一瞬で起こった変化に戸惑いを見せる。完全なる太陽神特攻の術式故に、ウルにこの【日蝕】の影響はない。が、空間の一切の光も魔力も奪った。そこに混乱しないわけが無いだろう。

 彼は天才ではない。想定外に挫折することは無くとも、一度足は止まる。

 知っている。分かっている。

 

「【魔機螺!】」

 

 自在に動く装甲で身を隠すようにするが、取るに足らない。今の自分ならば、

 

『AAA』

 

 力を凝縮する。使うのは純粋なる【咆吼】。そこに小細工は無い。月神への畏れと、奪った太陽神への信奉、二つの信仰が力となり、今この場でシズクを超える力を持つ者はいなくなった。

 そしてその力を二人に向ける。

 最早分別もない。己の役割を果たすためだけに彼女は力を解放する。その圧力だけで硝子が砕けるような音と共に世界が幾度も割れていく。

 

「【O】」

 

 そうして、逃げ場など一切無い、完全無比の破壊の光を解き放った。ウルが構築した薄い障壁など、あっという間に砕けて無くなる。もうすぐ終わる。終わらせる。太陽を殺し、方舟を滅ぼし、世界を救う。

 そうすれば、そうすればやっと――――

 

『物を落とすわ、すっ転ぶわ』

 

 ――――だが、魔機螺が砕かれ、その先で身じろぎすら出来なくなったディズを庇うように立つ者の姿を見て、シズクは一瞬思考が止まる。

 

『本当に、いつまで経っても変わりませんね』

「何時も、ありがとね、ユーリ」

 

 そこに立っていたのはウルではなかった。ディズが落とした星剣を身構えた、ユーリがそこに立ち、シズクの咆吼を前に友を守るために立ち塞がっていた。

 

『【終断――――ッッ!!】』

 

 そして、その咆吼を【星剣】で切り裂く。

 

「っ、おおおおおおおおお……!!!」

 

 どれほど彼女があらゆるを超越した剣であろうとも、今のシズクの力を正面から受け止める力はない。その彼女が握る【星剣】も、勇者が扱うほどの力は無い。どれほど切り裂かれても尚、尽きぬ力の奔流に彼女は焼かれていく。間もなく焼失する。

 

 だが、問題はそこではない。

 ウルがいない。入れ替わり?

 何時?魔機螺を使用したタイミングで?それにしたってあまりにも対応が早すぎる。

 だとしたら――――

 

「信じてたからな、お前のこと。やらかすって」

 

 頭上から声がした。

 方舟最深層の天井にウルの姿はあった。

 彼の軌跡を示すように、壁をなぞるようにして、ディズをも圧倒した【道】が構築されている。一瞬視界を遮って、目にも止まらぬ速度で移動したのだという事実を理解したが、理解したとて、応じることはできなかった。

 既に彼は竜殺しをまっすぐに構えて、こちらをとても強く睨んでいた。そして、

 

 あ、怒ってる。

 

 そう思った瞬間、身体が勝手に動きそうになって、硬直した。

 

「とりあえず全部終わったら正座な」

『A――――』

「あーじゃ、ねえ、よ!!!」

 

 神を穿つ一閃が、シズクの肉体を貫いた。

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 言うまでも無く、どれだけ天才達が自分たちの英知と技術を結集させた最強の兵器を作ろうとも、それを用いて運用するのは凡庸なる自分だ。どれほど強化を重ねようと反動は来る。ましてそれを連続使用するなどと、阿呆の所業といって差し支えない。

 

 なのでやめておけよ、と、グレーレやらリーネやらに釘を刺されていた。

 

「っぐ、ぅぅううがあああああああ!!!」

 

 それを使った。当然身体がバラバラに引きちぎれそうな激痛が走った。鎧の下から血がこぼれる。果たして肉体の何処が損傷しているのか判断しかねるくらい全身が痛い。

 だが、知ったことでは無かった。槍を手放すつもりだけはなかった。

 

『GAAAAA!!!?』

「っっぐ!?」

 

 落下の最中、白銀の竜の首に突き刺さった竜殺しを両手で掴み、吼える。

 

「【揺蕩い、狂え!!!】」

 

 竜殺しと、それに重なった色欲の力。

 その二つで白銀の竜に纏わり付く魔力を狂わせ、吸収し、弾き飛ばす。ディズから奪った信仰も、彼女自身の畏れも、その一切を爆ぜ飛ばす。

 

『A、AAAAAAAAAAA……!!!ああああああ!!!?」

 

 爆ぜ飛んだ銀竜の肉体の中から、シズクの身体が姿を現した。ウルはそれをひっつかみ、首を掴んでそのまま地面にたたき付ける。

 

「っが、あ!?」

「よお、さっきぶり、シズク」

 

 首を押さえ込み、灰炎で彼女を焼き力を封じて、ようやく彼女と眼があった。ウルがシズクを睨むと、シズクは苦痛を堪えるような表情でウルをにらみ返した。

 

「貴方が、嫌い、です」

「そうかい」

 

 拒絶する彼女を無視して、力を込める。灰の炎と術式を彼女へと向けると、シズクは震える手でウルの手を掴んだ。大した力では無かったが、爪がウルの手に食い込んだ。

 

「やめ、て」

「嫌だね」

 

 淡々と拒絶する。力で敵わないと知った彼女は絶望を色濃くしていく。暴漢そのものだなとウルは内心で苦い気分になりながらも、決して手は止めなかった。そうするわけにはいかなかった。

 

「だって、私が、世界を救わないと」

 

 大粒の涙と共に、絞り出すような震える声で、叫んだ。

 

「ダメ、なんです」

「ダメじゃねえよ」

 

 ウルは彼女の涙を拭いながら、優しくそう言って、灰の炎で心臓を貫いた。

 

 

 

              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

『そっちも終わったのですね』

 

 意識を失ったシズクを膝で寝かせていると、背後からユーリの声がした。振り返ると彼女はぐったりと倒れているディズを抱きかかえていた。

 

「や、あ、ウル」

「ボロボロだな。俺もそうだが」

 

 シズクの最後の切り札、信仰の強制簒奪の影響が残っているらしい。回復には時間がかかるようだ。

 

「で?どうする。納得出来ないならまだやるが」

「いや、いいよ。どう言い訳しようと私の負けだしね」

 

 ディズは笑う。大変にありがたい事だ。今からディズと更に再戦出来るほど、ウルにも余裕はない。

 

「とりあえず、時間もなさそうだ。向こうで話すぞ」

「いいよ。アカネと待ってる」

 

 ウルの側に寝かされたディズにも、灰の炎を打つ。二人の勇者を左右に寝かせた状態で、ウルは自分の黄金の指輪を鳴らした。

 

「ノア、どっちの魂にも接触する。三人をつなげてくれ」

〈頑張る・ます〉

「よし――――さて、こっからだ」

 

 次の瞬間、ノアが魔法陣を起動する。ウルと二人の勇者を囲うように光に包まれる。そのまま眠る二人の身体に触れながら、ユーリの方へと振り返った。

 

「話し合ってくるから、守り頼んだ」

『精々上手くたらしなさい』

「勘弁しろよ……」

 

 ウルは苦笑いして、シズクとディズ、そして自身を灰の炎で包み込んだ。

 





 【達成不可能任務・灰王勅命 惑星破壊】

 【終焉災害/黄金の聖者 及び 終焉災害/白銀の虚 救済開始】 
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